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  • クリニックの内部統制は厳しくすればよいのか?公認会計士が考える「ルールを増やしすぎない」不正防止

    クリニック経営では、スタッフによる横領や不適切な支払い、経理処理の誤りといったリスクを無視することはできません。 窓口で現金を扱い、同じ担当者がインターネットバンキングを操作し、給与計算や取引先への支払いまで担当している。少人数で運営するクリニックでは、このような体制になることもあるでしょう。 では、不正を防ぐために細かなルールを増やし、院長がすべてを確認すればよいのでしょうか。 私は、必ずしもそうは考えていません。 確認や承認を増やし過ぎれば、院長もスタッフも管理業務に時間を取られ、本来の診療や患者対応、採用、教育、経営判断に使える時間が減ってしまいます。 一方で、「長く勤めているスタッフだから大丈夫」「信頼している事務長だから全部任せている」という状態にもリスクがあります。 重要なのは、人を信頼することと、不正や重大なミスが起こりやすい仕組みを放置することを分けて考えることです。 人は信頼する。仕組みは疑う。 私は、小規模な組織の内部管理では、このくらいの考え方がちょうどよいのではないかと思っています。 私は公認会計士として監査法人で企業の内部統制を評価する仕事を経験した後、一般事業会社で財務責任者として組織を運営する側にも立ちました。現在は税理士として中小企業等の会計・財務にも関わっています。 その経験を踏まえ、この記事では、クリニックの内部統制を「どれだけ厳しくするか」ではなく、限られた人数と時間の中で、どこを管理すれば重大な問題を防ぎやすくなるのかという視点から考えます。 目次 1.内部統制は「人を疑うための仕組み」ではない クリニック経営では、不正防止だけでなく日々の経理処理を正しく整理することも重要です。支出の判断については、「クリニックの経費|どこまで経費にできる?」もあわせてご確認ください。 内部統制という言葉を聞くと、「社員を監視する仕組み」「不正をさせないための細かなルール」という印象を持つかもしれません。 しかし、本来はもっと広い概念です。 少し難い話をすると、金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」では、内部統制について、次の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るためのプロセスと整理しています。 業務の有効性・効率性 報告の信頼性 事業活動に関わる法令等の遵守 資産の保全 そして、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応という6つの基本的要素から構成されるとしています。 ※なお、この内部統制報告制度そのものは上場会社等を対象とする制度であり、一般のクリニックに同じ仕組みをそのまま導入しなければならないという意味ではありません。 ここで参考にしたいのは、その考え方です。 特に重要なのが「合理的な保証」という言葉です。どれだけ管理体制を整えても、不正やミスを100%防ぐことはできません。 だからこそ内部統制は、業務を止めるほど管理を厳しくするのではなく、事業を動かしながら重大なリスクを許容できる水準まで下げる、という発想で考える必要があります。 2.ルールを増やせば内部統制が強くなるとは限らない 監査法人にいた頃、私は企業の業務フローを確認し、 「どこにリスクがあるのか」 「どのような内部統制が設けられているのか」 「その統制は実際に機能しているのか」 を評価する側にいました。 その後、一般事業会社で財務責任者となり、今度は実際に組織を動かす側になりました。 そこで強く感じたのが、内部統制を評価することと、実際に運用することは同じではない、ということです。 理論上は、承認者を増やした方が安全です。チェックする人を増やし、証拠書類を残し、担当者同士を分離すれば、不正や誤りの可能性は下げられます。 しかし、管理を増やせば必ずコストも増えます。承認待ちで仕事が止まる。同じ内容を何人も確認する。社長や部長のところに判断事項が集中する。形式だけのチェックが増え、本当に見るべき異常が埋もれる。 こうなれば、内部統制の目的の一つである「業務の有効性・効率性」を、内部統制自身が損なってしまいます。 統制を強くすること自体を目的にしてはいけません。 3.小規模クリニックでは「全部を分ける」ことはできない 典型的な内部統制の考え方の一つに「職務分掌」があります。簡単にいえば、「一つの取引を一人だけで最初から最後まで完結させない」という考え方です。 例えば支払いであれば、請求書を確認する人、振込データを作る人、承認する人、帳簿へ入力する人、銀行残高を照合する人を分ける方法があります。 大きな会社なら可能かもしれません。しかし、スタッフが10人前後のクリニックで、すべての業務について担当者を分けるのは現実的ではありません。 そこで必要になるのが、「全部を分ける」のではなく、「損失が大きくなるところだけ分ける」という考え方です。 新しい振込先を登録するとき 振込口座を変更するとき 一定額を超える支払いをするとき 給与振込口座を変更するとき こうした場面だけ院長等の別の人が確認するようにすれば、確認件数を大幅に減らしながら重要なリスクを抑えることができます。 4.一人で完結せざるを得ないなら「後から発見できる仕組み」を置く 少人数のクリニックでは、どうしても同じ担当者が複数の仕事を兼務することがあります。その場合、「職務分掌ができないから内部統制もできない」と考える必要はありません。 代わりに、事後的な確認、つまり発見する統制を置く方法があります。 新規振込先 振込先口座の変更 一定額以上の支払い 前月まで存在しなかった取引先 前年同月から大きく増えた支払い 内部統制には、問題を起こしにくくする「予防」と、問題が起きても早く気付く「発見」の両方があります。少人数の組織では、この2つを組み合わせることが重要です。 5.信頼できるスタッフでも「一人で完結できる状態」は避ける 例えば、長年勤務し、院長から絶大な信頼を得ている事務長がいたとします。その人が、取引先を登録し、請求書を受け取り、振込データを作成し、自ら承認し、会計ソフトへ入力し、月末には預金残高と帳簿を照合する。 この状態にはリスクがあります。その事務長を疑っているからではありません。同じ人が取引の開始から記録、確認までを完結できれば、不正だけでなく単純なミスも発見されにくくなるからです。 逆に、権限を適度に分けておけば、スタッフ本人を守ることにもつながります。後から問題が発生したとき、「この人しか触っていなかった」という状態を避けられるからです。 内部統制は、経営者を守るだけの仕組みではありません。適切に仕事をしているスタッフを、不必要な疑いから守る仕組みでもあります。 6.「帳簿と通帳が合っている」だけでは発見できない不正もある 注意したいのは、すべての不正が帳簿や預金残高の照合で見つかるわけではないことです。 架空のモデルケースで考えてみます。本来1,000万円程度で調達できる設備やサービスを、担当者が特定の取引先から1,100万円で購入し、その見返りとして個人的な利益を受けていたとします。 クリニックから実際に1,100万円が支払われ、会計帳簿にも1,100万円と正しく記録されていれば、帳簿と銀行口座を照合しても一致します。それでもクリニックは、本来必要でなかった100万円を負担しています。 なぜこの業者を選んだのか 金額は相場から大きく外れていないか 特定業者への発注が急増していないか 相見積もりが必要な金額はいくらにするか 新規業者の選定を一人に任せていないか このタイプの問題を見つけるには、会計処理だけでなく、取引そのものを見る必要があります。そのため、「税理士が帳簿を見ているから不正対策は十分」とも限りません。通常の月次会計や税務チェックと、不正リスクを意識した内部管理は目的が異なります。 7.不正をゼロにするより「長期化させない」ことも重要 内部統制を考えるとき、不正を一件も発生させないことだけを目標にすると、管理コストが際限なく増えていきます。そこで重要になるのが、問題が起きたとしても、大きくなる前に発見することです。 ACFE(Association of Certified Fraud Examiners、公認不正検査士協会)の「Occupational Fraud 2026: A Report to the Nations」は、世界143の国・地域の2,402件の職業上の不正事例を分析しています。 同調査では、6か月以内に発見された不正の損失中央値は4万ドルだったのに対し、5年を超えて続いた不正では110万ドルを超えていました。また、不正発見のきっかけとして最も多かったのは「通報」で43%。そのうち半数を超える通報が従業員から寄せられていました。 もちろん、これは世界各国・さまざまな業種を対象とした調査であり、日本のクリニックだけを示す統計ではありません。それでも、不正を長期間放置しないこと、異常に気付いた人が情報を上げられることの重要性を考える参考になります。 8.「悪い情報ほど早く上がる組織」を作る 私は、内部統制ではルールだけでなく組織文化も重要だと考えています。 現金が合わない 患者への請求を間違えた 振込先を間違えた 患者からクレームがあった 取引先から不自然な提案を受けた こうしたとき、「院長に怒られるかもしれない」「自分で何とかしてから報告しよう」と考え、情報が数日、数週間と止まる方が危険です。 逆に、悪い情報ほど早く報告すること自体を評価するという文化があれば、重大な問題へ発展する前に対応できる可能性が高くなります。 「統制環境」には誠実性・倫理観、経営者の姿勢、組織の慣行、権限と職責、人事に関する方針などが含まれます。また、問題を指摘しにくい組織慣行は、情報伝達やモニタリングの有効性に悪影響を与えるとされています。 つまり、院長がどのような情報を歓迎し、どのような行動を評価するかも内部統制の一部なのです。 9.クリニックでは「全部管理する」のではなく重要なポイントを押さえる では、実際にはどこを管理すればよいのでしょうか。 最初に考えたいのは、「ここで問題が起きたら、金額的・経営的な影響が大きいところはどこか」です。 業務 リスクの高い状態 現実的な対応例 インターネットバンキング 一人で振込作成から承認まで可能 担当者が作成し、一定額以上は院長等が承認 振込先登録 担当者が自由に口座を追加・変更できる 新規登録・口座変更だけ別の人が確認 窓口現金 集計・入金・会計入力を一人で完結 日計表と入金額の不一致を別の人が確認 返金・取消 担当者だけで処理できる 返金・取消一覧を月次で確認 給与 マスター変更から振込まで同一人物 昇給・手当・振込口座変更を別途確認 高額購入 一人で業者選定・発注ができる 一定額以上だけ事前承認・相見積もり等 月次会計 入力者だけで完結 前年比較・予算差異・異常な取引先等を見る システム権限 退職者や不要な人のIDが残る 定期的に利用者・権限を棚卸しする ポイントは、すべてを確認することではありません。「発生頻度」ではなく「起きたときの影響」で優先順位を決めることです。例えば毎月何百件ある少額支払いより、年に数回しかない銀行口座変更の方が重点管理すべき場合があります。 10.院長は「全件チェック」より「例外を見る」 内部統制を整備すると、「結局、院長の仕事が増えるのではないか」という問題が出てきます。そこでおすすめしたいのが、全件を見るのではなく例外だけを見る方法です。 新規取引先 振込口座変更 一定額以上の支払い 返金・取消 給与マスターの変更 前年同月から大きく増減した費用 長期間残っている未収金や仮払金 これなら、取引100件をチェックするのではなく、「いつもと違う5件」を見る運用にできます。内部統制を実務で機能させるには、チェック項目を増やすことより、見るべき例外を決めることの方が重要な場合があります。 11.行動規範はルール以上に重要になることがある 細かな規程を何十ページ作っても、院長自身が守っていなければ内部統制は機能しません。 例えば院長自身が、 「領収書は後でいい」 「自分の支払いだけは例外」 「面倒だから承認なしで振り込んでおいて」 という行動を取っていれば、スタッフにだけ厳格なルールを求めても形骸化していきます。 患者に誠実である クリニックのお金と個人のお金を分ける ミスを隠さない 悪い情報ほど早く報告する 自分の権限を私的な利益のために使わない ルールは少なく、原則は厳しく。 ただし、「原則を共有しているからチェックは不要」という意味ではありません。価値観で補う部分と、仕組みで必ず押さえる部分を分けることが重要です。 12.良い内部統制は、そのクリニックごとに違う 細かなルールと承認体系で管理する組織もあれば、大きな裁量をスタッフへ与える組織もあります。どちらかが常に正しいわけではありません。 クリニックの規模 現金を扱う量 スタッフ数 経理担当者の人数 院長が管理に使える時間 インターネットバンキング等のシステム 取引金額 組織文化 医療法人か個人開業か 他院の内部統制をそのままコピーするのではなく、何を失うと自院への影響が大きいのか、どこまでスタッフへ任せたいのか、どのリスクだけは一人に任せないのか、どこまでなら管理コストを負担できるのかを先に考えるべきです。そのうえで、必要な統制だけを置きます。 まとめ|内部統制の目的は「管理を増やすこと」ではない 医療経営に関する税務の基本論点として、「医師の概算経費特例とは?」も参考になります。 内部統制は、厳しければ厳しいほど良いものではありません。一方で、人を信頼していることを理由に、一人の担当者へ権限を集中させることにもリスクがあります。 重要なのは、自院の経営を邪魔せず、重大なリスクだけは見逃しにくい仕組みにすることです。 人は信頼する。仕組みは疑う。 ルールは少なく、原則は厳しく。 小規模なクリニックでは完璧な職務分掌を目指す必要はありません。一人で完結させてはいけない業務を決める。一人で担当せざるを得ない業務には、後から異常を発見する仕組みを置く。全件をチェックするのではなく、例外を見る。悪い情報ほど早く上がる文化を作る。こうした設計の方が、現実には機能しやすいことがあります。 内部統制はスタッフを監視するためだけのものではありません。スタッフを不要な疑いから守り、ミスを早く発見し、院長が診療や経営に集中するための仕組みでもあります。 内部統制を見直すとき、最初から規程集を作る必要はありません。まず、「お金が動く業務について、誰がどこまで一人でできるのか」を書き出してみてください。 振込先の登録・変更 インターネットバンキング 現金 返金・取消 給与マスター 高額な購入 会計入力と預金照合 この中に、一人だけで最初から最後まで完結できるものがあれば、優先的な確認対象です。そのうえで、院長自身が見るべき部分、スタッフ間で分ける部分、システムで制限できる部分、月次で事後確認する部分を整理すると、過度な管理を増やさずに内部統制を整えることができます。 当法人は、税務申告や会計処理だけでなく、月次管理や経理フローの整理を通じて、経営者が数字と業務の両面を把握できる体制作りを支援しています。 監修者 志田 宏樹 公認会計士・税理士・宅地建物取引士 監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。 専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継 [詳しいプロフィールを見る →] 主な根拠・参考情報 金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」(2023年4月改訂) ACFE「Occupational Fraud 2026: A Report to the Nations」

  • 空き家税制の影響と対策

    全国で空き家が増加する中、自治体が独自に「空き家へ課税する」という動きが出てきました。先行しているのが京都市です。大阪府寝屋川市でも、2026年7月9日に「空き家流通促進税」の条例案が可決されました。さらに神戸市では、都心部の分譲マンションの空室を対象とした「空室税」の導入が検討されています。 これまでの空き家対策は、補助金、空き家バンク、行政指導など、所有者の行動を後押しする施策が中心でした。しかし今後は、空き家を活用せずに保有し続けると税負担が増える、いわば「課税によって売却や賃貸を促す政策」へと変わっていく可能性があります。本記事では、京都市・寝屋川市・神戸市の制度を比較しながら、空き家を所有する個人や不動産オーナーにどのような影響があるのかを解説します。 全国の空き家は900万戸に 総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年10月1日時点の全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%となっています。いずれも過去最多であり、日本の住宅のおよそ7戸に1戸が空き家という計算です。 ただし、一口に空き家といっても、その状況はさまざまです。以下のようなケースがあります。 相続した実家をそのままにしている住宅 入居者を募集している賃貸住宅 売却中の住宅 別荘やセカンドハウス 投資目的で取得されたものの、実際には使われていないマンション 老朽化し、利用や売却が難しくなった住宅 空き家問題というと、地方の老朽化した戸建て住宅をイメージしがちですが、京都市や神戸市が問題視しているのは、住宅需要がある地域でありながら、実際には居住に使われていない住宅の存在です。つまり、空き家対策には「危険な建物を適正に管理する」という側面だけでなく、「使われていない住宅を市場に流通させる」という住宅政策の側面も含まれています。 空き家税とは何か? 「空き家税」とは、利用されていない住宅の所有者に税金を課すことで、住宅の売却や賃貸、適切な管理を促すための制度です。固定資産税とは別に、一定の空き家や居住実態のない住宅を対象として、自治体が独自に課税します。ただし、「空き家税」は、全国共通の正式な税金の名称ではありません。京都市の「非居住住宅利活用促進税」や、寝屋川市の「空き家流通促進税」など、自治体が独自に設ける税金の通称として使われています。 空き家税は、空き家をそのまま保有する負担を重くすることで、売却や賃貸、解体、適切な管理などを促し、空き家の増加や住宅不足、地域の防災・防犯上の問題を改善することを主な目的としています。 京都市は2030年度から課税開始予定 京都市は、全国に先駆けて「非居住住宅利活用促進税」を創設しました。対象となるのは、京都市の市街化区域内にある「非居住住宅」で、一般的な空き家だけでなく、別荘やセカンドハウスなども対象に含まれます。京都市は、住宅が存在するにもかかわらず、居住や売買、賃貸に活用されていない事象が若年・子育て世帯の定住が進まない一因になっていると説明しています。 そこで、空き家や別荘、セカンドハウスをそのまま保有する場合に一定の税負担を求め、居住、賃貸、売却などへの活用を促そうとしています。京都市の場合、「空き家税」は、現在の固定資産税額(土地・家屋)の半額程度になるとされています。たとえば、土地と家屋の固定資産税が合計で年12万円なら、新税による追加負担は年6万円前後が一つの目安になります。これは既存の固定資産税や都市計画税とは別にかかる金額で、課税開始は2030年度が予定されています。京都市「非居住住宅利活用促進税について」 寝屋川市は市内全域の空き家を対象 大阪府寝屋川市では、2026年7月9日、「寝屋川市空き家流通促進税条例」が市議会で可決されました。京都市が市街化区域内の非居住住宅を対象とするのに対し、寝屋川市は市内全域にある一定の空き家を対象としている点が特徴です。寝屋川市は市域が限られ、新たな住宅地を大規模に開発する余地が多くありません。そこで、使われていない住宅を比較的状態が良いうちに売却・賃貸市場へ戻し、子育て世帯などの居住につなげることを目的としています。 寝屋川市の場合、「空き家税は」は固定資産税額の3〜4割程度になるケースが多いとされています。なお、計算式は概ね次のとおりです。 (家屋の固定資産税額+土地の固定資産税額÷土地面積×家屋の延べ床面積)×35% たとえば、家屋の固定資産税額が年10万円、土地の固定資産税額が年5万円、土地100平方メートル、家屋80平方メートルの場合は、4万9000円の税額となります。 寝屋川市議会「令和8年6月市議会定例会付議事件一覧表」 寝屋川市「寝屋川市空き家流通促進税条例案」 神戸市は都心部の分譲マンションに「空室税」を検討 神戸市では、都心部の分譲マンションの住戸が、生活の本拠として十分に活用されていないことが問題視されています。当初は、タワーマンションの空室を対象とする制度が想定されていました。その後の検討では、問題は建物の高さだけではなく、都心部という立地との関係が強いとして、一般の分譲マンションも含めた制度が議論されています。 神戸市は2025年5月から有識者検討会を開催しており、2026年7月10日にも第6回検討会が開催されていますが、現時点では条例制定や導入が決定した段階ではありません。対象地域、空室の判定方法、税率、免除要件、課税開始時期などは、今後の検討によって変わる可能性があります。 神戸市「居住と税制のあり方に関する検討会」 神戸市「第5回 居住と税制のあり方に関する検討会資料」 国会でも「非居住住宅税」の法案が提出された 国会でも、2025年12月、国民民主党・無所属クラブの議員から「利用されていない住宅への課税」を検討する法案が提出されました。法案では、住宅価格や家賃が高騰している地域を念頭に、主に次の施策が提案されていました。 市町村が、住宅価格等高騰地域にある非居住住宅の所有者に課税できる制度 取得後2年以内に住宅を売却した場合の追加課税 投機的取引や非居住住宅の保有による住宅価格・家賃高騰の実態調査 独自課税に取り組む自治体への国の支援 もっとも、具体的な税率や課税開始時期が定められていたわけではなく、政府に対し、必要な制度設計を進めるよう求める内容でした。ただし、2026年7月15日現在、法案は国土交通委員会に付託されたまま「閉会中審査」となっており、衆議院での可決や法律としての成立には至っていません。 ただ、住宅価格の高騰や投資目的の空室がさらに問題となれば、同様の制度が改めて検討される可能性があると考えています。不動産オーナーとしては、自治体の動きだけでなく、今後の国の住宅政策にも注意しておく必要があるでしょう。 衆議院「非居住住宅税及び超短期所有住宅等の譲渡に係る事業所得等の課税の特例の創設等に関する法律案要綱」 衆議院「第219回国会 議案の一覧」 管理されていない空き家は固定資産税も重くなる 新しい「空き家税」とは別に、適切に管理されていない空き家に対する固定資産税の取扱いは、すでに全国で厳しくなっています。住宅の敷地には、固定資産税の課税標準を軽減する「住宅用地特例」があります。200㎡以下の小規模住宅用地の場合、固定資産税の課税標準は原則として6分の1です。 しかし、自治体から「管理不全空家」または「特定空家」として勧告を受けると、住宅用地特例を適用できなくなります。一般に「空き家の固定資産税が6倍になる」と説明されることがありますが、厳密には「課税標準を6分の1とする特例が外れる」という意味です。負担調整措置などもあるため、実際の税額が必ず一度に6倍になるわけではありませんが、空き家を放置することによって税負担が大きくなる可能性があります。 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」 空き家所有者が今から準備すべきこと 相続後に管理や処分が難しい不動産を残さないための考え方は、「0円でも売れない不動産とは?」でも詳しく解説しています。 空き家税の対象地域でなくても、空き家を所有している場合は、次の事項を整理しておくことが重要です。 1.現在の利用状況を整理する まず、所有する住宅がどのような状態にあるかを確認します。 誰かが実際に居住している 別荘として定期的に使用している 荷物を置いているだけ 賃貸募集をしている 売却活動をしている 相続後、何も決めずに保有している 制度によっては、住民票ではなく、実際の利用状況が課税判定に影響します。住民票を置くだけで課税を避けられるとは考えない方がよいでしょう。 2.賃貸・売却活動の証拠を残す 賃貸や売却を予定している住宅が、課税免除の対象となる制度があります。ただし、「いつか売却するつもりだった」という説明だけでは不十分です。次のような資料を保存しておきましょう。 不動産会社との媒介契約書 インターネット上の募集広告 募集開始日が分かる資料 問い合わせや内覧の履歴 売出価格や賃料を変更した記録 実際に市場へ出していることを、客観的に説明できる状態にしておく必要があります。 3.保有を続ける総コストを計算する 空き家の保有には、固定資産税以外にも費用がかかります。 都市計画税 火災保険料 管理委託費 草刈り、換気、通水、清掃費 修繕費 マンションの管理費・修繕積立金 将来の空き家税 建物の老朽化による資産価値の低下 「将来使うかもしれない」という理由だけで保有を続けるのではなく、今後5年、10年の総コストを数字で把握することが重要です。 4.相続登記や共有関係を確認する 相続手続や不動産承継の全体像から確認したい方は、「相続の基本と全体像」もあわせてご覧ください。 売却したくても、相続登記が終わっていないため処分できないケースがあります。複数人の共有となっている場合は、売却、賃貸、解体のいずれについても、共有者間の調整が必要です。課税が始まってから話し合うのではなく、登記名義、共有者、遺産分割の状況を早めに確認しておきましょう。 5.売却後の手取り額を試算する 空き家を売却して利益が生じると、原則として譲渡所得に所得税・住民税が課税されます。相続した一定の空き家については、要件を満たすと譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。ただし、建築時期、被相続人の居住状況、売却期限、売却価格、耐震改修や取壊しなど、複数の要件があります。 取得費が分からない場合は、想定以上に譲渡所得が大きくなることもあります。仲介手数料、解体費、測量費なども含め、売却後にいくら手元へ残るのかを契約前に試算しておくことが大切です。 空き家市場は本当に動くのか 空き家税が導入されれば、売却や賃貸の相談は一定程度増えると考えられます。毎年の追加負担は、これまで処分を急いでいなかった所有者が、保有方針を見直すきっかけになるためです。一方、次のような問題を抱える空き家は、税負担が増えても容易には流通しません。 立地が悪く、買い手や借り手が見つからない 建物の老朽化が進んでいる 相続登記が終わっていない 共有者間で意見がまとまらない 接道や再建築に問題がある 残置物や境界の問題がある 市場性の低い住宅では、管理費や解体費に加え、新たな税負担まで生じる可能性があります。そのため、空き家対策は税金だけでなく、相続、登記、売却、賃貸、改修、解体、資金計画を一体で検討する必要があります。 まとめ 空き家をめぐる政策は、「適切に管理してください」というお願いから、「活用しない場合には負担を求める」という段階へ移りつつあります。今後、空き家が多い自治体だけでなく、住宅価格が高騰している都市部や、別荘・セカンドハウスが多い観光地にも、同様の制度が広がる可能性があります。 これからは、空き家を「とりあえず保有しておく」という判断にも、明確なコストが伴う時代です。空き家を相続した場合や、長期間使用していない不動産がある場合には、課税が始まってから慌てて対応するのではなく、売却・賃貸・居住・改修・解体の選択肢を早めに比較しておくことが重要です。

  • 収益用不動産の空室対策|家賃を下げる前に確認したい3つの原因とNOI改善の考え方

    収益用不動産の空室が続くと、まず頭に浮かぶのは、 「家賃を下げるべきではないか」 という判断ではないでしょうか。 もちろん、周辺相場と比べて家賃が高ければ、賃料の見直しは必要です。 しかし、空室の原因は家賃だけではありません。 募集写真が暗い。初期費用が競合より高い。設備の魅力が十分に伝わっていない。内見したときの清掃状態が悪い。仲介会社から見て紹介しにくい。そもそも想定していた入居者層の需要が弱くなっている。 こうした原因が残ったままでは、家賃を下げても決まらないことがあります。 実際に、当法人が賃貸仲介の現場で活躍している実務担当者から話を聞いても、「家賃だけが原因とは限らない」という話がありました。 入居希望者が物件を探すときにどこを見ているのか。仲介会社から見てどんな物件が紹介しやすいのか。内見に来た人がどこで迷うのか。 こうした現場の情報は、空室の原因を考えるうえで非常に重要です。 一方、収益用不動産のオーナーとしては、空室が埋まればそれで終わりではありません。 本当に確認したいのは、空室対策をした結果、 NOI(純営業収益)が増えたのか。 借入返済後の手残りが増えたのか。 ということです。 本記事では、賃貸仲介の現場の視点と、税務・財務の視点の両方から、空室が続く原因を3つに分け、家賃を下げる前に確認したいポイントと、空室対策の費用対効果について解説します。 目次 1.結論|空室対策の目的は「満室」ではなく「収益改善」 空室対策を含め、不動産投資全体の判断基準を確認したい方は、「不動産投資を始める前に知っておきたい基礎知識と判断基準」も参考になります。 空室が続いているからといって、すぐに家賃を下げる必要があるとは限りません。 最初に確認したいのは、 「入居者がどの段階で離れているのか」 です。 賃貸募集を大きく分けると、 募集を見る → 問い合わせる → 内見する → 申し込む という流れがあります。 このどこで止まっているかによって、考えられる原因は変わります。 状況 考えられる主な原因 最初に確認したいこと 問い合わせ自体が少ない 需要が弱い・募集条件で比較負け 競合物件、家賃、初期費用、写真 問い合わせはあるが内見されない 掲載内容・条件・案内のしにくさ 写真、募集条件、内見方法 内見はあるが申込にならない 現地での印象 清掃、におい、水回り、共用部 周辺の競合も決まっていない エリア・間取り自体の需要低下 ターゲット、賃料、物件方針 この切り分けをしないまま家賃を下げたり、大規模なリフォームをしたりすると、原因と対策がずれてしまいます。 そして、対策後には、 「空室が埋まったか」だけでなく、「収益が改善したか」 まで確認することが重要です。 空室対策は、 原因を見つける → 必要な対策をする → 収益改善を確認する という順番で考えましょう。 2.まず管理会社に「5つの数字」を確認する 空室が続いている場合、管理会社に、 「最近、反響どうですか?」 と聞くだけでは、原因を把握するには十分ではありません。 まずは次の5つを確認してみてください。 ① 募集を始めてから何日経っているか ② 問い合わせは何件あったか ③ 内見は何件あったか ④ 申込・キャンセルは何件あったか ⑤ 内見後に断られた理由は何か さらに、同じ駅・同程度の駅距離・広さ・築年数の競合物件について、 いくらで募集されているか 敷金・礼金はいくらか 初期費用はいくらか どのような設備があるか どの物件から募集終了しているか も確認すると、より状況が見えます。 ここまで数字で整理すると、 「そもそも見られていないのか」「見られているのに内見されないのか」「内見されているのに選ばれないのか」 が分かってきます。 家賃を下げるかどうかは、その後の判断です。 3.空室原因1|エリアや物件タイプの需要が弱い 1つ目は、そもそもエリアや物件タイプの需要が弱くなっているケースです。 例えば、 周辺の競合物件も空室が多い 同じような間取りの物件がなかなか決まらない 単身者向け物件だが、エリアではファミリー需要が中心になっている 駅距離や周辺環境の変化によって以前より競争力が落ちている といった場合です。 この場合、募集写真を撮り直したり、清掃を強化したりするだけでは大きく改善しないことがあります。 ここで最初に考えたいのは、 「今後、誰に選ばれる物件にするのか」 です。 ターゲットによって有効な対策は変わる 例えば、学生や若い単身者であれば、家賃、初期費用、インターネット環境、学校や職場へのアクセスが重視されることがあります。 単身女性であれば、清潔感、水回り、セキュリティ、共用部の管理状況などがより重要になるかもしれません。 カップルや夫婦であれば、キッチン、収納、生活動線。 ファミリーであれば、学区、駐車場、部屋数、収納、防音性。 狙う入居者によって、必要な設備も変わります。 そのため、 「人気設備だから入れる」 ではなく、 「誰に住んでもらいたいかを決め、その人に必要な設備を選ぶ」 という順番で考えることが大切です。 例えば、単身者向け物件でインターネット無料が競争力になることはあります。 一方、ファミリー向けの部屋で浴槽をなくし、シャワールームだけにしてしまえば、かえって入居候補から外されることも考えられます。 需要が弱いときほど、何となくリフォームするのは避けたいところです。 ターゲットを変更するのか。 賃料水準を変えるのか。 設備投資によって別の層を取りに行くのか。 あるいは大きな追加投資をせず、売却を検討するのか。 ここは将来の出口まで含めた判断が必要です。 4.空室原因2|需要はあるのに募集段階で比較負けしている 周辺の競合物件は決まっている。 それなのに、自分の物件には問い合わせが少ない。 この場合、ポータルサイトなどの募集段階で比較負けしている可能性があります。 入居希望者は、同じエリア、同じ広さ、同程度の築年数の物件をスマートフォン上で並べて比較します。 そのため、 家賃が競合より高い 写真が暗い 部屋が狭く見える 水回りや収納の写真がない 初期費用が高い 設備があるのに募集情報へ反映されていない といった状態では、内見候補に入らないことがあります。 4-1.家賃だけでなく「最初にいくら必要か」を比較する 募集条件を見るときは、月額家賃だけでは足りません。 入居希望者から見れば、 「この部屋に入居するために、最初にいくら必要なのか」 も重要だからです。 例えば、 敷金 礼金 保証会社費用 鍵交換費用 サポート費用 その他の初期費用 を含めると、月額家賃ではほとんど差がないのに、契約時の負担が競合物件より大きくなっていることもあります。 家賃を下げる前に、一度入居者が負担する総額で比較してみるとよいでしょう。 4-2.募集写真は「きれいに見せる」だけではない 募集写真は、入居希望者が物件を知る最初の入口です。 写真が暗い。 部屋が狭く見える。 水回りが分からない。 収納の写真がない。 共用部の状況が分からない。 こうした写真では、実際には良い物件でも候補から外れてしまうことがあります。 一方で、写真を過度によく見せるのも注意が必要です。 写真では非常に広く見えたのに、実際に行ったら狭かった。 写真では新しく見えたのに、現地では古さが目立った。 こうしたギャップが大きければ、内見は増えても申込につながらなくなります。 募集写真には、 「興味を持ってもらうこと」 と同時に、 「現地との期待値を大きくずらさないこと」 という役割があります。 4-3.仲介会社が「紹介しやすい物件」になっているか ここは、賃貸仲介の現場で働く実務担当者へのヒアリングでも印象的だったポイントです。 物件そのものの条件だけでなく、 「仲介会社から見て紹介しやすい物件になっているか」 も重要です。 例えば、 鍵をすぐに手配できる 空室確認がスムーズ 募集条件が明確 申込条件が分かりやすい オーナーや管理会社の判断が早い 内見後の申込手続きがスムーズ 広告料(AD)などの募集条件が競合と比べて大きく劣っていない といった物件は、営業担当者としても紹介しやすくなります。 反対に、 「この条件は毎回管理会社へ確認しなければならない」 「鍵を借りるのが大変」 「申込を入れても回答まで時間がかかる」 という物件は、似たような候補が複数ある場合に後回しになる可能性があります。 もちろん、仲介会社への広告料を増やせばよいという単純な話ではありません。 大切なのは、 募集しやすい。案内しやすい。申し込みしやすい。 という状態を作ることです。 これは、家賃を下げずに改善できる空室対策の一つです。 5.空室原因3|内見はあるのに申し込みにつながらない 問い合わせがあり、内見も入る。 それでも申込にならない。 この場合は、募集条件よりも現地での印象を確認した方がよいでしょう。 賃貸仲介の実務担当者からも、内見では条件表には表れない細かな部分が入居希望者の判断に影響する、という話がありました。 特に確認したいのが、清潔感とにおいです。 築年数が古くても、きちんと管理されている部屋には安心感があります。 一方、 玄関を開けた瞬間に嫌なにおいがする 室内にほこりがたまっている 水回りが汚れている 収納の中に虫がいる 照明が切れている 共用廊下が汚れている ポスト周辺が荒れている ゴミ置き場が汚い といった状態では、 「この物件はきちんと管理されていないのではないか」 という印象を与えます。 空室期間が長い部屋では、排水トラップの水が蒸発し、排水口からにおいが上がってくることもあります。 大きなリフォームを検討する前に、 換気する 排水口に水を流す 玄関、水回り、収納のにおいを確認する 室内や収納に虫がいないか確認する 照明を確認する ベランダを確認する 共用部、ポスト、ゴミ置き場まで見る といった基本的な対応を徹底しましょう。 低コストですが、内見時の印象を大きく左右することがあります。 内見後に断られた理由を必ず集める 内見が入ったにもかかわらず決まらなかった場合は、仲介会社へ理由を確認してみてください。 例えば、 「家賃が高かった」 「他の物件の方が初期費用が安かった」 「水回りが古かった」 「収納が少なかった」 「共用部が暗かった」 「思ったより駅から遠かった」 では、次に取るべき対策が全く違います。 1人だけの意見で大規模な改修を決める必要はありません。 しかし、複数の内見者から同じ理由が出ているのであれば、そこが改善ポイントである可能性は高まります。 内見者からの断り理由は、無料で得られる重要なマーケット情報です。 管理会社や仲介会社からできるだけ集めましょう。 6.家賃を下げる前に「値下げの総額」を計算する 原因を整理した結果、家賃を下げるべき物件も当然あります。 ただし、家賃の値下げを判断するときは、「月額5,000円の値下げ」を見るのではなく、「入居期間全体でいくら収入が減るか」まで考えてみてください。 例えば、家賃を月5,000円下げると、年間の減収額は6万円です。 5年間その賃料で入居が続いたと仮定すると、単純計算では30万円の収入差になります。 つまり、 「5,000円だけ家賃を下げる」 という判断は、5年間で見ると、 「30万円の収入を減らす」 という判断でもあります。 そこで比較したいのが、 30万円値下げするのか。30万円を物件改善に使うのか。 という考え方です。 例えば30万円以内で、 募集写真を改善する 清掃・補修をする 古い設備を改善する 初期費用の一部をオーナー側で負担する 入居者ニーズの高い設備を追加する ことで賃料を維持し、空室期間も短くできるのであれば、値下げより有利な場合があります。 もちろん、現在の家賃自体が相場から外れているのであれば、値下げが合理的です。 重要なのは、「空室だから値下げ」ではなく、「値下げと改善投資のどちらが収益を残せるか」を比較することです。 7.空室対策はNOIで判断する ここからが、収益用不動産の経営で特に重要なところです。 空室対策の最終的な評価は、 「満室になったか」 だけではありません。 「物件の収益力が改善したか」 で判断します。 その代表的な指標がNOI(Net Operating Income:純営業収益)です。 NOIとは、簡単にいうと、物件の賃貸収入から、その物件を運営するために必要な費用を差し引いた利益です。 イメージとしては、 家賃等の収入- 空室等による収入減少- 管理費- 修繕費- 固定資産税等= NOI と考えると分かりやすいでしょう。 借入金の元本返済や利息は、通常NOIそのものには含めません。 そのため、オーナー自身の資金繰りを見る場合は、NOIだけでなく、その先にあるキャッシュフローも確認します。 7-1.満室でも収益が悪化していれば成功とは限らない 例えば、 広告料を大幅に増やした 30万円のリフォームをした 家賃も5,000円下げた その結果、空室が埋まったとします。 稼働率だけを見れば成功です。 しかし、以前よりNOIが減り、さらに借入返済後の手残りも少なくなっているのであれば、収益用不動産としては慎重に評価する必要があります。 反対に、多少空室期間が残ったとしても、家賃水準を維持しながら年間NOIを高く保てているのであれば、収益面ではこちらの方が良い場合もあります。 したがって、稼働率と収益性をセットで見ることが重要です。 8.リフォームは「喜ばれるか」ではなく「回収できるか」 空室対策としてリフォームや設備投資を行うこと自体は有効です。 ただし、「入居者に喜ばれそうだから」だけで判断するのは避けたいところです。 収益用不動産である以上、投資した金額を回収できるかを考えます。 設備投資の効果は、大きく3つに分けると整理しやすくなります。 ① 賃料を上げられるか ② 空室期間を短縮できるか ③ 将来の修繕費・原状回復費を減らせるか 例えば、30万円の設備投資によって家賃を月5,000円上げられるとします。 年間の増収額は6万円です。 単純計算では、投資額30万円を回収するまで約5年です。 一方、賃料を上げられなくても、空室期間を短縮できる設備投資もあります。 例えば家賃8万円の部屋について、改修によって空室期間を3か月短縮できれば、単純計算では24万円分の空室損を避けられます。 また、和室から洋室への変更のように、賃料や入居率だけでなく、将来の畳表替えや襖の張替えなどの原状回復費を抑えられるケースもあります。 設備投資をするときは、「いくら家賃が上がるか」だけでなく、「何か月早く決まるか」「将来いくら支出を減らせるか」まで見ることが大切です。 9.NOIの改善は売却価格にも影響する NOIを見る理由は、毎月の収益だけではありません。 収益用不動産の価格を考えるうえでも、物件が生み出す収益は重要な要素です。 例えば、単純な収益還元の考え方では、 物件価格 = NOI ÷ 還元利回り という関係で考えることができます。 仮に還元利回りが同じであれば、NOIが高い物件ほど評価額も高くなる方向に働きます。 そのため、家賃を大幅に下げて満室にすることが、将来の売却まで含めて常に最善とは限りません。 逆に、適切な空室対策によって、 賃料を維持できる 空室期間が短くなる 運営コストが下がる ことでNOIを改善できれば、将来の売却価格にもプラスに働く可能性があります。 空室対策では、 「今の1室をどう埋めるか」 だけでなく、 「この対策で物件全体の収益力がどう変わるか」 まで考えてみましょう。 10.税務上は「修繕費」と「資本的支出」に注意する 空室対策としてリフォームや設備投資を行った場合、その支出が必ずその年に全額経費になるとは限りません。 税務上、通常の維持管理や原状回復のための支出は「修繕費」としてその年の経費になるのが基本です。 一方、建物の価値を高めたり、使用可能期間を延ばしたりする支出は「資本的支出」となり、原則として減価償却によって複数年にわたり経費化します。 例えば、同じ設備交換でも、壊れた設備を同程度のものへ交換する場合と、設備の性能を大きく高める場合では、税務上の扱いが変わることがあります。 空室対策としてまとまった工事を行う場合は、工事前に税務上の処理も確認しておくことが大切です。 修繕費と資本的支出の具体的な判定方法については、以下の記事で詳しく解説しています。 関連記事:修繕費と資本的支出の違いとは?不動産オーナーが迷わない判断基準と事例解説 11.最後は借入返済後のキャッシュフローまで見る NOIだけでなく、最終的にはオーナー自身の手残りも確認します。 例えば、 NOI- 設備投資・大規模修繕等- 借入金の元利返済= 借入返済後のキャッシュフロー という考え方です。 NOIが高くても、借入返済額が大きければ資金繰りが厳しい物件もあります。 特に複数物件を保有しているオーナーは、全体の預金残高や所得だけを見るのではなく、物件ごとの収支を確認することが重要です。 例えば、 空室損が大きい物件 毎年修繕費がかかっている物件 借入返済負担が重い物件 設備投資をしてもNOIが改善していない物件 を分けて見ると、どの物件から改善すべきかが分かります。 これは金融機関への説明でも有効です。 追加融資や借換えを相談するときも、 「最近空室が多くて困っています…」 というざっくりとした説明より、 「この物件は空室率が上昇しているため、原因をこのように分析し、この対策によってNOIをここまで改善する計画です」 と説明できる方が、不動産経営の状況を具体的に伝えられます。 12.空室が続いたら、この順番で確認する 最後に、実際に空室が続いたときの確認手順をまとめます。 管理会社から、募集期間・問い合わせ数・内見数・申込数・断り理由を確認する 同じエリア・広さ・築年数の競合物件と比較する 家賃だけでなく、敷金・礼金などを含めた初期費用も比較する 問い合わせが少なければ、募集写真・設備表示・募集条件を見直す 仲介会社が案内しやすい募集体制になっているか確認する 内見があるのに決まらなければ、自分でも現地を確認する 清掃・におい・照明・水回り・収納・共用部を確認する 内見後に断られた理由を管理会社・仲介会社から集める 周辺の競合も決まっていなければ、ターゲットや物件方針そのものを見直す 家賃を下げる場合は、数年間の減収額まで計算する リフォームする場合は、賃料アップ・空室期間短縮・将来コスト削減で効果を計算する 対策前後のNOIを比較する 借入返済後のキャッシュフローまで確認する リフォーム工事は、修繕費か資本的支出かも確認する さらに、募集を開始するときに、 「○週間後に一度反響を確認する」 と管理会社と決めておくのも有効です。 何か月も同じ条件で募集し続けるのではなく、問い合わせや内見の状況を見ながら改善を繰り返します。 13.まとめ 空室が長引いたとき、家賃を下げることは簡単です。 しかし、一度下げた家賃は、その入居者が住んでいる間の収入に影響します。 だからこそ、最初にやるべきことは値下げではありません。 まず、 「なぜ、この部屋が選ばれていないのか」 を確認します。 需要そのものが弱いのか。 募集段階で比較負けしているのか。 内見した結果、選ばれていないのか。 原因を切り分ければ、必要な対策も見えてきます。 そして、対策した後は、 稼働率が上がったか。NOIが増えたか。借入返済後の手残りが増えたか。投資した費用を回収できるか。 まで確認します。 収益用不動産の空室対策は、単なる入居者募集ではありません。 物件の収益力を改善するための経営判断です。 賃貸仲介会社や管理会社が持っている現場の情報と、オーナーが持っている物件の数字、そして税務・財務の視点。 この3つを組み合わせて考えることで、必要以上の家賃値下げや過剰なリフォームを避けながら、物件の収益性を高めていくことができます。 参考資料 国税庁「No.5402 修繕費とならないものの判定(法人税)」 国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定(所得税)」 国税庁「法人税基本通達 第8節 資本的支出と修繕費」 一般社団法人不動産証券化協会(ARES)「NOI」 ※本記事の募集・内見・仲介実務に関する記載の一部は、賃貸仲介会社の実務担当者へのヒアリングを参考にしています。

  • RSUの確定申告でよくあるミス6選|実際の追徴事例から税理士が解説

    外資系企業に勤務していると、給与や賞与とは別に、RSU(Restricted Stock Unit/譲渡制限付株式ユニット)を付与されることがあります。 RSUは、一定の条件を満たした後に株式等を受け取る株式報酬の一種です。 ところが、RSUの確定申告は一般的な給与所得と比べて分かりにくい部分があります。 例えば、 「株を売っていないから、まだ税金はかからないと思っていた」 「会社員なので、勤務先が年末調整で処理していると思っていた」 「海外証券会社に表示されている金額をそのまま使えばよいと思っていた」 といった認識が、申告漏れや計算誤りにつながることがあります。 実際、国税不服審判所には、RSUに係る給与所得を複数年にわたって申告しておらず、修正申告後に過少申告加算税を課された事例や、RSUについて使用する株価・為替レートの時点が争われた事例が公表されています。 本記事では、RSUの確定申告で特に注意したい6つのミスを、実際の公表裁決を交えながら、公認会計士・税理士が分かりやすく解説します。 目次 1. なぜRSUの確定申告は間違いやすいのか? SO・RS・RSU・PSUの違いから確認したい方は、「SO・RS・RSU・PSUの違いとは?」で各制度の仕組みを比較しています。 RSUの申告が難しい理由は、大きく3つあります。 1-1. 海外親会社から直接付与されることがある 外資系企業では、 通常の給与は日本法人から支給される一方、RSUは米国などの海外親会社から付与される というケースがあります。 この場合、日本法人から受け取る給与の情報だけを見ていても、株式報酬の全体像を把握できないことがあります。 1-2. 海外証券会社の資料を確認する必要がある RSUは、E*TRADEなどの海外証券会社で管理されていることがあります。 画面上には、 Grant Vest Vesting Schedule Release Settlement Shares Withheld Sell to Cover Net Shares Cost Basis など、さまざまな用語が表示されます。 問題は、海外証券会社に表示されている数字を、そのまま日本の確定申告書へ転記すればよいとは限らないことです。 日本の税務上、 いつ所得が生じたのか いくらの所得が生じたのか どの為替レートを使用するのか 株式売却時の取得価額はいくらなのか を別途整理する必要があります。 1-3. 「株式報酬」と「株式売却」の2段階がある RSUで特に重要なのが、この考え方です。 イメージすると、 Grant(付与) ↓ Vest・Settlement等 ↓ 株式報酬としての課税を検討 ↓ 株式を保有 ↓ Sale(売却) ↓ 株式譲渡としての課税を検討 という流れになります。 つまり、 「RSUによって株式等を取得する段階」と「その株式を売却する段階」は別の取引 として考える必要があります。 2. RSUの確定申告でよくあるミス6選 2-1. RSUに係る所得そのものを申告していない 最も注意したいのが、 「株式を売却していないから、まだ税金は発生していない」 と考えてしまうケースです。 株式を売却したかどうかと、株式報酬として所得が生じているかどうかは別問題です。 RSUでは、具体的な契約条件に基づいて、権利確定や株式交付等の時点で給与所得等の課税関係を検討する必要があります。 実際の事例|RSUを4年分申告していなかったケース 2023年12月7日の国税不服審判所の裁決では、国内法人に勤務する従業員が、米国親会社から付与されたRSUの制限解除による利益と、ESPP(従業員持株購入プラン)による経済的利益を受けていました。 しかし、2017年から2020年までの4年分について、これらのインセンティブ報酬に係る給与所得を確定申告に含めていませんでした。 その後、 2022年9月15日:税務署から株式報酬について確認したい旨の電話 9月26日:税理士法人を通じて修正申告 10月28日:過少申告加算税の賦課決定 という流れになっています。 この事例で重要なのは、確定申告そのものをしていなかったわけではなく、RSU等の給与所得だけが申告から漏れていたという点です。 会社員として毎年確定申告をしていても、海外親会社から付与された株式報酬が漏れていれば、申告内容が適正とは限りません。 2-2. 課税時点・株価・為替レートを間違えている RSUの所得金額を計算する際には、どの日の株価・為替レートを使用するのかが非常に重要です。 例えば、 Grant Date Vest Date Settlement Date 株式交付日 Sale Date は、それぞれ別の日である場合があります。 実際の事例|後日の低い株価で修正申告したケース 2012年3月7日の国税不服審判所の裁決では、納税者が2005年に217口のRSUを付与され、2008年2月8日の確定日に217株を取得していました。 しかし、その年の確定申告では、このRSUに係る給与所得を申告していませんでした。 その後、税務署からの「おたずね」をきっかけに申告漏れに気付き、2010年に修正申告をしました。 ところが、その際に納税者は、 2010年10月13日の株価54.40 を使用してRSUの所得金額を計算しました。 これに対して税務署は、 実際にRSUが確定した2008年2月8日の株価71.87と、その日の為替レート を使用して所得金額を計算し直しました。 国税不服審判所も税務署側の計算を認めています。 納税者は、「RSUの確定後に株価が大きく下落しているのに、下落前の株価で課税するのは不公平ではないか」という趣旨の主張をしましたが、認められませんでした。 税理士の視点 ここから分かる重要なポイントは、「後になって株価が下落したからといって、税負担が少なくなる日を任意に選んで所得金額を計算することはできない」ということです。 ただし、「RSUならすべて必ずVest日の株価を使う」と一律に判断するのも適切ではありません。 実際には、Award Agreement(付与契約)、権利確定条件、Settlementの方法などを確認し、日本の税務上いつ所得を認識すべきかを判断する必要があります。 2-3. 「RSUは源泉徴収票に含まれている」と思い込んでいる 外資系企業勤務者で注意したいのが、 「会社員なのだから、RSUも勤務先が年末調整してくれているはず」 という思い込みです。 海外親会社から直接付与されたRSUについて、日本法人の源泉徴収票にその金額が含まれているとは限りません。 一方で、勤務先によっては給与明細や源泉徴収票に株式報酬が反映されていることもあります。 そのため、 RSUのVest履歴 ↓ 給与明細 ↓ 源泉徴収票 を照合することが重要です。 反対に、すでに源泉徴収票に含まれているRSUを確定申告でもう一度給与所得に加算すると、二重計上になってしまいます。 したがって、「源泉徴収票に入っているはず」でも、「海外親会社からもらったのだから入っていないはず」でもなく、実際の資料を照合して確認することが必要です。 2-4. Net Sharesだけを見て所得を計算している RSUの管理画面を見ると、Vestした株数と、最終的に口座へ入庫した株数が違うことがあります。 例えば、 100株 Vest ↓ 税金等への対応のため30株相当を処理 ↓ 70株が口座に残る というケースです。 このとき、口座に残った70株だけを見て、 「自分が受け取ったRSUは70株」 と判断するのは危険です。 確認すべきなのは、 Gross Shares Shares Vesting Shares Withheld Shares Sold Net Shares などの内訳です。 「Shares Withheld」と「Sell to Cover」は同じとは限らない ここは特に注意が必要です。 Sell to Coverは、一般にVestした株式の一部を実際に売却し、その売却代金を税金等へ充当する仕組みです。 一方、Shares Withheldは、会社側が交付株数を減らす形で税額相当を処理する設計などもあり、必ずしも市場で株式が売却されているとは限りません。 したがって、 「Net Sharesが少ない=株式が売却された」 とも、 「単に税金が引かれただけ」 とも決めつけず、Transaction Historyなどで実際の処理を確認する必要があります。 2-5. Sell to Coverによる株式売却を見落としている RSUでは、税金等の支払いに充てるため、Vest時に株式の一部を自動的に売却する「Sell to Cover」が行われることがあります。 本人としては、「自分で売却ボタンを押していない」ため、株式を売却した認識がないこともあります。 しかし、実際に株式が市場で売却されている場合、日本の税務上もその売却について譲渡損益の確認が必要になる可能性があります。 特に、VestとSell to Coverが同日または近い日に行われているケースでは、値動きが小さいため、「売却益なんてほとんどないから関係ない」と考えがちです。 しかし、まず重要なのは売却取引が存在するかどうかを確認することです。 そのうえで、日本の税務上の取得価額と売却価額を使用して譲渡損益を計算します。 2-6. 株式売却時の譲渡益・取得価額を間違えている RSUによって株式を取得した後、その株式を売却した場合には、株式譲渡の税務も確認する必要があります。 例えば、株式報酬として100ドル相当の価値を認識した株式を、その後150ドルで売却したとします。 この場合、RSUによって株式を取得した段階と取得後に株価が100ドルから150ドルへ上昇した段階を分けて考える必要があります。 よくある誤解が、 「無料でもらった株だから、取得価額は0円」 というものです。 RSUで取得した株式だからといって、機械的に取得価額を0円とするわけではありません。 一方、「海外証券会社に表示されているCost Basisをそのまま使えばよい」とも限りません。 海外証券会社のCost Basisは、その国の税制や証券会社側の管理ルールを前提として表示されていることがあります。 日本の所得税計算では、株式取得時にどの金額を所得として認識したのか等を踏まえて、日本の税務上の取得価額を確認する必要があります。 また、同じ会社の株式を、 複数回RSUで取得している ESPPでも取得している 自分でも購入している といった場合には、取得費の計算がさらに複雑になることがあります。 3. 海外口座のRSUでも税務署は把握できる 「海外証券会社で管理している株式だから、日本の税務署には分からないのでは?」 と思う方もいるかもしれません。 しかし、そうとは限りません。 3-1. 外国親会社の株式報酬には法定調書制度がある 日本の所得税法には、 「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」 という法定調書があります。 一定の場合、外国親会社等から株式報酬などの経済的利益を受けた役員・従業員が勤務する内国法人等が、この調書を税務署へ提出します。 この調書を提出するのは原則として対象となる勤務先法人等であり、RSUを受け取った従業員本人ではありません。 したがって、「海外口座だから申告しなくても分からない」という考え方は持たない方が賢明です。 3-2. 類似するストックオプションでも申告漏れが問題になっている RSUそのものの全国的な追徴件数ではありませんが、類似する株式報酬であるストックオプションについては、会計検査院が2025年に検査結果を公表しています。 令和3年・令和4年のストックオプション取引について確認したところ、 内容 人数 金額 税制非適格SOの権利行使時の経済的利益を給与収入等に適正に計上していない蓋然性が高かった者 34人 経済的利益 約41.5億円 税制適格SOで取得した株式を譲渡したものの、譲渡所得を申告していない蓋然性が高かった者 73人 譲渡対価 約13.1億円 とされています。 上記は、RSUの統計ではなく、また記載された金額は追徴税額でもありませんが、会計検査院の報告からは、国税庁が法定調書等のデータと所得税申告書のデータを突合し、申告確認を行っていることが分かります。 このことから株式報酬は、「海外の制度だから日本では確認されにくい」と考えるよりも、日本の申告内容と海外の株式報酬資料をきちんと一致させ、適切に申告しておくことが安心です。 4. 過去のRSU申告に間違いがあるかもしれない場合 この記事を読んで、 「過去のRSUを申告していなかったかもしれない」 と気付いた場合は、まず事実関係を整理します。 おすすめは、年ごとにRSUの取引を並べることです。 Step 1. Vest履歴を確認する 海外証券会社の資料から、 Vest Date Vestした株数 株価 Settlement内容 を確認します。 Step 2. 給与明細と照合する RSUに相当する金額が給与明細へ反映されているか確認します。 Step 3. 源泉徴収票と照合する RSUの金額が最終的に源泉徴収票の支払金額等に含まれているか確認します。 Step 4. 過去の確定申告書と比較する RSUが源泉徴収票に含まれておらず、確定申告にも加算されていなければ、申告漏れの可能性があります。 Step 5. 株式売却も確認する RSU取得後に、 Sell to Cover 自分で行った株式売却 がないか確認します。 Step 6. 必要に応じて修正申告を検討する 税額を少なく申告していた場合には、修正申告によって訂正します。 税務署からの調査の事前通知前に自主的に修正申告した場合と、調査後等に修正する場合とでは、過少申告加算税の取扱いが異なることがあります。 5. RSUの確定申告で確認したい資料 RSUの申告では、次のような資料を確認します。 資料 主な確認内容 Award Agreement RSUの契約条件 Grant Notice Grant日・付与数 Vesting Schedule Vest予定 Vesting Details 実際のVest日・株数・株価 Settlement情報 株式交付等の内容 給与明細 RSUの給与反映状況 源泉徴収票 日本の給与収入への反映状況 Transaction History Sell to Cover・売却取引 Cost Basis情報 証券会社側の取得価額情報 Annual Statement 1年間の株式取引全体 特に重要なのは、海外証券会社の資料だけを見るのではなく、給与明細・源泉徴収票・確定申告書まで横断して確認することです。 6. まとめ RSUの確定申告では、次の3点が特に重要です。 ① 株式を売却していなくても、RSUについて日本で課税関係が生じる場合がある ② 株式報酬として所得が生じる段階と、その株式を売却する段階は分けて考える ③ 海外証券会社の表示だけで判断せず、Vest履歴・給与明細・源泉徴収票・売却履歴を照合する 実際に、RSUに係る給与所得の申告漏れや、使用する株価・為替レートの時点を巡って、更正や過少申告加算税が問題となった公表裁決があります。 RSUは、本人が意図的に申告しなかった場合だけでなく、 「勤務先で処理済みだと思っていた」 「海外証券会社の資料の見方が分からなかった」 「どの株価・為替を使えばよいか分からなかった」 といった理由でも申告を誤る可能性があります。 そのため、RSUを受け取っている場合には、毎年の確定申告時に取引内容を整理しておくことが重要です。 アポロ税理士法人では、外資系企業勤務者のRSU・SO等の株式報酬について、日本での確定申告をサポートしています。 例えば、 「過去のRSUを申告していなかったかもしれない」 「RSUが源泉徴収票に含まれているのか分からない」 「E*TRADEのどの資料を確認すればよいか分からない」 「Sell to Coverが行われているが、どう処理すればよいか分からない」 「RSUを売却したが、日本の税務上の取得価額が分からない」 「以前自分で申告したが、計算が正しかったか確認したい」 「税務署から株式報酬について問い合わせがあった」 といった場合には、Award Agreement、Vest履歴、海外証券会社のStatement、給与明細、源泉徴収票などを確認し、取引を時系列で整理することが重要です。 アポロ税理士法人では、公認会計士・税理士が株式報酬の制度内容から、日本での所得税計算、取得後の株式売却まで一連の取引を確認して対応します。 RSU等の株式報酬を含む確定申告でお困りの場合は、アポロ税理士法人までご相談ください。 監修者 志田 宏樹 公認会計士・税理士・宅地建物取引士 監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。 専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継 [詳しいプロフィールを見る →] 参考資料・出典 国税不服審判所「令和5年12月7日裁決」— RSU・ESPPに係る給与所得の申告漏れと過少申告加算税 国税不服審判所「平成24年3月7日裁決」— RSUに係る収入計上時期、株価・為替レート等 国税庁「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」 国税庁 No.2026「確定申告を間違えたとき」 会計検査院「ストック・オプションに係る課税の状況等について」 ※本記事は2026年9月現在の法令・公表資料等に基づき、RSUに関する一般的な税務上の留意点を解説したものです。 RSUの課税時期や所得区分、株式の取得価額等は、Award Agreement、Vesting Schedule、Settlement方法、居住者・非居住者の区分、勤務期間その他の事実関係によって異なる場合があります。個別案件については、実際の資料を確認したうえで判断する必要があります。

  • 安さだけで税理士を選ぶと何が起きるか?料金の違いと失敗しない選び方

    税理士を探すと、同じような業務内容に見えても、事務所によって料金に大きな差があることに気づきます。 月額数千円から依頼できる税理士事務所もあれば、月額数万円以上の顧問料が必要な事務所もあります。決算申告料についても、数万円で対応するところから、数十万円かかるところまでさまざまです。 経営者としては、できる限り固定費を抑えたいと考えるのが自然です。 税理士報酬は毎月発生する費用ですから、「同じように申告をしてもらえるのであれば、安い方がよい」と考える方も少なくありません。 実際、取引が少なく、経理処理も自社で完結しており、税理士に複雑な相談をする必要がない会社であれば、低価格の税理士事務所が合理的な選択になることもあります。 そのため、税理士報酬が安いこと自体に問題があるわけではありません。 問題になるのは、料金だけを比較し、誰が担当するのか、どこまで対応してもらえるのか、どのような確認体制があるのかを確認せずに契約してしまうことです。 税理士選びでは、現在提示されている料金が安いかどうかだけでなく、その料金で継続可能なサービス体制になっているかという視点も欠かせません。 この記事では、当法人に実際に寄せられた相談事例も踏まえながら、税理士報酬に差が生じる理由と、安さだけで税理士を選ぶ場合の注意点を解説します。 1.税理士の料金は、なぜ事務所によって違うのか 税理士事務所の料金を比較するときは、「申告書を作成してもらう」という最終的な成果物だけを見てしまいがちです。 しかし、実際には、申告書が完成するまでにどのような業務を行っているかは、事務所によって大きく異なります。 例えば、次のような違いがあります。 面談を毎月行うのか、年に一度だけ行うのか 税理士本人が担当するのか、職員が窓口になるのか 質問への回答を税理士が確認するのか 月次試算表をいつまでに作成するのか 決算前に納税額の予測を行うのか 節税策や設備投資について事前に相談できるのか 資金繰りや金融機関対応まで支援するのか 業界特有の税務や会計に対応できるのか 申告書を複数人で確認するのか 担当者が交代した場合の引継ぎ体制があるのか 単純な記帳と申告だけに業務を限定すれば、料金を抑えることはできます。 一方で、定期的な面談、税理士による確認、月次決算、納税予測、資金繰り支援などを行う場合には、その分だけ人員と時間が必要になります。 つまり、税理士報酬の差は、申告書という成果物の違いだけではありません。 そこに至るまでの確認、相談、判断、提案、管理体制の違いが、料金の違いとして表れていることがあります。 ただし、料金が高ければ必ずサービスがよいわけでもありません。反対に、料金が安くても、業務を標準化し、効率的に質の高いサービスを提供している事務所もあります。 重要なのは、金額だけを比べるのではなく、その金額に何が含まれているのかを確認することです。 2.安さだけで税理士を選ぶ前に確認したい5つのこと 2-1.提示された料金に、どこまでの業務が含まれているか 月額顧問料が安く見えても、記帳代行、決算申告、年末調整、法定調書、償却資産申告などが別料金になっている場合があります。 税務相談についても、回数や方法が制限されていたり、訪問や面談には追加料金が必要だったりすることがあります。 月額料金だけで比較するのではなく、年間を通じて必要となる業務を確認し、最終的にいくらかかるのかを比較することが重要です。 2-2.誰が担当し、税理士がどこまで関与するか 税理士事務所では、資料の回収や会計入力、日常的な確認を職員が担当することは一般的です。職員が窓口になること自体が問題なのではありません。 確認すべきなのは、役員報酬、消費税、不動産取引、設備投資など、重要な税務判断を伴う相談について、税理士がどのように関与しているかです。 税理士本人と話せる機会があるか、職員からの回答を税理士が確認しているかを契約前に確認しましょう。 2-3.現在の料金でサービスを継続できる体制か 税理士との関係は長期間に及ぶことがあります。 そのため、現在提示されている料金が安いかだけでなく、その料金で継続可能なサービス体制になっているかも重要です。 担当者一人が抱える顧客数が多すぎないか、職員を教育する仕組みがあるか、担当者が退職した場合に相談履歴や処理方針が引き継がれるかなどは、長期的なサービス品質に影響します。 現在の担当者が優秀であっても、その人が退職した途端に過去の経緯が分からなくなる体制では、安心して長期間依頼することはできません。 2-4.事後処理だけでなく、事前相談ができるか 税務には、取引を行った後では対応できないことがあります。 例えば、役員報酬の変更、消費税に関する届出、設備投資、不動産の購入・売却、退職金の支給などは、実行する前の検討が重要です。 決算申告の直前だけ税理士と話す契約では、選択肢がなくなった後に税額を知ることになりかねません。 重要な意思決定をする前に相談できるのか、相談した場合にメリットだけでなくリスクや注意点も説明してもらえるのかを確認する必要があります。 2-5.自社の業界や成長段階に対応できるか 創業時には、年に一度申告書を作成してもらうだけで十分な場合があります。 しかし、売上や従業員が増え、借入金や取引金融機関が増えてくると、月次決算、資金繰り、納税予測、部門別管理などが必要になります。 また、不動産、建設、医療、ITなど、業界によって取引の特徴や重視すべき経営指標は異なります。 現在の会社規模だけではなく、今後の成長も見据えて、自社の業界やビジネスモデルに対応できる税理士かを検討することが大切です。 3.税理士の料金だけでは分からなかった、実際の相談事例 以下は、当法人に実際に寄せられた相談を基に、個人や法人が特定されないよう内容の一部を変更・再構成したものです。 事例1.担当者が何度も変わり、過去の経緯が分からなくなっていた ある会社では、料金の安さを重視して税理士法人を選びました。 ところが、数年間のうちに担当者が何度も交代し、そのたびに会社の事業内容や過去の取引を一から説明しなければなりませんでした。 過年度の処理について質問しても、「前任者が退職しているため分かりません」と回答され、なぜ現在の会計処理になっているのか、誰にも説明できない状態になっていました。 過去に税理士事務所へ相談した内容も十分に記録されておらず、経営者は同じ説明を何度も繰り返さなければなりませんでした。 担当者の退職や異動は、どの事務所でも起こり得ます。 この事例で問題だったのは、担当者が変わったことではなく、相談履歴や会計処理の判断根拠を事務所として共有し、引き継ぐ仕組みがなかったことです。 事例2.債権管理が行われず、決算書が実態と合っていなかった 別の会社では、法人税の申告自体は毎年期限内に行われていました。 しかし、売掛金や未収入金の会計上の残高確認が十分に行われておらず、決算書には回収済みの債権や、内容の分からない古い残高が数多く残っていました。 経営者自身も、実際にいくらの売掛金が未回収なのか、決算書を見ただけでは把握できない状態でした。 決算書上の売掛金には、すでに回収したもの、回収が難しいもの、発生理由が確認できないものが混在していました。 債権を管理し、請求や回収を行う第一義的な責任は会社側にあります。しかし、決算書を作成する過程で残高の内容を確認し、実態と合わない数字があれば会社へ確認することも重要です。 この状態では、正確な資金繰りを把握できません。また、金融機関から売掛金の内容を質問されても説明できず、決算書の信頼性にも疑問を持たれる可能性があります。 税務申告が完了していることと、決算書が経営判断に使える状態になっていることは別問題です。 事例3.突然、税理士報酬を3倍にすると通知された ある会社では、長年にわたり、比較的低い料金で決算申告を依頼していました。 ところが、ある時、税理士事務所から、報酬を従来の約3倍に引き上げると通知されました。 さらに、今後は顧問契約を締結しなければ業務を継続しないと言われ、会社側は短期間で、契約を続けるか、別の税理士を探すかを判断しなければなりませんでした。 人件費や業務量の増加に伴い、税理士報酬を改定すること自体は不自然ではありません。適正な料金への見直しが、安定したサービスを提供するために必要な場合もあります。 しかし、安さを最大の理由として税理士を選んでいると、大幅な値上げがあったときに、その事務所へ依頼し続ける理由がなくなってしまいます。 この事例から分かるのは、契約時の料金だけではなく、その料金で安定した人員を確保し、継続的にサービスを提供できる体制なのかを確認することの重要性です。 事例4.業界やビジネスモデルを理解せず、会計処理だけが行われていた ある会社では、税務申告や会計処理は毎年行われていましたが、税理士が会社の業界やビジネスモデルを十分に理解していませんでした。 会社から提出された資料を会計ソフトに入力し、申告書を作成することが業務の中心で、事業ごとの採算や資金繰りについて説明されることはほとんどありませんでした。 経営者が業績について質問しても、「前年と比較して売上が増えた」「利益率が下がった」という説明にとどまり、なぜ利益が変動したのか、どの事業が収益を生んでいるのかまでは分析されていませんでした。 会計処理が正しく行われていることは重要です。 しかし、それだけでは、どの商品や事業に力を入れるべきか、借入金を無理なく返済できるか、今後どの程度の投資が可能かといった経営判断にはつながりません。 この会社が求めていたのは、申告書を作成するだけではなく、自社の商流や収益構造を理解したうえで、数字の意味を説明してくれる税理士でした。 税理士に経営や財務についても相談したい場合には、自社の業界やビジネスモデルを理解しようとする姿勢があるかを確認する必要があります。 4.低価格の税理士が向いている会社、慎重に選ぶべき会社 ここまで安さだけで税理士を選ぶリスクを説明してきましたが、低価格の税理士事務所がすべての会社に不向きということではありません。 必要なサービスが限定されている場合には、低価格のプランが合理的な選択になることもあります。 例えば、次のような会社です。 取引件数が少ない 自社で正確に記帳できる 複雑な取引がない 税務上の相談がほとんどない 融資を受ける予定がない 経営者自身が会計や税務をある程度理解している 面談が年に一度でも支障がない サービス範囲を理解して契約している 一方で、次のような会社は、料金だけで税理士を選ばない方がよいでしょう。 売上や事業規模が拡大している 金融機関から継続的に融資を受けている 不動産の購入や売却を行っている 複数の法人や事業を経営している 利益や納税額の変動が大きい 経理担当者がいない 月次で業績や資金繰りを把握したい 事業承継や相続を検討している 業界特有の税務や会計処理がある 経営判断について相談できる相手を必要としている 事業が複雑になるほど、税理士に求める役割は、申告書の作成から経営判断に必要な情報の提供へと広がります。 自社が税理士に何を求めているのかを整理したうえで、料金とサービス内容が合っているかを判断する必要があります。 5.税理士を選ぶ際に確認したい10の質問 税理士から見積りを受け取ったときは、金額だけでなく、次の項目も確認することをおすすめします。 顧問料には、具体的にどの業務が含まれていますか 記帳代行、年末調整、決算申告は別料金ですか 面談は年に何回行いますか 日常的な質問や相談に追加料金はかかりますか 誰が担当し、税理士はどの程度関与しますか 税務判断が必要な回答は、税理士が確認しますか 月次試算表は、資料提出後いつ頃完成しますか 決算前に納税予測や対策の打合せを行いますか 担当者が退職した場合、どのように引き継ぎますか 自社と同じ業界や規模の会社を支援した経験がありますか 加えて、融資、資金繰り、相続、事業承継、不動産などについて相談したい場合には、それらが顧問契約に含まれているかも確認しましょう。 見積りを比較するときは、「月額顧問料」という一つの数字だけを並べるのではなく、含まれる業務と含まれない業務を一覧にすると違いが分かりやすくなります。 6.税理士報酬について、代表者として考えていること 料金だけでは測れないサービス価値については、代表コラム「安さだけでは選ばれない。眼鏡の調整で感じたサービス業の差」でも考え方をお伝えしています。 税理士報酬は会社の固定費です。 経営者が少しでも費用を抑えたいと考えるのは当然ですし、会社が必要としていないサービスまで契約する必要はありません。 一方で、税理士の業務は、単に申告書を作成することだけではありません。 会社の数字を整理し、税額を予測し、経営者が意思決定をするための材料を提供することも重要な役割だと考えています。 税理士の助言によって、必ず税金が安くなるわけでも、融資を受けられるわけでもありません。 しかし、重要な取引を実行する前に選択肢とリスクを把握していれば、後から「事前に知っていれば別の判断をした」という事態を減らすことはできます。 また、税理士との関係は、通常、数年から十数年に及びます。 現在の料金が安いかだけでなく、担当者を安定して確保できるか、知識を更新できるか、相談内容を引き継げるか、継続的にサービスを提供できるかという視点も重要です。 さらに、長期間付き合う相手である以上、税理士との相性も無視できません。 例えば、質問へのレスポンスの早さ、説明の分かりやすさ、相談のしやすさ、連絡方法、経営者の考え方への理解などです。 どのポイントを重視するかは経営者によって異なるでしょう。 頻繁に相談しながら経営判断を進めたい方もいれば、必要なときだけ要点を簡潔に報告してほしい方もいます。慎重な判断を好む経営者もいれば、一定のリスクを取って事業を成長させたい経営者もいます。 どちらが正しいということではありません。 重要なのは、税理士の対応方法や考え方が、自社の経営スタイルに合っているかどうかです。 税理士は、最も安い事務所を探すのでも、最も高い事務所を選ぶのでもありません。 自社が必要としている役割を明確にし、その役割を適切に果たしてくれることに加え、経営者が安心して相談できる事務所を選ぶべきだと考えています。 7.アポロ税理士法人が大切にしていること 当たり前ですが、申告書を期限内に作成することは、税理士として当然の業務だと考えています。 そのうえで、会社の数字が経営判断に使える状態になっているか、税務上の問題を事前に相談できているか、資金繰りや金融機関対応に支障がないかを重視しています。 特に、会社の成長過程では、税務だけでなく、財務、融資、経理体制など、複数の課題が同時に発生します。 そのため、会計処理や申告だけを見るのではなく、会社のビジネスモデルや資金の流れを理解したうえで支援することを大切にしています。 また、すべての会社に同じサービスが必要だとは考えていません。 会社の規模、経理体制、今後の事業計画によって、必要な支援は異なります。 必要な業務と不要な業務を整理し、料金だけでなく、受けられる支援の内容を理解していただくことが、長期的な信頼関係につながると考えています。 8.まとめ 税理士報酬が安いこと自体に問題があるわけではありません。 自社に必要な業務が限定されており、サービス内容を理解したうえで契約しているのであれば、低価格の税理士事務所は合理的な選択です。 一方で、料金だけを見て契約すると、税理士の関与が見えない、担当者の引継ぎがされない、決算書の中身が整理されない、業界やビジネスモデルを理解してもらえないといった問題が、後から明らかになることがあります。 また、現在の料金が安くても、その料金でサービスを継続できなければ、突然の値上げや契約条件の変更を求められる可能性があります。 税理士を選ぶ際に確認すべきなのは、料金だけではありません。 税理士は、会社の規模や成長段階によって、求められる役割が変わります。 現在の税理士との契約内容が自社に合っているか分からない場合は、まず、顧問料にどのような業務が含まれているのか、税理士にどのような役割を期待しているのかを整理してみてください。 料金ではなく、自社に必要な役割を基準に選ぶことが、後悔しない税理士選びにつながります。

  • 遺産分割が申告期限に間に合わない場合、小規模宅地等の特例は使える?必要な手続きをわかりやすく解説

    相続税の申告期限が近づいているものの、相続人同士の話し合いがまとまらず、遺産分割が終わっていないというケースは珍しくありません。 特に、自宅や賃貸物件などの不動産がある相続では、 「誰が自宅を相続するのか決まらない」 「不動産の評価や分け方について意見がまとまらない」 「遺産分割が終わらないと、小規模宅地等の特例は使えないのか」 と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。 先に結論をお伝えすると、相続税の申告期限までに遺産分割が終わらなかった場合、未分割の土地について、当初の申告では小規模宅地等の特例を適用できません。 ただし、期限内に相続税の申告を行い、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付しておけば、遺産分割が成立した後に特例を適用できる可能性があります。 この記事では、遺産分割が相続税の申告期限に間に合わない場合の対応を、必要書類や期限、具体例とともにわかりやすく解説します。 目次 1.遺産分割が間に合わなくても、特例を使える可能性はある 相続税の申告期限までに遺産分割が終わっていない場合でも、将来、小規模宅地等の特例を適用できる可能性を残すことはできます。 重要なポイントは、次の4つです。 ・遺産分割が終わっていなくても、相続税の申告期限は延長されない ・未分割の土地については、当初申告で小規模宅地等の特例を適用できない ・相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する ・遺産分割後、原則として4か月以内に更正の請求をする つまり、「遺産分割が終わるまで申告を待つ」のではなく、まずは未分割の状態で期限内に申告と納税を行い、その後の遺産分割に応じて税額を修正する流れです。 2.小規模宅地等の特例とは 制度の基本要件から確認したい方は、「小規模宅地等の特例とは?」をご覧ください。 小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅、事業用地、賃貸物件の敷地などについて、一定の要件を満たした場合に、相続税の計算に含める土地の価額を減額できる制度です。 代表的な区分は、次のとおりです。 ・被相続人の自宅敷地に該当する特定居住用宅地等330平方メートルまで80%減額 ・被相続人の事業用地に該当する特定事業用宅地等400平方メートルまで80%減額 ・アパートや貸家などの敷地に該当する貸付事業用宅地等200平方メートルまで50%減額 例えば、評価額6,000万円の自宅敷地が特定居住用宅地等に該当し、その全体に80%の減額を適用できれば、相続税の計算に含める価額は1,200万円になります。 土地そのものの時価や売却価格が下がるわけではなく、あくまでも「相続税を計算するときの価額」を減らす制度です。 減額効果が大きいため、小規模宅地等の特例を適用できるかどうかによって、相続税額が大きく変わることがあります。 3.遺産が未分割だと特例を適用できない理由 小規模宅地等の特例は、土地の用途だけで適用が決まる制度ではありません。 その土地を誰が相続したかによって、適用要件が変わります。 例えば、被相続人の自宅敷地を相続する場合でも、取得者が次のいずれに該当するかによって確認すべき条件が異なります。 ・被相続人の配偶者 ・被相続人と同居していた親族 ・被相続人と別居していた一定の親族 また、事業用地や賃貸物件の敷地については、事業や賃貸経営を引き継いでいるか、土地を継続して保有しているかなども確認されます。 遺産分割が終わっていない段階では、土地を最終的に誰が取得するのか決まっていません。そのため、取得者ごとの適用要件を判定できず、未分割の土地については当初申告で特例を適用できないのです。 遺産分割が後日成立した場合でも、分割後の状態だけを確認するわけではありません。取得者の居住状況、事業の継続状況、土地の保有状況などについて、相続開始から当初の相続税申告期限までの事実関係を確認する必要があります。 4.遺産分割が間に合わない場合に、申告期限までに行うこと 4-1.未分割のまま期限内に申告する 相続税の申告期限は、原則として、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。通常は、死亡日の翌日から10か月以内と考えます。 遺産分割協議が続いていても、申告期限は原則として延長されません。 期限までに遺産分割が成立していない場合は、各相続人が民法に定める相続分、いわゆる法定相続分などに従って財産を取得したものとして相続税を計算します。 これは便宜的に「仮の申告」と呼ばれることがありますが、税務上は正式な相続税申告です。 「遺産分割が終わっていないから、相続税申告もできない」ということではありません。申告しないまま期限を過ぎると、無申告加算税や延滞税が発生する可能性があるため注意が必要です。 4-2.未分割の土地には特例を適用しない 当初申告では、未分割となっている土地に小規模宅地等の特例を適用せず、減額前の価額で相続税を計算します。 配偶者が相続する予定の財産についても、まだ遺産分割が成立していなければ、原則として配偶者の税額軽減を適用できません。 そのため、遺産分割が成立している場合と比べて、当初申告時の納税額が大きくなることがあります。 後から税金が戻る可能性があったとしても、当初の申告期限までにいったん納税しなければならない点には注意が必要です。 相続財産に占める不動産の割合が高く、現預金が少ない場合は、早い段階から納税資金を確認しておく必要があります。 4-3.「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する 後日、小規模宅地等の特例を適用する可能性がある場合は、相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。 この書類には、主に次の内容を記載します。 ・申告期限までに遺産分割が終わっていない理由 ・今後の遺産分割の見込み ・将来適用を受けようとする特例 小規模宅地等の特例を受ける予定がある場合は、該当する特例の欄に記載します。 この分割見込書は、原則として相続税申告書と一緒に提出する書類です。 単に「今後、遺産分割をする予定です」と税務署へ口頭で伝えただけでは、正式な手続きにはならないので注意が必要です。 4-4.分割見込書を提出すれば特例が確定するわけではない 分割見込書を提出する意味は、将来の特例適用を確定させることではありません。 期限後に遺産分割が成立した場合に、小規模宅地等の特例を適用できる可能性を残しておくための手続きです。 実際に特例を適用するためには、遺産分割後に次の点を確認しなければなりません。 ・対象となる土地の用途 ・土地を取得した相続人 ・被相続人と取得者との関係 ・同居や居住の状況 ・土地の保有状況 ・事業や賃貸経営の継続状況 ・対象となる面積 ・他の土地との限度面積の調整 最終的な遺産分割の内容によっては、小規模宅地等の特例を適用できないこともあります。 5.申告期限後3年以内に遺産分割が成立した場合 5-1.まずは特例の適用要件を確認する 相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が成立した場合は、土地を取得した相続人について、小規模宅地等の特例の要件を改めて確認します。 例えば、自宅敷地を配偶者が取得した場合と、同居していた子が取得した場合では、確認すべき要件が異なります。 また、賃貸物件の敷地を相続した場合は、被相続人の貸付事業を引き継いでいるか、申告期限まで土地を保有しているかなどの確認が必要です。 「期限内に分割できた」という事実だけで、必ず特例を受けられるわけではありません。 5-2.税額が減る場合は更正の請求を行う 遺産分割後に小規模宅地等の特例を適用し直した結果、当初申告よりも相続税額が少なくなる場合は、更正の請求を行います。 更正の請求とは、納めすぎた税金を返してもらうために税務署へ行う手続きです。 申告期限後3年以内に分割され、特例を適用する場合は、原則として遺産分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求を行います。 遺産分割が成立しただけで、税金が自動的に還付されるわけではありません。相続人側から更正の請求書を提出する必要があります。 5-3.税額が増える場合は修正申告を行う 遺産分割の内容によっては、当初申告よりも相続税額が増える相続人が出ることもあります。 例えば、法定相続分に基づいて申告した金額よりも、実際に取得した財産の金額が多くなった場合などです。 税額が減る場合に行うのが「更正の請求」、税額が増える場合に行うのが「修正申告」です。 遺産分割後は、一部の相続人だけでなく、原則として相続人全体の税額を再計算し、それぞれに必要な手続きを確認することが大切です。 6.申告期限から3年を超えても遺産分割できない場合 6-1.一定のやむを得ない事由があれば、例外がある 相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が成立しない場合でも、直ちにすべての可能性がなくなるとは限りません。 相続に関する訴えが提起されているなど、遺産を分割できないことについて一定のやむを得ない事由がある場合は、税務署長の承認を受けることで、3年経過後の分割でも小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。 ただし、相続人同士の話し合いが長引いているという事情だけで、当然に承認されるわけではありません。 何が「やむを得ない事由」に当たるかは、遺産分割ができない具体的な事情に基づいて個別に判断されます。 6-2.承認申請書には提出期限がある 3年を超える場合は、所轄税務署長に次の書類を提出します。 「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」 提出期限は、原則として、相続税の申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までです。 期限を過ぎてから、「実は裁判が続いていた」と説明しても、当然に救済されるものではありません。 3年以内に分割できない可能性が出てきた段階で、承認申請の対象となるか、提出期限がいつになるかを早めに確認することが重要です。 6-3.承認後にも期限がある 税務署長の承認を受けたとしても、無期限に遺産分割を先送りできるわけではありません。 基本的な流れは次のとおりです。 1.裁判の判決が確定するなど、遺産分割ができる状態になる 2.遺産分割ができることとなった日の翌日から4か月以内に分割する 3.分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求をする やむを得ない事由が解消した後も、遺産分割と更正の請求について、それぞれ期限管理が必要です。 7.手続きの流れを時系列で確認 遺産分割が申告期限に間に合わない場合の流れを、時系列で整理すると次のようになります。 【相続開始】 被相続人が亡くなり、相続が始まります。  ↓ 【相続税の申告期限まで】 原則として、死亡を知った日の翌日から10か月以内に相続税を申告・納税します。 遺産分割が終わっていない場合は、法定相続分などに従って税額を計算します。 未分割の土地には、小規模宅地等の特例を適用しません。 相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。  ↓ 【申告期限後3年以内】 遺産分割協議を成立させ、誰がどの財産を取得するかを確定します。  ↓ 【遺産分割後】 土地を取得した相続人について、小規模宅地等の特例の適用要件を確認します。  ↓ 【分割後、原則4か月以内】 税額が減る場合は、更正の請求を行います。 税額が増える場合は、修正申告を行います。 申告期限後3年以内に分割できない場合は、一定のやむを得ない事由があるかを確認し、所定の期限までに税務署長への承認申請を検討します。 8.遺産分割が間に合わない場合によくある失敗 相続手続全体の期限や流れについては、「相続の基本と全体像」で整理しています。 8-1.遺産分割が終わるまで申告しない 最も避けたいのは、遺産分割協議が終わるまで相続税の申告をしないことです。 相続税の申告期限は、遺産分割協議の進捗状況とは別に到来します。 期限までに遺産分割が終わらない場合でも、未分割の状態で申告と納税を行う必要があります。 8-2.3年間は申告期限が延びると誤解する 「申告期限後3年以内」という言葉は、相続税申告の期限が3年間延長されるという意味ではありません。 相続税の申告・納税は、原則10か月以内に行います。 そのうえで、一定の手続きをしておけば、申告期限から3年以内に成立した遺産分割に基づいて、後から特例を適用できるという制度です。 8-3.分割見込書を提出し忘れる 将来、小規模宅地等の特例を適用する予定があるにもかかわらず、当初の相続税申告書に分割見込書を添付していないケースがあります。 分割見込書は、後日の特例適用に関わる重要な書類です。 提出を忘れた場合に、後から提出すれば必ず認められるとは限りません。添付漏れが判明した場合は、自己判断で放置せず、速やかに税理士や所轄税務署へ確認する必要があります。 8-4.遺産分割後に何もしない 遺産分割が成立しても、税務署が自動的に相続税を再計算して還付してくれるわけではありません。 税額が減る場合は、原則として期限内に更正の請求を行います。 遺産分割協議書を作成した段階で安心せず、税務上の手続きが残っていないか確認しましょう。 8-5.税金だけで遺産分割方法を決める 小規模宅地等の特例を使えば相続税を減らせるため、特例の効果だけを見て土地の取得者を決めたくなることがあります。 しかし、不動産の遺産分割では、次の点も検討する必要があります。 ・取得者が固定資産税や修繕費を負担できるか ・他の相続人へ代償金を支払えるか ・将来、その不動産を売却する予定があるか ・不動産を共有することによる問題がないか ・配偶者の相続後に発生する二次相続への影響 ・賃貸物件の管理を継続できるか 相続税だけでなく、相続後の管理や売却、家族関係まで含めて判断することが大切です。 9.まとめ 相続税の申告期限までに遺産分割が終わらなくても、一定の手続きを行うことで、後から小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。 重要なポイントを改めて整理します。 1.遺産分割が終わっていなくても、相続税は原則10か月以内に申告・納税する 2.未分割の土地については、当初申告で小規模宅地等の特例を適用しない 3.相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する 4.原則として申告期限から3年以内に遺産分割を成立させる 5.分割後に税額が減る場合は、原則4か月以内に更正の請求を行う 6.3年を超える場合は、やむを得ない事由について税務署長の承認が必要になる 遺産分割が間に合わない相続では、申告期限、3年の期限、分割後4か月の期限など、複数の期限を同時に管理しなければなりません。 また、誰が不動産を取得するかによって、小規模宅地等の特例の適用可否だけでなく、相続税額や将来の不動産管理、二次相続にも影響します。 「まだ遺産分割が終わっていないから、相続税申告の準備も進められない」と考えるのではなく、申告期限が近づく前に財産評価と税額計算を進めておくことが大切です。 遺産分割がまとまらず、相続税の申告期限が迫っている方は、アポロ税理士法人までお気軽にご相談ください。状況を整理したうえで、期限内申告と将来の特例適用を見据えた対応を検討いたします。 【参考資料】 ・国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」 ・国税庁「No.4208 相続財産が分割されていないときの申告」 ・国税庁「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」 ・国税庁「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続」 監修者 志田 宏樹 公認会計士・税理士・宅地建物取引士 監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。 専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継 [詳しいプロフィールを見る →]

  • 相続直前に建てたアパートは小規模宅地等の特例を使える?3年ルールと建替えの違いを解説

    「相続税対策として、今のうちにアパートを建てておきましょう」 不動産オーナーや地主の方は、建築会社や金融機関などから、このような提案を受けることがあります。 たしかに、賃貸アパートの敷地は、一定の要件を満たすと「小規模宅地等の特例」を利用できる可能性があります。 この特例を使うと、対象となる土地について、最大200㎡まで相続税評価額を50%減額できます。 しかし、亡くなる直前にアパートを建てれば、必ず特例を使えるわけではありません。 特に注意したいのが、相続前3年以内に新たに賃貸を始めた土地を、原則として特例の対象から外す「3年ルール」です。 この記事では、相続直前に建てたアパートについて、小規模宅地等の特例を使えるケースと使えないケースを、税務知識のない方にも分かるように解説します。 目次 1.結論|相続直前の新築アパートは原則対象外。ただし例外もある 結論からお伝えすると、更地などに初めてアパートを建て、相続前3年以内に賃貸を始めた場合、その土地は原則として小規模宅地等の特例の対象になりません。 一方、次のような場合には、相続直前に建てたアパートでも特例を使える可能性があります。 ・以前から一定規模の不動産賃貸業を3年を超えて続けていた ・以前から賃貸していたアパートを建て替えた ・既存アパートの一部が一時的に空室になっていた 大まかな考え方は、次のとおりです。 【更地に初めてアパートを建て、相続前3年以内に賃貸を開始した】 原則として特例の対象外です。 【新築アパートが建築中で、まだ賃貸を始めていない】 原則として特例の対象外です。 【建物は完成したが、入居者を募集しているだけ】 原則として特例の対象外です。 【一定規模の賃貸業を3年超続け、その事業の一環としてアパートを新築した】 3年ルールの例外となる可能性があります。 【長年賃貸していたアパートを建て替えている】 賃貸事業の継続性が認められれば、特例を使える可能性があります。 重要なのは、「亡くなる何年前に建物を建てたか」だけではありません。 その土地をいつから実際に貸付事業に使っていたのか、以前からどの程度の規模で賃貸業を行っていたのか、更地への新築なのか既存アパートの建替えなのかによって結論が変わります。 2.アパートの土地に使える小規模宅地等の特例とは 貸付事業用宅地等を含む制度全体については、「小規模宅地等の特例とは?」をご確認ください。 賃貸アパートや賃貸マンションの敷地は、一定の要件を満たすと「貸付事業用宅地等」に該当します。 貸付事業用宅地等について小規模宅地等の特例を適用すると、最大200㎡まで、相続税評価額を50%減額できます。 例えば、特例を適用する前の土地評価額が6,000万円で、その土地全体が特例の対象になる場合、評価額を3,000万円まで減額できる可能性があります。 ただし、土地の評価額が50%になるのであって、相続税の納税額がそのまま50%になるわけではありません。 実際に減少する相続税額は、相続財産の総額、相続人の人数、他の土地に適用する特例などによって変わります。 2-1.貸家建付地の評価とは別の制度 ここで注意したいのが、「貸家建付地の評価」と「小規模宅地等の特例」は別の制度だということです。 アパートの敷地については、一般的に次の順番で評価します。 1.入居者の権利による利用制限を反映し、貸家建付地として評価する 2.小規模宅地等の特例の要件を満たす場合は、対象部分をさらに50%減額する 貸家建付地とは、土地所有者が建てたアパートなどを他人に貸している場合における、その建物の敷地をいいます。 したがって、貸家建付地として評価できたからといって、小規模宅地等の特例も必ず使えるわけではありません。 反対に、小規模宅地等の特例を使えなくても、実際に建物が賃貸されていれば、貸家建付地として評価できる可能性はあります。 本記事では、後者の「小規模宅地等の特例」に絞って解説します。 3.相続前3年以内に賃貸を始めた土地は原則として対象外 2027年からの貸付用不動産の相続税評価見直しとは別の制度です。改正内容については、「貸付用不動産の相続税評価が2027年から見直しへ」で整理しています。 貸付事業用宅地等に該当するためには、原則として、相続開始の直前にその土地が貸付事業のために使われている必要があります。 さらに、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された土地は、「3年以内貸付宅地等」として、原則として特例の対象から除外されます。 これは、相続が近づいてから急いで土地を賃貸したり、賃貸物件を建てたりして、小規模宅地等の特例だけを利用する対策を制限するためのルールです。 3-1.「建てた日」ではなく「貸付事業に使い始めた時期」が重要 3年ルールを判断するときは、アパートの建築請負契約を締結した日や、工事を始めた日だけを見るわけではありません。 重要なのは、その土地がいつから現実に貸付事業の用に供されていたかです。 アパート建築から相続までは、一般的に次のように進みます。 建築契約 ↓ 工事着工 ↓ 建物完成 ↓ 入居者募集 ↓ 貸付事業に使用開始 ↓ 相続発生 建築契約や工事着工が相続の3年以上前であっても、実際に貸付事業に使い始めたのが相続前3年以内であれば、3年ルールに該当する可能性があります。 そのため、「アパートを建てたのは何年前か」だけでは、特例を使えるかどうかを正確に判断できません。 3-2.建築中や入居者募集中では原則として足りない 新たに貸付事業の用に供するアパートを建築している途中で相続が発生した場合、その土地は原則として、まだ貸付事業の用に供されていたとはいえません。 建物が完成していても、新しい入居者を募集しているだけなど、貸付事業を始めるための準備行為しか行われていない場合も同様です。 国税庁の通達でも、新たな貸付用建物を建築中である場合や、新たに建築した建物について賃借人の募集などの準備行為をしているにすぎない場合、その土地は貸付事業の用に供されていた宅地等には該当しないとされています。 つまり、次のような状態だけでは不十分です。 ・建築請負契約を締結した ・アパートの建築工事が始まった ・建物が完成した ・管理会社と管理委託契約を結んだ ・不動産ポータルサイトに物件を掲載した ・入居者を募集している 実際に貸付事業を始めた時期については、賃貸借契約、建物や鍵の引渡し、賃料の発生状況などを踏まえて判断する必要があります。 4.3年以内でも特例を使える可能性がある例外 相続前3年以内に新たに賃貸を始めた場合でも、例外的に特例を使えることがあります。 被相続人が相続開始の日まで3年を超えて「特定貸付事業」を続けており、新しいアパートもその特定貸付事業の用に供されていた場合です。 この場合、新しいアパートの土地は「3年以内貸付宅地等」に該当せず、他の要件を満たせば特例の対象になる可能性があります。 4-1.特定貸付事業とは 特定貸付事業とは、分かりやすくいうと、社会通念上「事業」といえる規模で行われている不動産賃貸業です。 アパートやマンションなどの建物を貸している場合、所得税の取扱いでは、次のいずれかに該当すると、原則として事業として行われているものと取り扱われます。 ・アパートや貸室がおおむね10室以上 ・独立した戸建て住宅がおおむね5棟以上 一般に「5棟10室基準」と呼ばれる目安です。 ただし、10室や5棟という数字だけですべてのケースが自動的に決まるわけではありません。 最終的には、物件の数、賃料収入、管理状況、貸付けの継続性などを踏まえ、社会通念上、事業といえる規模かどうかを判断します。 4-2.5棟10室未満でも、以前から貸していた土地は対象になる可能性がある ここは混同しやすいポイントです。 小規模宅地等の特例を使うために、すべての不動産賃貸業が5棟10室以上でなければならないわけではありません。 事業的規模に満たない小規模な貸付けでも、相当の対価を得て継続的に行われていれば、貸付事業に含まれる可能性があります。 また、相続開始前3年を超えて引き続き貸付事業に使われていた土地は、特定貸付事業に当たらない小規模な賃貸であっても、他の要件を満たせば貸付事業用宅地等に該当します。 ただし、相続前3年以内に新たに追加したアパートの土地について、3年ルールの例外を受けるためには、以前から特定貸付事業を3年を超えて続けていたことが必要です。 例えば、6室のアパートを5年間賃貸していた人が、相続の1年前に新たに6室のアパートを建てたとします。 新しいアパートを含めれば合計12室ですが、以前から行っていた6室の貸付けが特定貸付事業に該当しなければ、新しいアパートの土地について3年ルールの例外を利用できない可能性があります。 一方、以前から12室のアパートを10年間経営していた人が、その事業の一環として相続の1年前に別のアパートを追加した場合には、新しいアパートの土地についても例外の対象になる可能性があります。 5.更地への新築と既存アパートの建替えは取扱いが異なる 「相続直前に建てたアパート」といっても、次の2つは分けて考える必要があります。 ・これまで貸していなかった土地に、初めてアパートを建てた ・長年賃貸していたアパートを取り壊し、新しいアパートに建て替えた 同じ「新築アパート」でも、税務上の考え方は異なります。 5-1.更地への新築は新たな貸付事業として判断する 更地、自宅の敷地、資材置場など、これまで貸付事業に使っていなかった土地にアパートを建てた場合は、その土地を新たに貸付事業の用に供したことになります。 したがって、実際に貸付事業に使い始めてから相続まで3年を超えていなければ、原則として3年ルールの対象です。 建築を決めた時期や着工時期が相続の3年以上前であっても、貸付事業への使用開始が相続前3年以内であれば注意が必要です。 5-2.既存アパートの建替えは、賃貸事業の継続と認められることがある 以前から継続的に賃貸していたアパートを取り壊し、新しいアパートに建て替えた場合は、更地への新築と同じ取扱いになるとは限りません。 国税庁の通達では、継続的に賃貸していた建物を建て替え、建替え後速やかに入居者を募集して実際に賃貸した場合などは、その土地を新たに貸付事業の用に供した時期を、建替え前の賃貸開始時期として取り扱うことが示されています。 つまり、建替えによって一時的に賃貸できない期間があっても、直ちに賃貸事業が途切れたとは判断されません。 ただし、次のような事実を確認する必要があります。 ・建替え前のアパートが継続的に賃貸されていた ・建替え後、速やかに入居者を募集した ・建替え後の建物を自宅など別の用途に使っていない ・建替え後、実際に賃貸した 5-3.建替え工事中に相続が発生した場合 既存アパートの建替え工事中に相続が発生した場合でも、一定の条件を満たせば、貸付事業用の土地として取り扱われる可能性があります。 例えば、建替え前から賃貸事業を行っており、相続開始時の工事や募集準備の状況から、完成後速やかに賃貸事業を再開することが確実と認められるケースです。 国税庁の通達では、事業用建物の建替え中に相続が発生した場合でも、事業再開の準備状況などから、建物を速やかに事業の用に供することが確実であると認められるときは、事業用宅地等として取り扱う考え方が示されています。 ただし、単に「将来は賃貸する予定だった」というだけでは十分とはいえません。 建替え前の賃貸実績、建築請負契約、工事の進捗状況、完成後の募集計画などから、賃貸事業の継続性を説明できることが重要です。 また、建替えに合わせて敷地を拡張した場合、建替え前のアパート敷地に含まれていなかった部分は、新たに貸付事業に使い始めた土地として、別に3年ルールを判定する必要があります。 6.ケース別|相続直前に建てたアパートの特例判定 ここまでの内容を、具体的なケースに当てはめてみましょう。 6-1.初めてアパートを建て、相続の1年前から賃貸していたケース 父は、これまで更地だった土地にアパートを建て、相続の1年前から賃貸を始めました。 父は、それまで不動産賃貸業を行っていませんでした。 この場合、その土地を貸付事業の用に供してから3年を超えていないため、原則として小規模宅地等の特例は使えません。 実際に入居者がいて賃料を受け取っていたとしても、3年ルールは別に判定される点に注意が必要です。 6-2.以前から6室のアパートを所有し、新しいアパートを追加したケース 父は6室のアパートを5年間経営しており、相続の1年前に新たに6室のアパートを建てました。 新しいアパートを含めれば合計12室になります。 しかし、以前から行っていた6室の貸付けが特定貸付事業に該当しなければ、新しいアパートについて3年ルールの例外を利用できない可能性があります。 既存アパートの土地と、新しく建てたアパートの土地は、それぞれ分けて判定する必要があります。 6-3.以前から12室のアパートを10年間経営していたケース 父は12室のアパートを10年間経営しており、その事業の一環として、相続の1年前に別のアパートを建てました。 以前から特定貸付事業を3年を超えて継続していたと認められ、新しいアパートもその事業の用に供されていれば、新しいアパートの土地についても3年ルールの例外を利用できる可能性があります。 ただし、相続時に新しいアパートが現実に貸付事業に使われていたことなど、他の要件も確認しなければなりません。 6-4.アパートは完成していたが、入居者募集中だったケース 父はアパートを完成させ、管理会社を通じて入居者を募集していましたが、入居者が決まる前に亡くなりました。 新たに建築したアパートについては、入居者の募集などの準備行為をしているだけでは、原則として貸付事業の用に供されていたとは認められません。 したがって、原則として小規模宅地等の特例は使えません。 6-5.長年賃貸していたアパートの建替え中だったケース 父は20年間賃貸していたアパートを取り壊し、新しいアパートへの建替え工事を行っている途中で亡くなりました。 建替え前から賃貸事業を継続しており、工事や募集準備の状況から、完成後速やかに賃貸を再開することが確実であったと認められれば、特例を使える可能性があります。 更地に初めてアパートを建てるケースとは分けて判断します。 6-6.既存アパートの一部が一時的に空室だったケース 長年賃貸しているアパートの一室から、相続直前に入居者が退去したとします。 退去後すぐに不動産会社を通じて新しい入居者を募集し、いつでも入居できる状態で管理していた場合は、一時的な空室として、貸付事業が継続していると認められることがあります。 国税庁も、相続直前に空室となった部屋について、速やかに入居者を募集し、いつでも入居できる状態で管理していれば、貸付事業の用に供されているものとして取り扱う考え方を示しています。 一方、新築後に一度も賃貸されていない部屋について、単に入居者を募集しているケースとは取扱いが異なります。 「空室でも募集していれば大丈夫」と一律に判断しないことが大切です。 7.相続後に満たすべき要件と残しておきたい資料 相続開始時に貸付事業用宅地等に該当していても、それだけで小規模宅地等の特例を使えるわけではありません。 相続後の要件や申告手続も確認する必要があります。 7-1.相続人が満たすべき要件 被相続人が行っていた貸付事業用の土地について特例を利用する場合、原則として、その土地を取得した相続人が次の要件を満たさなければなりません。 ・相続税の申告期限までに貸付事業を引き継ぐ ・相続税の申告期限まで貸付事業を続ける ・相続税の申告期限まで土地を保有する 相続後すぐに賃貸事業をやめたり、土地を売却したりすると、特例を利用できなくなる可能性があります。 また、特例を利用するためには、相続税申告書に小規模宅地等に係る計算明細書など、一定の書類を添付する必要があります。 原則として、相続税の申告期限までに対象となる土地が分割され、どの相続人が取得するのか決まっていることも必要です。 7-2.以前からの賃貸業の規模を確認する資料 3年ルールの例外を検討する場合は、以前から特定貸付事業を行っていたことを確認できる資料が重要です。 例えば、次のような資料が考えられます。 ・過去の所得税確定申告書 ・青色申告決算書または収支内訳書 ・所有物件の一覧 ・入居者や賃料の一覧 ・管理会社からの月次報告書 ・家賃の入金記録 7-3.新築アパートの貸付開始時期を確認する資料 いつから実際に貸付事業を始めたのかを確認するため、次の資料を整理します。 ・建築請負契約書 ・建物の引渡書 ・賃貸借契約書 ・管理委託契約書 ・入居者への鍵の引渡記録 ・賃料の請求書 ・家賃の入金記録 ・入居者募集を開始した時期が分かる資料 賃貸借契約書の日付だけで判断するのではなく、実際の引渡しや賃料発生の状況も含めて確認することが大切です。 7-4.建替えの継続性を確認する資料 既存アパートの建替えについては、建替え前後の賃貸事業が継続していることを説明できる資料を残します。 ・建替え前の賃貸借契約書 ・建替え前の家賃入金記録 ・入居者の退去や立退きに関する資料 ・解体工事の契約書 ・建築請負契約書 ・工事工程表 ・完成後の入居者募集計画 ・管理会社との打合せ記録 これらの資料がすべて申告書への添付を義務付けられているわけではありません。 ただし、相続後に税務署から「いつから貸していたのか」「本当に賃貸事業が継続していたのか」と確認された場合に、事実関係を説明するための重要な資料になります。 8.まとめ 相続直前に建てたアパートについて、小規模宅地等の特例を使えるかどうかは、建物の完成日だけでは決まりません。 確認すべきポイントは、主に次の4つです。 1.その土地を実際に貸付事業に使い始めたのはいつか 2.貸付開始から相続まで3年を超えているか 3.以前から特定貸付事業を3年を超えて続けていたか 4.更地への新築なのか、既存アパートの建替えなのか 更地に初めてアパートを建てる場合は、建物が完成していても、入居者を募集しているだけでは特例を使えない可能性があります。 実際に賃貸を開始していた場合でも、相続前3年以内に新たに貸付事業に使い始めた土地は、原則として特例の対象外です。 一方、以前から一定規模の不動産賃貸業を3年を超えて行っていた場合や、既存アパートの建替えである場合には、相続直前の建築でも特例を使えることがあります。 アパート建築には、数千万円から数億円の資金が必要になることもあります。 「アパートを建てれば土地評価が50%下がる」と考えて計画を進めるのではなく、建築契約を結ぶ前に、次の点を具体的に確認することが大切です。 ・特例を使える時期はいつからか ・3年ルールの例外に該当するか ・建替えとして事業の継続性を説明できるか ・特例を使えない場合、相続税はいくらになるか ・建築費や借入金を含めても、対策として合理的か アパート建築を行った後に相続が発生してから、特例を使えないことが判明しても、建築前の状態には戻せません。 相続税対策としてアパート建築を検討している場合は、建築会社との契約前に、相続税と不動産の両方に詳しい税理士へ相談することをおすすめします。 出典 ・国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」 ・国税庁「租税特別措置法第69条の4関係通達」 ・国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」 ・国税庁「No.4614 貸家建付地の評価」 ・国税庁「共同住宅の一部が空室となっていた場合」 ・国税庁「法人所有建物の建替え中に相続開始した場合の小規模宅地の特例の適用」 監修者 志田 宏樹 公認会計士・税理士・宅地建物取引士 監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。 専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継 [詳しいプロフィールを見る →]

  • 修繕費と資本的支出の違いとは?不動産オーナーが迷わない判断基準と事例解説

    不動産投資をしていると、 「外壁塗装に500万円かかった。金額が大きいから資産計上ですか?」 「退去後にキッチンや浴室を交換したけれど、修繕費にできますか?」 「リフォーム会社の請求書に『改修工事一式』としか書かれていないけれど大丈夫?」 といった疑問が出てきます。 不動産の工事費について、税務上重要になるのが「修繕費」と「資本的支出」の区分です。 簡単にいうと、 修繕費:原則として、その年の必要経費・損金として計上 資本的支出:建物や建物附属設備などとして資産計上し、その後、減価償却 という違いがあります。 そのため、同じ500万円の工事でも、修繕費になるか資本的支出になるかによって、その年の所得や税額が大きく変わることがあります。 ただし、最初に知っておいていただきたいのは、 「工事金額が大きい=資本的支出」ではない ということです。 1,000万円を超える工事であっても、建物を従来の状態に戻すための工事であれば、修繕費となる可能性があります。 反対に、比較的小さな金額でも、新しい設備を追加したり、建物の価値や使用可能期間を明らかに高めたりする工事であれば、資本的支出となることがあります。 重要なのは、工事の名称や金額ではなく、その工事によって建物が実質的にどう変わったのかです。 この記事では、不動産オーナーが実際に工事を行う場面を想定しながら、修繕費と資本的支出の判断方法と、工事前にやっておきたい対策をわかりやすく解説します。 目次 1.まず知っておきたい修繕費と資本的支出の違い 不動産投資で経費になる支出全体を確認したい方は、「不動産投資の経費一覧」もあわせてご覧ください。 修繕費とは 修繕費とは、建物や設備について、 「壊れたものを直す」「劣化したものを元の状態に戻す」「現在の機能を維持する」 ための支出です。 例えば、 雨漏りの補修 外壁のひび割れ補修 劣化したクロスや床材の張替え 壊れた設備の同等程度のものへの交換 退去時の通常の原状回復 などが典型的な例です。 税務上、固定資産の通常の維持管理や原状回復のために必要となった部分は、原則として修繕費となります。 資本的支出とは 資本的支出となった金額は原則として減価償却の対象になります。詳しくは、「不動産投資の減価償却とは?」で解説しています。 一方、資本的支出とは、修理や改良によって、 建物の価値を高めたり、使用可能期間を延長したりする部分 に対応する支出です。 例えば、 建物に新しい設備や構造物を付加する 建物を増築する 用途変更のために大規模な改装を行う 従来より明らかに高い品質・性能のものに変更する といった工事が該当する可能性があります。 資本的支出になった場合、その年に全額を経費にするのではなく、原則として減価償却によって複数年にわたって必要経費・損金にしていきます。 つまり、 修繕費と資本的支出の違いは、「経費になる・ならない」というより、「いつ経費になるのか」の違い と考えるとわかりやすいでしょう。 2.「高額な工事だから資本的支出」は間違い 不動産オーナーさんからよく、 「500万円もかかったので、さすがに修繕費にはできませんよね?」 という質問を受けます。 しかし、税務上は工事金額だけで修繕費・資本的支出を決めるわけではありません。 例えば、築古の一棟マンションについて、劣化した外壁を従来と同程度の材料・工法で補修・塗装するために800万円かかったとします。 金額だけを見れば大きな支出ですが、工事の目的や内容が、 「劣化した外壁を従来の状態に戻すこと」 であり、建物に新しい機能を追加したわけでも、明らかに価値や耐久性を増加させたわけでもないのであれば、修繕費として処理できる可能性があります。 反対に、比較的小規模な工事でも、新しい設備や機能を追加するための支出であれば、資本的支出となることがあります。 したがって、 「100万円を超えたら資産計上」 「大規模修繕だから資産計上」 といった機械的な判断は適切ではありません。 見るべきなのは金額の大小ではなく、 「工事前と工事後で、その建物・設備が実質的にどう変わったのか」 です。 3.国税庁のルールに沿って判断するとどうなる? 実際の税務では、毎回ゼロから「価値が上がったか」「耐久性が増したか」だけを検討するわけではありません。 国税庁の通達では、実務上利用できる一定の判定基準が設けられています。 個人で不動産を所有している場合と法人で所有している場合では根拠となる通達は異なりますが、基本的な判定の流れはほぼ共通しています。 順番に見ていきましょう。 資本的支出の判定フロー STEP1 1つの修理・改良が20万円未満か 一つの修理・改良等の金額が20万円未満であれば、一定の要件のもと修繕費として処理することができます。 ここで重要なのが、 「請求書1枚が20万円未満かどうか」ではない という点です。 税務上は原則として、 「一の計画に基づき、同一の固定資産について行う一つの修理・改良等」 を単位として判断します。 したがって、一体として行うリフォーム工事を単純に請求書だけ分けても、それぞれ別々に20万円未満と判定できるとは限りません。 例えば、一つの改修計画として行われた工事を、税務上の金額基準だけを意識して形式的に分割するのは適切ではありません。 一方で、実際に対象となる固定資産や工事の内容、計画がそれぞれ独立しているのであれば、個別に判断できる場合もあります。 重要なのは、請求書の枚数ではなく工事の実態です。 実務メモ|20万円は税込?税抜? 消費税について、 税込経理方式を採用している場合:原則として税込金額 税抜経理方式を採用している場合:原則として税抜経理後の金額 を基礎として判定します。 例えば、税込218,900円の工事で、消費税率10%、税抜経理により全額について通常どおり仕入税額控除できるケースであれば、本体価格は199,000円です。 この場合、 税込経理:218,900円 税抜経理:199,000円 となるため、金額基準の判定結果が変わる可能性があります。 ただし、インボイス制度導入後は注意が必要です。 適格請求書発行事業者ではない事業者からの仕入れでは、税抜経理を採用していても、仕入税額控除できない消費税等の部分が取得価額・費用の額に影響することがあります。 また、適格請求書発行事業者以外の者からの一定の課税仕入れについて認められている経過措置の控除割合は、**2026年10月1日から70%**となります。 したがって、20万円などの金額基準に近い工事については、単純に「税込÷1.1」で判断するのではなく、実際の消費税処理まで確認することをおすすめします。 STEP2 おおむね3年以内の周期で行われる工事か 修理・改良等が、 おおむね3年以内の期間を周期として行われることが、これまでの実績その他の事情から明らか である場合も、修繕費として処理できるルールがあります。 ここで注意したいのは、 「3年以内なら何でも修繕費」という制度ではない ということです。 例えば、 過去の修繕履歴 保守・メンテナンス契約 設備の管理記録 工事会社やメーカーから示された交換・補修周期 などの資料から、短期間で繰り返し行う性質の工事であることを説明できるようにしておくとよいでしょう。 STEP3 明らかに価値を高める・耐久性を増すものか 次に、工事の実質を確認します。 国税庁では、資本的支出の例として、 避難階段の取付けなど、物理的に付加した部分 用途変更のための模様替えなどに直接要した部分 特に品質・性能の高い部品への交換について、通常の交換費用を超える部分 などを挙げています。 ただし、 「以前より性能のよい商品に交換した=全額資本的支出」 と単純に判断するわけではありません。 現在では、10年前・20年前と全く同じ製品が販売されていないことも珍しくありません。 設備の技術進歩によって、通常販売されている同クラスの商品に交換しただけでも、省エネ性能や耐久性が以前より向上することがあります。 そのため、設備交換では、 「新製品の性能が上がったか」だけではなく、「建物・設備全体として価値や耐久性が実質的に増加したのか」 まで確認する必要があります。 4.性能が上がったら必ず資本的支出?国税庁のLED事例 この点について参考になるのが、国税庁が公表しているLEDランプへの取替え事例です。 この事例では、事務室に設置されていた蛍光灯100本を蛍光灯型LEDランプに交換し、費用総額は110万円でした。 LED化によって、 消費電力が少なくなる 寿命が長くなる 発熱が少なくなる など、従来の蛍光灯より性能が向上しています。 それでも国税庁は、照明設備そのものに工事を行わず、その構成部品であるランプを交換したという事実関係のもとでは、建物附属設備全体として価値や耐久性が高まったとまではいえないとして、修繕費処理を認めています。 これは実務上、非常に重要な事例です。 つまり、 「性能が良くなった」=「必ず資本的支出」ではありません。 何を交換したのか、それが固定資産全体にどの程度の影響を与えたのかまで確認する必要があります。 5.通常の維持管理・原状回復なら修繕費 工事が、 建物を現在の状態で使用し続けるための通常の維持管理 壊れた箇所や劣化した部分を従来の状態に戻すための原状回復 であれば、原則として修繕費として考えます。 ここは不動産オーナーにとって非常に重要です。 税務リスクを恐れるあまり、 「工事金額が大きいので、とりあえず全部資産計上しておこう」 とする必要はありません。 事実関係や資料から修繕費として合理的に説明できるのであれば、適切に修繕費として処理することも重要です。 過度に保守的な会計処理をすれば税務リスクは小さく見えるかもしれませんが、本来その年に経費計上できる金額を将来へ繰り延べてしまうことになります。 重要なのは、税金を少なくすることでも、多めに払うことでもなく、工事実態に合わせて正しく処理することです。 6.それでも判断できない場合は「60万円・10%基準」 ここは誤解が多いところです。 工事内容を確認しても、修繕費なのか資本的支出なのか明らかでない金額については、 60万円未満 対象となる固定資産の前年末・前期末取得価額のおおむね10%以下 のいずれかに該当すれば、一定の要件のもと修繕費として処理することができます。 例えば、個人が所有する建物の前年末取得価額が5,000万円であれば、 5,000万円 × 10% = 500万円 です。 修繕費か資本的支出か明確に区分できない金額について、一定の場合には500万円以下であることが一つの判定基準になります。 ただし、非常に重要なのは、 60万円・10%基準は、「明らかに資本的支出である工事」を修繕費にできる制度ではない という点です。 例えば、建物に新しい設備を追加したことが明らかで、その支出が資本的支出に該当するのであれば、 「50万円だから60万円未満。したがって修繕費」 という使い方をする制度ではありません。 あくまで、 実質を確認しても修繕費か資本的支出か明らかでない部分 に利用できる形式的な判定基準です。 7.「30%・10%」で分ける方法もある 20万円・3年周期・60万円・10%以外にも、実務上利用できる取扱いがあります。 修繕費か資本的支出か明らかでない金額について、一定の要件のもと、継続して、 ① その金額の30%② 固定資産の前年末・前期末取得価額の10% のいずれか少ない金額を修繕費とし、残りを資本的支出とする方法です。 例えば、 判定が明らかでない工事費:1,000万円 建物の前年末取得価額:5,000万円 だったとします。 すると、 1,000万円 × 30% = 300万円 5,000万円 × 10% = 500万円 となります。 少ない方は300万円なので、一定の要件を満たせば、 修繕費:300万円 資本的支出:700万円 という区分方法を採用することができます。 ただし、この取扱いには継続して適用することなどの条件があります。 毎年、最も税額が少なくなる方法を自由に選択するための制度ではありません。 そのため、この方法を採用する場合は税理士への確認をおすすめします。 8.不動産で特に迷いやすい工事をどう判断する? ここからは、不動産投資で実際に相談が多い工事について見ていきます。 外壁塗装・屋上防水 外壁塗装や屋上防水は、工事費が数百万円から数千万円になることもあるため、 「大規模修繕だから資本的支出」 と思われがちです。 しかし、大規模な工事というだけで資本的支出になるわけではありません。 例えば、 劣化した外壁の補修 クラック補修 劣化した塗装の塗り直し 劣化した防水層の補修・更新 など、建物の機能を維持・回復することが主目的であれば、修繕費として検討できる可能性があります。 一方、 従来なかった機能を新たに追加した 建物そのものの耐久性を明確に高める改良を行った 新たな構造物を追加した といった部分については、資本的支出となる可能性があります。 そして、ここで重要なのが、 工事全体を「全部修繕費」「全部資本的支出」の二択で考えないことです。 原状回復と価値向上の工事区分図 一つの大規模修繕の中に原状回復部分と改良部分が混在しているのであれば、見積書などをもとに合理的に区分できないか検討します。 退去時の原状回復・リフォーム 賃貸物件では非常に多いケースです。 例えば、 クロスの張替え 床材の張替え・補修 壊れた建具の交換 水栓・便器などの同程度のものへの交換 など、通常の原状回復であれば修繕費として検討しやすいでしょう。 一方、 間取りを大幅に変更する 新たに収納設備を追加する 水回りの位置そのものを移動する 従来なかった設備を新設する といった工事は、資本的支出となる可能性が高くなります。 「和室から洋室へ変更した」 「1Kから1LDKへ変更した」 といった場合についても、変更したという名称だけで一律に判断するのではなく、具体的な工事内容、目的、固定資産の価値への影響などを確認して判断する必要があります。 エアコン・給湯器・キッチン・浴室などの設備交換 設備交換で重要なのは、 「新品になったか」ではなく、「単なる交換なのか、新しい機能や価値の付加なのか」 という点です。 老朽化した設備を現在販売されている一般的な同等クラスの商品に交換しただけであれば、修繕費として検討できる場合があります。 一方で、 従来存在しなかった設備を新設する 建物全体に新しい機能を付加する 従来より著しく高い品質・性能へ改良する 場合には、資本的支出となる可能性があります。 設備交換では、旧製品と新製品の、 型番 能力 機能 メーカーのカタログ 見積書 を残しておくと、後から「同等交換だったのか」「改良だったのか」を説明しやすくなります。 9.実は一番重要なのは「工事が終わる前」 購入・保有・売却まで含む不動産税務全体については、「不動産投資・賃貸経営に関する税務の基本」をご確認ください。 修繕費か資本的支出かの相談を受ける際、 「すでに工事が終わって、請求書も届いている」 というケースは少なくありません。 もちろん、工事後でも税務上の判定はできます。 しかし、実務上最も対応しやすいのは工事を発注する前です。 例えば500万円のリフォームについて、請求書に、 内装改修工事一式 5,000,000円 としか記載されていなければ、 原状回復部分はいくらなのか 新しい設備を追加した部分はいくらなのか 既存設備の交換はいくらなのか グレードアップ部分はいくらなのか が分かりません。 一方、工事前の見積書で、 クロス既存撤去・張替え 床材既存撤去・張替え 既存給湯器撤去・同等品交換 新規収納造作 間仕切り新設 などと分かれていれば、税務判断は格段にしやすくなります。 つまり、実務上重要なのは、 工事が終わってから税理士が請求書を見ることではなく、工事を発注する段階から税務上説明できる資料を残しておくこと です。 これは特に、一棟マンション・アパートの大規模修繕や、数百万円以上のリフォーム・リノベーションで大きな差になります。 10.工事会社にお願いしたい「見積書の作り方」 高額な工事を行う場合には、可能であれば「○○工事一式」という見積書だけで終わらせないことをおすすめします。 工事会社には、 ①何を撤去するのか ②何を修理するのか ③何を交換するのか ④何を新しく追加するのか ⑤既存品と新製品の仕様はどう違うのか が分かる見積書をお願いするとよいでしょう。 これは「税務上有利になるように見積金額を操作してほしい」という意味ではありません。 実際の工事内容を正確に明細化してもらうということです。 この資料があることで、改良部分を適切に資本的支出として処理できる一方で、 本来修繕費として処理できる部分まで必要以上に資産計上してしまうことも防げます。 11.施工前後の写真はぜひ残しておく 見積書・請求書と同じくらい役に立つのが写真です。 例えば外壁工事であれば、 施工前のひび割れ 塗装の剥離 雨漏りの状況 防水層の劣化 などを写真で残しておけば、 「建物をグレードアップするためではなく、劣化した部分を回復するための工事だった」 という説明が格段にしやすくなります。 スマートフォンで撮影した写真でも構いません。 できれば、 施工前 → 工事中 → 施工後 の3段階で保存しておくことをおすすめします。 工事会社から施工報告書を受け取れるのであれば、それも併せて保管しておきましょう。 12.不動産オーナーが工事前に確認したい5項目 高額な修繕・リフォームを予定している場合には、発注前に次の5つを確認してみてください。 ① 工事の目的は何か 劣化部分を直すのか、それとも建物を改良するのか。 ② 工事前と工事後で何が変わるのか 同等程度のものへの交換なのか、新しい機能が追加されるのか。 ③ 見積書の内訳が分かれているか 「改修工事一式」だけになっていないか。 ④ 施工前の状態を記録しているか 写真、点検報告書、修繕履歴などを残しているか。 ⑤ 金額が大きい場合は発注前に税理士へ確認したか 工事が終わった後では、見積書や工事内容を整理し直すことが難しい場合があります。 この5つを確認するだけでも、修繕費・資本的支出をめぐる税務上の説明力は大きく変わります。 13.「修繕費にすること」だけが目的になってはいけない ここは、不動産投資を考えるうえで非常に重要なポイントです。 税金だけを考えれば、その年に全額経費にできる修繕費の方が有利に見えます。 しかし、投資として本当に重要なのは、 その工事によって家賃・入居率・修繕コスト・売却価値がどう変わるのか です。 例えば300万円をかけて設備を改善した結果、 家賃を上げられる 空室期間が短くなる 入居者層が改善する 将来の修繕費が減る 売却時の商品力が高まる のであれば、資本的支出になったとしても、投資として合理的なケースは十分あります。 反対に、 「今年の税金を減らしたいから修繕費になる工事をする」 という順番で考えると、投資判断を誤る可能性があります。 不動産投資では、 投資として必要な工事を検討する↓修繕費と資本的支出を適切に区分する↓利用できる税務上の取扱いはきちんと利用する という順番で考えることが重要です。 税引前の投資収益を悪化させてまで節税する意味はありません。 14.まとめ 修繕費と資本的支出を判断するときに重要なのは、工事金額だけではありません。 基本となる考え方は、 修繕費=通常の維持管理・原状回復資本的支出=価値の増加・使用可能期間の延長 です。 そのうえで、 20万円未満 おおむね3年以内の周期 60万円未満 前年末・前期末取得価額のおおむね10%以下 といった基準を順番に確認していきます。 また、判定が明らかでない金額については、一定の場合に30%・10%基準によって修繕費と資本的支出を区分する方法もあります。 特に注意していただきたいのは、60万円・10%基準が、 修繕費か資本的支出か明らかでない場合に利用する基準 だという点です。 一方で、 「金額が大きいから」「新品へ交換したから」「以前より少し性能が上がったから」 という理由だけで、必要以上に資本的支出として処理する必要もありません。 事実関係から修繕費として合理的に説明できるものについては、適切に修繕費として処理することが大切です。 そして、実務上最も効果があるのは、 工事後ではなく、工事前から税務を考えること です。 高額な外壁工事、屋上防水、大規模修繕、退去時リフォームなどを予定している場合には、発注前に、 見積書 現在の設備仕様 改修後の仕様 施工前写真 工事の目的 を整理したうえで税理士へ相談してみましょう。 参考資料 ・国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定」 ・国税庁「所得税基本通達〔資本的支出と修繕費等〕」 ・国税庁「No.5402 修繕費とならないものの判定」 ・国税庁「法人税基本通達 第8節 資本的支出と修繕費」 ・国税庁「蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えた場合の取扱い」 ・国税庁「No.6375 税抜経理方式または税込経理方式による経理処理」 ・国税庁「No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示」 ・国税庁「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」 監修者 志田 宏樹 公認会計士・税理士・宅地建物取引士 監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。 専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継 [詳しいプロフィールを見る →]

  • 自宅と賃貸物件は両方使える?小規模宅地等の特例の併用計算をわかりやすく解説

    相続財産に自宅とアパートなどの賃貸物件が含まれている場合、 「小規模宅地等の特例は、両方の土地に使えるのだろうか」 「自宅は330㎡、賃貸物件は200㎡までだから、合計530㎡まで減額できるのだろうか」 と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。 結論からいうと、自宅と賃貸物件がそれぞれの適用要件を満たしていれば、両方の土地に小規模宅地等の特例を使える場合があります。 ただし、単純に、 自宅330㎡+賃貸物件200㎡=合計530㎡ まで適用できるわけではありません。 賃貸物件の土地である「貸付事業用宅地等」を含めて特例を使う場合には、自宅と賃貸物件の面積を一定の計算式によって調整します。 また、自宅と賃貸物件の両方について限度面積を超える場合には、どちらを優先するかによって、相続税の負担が変わる可能性があります。 この記事では、自宅と賃貸物件がある場合の小規模宅地等の特例について、具体例を使って解説します。 なお、この記事では、主に「自宅の土地」と「アパートなどの賃貸物件の土地」が別々に存在するケースを想定しています。 一つの建物の一部を自宅、一部を賃貸に使っている「賃貸併用住宅」については、土地の利用区分を分ける必要があるため、別の記事で解説します。 この記事でわかること ・自宅と賃貸物件の両方に特例を使えるのか ・なぜ330㎡と200㎡をそのまま合計できないのか ・自宅と賃貸物件を併用する場合の計算方法 ・どちらの土地を優先して適用すべきか ・併用計算をする前に確認すべき注意点 【関連記事】小規模宅地等の特例とは?自宅や賃貸物件の土地評価を最大80%減額できる制度をわかりやすく解説 1.自宅と賃貸物件に使える小規模宅地等の特例 相続全体の流れや他の特例も含めて確認したい方は、「相続の基本と全体像」もあわせてご覧ください。 小規模宅地等の特例とは、亡くなった方などが自宅、事業または不動産賃貸などに使っていた土地について、一定の要件を満たす場合に、相続税を計算する際の評価額を減額できる制度です。 自宅の土地と賃貸物件の土地では、限度面積と減額割合が異なります。 1-1.自宅の土地は330㎡まで80%減額 亡くなった方などが住んでいた自宅の土地は、一定の要件を満たすと「特定居住用宅地等」に該当します。 特定居住用宅地等に該当する場合は、330㎡まで土地の相続税評価額を80%減額できます。 例えば、特例の対象となる自宅の土地の評価額が1億円で、その土地全体が330㎡以内である場合、相続税を計算する際の評価額を2,000万円まで減額できる可能性があります。 ただし、自宅であれば必ず特例を利用できるわけではありません。 誰が自宅の土地を相続するかによって、要件が異なります。 主な取得者としては、次のような方が考えられます。 ・亡くなった方の配偶者 ・亡くなった方と同居していた親族 ・一定の要件を満たす別居親族 配偶者が取得する場合は、取得者についての居住継続要件や保有継続要件はありません。 一方、同居していた親族が取得する場合は、原則として、相続税の申告期限までその建物に住み続け、土地を保有することなどが必要です。 自宅の土地については、誰が相続するかを決める前に、特例の適用要件を確認することが重要です。自宅に対応する特定居住用宅地等の限度面積は330㎡、減額割合は80%とされています。 1-2.賃貸物件の土地は200㎡まで50%減額 亡くなった方などがアパート、賃貸マンション、貸家、月極駐車場などの貸付事業に使っていた土地は、一定の要件を満たすと「貸付事業用宅地等」に該当します。 貸付事業用宅地等に該当する場合は、200㎡まで土地の相続税評価額を50%減額できます。 例えば、特例の対象となるアパートの土地の評価額が1億円で、その土地全体が200㎡以内である場合、相続税を計算する際の評価額を5,000万円まで減額できる可能性があります。 ただし、アパートや駐車場があれば、必ず特例を利用できるわけではありません。 一般的には、土地を取得した親族が、亡くなった方の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、その申告期限まで貸付事業を続ける必要があります。 また、原則として、相続税の申告期限まで土地を保有する必要があります。 適切な賃料を受け取らず、家族などに無償で貸している場合は、通常、貸付事業用宅地等には該当しません。 貸付事業用宅地等の限度面積は200㎡、減額割合は50%です。相当の対価を受け取らない使用貸借は、原則として対象になりません。 なお、駐車場については、アスファルト舗装などの構築物の敷地として利用されているかも確認が必要です。構築物のない青空駐車場は、貸付事業を行っていても特例の対象にならない場合があります。 1-3.最初にそれぞれの適用要件を確認する 自宅と賃貸物件の併用計算を行う前に、まず、それぞれの土地が特例の対象になるかを確認します。 確認する順番は、次のとおりです。 1.自宅の土地が特定居住用宅地等に該当するか 2.賃貸物件の土地が貸付事業用宅地等に該当するか 3.両方が対象になる場合に、適用できる面積を計算する 自宅と賃貸物件の面積を計算式に当てはめただけで、特例を利用できるわけではありません。 それぞれの土地について、取得者、土地の利用状況、相続後の保有・利用状況などの要件を満たしていることが前提です。 2.自宅330㎡と賃貸物件200㎡をそのまま合計できない 2-1.よくある誤解 小規模宅地等の特例について、よくあるのが次の誤解です。 「自宅は330㎡まで、賃貸物件は200㎡まで対象になるので、合計530㎡まで特例を使える」 自宅だけに特例を使う場合は、330㎡まで80%減額できます。 賃貸物件だけに特例を使う場合は、200㎡まで50%減額できます。 しかし、自宅と賃貸物件の両方に特例を使う場合は、330㎡と200㎡を単純に合計することはできません。 貸付事業用宅地等を含めて特例を適用する場合には、自宅と賃貸物件の面積を一定の算式によって調整し、合計が限度内に収まるかを判定します。 2-2.なぜ面積を調整するのか 自宅と賃貸物件では、特例を適用できる限度面積がそれぞれ異なるため、そのまま面積を合計することはできません。 そこで、それぞれの限度面積に対する使用割合に換算し、合計が100%以内となるよう調整します。 これは実際の土地面積を200㎡以下に制限するものではなく、異なる限度面積を同じ基準で比較するための計算です。 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」 財務省「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」 自宅の土地 ・限度面積:330㎡ ・減額割合:80% 賃貸物件の土地 ・限度面積:200㎡ ・減額割合:50% 自宅には330㎡の枠があり、賃貸物件には200㎡の枠があります。 基準となる面積が異なるため、両方に特例を使う場合は、自宅の面積を200㎡基準に換算してから、賃貸物件の面積と合計します。 難しそうに見えますが、考え方としては、200㎡の一つの枠を自宅と賃貸物件で分け合うイメージです。 3.自宅と賃貸物件を併用する場合の計算式 3-1.基本となる計算式 自宅と賃貸物件だけに小規模宅地等の特例を適用する場合、限度面積の計算式は次のようになります。 自宅の適用面積×200÷330+賃貸物件の適用面積≦200㎡ この計算結果が200㎡以下であれば、選択した自宅と賃貸物件の面積について、それぞれ特例を適用できます。 200㎡を超える場合は、両方の土地の全体には適用できません。 その場合は、自宅または賃貸物件の適用面積を減らして、計算結果を200㎡以内に収めます。 3-2.「200÷330」の意味 自宅の限度面積は330㎡ですが、賃貸物件の限度面積は200㎡です。 そこで、自宅の面積を200㎡基準に換算するために「200÷330」を掛けます。 例えば、自宅の適用面積が165㎡の場合は、次のように計算します。 165㎡×200÷330=100㎡ 自宅165㎡は、併用計算上、200㎡の枠のうち100㎡を使用したことになります。 残りの枠は、次のとおりです。 200㎡-100㎡=100㎡ したがって、自宅165㎡に特例を使う場合は、賃貸物件について最大100㎡まで特例を使える計算になります。 3-3.自宅の適用面積と賃貸物件の残り枠の早見表 自宅に適用する面積が増えるほど、賃貸物件に使える残りの枠は少なくなります。 次の図は、自宅の面積を200㎡基準に換算した場合の関係を示したものです。 4.ケーススタディでわかる併用計算 4-1.自宅と賃貸物件の両方を全て適用できるケース まず、自宅と賃貸物件の両方について、土地全体に特例を適用できるケースを見てみましょう。 前提条件 ・自宅の土地:132㎡ ・賃貸物件の土地:120㎡ 併用計算の式は、次のとおりです。 自宅の適用面積×200÷330+賃貸物件の適用面積≦200㎡ 数字を当てはめます。 132㎡×200÷330+120㎡ =80㎡+120㎡ =200㎡ 計算結果が200㎡以内に収まるため、このケースでは、次の土地全体に特例を適用できます。 ・自宅の土地132㎡:80%減額 ・賃貸物件の土地120㎡:50%減額 自宅と賃貸物件の実際の面積を合計すると252㎡ですが、自宅132㎡は200㎡基準に換算すると80㎡となります。 そのため、賃貸物件120㎡と合わせても、併用計算上の限度である200㎡以内に収まります。 4-2.どちらかの適用面積を減らす必要があるケース 次に、自宅と賃貸物件の両方について、土地全体には特例を適用できないケースを見てみましょう。 前提条件 ・自宅の土地:200㎡ ・賃貸物件の土地:100㎡ 両方の土地全体に適用しようとすると、次の計算になります。 200㎡×200÷330+100㎡ =約121.21㎡+100㎡ =約221.21㎡ 計算結果が200㎡を超えるため、自宅200㎡と賃貸物件100㎡の両方について、土地全体に特例を適用することはできません。 この場合は、どちらかの土地の適用面積を減らし、換算後の合計を200㎡以内に収めます。 ①自宅200㎡を優先する場合 自宅200㎡を200㎡基準に換算すると、次のようになります。 200㎡×200÷330=約121.21㎡ 賃貸物件に使える残りの枠は、次のとおりです。 200㎡-約121.21㎡=約78.78㎡ したがって、自宅200㎡を全て選択する場合に適用できる面積は、次のとおりです。 ・自宅:200㎡ ・賃貸物件:約78.78㎡ 自宅については土地全体に80%の減額を適用できますが、賃貸物件については、100㎡のうち約78.78㎡までが50%減額の対象となります。 ②賃貸物件100㎡を優先する場合 賃貸物件100㎡を全て選択すると、200㎡の限度枠のうち100㎡を使用します。 自宅に使える換算後の残り枠も100㎡です。 これを自宅の実際の面積に戻すと、次のようになります。 100㎡×330÷200=165㎡ したがって、賃貸物件100㎡を全て選択する場合に適用できる面積は、次のとおりです。 ・自宅:165㎡ ・賃貸物件:100㎡ この場合、自宅200㎡のうち165㎡までが80%減額の対象となり、賃貸物件100㎡は全て50%減額の対象となります。 2つの選択肢の比較 適用方法 自宅の適用面積 賃貸物件の適用面積 自宅を優先 200㎡ 78.78㎡ 賃貸物件を優先 165㎡ 100㎡ どちらの方法が有利になるかは、適用面積だけでは判断できません。 それぞれの土地の1㎡当たりの相続税評価額と、減額割合を使って、実際に減額できる評価額を比較する必要があります。 4-3.土地の評価額によって有利な選択が変わるケース 小規模宅地等の特例では、自宅の減額割合は80%、賃貸物件の減額割合は50%です。 そのため、 「減額割合が80%の自宅を優先した方が、必ず有利なのではないか」 と思う方もいるかもしれません。 しかし、土地の1㎡当たりの相続税評価額が異なる場合は、賃貸物件を優先した方が有利になることもあります。 先ほどのケースに、土地の評価額を加えて比較してみましょう。 前提条件 土地 面積 1㎡当たりの評価額 減額割合 自宅 200㎡ 30万円 80% 賃貸物件 100㎡ 100万円 50% 1㎡に特例を適用した場合の減額額は、次のとおりです。 【自宅】 30万円×80%=24万円 【賃貸物件】 100万円×50%=50万円 1㎡当たりで見ると、賃貸物件の方が減額できる評価額は大きくなります。 ただし、自宅と賃貸物件では、200㎡の限度枠を使用する割合が異なるため、実際には適用パターンごとに計算します。 A案:自宅を優先する場合 適用面積は次のとおりです。 ・自宅:200㎡ ・賃貸物件:約78.78㎡ 自宅の減額額は、次のとおりです。 200㎡×30万円×80% =4,800万円 賃貸物件の減額額は、次のとおりです。 約78.78㎡×100万円×50% =約3,939万円 減額額の合計は、次のとおりです。 4,800万円+約3,939万円 =約8,739万円 B案:賃貸物件を優先する場合 適用面積は次のとおりです。 ・自宅:165㎡ ・賃貸物件:100㎡ 自宅の減額額は、次のとおりです。 165㎡×30万円×80% =3,960万円 賃貸物件の減額額は、次のとおりです。 100㎡×100万円×50% =5,000万円 減額額の合計は、次のとおりです。 3,960万円+5,000万円 =8,960万円 比較結果 適用方法 自宅の減額額 賃貸物件の減額額 減額額の合計 自宅を優先 4,800万円 3,939万円 8,739万円 賃貸物件を優先 3,960万円 5,000万円 8,960万円 このケースでは、賃貸物件を優先した方が、土地の評価額を約221万円多く減額できます。 自宅の方が減額割合は高いものの、賃貸物件の1㎡当たりの評価額が高いため、賃貸物件を優先した方が有利になりました。 5.自宅と賃貸物件のどちらを優先すべきか 5-1.面積が広い方を優先すればよいとは限らない 小規模宅地等の特例をどの土地に使うかを考える際、単純に面積が広い土地を優先すればよいとは限りません。 確認すべきなのは、特例を適用することによって、土地の評価額をいくら減額できるかです。 減額できる金額は、基本的に次のように考えます。 対象となる土地の評価額×減額割合 自宅の土地は80%減額ですが、賃貸物件の土地は50%減額です。 そのため、一見すると、自宅を優先した方が有利に見えます。 しかし、賃貸物件の土地の1㎡当たりの評価額が自宅よりも高い場合には、賃貸物件を優先した方が減額できる金額が大きくなることもあります。 5-2.1㎡当たりの評価額を確認する 例えば、次の2つの土地があるとします。 自宅の土地 ・1㎡当たりの相続税評価額:30万円 ・減額割合:80% 賃貸物件の土地 ・1㎡当たりの相続税評価額:80万円 ・減額割合:50% この場合、1㎡に特例を適用したときの単純な減額額は、次のとおりです。 【自宅】 30万円×80%=24万円 【賃貸物件】 80万円×50%=40万円 この例では、1㎡当たりの減額額は賃貸物件の方が大きくなります。 ただし、自宅と賃貸物件では限度面積の消費割合が異なるため、これだけで最終判断はできません。 実際には、複数の適用パターンについて、評価額の減額合計と相続税額を比較する必要があります。 5-3.複数の適用パターンを比較する 限度面積を超える場合は、少なくとも次のパターンを比較します。 A案 ・自宅を優先する ・残った枠を賃貸物件に使う B案 ・賃貸物件を優先する ・残った枠を自宅に使う C案 ・自宅と賃貸物件の一部ずつに使う それぞれの案について、次の内容を計算します。 ・自宅に適用する面積 ・賃貸物件に適用する面積 ・自宅の評価額の減額額 ・賃貸物件の評価額の減額額 ・特例適用後の相続税額 特例による土地評価額の減額が最も大きい案と、最終的な相続税額が最も少ない案が、必ず一致するとは限りません。 誰が土地を取得するかや、配偶者の税額軽減など、ほかの相続税制度も含めて検討する必要があるためです。 6.併用計算をする前に確認したい注意点 6-1.両方の土地が個別の要件を満たしているか 併用計算は、特例の対象となる土地の中から、どの土地に何㎡適用するかを決めるための計算です。 自宅と賃貸物件が、それぞれ個別の適用要件を満たしていることが前提となります。 適用要件を満たしていない土地を、限度面積の計算に含めることはできません。 6-2.誰が土地を相続するか 自宅の土地は、誰が相続するかによって適用要件が異なります。 例えば、配偶者が取得する場合と、同居していた子どもが取得する場合では、居住や保有に関する要件が異なります。 賃貸物件については、貸付事業を誰が引き継ぐか、相続税の申告期限まで事業を続けるか、土地を保有するかなどを確認します。 遺産分割を決めた後に特例を検討すると、より有利な分け方を選べなくなる可能性があります。 6-3.相続人ごとに別枠があるわけではない 例えば、自宅を配偶者が相続し、賃貸物件を子どもが相続する場合でも、配偶者と子どもがそれぞれ別に限度面積を利用できるわけではありません。 自宅と賃貸物件の限度面積は、その相続全体で調整します。 「相続人が違うから、自宅330㎡と賃貸物件200㎡の両方を満額使える」ということにはなりません。 6-4.相続開始前3年以内に新たに賃貸を始めていないか 相続開始前3年以内に新たに貸付事業に使い始めた土地は、原則として貸付事業用宅地等の対象から除かれます。 例えば、相続直前にアパートを建築し、賃貸を始めたケースなどは注意が必要です。 ただし、亡くなった方などが相続開始の日まで3年を超えて一定の貸付事業を継続していた場合には、例外的に対象となることがあります。 6-5.賃貸併用住宅は利用部分を分ける 一つの建物について、一部を自宅、一部を賃貸物件として使っていることがあります。 このような賃貸併用住宅では、土地全体を一律に自宅用または賃貸用として扱うのではありません。 原則として、建物の自宅部分と賃貸部分に対応する土地の面積を分け、それぞれについて適用要件と限度面積を判定します。 建物の床面積や実際の利用状況などによって計算するため、別々の土地に自宅とアパートがあるケースよりも複雑になります。 6-6.申告期限前に売却・転居・廃業しないか 土地を取得する人によっては、相続税の申告期限まで土地を保有することが要件となります。 自宅については、申告期限まで居住を継続することが必要になる場合があります。 賃貸物件については、申告期限まで貸付事業を継続することが必要になる場合があります。 相続後すぐに土地を売却する、転居する、アパート経営をやめるといった予定がある場合は、行動を起こす前に適用要件を確認しましょう。 6-7.関係する取得者の同意が必要になる場合がある 特例の対象となり得る土地を複数の相続人が取得する場合、どの土地に特例を使うかについて、関係する取得者全員の同意が必要になる場合があります。 自宅を相続する人だけで、一方的に自宅への適用を決められるとは限りません。 また、原則として、相続税の申告期限までに対象となる土地の遺産分割が終わっていることが必要です。 7.実際に併用計算を行う手順 7-1.所有不動産を一覧にする まず、亡くなった方が所有していた土地を一覧にします。 土地ごとに、次の情報を整理しましょう。 ・所在地 ・土地の面積 ・相続税評価額 ・1㎡当たりの評価額 ・相続開始直前の利用状況 ・建物や構築物の有無 ・取得する予定の相続人 ・相続後の利用予定 7-2.土地の利用区分を確認する それぞれの土地が、次のどの区分に該当するかを確認します。 ・自宅の土地 ・賃貸物件の土地 ・個人事業に使っていた土地 ・同族会社に貸していた土地 ・特例の対象にならない土地 今回の併用計算では、このうち自宅の土地と賃貸物件の土地を対象にします。 7-3.それぞれの適用要件を確認する 自宅については、次のような事項を確認します。 ・誰が土地を相続するか ・亡くなった方と同居していたか ・相続後も自宅に住み続けるか ・申告期限まで土地を保有するか 賃貸物件については、次のような事項を確認します。 ・適切な賃料を受け取っていたか ・いつから貸付事業に使っていたか ・誰が貸付事業を引き継ぐか ・申告期限まで貸付事業を継続するか ・申告期限まで土地を保有するか 7-4.対象となる面積と評価額を計算する 土地全体が特例の対象になるとは限りません。 一つの土地に自宅部分と賃貸部分がある場合や、土地の一部が空き地になっている場合などは、特例の対象となる部分を区分します。 共有で土地を取得する場合は、取得する持分も確認します。 7-5.限度面積の調整計算を行う 自宅と賃貸物件だけに適用する場合は、次の計算式を使用します。 自宅の適用面積×200÷330+賃貸物件の適用面積≦200㎡ 計算結果が200㎡を超える場合は、どちらかの適用面積を減らします。 7-6.複数の適用パターンを比較する 自宅を優先する案、賃貸物件を優先する案、両方の一部ずつに適用する案を作成します。 それぞれの案について、土地評価額の減額額と相続税額を比較します。 7-7.遺産分割と相続税申告に反映する 適用パターンを比較したうえで、誰がどの土地を取得するかを決めます。 その内容を遺産分割協議書と相続税申告書に反映します。 小規模宅地等の特例を受けるためには、相続税申告書に特例を適用する旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなど、一定の書類を添付する必要があります。 特例を適用した結果、相続税がゼロになる場合でも、特例を利用するためには原則として相続税申告が必要です。 8.よくある質問 8-1.自宅330㎡とアパート200㎡の両方を満額使えますか? 原則として、両方をそのまま満額使うことはできません。 貸付事業用宅地等を含めて特例を使う場合は、次の計算式によって限度面積を調整します。 自宅の適用面積×200÷330+賃貸物件の適用面積≦200㎡ 自宅330㎡をすべて選択すると、換算後の面積は200㎡となるため、賃貸物件に使える枠は残りません。 8-2.自宅とアパートの一部ずつに適用できますか? それぞれの土地が特例の適用要件を満たしていれば、限度面積の範囲内で、自宅とアパートの一部ずつを選択できます。 ただし、端数処理によって限度面積を超えないように注意が必要です。 実際の申告では、計算上の合計が200㎡を超えないように適用面積を設定します。 8-3.自宅を配偶者、アパートを子どもが相続しても併用できますか? 自宅とアパートがそれぞれの適用要件を満たしていれば、併用できる可能性があります。 ただし、配偶者と子どもが、それぞれ別々に限度面積を利用できるわけではありません。 自宅とアパートの面積を合算し、相続全体として限度面積の調整計算を行います。 8-4.自宅は80%減額なので、必ず自宅を優先すべきですか? 必ずしも自宅を優先するとは限りません。 自宅の減額割合は80%、賃貸物件は50%ですが、土地の1㎡当たりの相続税評価額が異なります。 賃貸物件の評価額が自宅よりも大幅に高い場合は、賃貸物件を優先した方が、評価額の減額合計が大きくなることがあります。 複数の適用パターンを作り、実際の相続税額まで比較することが重要です。 8-5.賃貸物件が複数ある場合はどうなりますか? 賃貸物件が複数ある場合でも、貸付事業用宅地等の限度面積が物件ごとに200㎡ずつ与えられるわけではありません。 複数の賃貸物件のうち、特例を適用する部分の面積を合計して判定します。 それぞれの土地の評価額が異なる場合は、どの物件から優先して適用するかによって、減額できる金額が変わる可能性があります。 8-6.相続後すぐにアパートを売却しても適用できますか? 一般的には、貸付事業用宅地等を取得した親族が、相続税の申告期限まで貸付事業を継続し、土地を保有することが必要です。 申告期限前にアパートや土地を売却すると、特例を利用できなくなる可能性があります。 売却を予定している場合は、売買契約を締結する前に適用要件を確認しましょう。 9.まとめ 自宅と賃貸物件がそれぞれ小規模宅地等の特例の適用要件を満たしていれば、両方の土地に特例を使える場合があります。 ただし、次の内容を総合的に比較する必要があります。 ・それぞれの土地の相続税評価額 ・1㎡当たりの評価額 ・特例を適用できる面積 ・自宅の80%、賃貸物件の50%という減額割合 ・誰が土地を相続するか ・配偶者の税額軽減など、ほかの相続税制度 ・相続後の土地の利用予定 特に、自宅と複数の賃貸物件を所有している場合は、特例を適用する土地の選び方によって、相続税額が大きく変わることがあります。 遺産分割を決めた後や、土地を売却した後では、より有利な選択ができなくなる可能性もあります。 遺産分割協議書に署名する前に、複数の適用パターンを比較することが重要です。 監修者 志田 宏樹 公認会計士・税理士・宅地建物取引士 監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。 専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継 [詳しいプロフィールを見る →]

  • 0円でも売れない不動産とは?相続で「負動産」を子どもに残さないための対策

    「不動産を0円で譲るのであれば、さすがに誰かが引き取ってくれるだろう」 そう思う方も多いのではないでしょうか。 しかし実際には、無償でも引き取り手が見つからない不動産があります。 不動産を取得すると、土地や建物だけでなく、固定資産税や管理費、修繕費、将来の解体費などの負担も引き継ぐことになるからです。 こうした、資産としての価値よりも保有・処分するための負担が大きい不動産は、俗に「負動産」と呼ばれることがあります。 そして、この問題は現在の所有者だけの問題ではありません。 何も対策をしないまま相続が発生すれば、その不動産を管理し、将来どうするかを考えなければならないのは、配偶者や子どもなど次の世代です。 総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年の全国の空き家は900万戸、空き家率は13.8%となり、いずれも過去最高となりました。30年前の1993年と比べると、空き家数は約2倍に増えています。 相続対策というと「相続税をどう減らすか」に目が向きがちです。 しかし、本当に考えておきたいのは、 「何を、どのような状態で次の世代に残すのか」 ということです。 この記事では、不動産オーナーや地主の方に向けて、0円でも売れない不動産がなぜ生まれるのか、相続時にどのような問題が起こるのか、そして「負動産」を子どもに残さないために今からできることを解説します。 目次 1.0円でも売れない不動産とは? 相続手続や財産全体の整理から確認したい方は、「相続の基本と全体像」をご覧ください。 「0円でも売れない不動産」とは、価値が完全にゼロという意味ではありません。 正確には、 その不動産を取得するメリットよりも、取得後に負担する費用・手間・リスクの方が大きいため、無償でも引き取り手が見つからない不動産 と考えると分かりやすいでしょう。 代表的なものとして、次のような不動産があります。 長期間空き家になっている老朽住宅 建替え・再建築が難しい土地 市街化調整区域など利用に制約のある不動産 利用予定のない山林や原野 売買や転用に制約のある農地 古い擁壁や崖を抱える土地 境界や権利関係が整理されていない土地 高額な管理費等が継続して発生するリゾートマンション 例えば、地方にある築50年以上の実家。 土地だけなら300万円程度で売却できるとしても、 建物解体 250万円 家財等の残置物撤去 30万円 測量・境界確定 50万円 が必要なら、それだけで330万円です。 売却代金よりも処分費用の方が大きくなってしまいます。 買う側から見れば、 「0円で不動産がもらえる」 のではなく、 「取得した瞬間から将来の費用負担を引き受ける」 ことになります。 その結果、無償でも欲しい人が見つからないことがあるのです。 なお、「負動産」は法律上の用語ではありません。 また、現在は価値が低くても、隣地所有者が購入を希望したり、開発や用途変更によって利用価値が生じたりする可能性もあります。 「この条件なら負動産」と一律に決まるものではなく、個別の状況を確認することが重要です。 2.なぜ0円でも買い手がつかないのか? 不動産に買い手がつかない理由を考える際は、単に「売却価格が安いか高いか」だけを見てはいけません。 重要なのは、所有してから手放すまでにどれくらいの負担があるかです。 不動産を保有していれば、固定資産税がかかります。 しかし、負担は税金だけではありません。 空き家であれば、 草刈り 庭木の剪定 建物の清掃 雨漏り等の修繕 火災・倒壊への対応 害虫・害獣対策 遠方の場合の交通費 などが発生します。 今すぐ大きな支出がなくても、建物の老朽化が進めば、いずれ大規模修繕や解体が必要になるかもしれません。 売却しようとして初めて、境界確定、測量、造成、擁壁補修などの費用が必要だと判明する場合もあります。 つまり、 「今いくらで売れるか」だけでなく、「将来いくら支払う可能性があるか」 まで見る必要があります。 空き家については、管理状態にも注意が必要です。 適切な管理がされていない空き家が「管理不全空家」や「特定空家」に該当し、市区町村から勧告を受けた場合、その敷地について固定資産税等の住宅用地特例が適用されなくなることがあります。 「使わないけれど、特に困っていないからそのままにしておこう」 という判断が、10年後、20年後にも合理的とは限りません。 特に築年数の古い建物では、時間の経過によって売りやすくなるより、管理や処分の負担が増える可能性も考えておく必要があるのです。 3.相続税評価額があっても「価値のある資産」とは限らない ここは、不動産の相続を考えるうえで特に重要なポイントです。 税務上の評価額と、実際に不動産を売却したときの価格は同じではありません。 相続税や贈与税を計算するとき、土地は原則として「路線価方式」または「倍率方式」により評価されます。 家屋については、原則として固定資産税評価額を基礎に評価します。 一方、実際の売却価格は、 立地 土地の形状 接道状況 建物の状態 権利関係 市場での需要 買主がどのように利用できるか などによって決まります。 さらに、所有者が最終的に受け取れる金額を見るなら、売却価格から処分に必要な費用も考えなければなりません。 例えば、 項目 金額の例 相続税評価額 500万円 想定売却価格 300万円 建物解体費 ▲220万円 測量・残置物撤去等 ▲80万円 処分後の概算額 0万円 という不動産があったとします。 ※上記は仕組みを説明するための単純な例であり、実際の評価額・売却価格・費用とは異なります。 税務上は500万円の評価額があるにもかかわらず、実際に売却して処分費用まで支払えば、ほとんどお金が残らないということもあり得ます。 この3つは分けて考える必要があります。 「固定資産税の課税明細書に評価額が載っているから、この土地にはそれだけの価値がある」 とは限りません。 反対に、相続税評価額より高い価格で売れる不動産も当然あります。 したがって、次の世代に残す不動産を考える際には、税務上の評価だけでなく、実際の市場価格と処分後の手取りまで確認することが重要です。 4.「子どもが相続放棄すればいい」は簡単ではない 売却が難しい不動産について、 「子どもがいらないのであれば、相続放棄すればいいのでは?」 と考える方もいるでしょう。 しかし、相続放棄は、不要な不動産だけを選んで手放す制度ではありません。 相続放棄をすると、原則として、その被相続人の権利や義務を一切承継しないことになります。裁判所も、相続放棄について「被相続人の権利や義務を一切受け継がない」選択として案内しています。 例えば、 預金 5,000万円 収益アパート 8,000万円 売却困難な山林 を相続することになった場合、 「預金とアパートは相続するが、山林だけ放棄する」 という選択は原則としてできません。 また、相続放棄には期限があります。 原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。 つまり相続が発生した後、相続人は限られた期間の中で、 「何が残されているのか」 「借金はいくらあるのか」 「この不動産は本当に価値があるのか」 を調べることになります。 親が不動産の状況を整理しないまま亡くなれば、その調査を子どもが行わなければなりません。 だからこそ、 「困ったら子どもが相続放棄すればいい」と考えるのではなく、所有者本人が元気なうちに整理しておく ことが重要なのです。 5.「いらない土地は国に返せばいい」も万能ではない 「売れないのであれば、国に引き取ってもらえばいい」 と考える方もいるかもしれません。 2023年4月から、相続等によって取得した土地を一定の条件のもとで国に引き渡せる「相続土地国庫帰属制度」が始まっています。 制度開始以降、実際に利用も進んでいます。 法務省によると、2026年7月31日現在で申請件数は5,863件、そのうち3,008件の土地が国庫に帰属しています。 ただし、不要な土地であれば何でも国が引き取ってくれる制度ではありません。 例えば、 建物がある土地 抵当権など担保権が設定されている土地 他人が利用する権利が付いている土地 境界が明らかでない土地 などは、申請できない場合があります。 また、一定の崖や、管理・処分に過大な費用や労力を必要とする土地などは、審査の結果、承認されない場合があります。 さらに、承認を受けた場合は負担金の納付が必要です。 負担金は原則として20万円が基本ですが、森林や一定の市街地の宅地・農地などでは面積等に応じて金額が決まります。 相続土地国庫帰属制度は、有力な出口の一つではあります。 しかし、 「相続してから困ったら国に返せばいい」 と問題を先送りできる制度ではありません。 なお、2024年4月1日からは相続登記も義務化されています。 相続により不動産を取得したことを知った相続人は、原則としてその日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。 利用予定がない不動産についても、「とりあえず名義を変えずに放置する」という対応は取りにくくなっています。 6.「負動産」を子どもに残さないために、生前に確認したい7項目 地主の方が複数の土地を次世代へ残す場合の分け方については、「地主の相続はなぜもめやすい?」で解説しています。 ここまで読んで、 「では、自分の不動産は大丈夫だろうか?」 と思われた方もいるでしょう。 いきなり売却する必要はありません。 まず行っていただきたいのは、所有している不動産をすべて書き出して、現在の状況を確認することです。 自宅や収益物件は把握していても、 親から相続した地方の実家 昔取得した土地 祖父母から承継した山林 親族と共有している土地 長期間使っていない農地 などについては、詳しい状況が分からないことがあります。 まずは固定資産税の課税明細書などを確認し、次の7項目をチェックしてみましょう。 ① 誰が使う予定なのか 自分が使わなくなった後に、配偶者や子どもが使う予定があるかを確認します。 「家だから誰か住むだろう」 ではなく、実際に本人へ聞いてみることが重要です。 子どもが別の地域ですでに自宅を購入していれば、実家を引き継いでも利用する予定がないかもしれません。 ② 家族は本当にその不動産を欲しいのか 所有者本人にとって思い入れのある不動産であっても、家族が同じ価値を感じているとは限りません。 特に、 遠方にある実家 山林 農地 収益性の低い賃貸物件 などは、一度家族の希望を確認しておきたいところです。 「自分が残したい資産」ではなく、**「次の世代が受け継ぎたい資産か」**という視点を持つことが大切です。 ③ 今売ると、いくらになるのか 「昔○○万円で購入した」 「近隣の土地は高く売れた」 という情報だけで判断せず、現在の市場価格を確認します。 必要であれば、不動産会社に査定を依頼します。 重要なのは最高値を予想することではなく、 「現時点で売却可能なのか」 を確認することです。 査定の結果、 「通常の仲介では難しい」 「建物を解体しないと売却が難しい」 と分かるだけでも、生前対策を考えるきっかけになります。 ④ 年間いくらの収入・支出があるのか 収益物件であれば家賃収入があります。 一方で、 固定資産税 管理費 修繕費 保険料 草刈り等の管理費 なども発生します。 単に「家賃が入っている」というだけでなく、年間の収入から支出を差し引き、実際にどの程度の収益を生んでいるのか確認します。 利用していない不動産であれば、収入がゼロのまま毎年支出だけが発生している可能性があります。 ⑤ 将来処分するためにいくら必要なのか 建物があれば解体費。 家財が残っていれば残置物撤去費。 境界が不明なら測量費。 土地の状態によっては造成や擁壁工事が必要になることもあります。 「今までいくら払ったか」ではなく、 「この不動産を最終的に手放すには、あといくら必要なのか」 という視点で考えます。 ⑥ 売却や利用を妨げる問題がないか 価格以前に、売却や利用そのものを難しくする要因がないか確認します。 例えば、 接道状況 再建築の可否 市街化調整区域 農地法上の制約 境界 越境 共有 擁壁 他人の権利 などです。 すべてを自分で調査する必要はありません。 まずは、 「分かっていること」と「分からないこと」を整理する だけでも十分です。 ⑦ 相続した場合の税務上の評価を確認する 相続税評価と市場価値が異なる理由については、「不動産で相続税はなぜ下がる?」も参考になります。 最後に、相続が発生した場合にどの程度の相続税評価額になるのかを確認します。 ただし、前述したとおり、相続税評価額だけを見て「価値のある不動産」と判断してはいけません。 税務上の評価額・市場価格・処分後の手取り をセットで見ることが重要です。 不動産の棚卸し表 所有する不動産ごとに、例えば次のように整理してみると分かりやすくなります。 不動産 誰が使う? 売却価格 年間収支 処分費 問題点 家族の希望 自宅 配偶者 要確認 マイナス 要確認 特になし 残したい 賃貸アパート 長男 要査定 +300万円 ― 築年数 引継ぎ検討 地方の実家 誰も使わない 300万円 ▲10万円 300万円 老朽化 不要 山林 誰も使わない 不明 ▲2万円 不明 境界不明 不要 最初から正確な数字を出す必要はありません。 むしろ重要なのは、表の中に「わからないもの」がどれだけあるかを確認することです。 7.確認した不動産を「残す・売る・調べる」に分類する 棚卸しが終わったら、それぞれの不動産を大きく3つに分けてみます。 ①「残す」不動産 例えば、 安定した収益を生んでいる 家族が利用する予定がある 立地が良く換金性も高い 家族自身が引き継ぎたいと考えている といった不動産です。 「残す」と決めたら、次は、 誰に承継するか 借入金をどうするか 相続税はいくらになるか 共有にするか単独所有にするか といった具体的な承継方法を検討します。 ②「売る」ことを検討する不動産 例えば、 家族の利用予定がない 所有していても収益を生まない 毎年管理費が発生する 建物の老朽化が進んでいる 家族も引き継ぎを希望していない といった不動産です。 もちろん、すぐに売却すべきとは限りません。 売却した場合の税金や手取り額、今後の活用可能性なども考える必要があります。 ただし、 「何となく持っている」だけであれば、生前売却を一度検討する価値があります。 ③「調べる」不動産 実は、最も優先したいのがこのカテゴリーです。 いくらで売れるか分からない 現地を長年見ていない 境界が分からない 再建築できるか分からない 共有者が誰なのか整理できていない 山林の場所が正確に分からない こうした不動産です。 情報が不足している状態では、 「残すべきか」 「売るべきか」 を判断すること自体ができません。 相続対策の第一歩は、すべての不動産を売却することではありません。 「よく分からないまま所有している不動産をなくすこと」 です。 これだけでも、将来子どもが突然調査しなければならない負担を大きく減らすことができます。 8.まとめ 相続対策というと、 「相続税はいくらになるのか」 「どうすれば評価額を下げられるのか」 「生前贈与をした方がよいのか」 といった税金の話が中心になりがちです。 もちろん、相続税対策は重要です。 しかし、相続税が少なければ、それだけで良い相続になるわけではありません。 家族にとって本当に重要なのは、 どの資産を、どのような状態で引き継ぐか です。 まずは、所有している不動産を一度すべて書き出してみてください。 そして、それぞれについて、 誰が使うのか 子どもは本当に欲しいのか 今ならいくらで売れるのか 年間いくらの収入と支出があるのか 手放すためにいくらかかるのか 売却や利用を妨げる問題はないか 相続した場合の税務上の評価はいくらか を確認してみましょう。 その結果、 「この土地について一度調べておこう」 「この実家は自分の代で売却した方がいいかもしれない」 「この収益物件は長男に残す方向で考えよう」 と判断できれば、それだけでも相続対策は大きく前進しています。 相続税を減らすことだけが相続対策ではありません。 親にとっての「資産」が、子どもにとっても本当に「資産」なのか。 この視点から一度所有不動産を見直してみることをおすすめします。 アポロ税理士法人では、不動産オーナー・地主の方について、単に相続税額を計算するだけではなく、不動産の保有状況や収益性、将来の売却・承継なども踏まえてご相談をお受けしています。 「所有している不動産を一度整理してみたい」 「子どもに何を残すべきか分からない」 「相続税評価と実際の不動産価値を整理したい」 という方は、お気軽にご相談ください。 参考資料 ・総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」 ・国税庁「No.4602 土地家屋の評価」 ・裁判所「相続の放棄の申述」 ・法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」 ・法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」 ・法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」 ・法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」 ・法務省「相続登記の申請義務化に関する概要資料」 ・国土交通省「空き家対策 特設サイト」 監修者 志田 宏樹 公認会計士・税理士・宅地建物取引士 監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。 専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継 [詳しいプロフィールを見る →]

  • ゴルフ代は経費にできる?会社社長と個人事業主・不動産オーナーで異なる税務上の判断基準

    取引先との関係づくりや情報交換のために、ゴルフを利用している経営者は少なくありません。 不動産オーナーであれば、銀行、不動産会社、管理会社、建築会社などとゴルフをすることもあるでしょう。 そこで気になるのが、 「このゴルフ代は会社や事業の経費にしてよいのか?」 という問題です。 「取引先と行ったのだから経費になるだろう」と考えている方もいれば、「ゴルフは趣味だから経費にならない」と言われた経験がある方もいるかもしれません。 実は、ゴルフ代の税務上の取扱いは、単純に「ゴルフだから経費になる・ならない」と決まるものではありません。 特に重要なのが、 会社の社長として法人が負担する場合と、個人事業主・個人の不動産オーナーとして自分が負担する場合では、税務上の判断構造が異なる という点です。 この記事では、会社経営者・個人事業主・不動産オーナーを対象に、ゴルフ代をどこまで経費にできるのかを、国税庁の取扱いや実際の裁決事例を踏まえて解説します。 目次 1.結論|ゴルフ代は経費にできるが、法人と個人では考え方が違う まず結論からいうと、取引先への接待や営業など、事業上の目的で行ったゴルフであれば、ゴルフ代を経費として処理できる可能性があります。 ただし、法人と個人では税務上の考え方が少し違います。 法人の社長 個人事業主・個人不動産オーナー 基本的な考え方 法人の業務上必要なら交際費 事業・不動産所得の必要経費かを判断 私的なゴルフ 役員給与等となる可能性 家事費となり必要経費にならない 趣味との区分 必要 特に重要 自分のプレー代 業務上必要なら交際費になり得る 業務上必要だったことを説明する必要 交際費の法人税上の限度 一定の損金算入制限あり 法人のような年間800万円の制度はない 国税庁は法人について、ゴルフのプレーに直接要する費用が「法人の業務の遂行上必要」である場合には交際費となり、それ以外の場合には役員・使用人に対する給与になると明示しています。 一方、個人の場合には、事業所得や不動産所得を計算する際の「必要経費」に該当するかに加えて、個人的な生活費である「家事費」ではないかという問題があります。国税庁も、家事上の費用は必要経費にならず、仕事と私生活の双方に関係する家事関連費については、業務上必要な部分を明確に区分する必要があるとしています。 この違いが、一般に、 「個人事業主のゴルフ代の方が厳しく見られやすい」 といわれる理由の一つです。 2.なぜ法人と個人でゴルフ代の扱いが違うのか? 法人の場合、会社と社長は別の主体です。 例えば、 会社が重要取引先を接待するため、社長をゴルフに参加させる という場合、社長のプレーは法人の営業・接待活動の一部と考えることができます。 そのため、法人の業務遂行上必要なプレー代については、国税庁も交際費として取り扱うことを明確にしています。 一方、個人事業主の場合には、 仕事としてゴルフをする本人と、休日に趣味としてゴルフをする本人が同じ人物です。 例えば、個人の不動産オーナーが銀行員とゴルフをしたとしても、 「融資のための業務上の接待なのか」 「昔からの知人と趣味としてゴルフを楽しんでいるだけなのか」 を区分しなければなりません。 所得税では、総収入金額を得るために直接要した費用だけでなく、その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用(いわゆる間接経費)も必要経費になります。したがって、特定の売上と1対1で直接対応していなければ必要経費にならないという意味ではありません。 ただし、ゴルフのように私生活でも一般的に行われる支出については、 「本当に業務のためだったのか?」 という点が問題になりやすいのです。 3.社長のゴルフ代|どこまで交際費にできる? では、法人の場合を具体的に考えてみましょう。 取引先との接待ゴルフ 最も典型的なのが、既存の取引先との関係維持を目的としたゴルフです。 得意先や仕入先など、事業に関係する者への接待のために支出する費用は、原則として交際費に該当します。 例えば、 主要顧客 仕入先 業務提携先 継続的に取引している外注先 などとのゴルフで、事業上の関係維持という目的があるのであれば、交際費として処理することに合理性があります。 見込み客との営業ゴルフ まだ取引が始まっていない相手でも、具体的に営業活動を行っている見込み客であれば、交際費になる可能性があります。 重要なのは、 現時点で売上があるかではなく、会社の事業と具体的な関係があるか です。 「経営者だから将来何か仕事になるかもしれない」といった漠然とした関係ではなく、商談や案件が進んでいるなど、営業目的を説明できる方が税務上は整理しやすくなります。 銀行・不動産会社などとのゴルフ 不動産会社や不動産保有法人であれば、 金融機関 不動産仲介会社 管理会社 建築会社 リフォーム会社 保険会社 などとのゴルフも考えられます。 実際に融資取引、物件紹介、管理委託などの関係があり、関係維持を目的として行われるのであれば、法人の交際費となる可能性があります。 ただし、 相手が銀行員や不動産会社の人だから自動的に交際費になるわけではありません。 例えば、学生時代の友人がたまたま銀行に勤務しているだけで、会社との具体的な取引関係がないのであれば、会社の業務との関係は弱くなります。 自社の社長・社員のプレー代 取引先2名を接待するため、 取引先2名 自社社長 自社営業担当者 の4名でプレーしたとします。 この場合、自社側の2名についても、取引先を接待するために参加する必要があったのであれば、そのプレー代も含めて交際費として処理する余地があります。 「接待相手の分だけが交際費で、自社社員の分は必ず給与になる」というわけではありません。 友人とのゴルフ・一人での練習 学生時代の友人 趣味のゴルフ仲間 家族 一人での練習ラウンド など、会社の事業との具体的な関係を説明できないゴルフは、会社経費とすることは難しくなります。 法人が社長の個人的なゴルフ代を負担すれば、役員への給与等として扱われるリスクがあります。 4.個人事業主・個人不動産オーナーのゴルフ代はどこまで必要経費? 不動産オーナーの経費全体については、「不動産投資の経費一覧」で整理しています。 個人の場合、「接待交際費」という勘定科目を使うことはできますが、税務上の本質的な問題は、 所得税の必要経費として認められるか です。 国税庁は必要経費について、総収入金額を得るために直接要した費用のほか、その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用を対象としています。 一方、家事上の費用は必要経費にはなりません。 また、仕事と私生活の両方に関係する「家事関連費」については、業務遂行上必要であった部分を明確に区分できることが重要です。 そのため、個人事業主のゴルフでは、 「誰と行ったか」だけでなく、「なぜそのゴルフが自分の事業に必要だったのか」 が特に重要になります。 例えば個人の不動産オーナーが、現在融資を申し込んでいる金融機関の担当者や、実際に物件を紹介してもらっている仲介会社と営業・関係維持目的でゴルフをしたケースであれば、必要経費となる可能性があります。 一方、 「銀行員との人脈を作っておけば将来融資に役立つかもしれない」 「不動産会社の人と知り合っておけば物件を紹介してもらえるかもしれない」 という程度では、業務との関連性を説明しにくくなります。 特に本人自身がゴルフ好きで頻繁にプレーしている場合には、 事業目的なのか、本人の趣味なのか という点をより慎重に検討する必要があります。 5.実際に否認された「不動産オーナーのゴルフ代」 この問題を考える上で非常に参考になるのが、国税不服審判所の平成22年4月22日裁決です。 この事案では、不動産貸付業を営んでいた個人が、ゴルフ代を不動産所得の必要経費として計上していました。 本人は、 テナントとの関係維持 賃貸物件の補修やクレーム等の情報収集 不動産購入情報の収集 購入資金の融資を有利にするための銀行関係者との関係構築 などを目的としてゴルフをしていたと主張しました。 しかし、国税不服審判所は、これらのゴルフ代を必要経費として認めませんでした。 例えば、勤務していた銀行の後輩等とのゴルフについては、間接的に不動産貸付業に有益な情報が得られる場合があるとしても、ゴルフをすることが業務遂行上必要だったとは認め難いと判断されています。 さらに、この事案では、 毎年相当回数ゴルフをしていた 多くのプレーを女子プロゴルファーと行っていた 領収書等に実際のプレー相手とは異なる接待相手を記載していた といった事情も確認されています。 最終的に審判所は、問題となったゴルフ代について、本人の趣味・嗜好としてのゴルフプレーに要した家事費と評価しました。 この裁決から学ぶべきなのは、 「銀行員とゴルフをした」「テナントとゴルフをした」という肩書きだけでは足りない ということです。 誰と行ったかに加えて、 その相手と自分の事業にどのような具体的な関係があり、なぜそのゴルフを行ったのか を説明できることが重要になります。 6.プレー代以外のゴルフ関連費用はどうなる? ゴルフ接待では、プレー代以外にもさまざまな費用が発生します。 キャディー代など プレーに伴って通常発生するキャディー代などについては、接待ゴルフ全体の一部として考えるのが基本です。 ゴルフそのものが業務上必要な接待であれば関連費用も同様の性質を持ちますが、私的ゴルフであれば、関連費用だけを事業経費にすることは通常困難です。 ゴルフ場での昼食 注意したいのが、ゴルフ場での昼食代です。 法人税では、一定の飲食費について「1人当たり10,000円以下」で一定の要件を満たす場合、交際費等から除外する制度があります。 しかし、国税庁は、ゴルフに際して行われる飲食は、原則としてゴルフという催事と一体不可分であり、接待飲食費として切り離さないという考え方を示しています。 したがって、 プレー代20,000円、昼食3,000円 だから、昼食3,000円だけを「1万円以下の飲食費」として交際費から除外する、という処理は適切ではありません。 交通費・送迎費 ゴルフ場までの交通費については、誰のための費用なのか、接待との関係などを踏まえて個別に判断する必要があります。 例えば、取引先をゴルフ場まで送迎するためのタクシー代等は、接待に伴う費用として交際費性が強くなります。 一方、自社役員・従業員自身の移動費については、その出張・移動の実態も含めて判断するため、一律に「すべて交際費」と考えるのではなく、事実関係に応じて処理することが大切です。 ゴルフ会員権 法人が法人会員としてゴルフクラブへ入会した場合、入会金は原則として資産計上します。 また、法人の業務上必要なゴルフクラブの年会費等については一定の場合に交際費となり、プレーに直接要する費用についても、業務遂行上必要なら交際費となります。 7.ゴルフ代を広告宣伝費にすることはできる? 「交際費には限度があるので、広告宣伝費にできないか?」と考える方もいるかもしれません。 通常の取引先とのゴルフを、広告宣伝費という勘定科目に変えただけでは意味がありません。税務上は勘定科目の名称よりも支出の実態が重要です。 国税庁は、不特定多数の者に対する宣伝的効果を目的とする一定の費用について、交際費ではなく広告宣伝費の性質を有するとしています。 例えば、 ゴルフ大会の広告スポンサー 会場への企業ロゴ掲出 大会公式Webサイトへの広告掲載 パンフレット広告 など、広告の対価として支出していることが明確であれば、広告宣伝費として検討する余地があります。 一方、 取引先とゴルフをした→写真を会社のSNSに投稿した→広告宣伝費 という処理は、支出の実態が接待ゴルフである以上、基本的には難しいでしょう。 SNSやYouTubeに掲載したという事実だけで、もともとの費用の性質が変わるわけではありません。 8.年間何回までならゴルフ代を経費にできる? 「年間10回なら大丈夫」「50回を超えると税務署に否認される」といった明確な基準はありません。 税法には、「ゴルフは年間○回まで経費にできる」という明確なルールはないからです。 極端にいえば、年間50回ゴルフをしていても、その50回について具体的な取引先との接待目的があり、事業との関係を説明できるのであれば、回数だけを理由にすべてが否認されるものではありません。 反対に、年間3回しか行っていなくても、すべて友人とのプライベートゴルフなら経費にはできません。 したがって重要なのは、年間の総回数ではなく、1ラウンドごとの実態です。 ただし実務的には、社長や個人事業主自身がゴルフを趣味としており、年間何十回、何百回というプレー代を事業経費として計上している場合には、税務調査でその内容を確認される可能性は高まると考えられます。 そのため、回数が多いほど、 誰と なぜ どの事業との関係で プレーしたのかを記録しておくことが重要です。 9.税務調査に備えて何を記録しておくべき? 不動産税務全体の考え方については、「不動産投資・賃貸経営に関する税務の基本」もあわせてご確認ください。 ゴルフ代を経費計上する場合、最も重要なのは、 後から第三者に説明できる状態にしておくこと です。 最低限、次の内容は残しておくことをおすすめします。 プレー日 ゴルフ場名 同伴者氏名 同伴者の会社名・役職 自社・自分との取引関係 接待・営業等の目的 例えば帳簿の摘要欄が、 ○○カントリークラブ だけでは、数年後の税務調査で誰と何のために行ったのかを思い出せない可能性があります。 それよりも、 ○○カントリークラブ/ABC不動産 山田社長/物件仕入・管理取引の関係維持 などと記録しておいた方が、事業との関係を説明しやすくなります。 領収書に加えて、 ゴルフ場の予約メール コンペ案内 同伴者とのメール等 具体的な商談や案件に関する資料 なども残っていれば、さらに説明しやすくなります。 特に、 金額が大きい・回数が多い・本人の趣味との境界が曖昧 という場合ほど、記録を充実させておくことが重要です。 なお、先ほど紹介した平成22年4月22日裁決では、実際のプレー相手とは異なる接待相手を領収書等に記載していたことも問題となっています。 形式だけ整えるのではなく、実態に即した正確な記録を残すことが大前提です。 10.ゴルフ代の経費判定フロー 判断に迷った場合には、次の順番で考えると整理しやすくなります。 STEP1 誰とゴルフに行ったか? 取引先、具体的な見込み客、金融機関など事業関係者なのか、それとも友人・家族・ゴルフ仲間なのかを確認します。 ↓ STEP2 何のためのゴルフだったか? 接待、営業、具体的な案件に関する関係維持など、事業目的を説明できるかを確認します。 ↓ STEP3 法人か個人か? 法人であれば交際費や役員給与等の問題として整理します。 個人事業主・個人不動産オーナーであれば、必要経費か家事費かを検討します。 ↓ STEP4 客観的な記録が残っているか? 同伴者、会社名、取引関係、目的等を確認できる資料を残します。 この4つを確認した上で、 事業との関係を第三者にも合理的に説明できるか が最終的なポイントになります。 11.よくある質問 Q.個人事業主にも「交際費800万円」の上限はありますか? ありません。 年間800万円の定額控除限度額は法人税における交際費等の損金算入制度です。 一定の中小法人では、現在、交際費等について年間800万円までの定額控除限度額を利用する方法などがあります。国税庁の2026年公表資料でも、この制度は令和9年3月31日までの間に開始する事業年度について適用される制度として説明されています。 個人事業主には同じ800万円という上限はありませんが、その代わり、そもそも必要経費に該当するのか、家事費ではないのかという入口の判定が重要になります。 Q.割り勘のゴルフでも経費になりますか? 会社・事業者が実際に負担した金額について、事業上必要な接待等であれば経費になる可能性があります。 「全額おごらなければ交際費にならない」ということではありません。 Q.社員だけでゴルフをした場合は? 取引先への接待ゴルフとは異なります。 福利厚生目的なのか、社内行事なのか、単なる一部社員の私的ゴルフなのかによって判断が変わるため、別途検討が必要です。 Q.ゴルフレッスン代は会社経費にできますか? 一般の会社社長が自分のスコア向上のために受けるゴルフレッスンは、通常、個人的な趣味の支出と考えるのが自然です。 「取引先とゴルフをするために上達する必要がある」というだけで会社経費とするのは慎重に考えるべきでしょう。 Q.ゴルフクラブやウェアは経費になりますか? 一般的なゴルフクラブやウェアは私的にも使用できるため、通常の会社経営者・個人事業主では事業経費とするハードルは高いと考えられます。 プロゴルファーやゴルフ用品の販売・レビューそのものを事業としている場合など、事業内容によっては結論が変わる可能性があります。 12.まとめ ゴルフ代が経費になるかどうかを、「ゴルフだから経費になる」あるいは、「ゴルフは趣味だから経費にならない」と一律に判断することは適切ではありません。 会社の社長であれば、法人の業務遂行上必要な取引先等とのゴルフは交際費として処理できる可能性があります。 一方、個人事業主・個人不動産オーナーについては、必要経費になるかに加えて、本人の趣味・家事費との区分がより重要になります。 特に意識していただきたいのは、 「誰と行ったか」だけではなく、「何のために行ったか」を説明できるようにすることです。 銀行員とゴルフをしたから経費、不動産会社の社長とゴルフをしたから経費、という単純な判断ではありません。 事業との具体的な関係、ゴルフを行った目的、頻度、本人の趣味性などを総合的に考える必要があります。 そして、経費として処理するのであれば、 ・プレー日 ・同伴者 ・会社名 ・取引関係 ・目的 を記録しておくことをおすすめします。 ゴルフ代は、会社形態や事業内容、相手との関係、プレーの頻度などによって判断が変わります。 金額が大きい場合や、個人的な趣味との境界が曖昧な場合には、実際の利用状況を整理した上で税理士に相談するとよいでしょう。 参考資料 国税庁「No.5381 ゴルフクラブの入会金と会費の取扱い」 国税庁「No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算」 国税庁「No.5260 交際費等と広告宣伝費との区分」 国税庁「No.2210 必要経費の知識」 国税庁「所得税基本通達45-1・45-2 家事関連費」 国税庁「接待飲食費に関するFAQ」 国税不服審判所「平成22年4月22日裁決(裁決事例集No.79)」 国税不服審判所「不動産貸付業務とゴルフ接待費用」 監修者 志田 宏樹 公認会計士・税理士・宅地建物取引士 監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。 専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継 [詳しいプロフィールを見る →]

  • 3回目の納税を終えて思うこと

    アポログループは、2023年7月に誕生しました。 そして、2026年5月末の決算を終え、7月末に3回目の納税が完了しました。 会社を経営していると、毎日があっという間に過ぎていきます。 目の前のお客様への対応、従業員とのやり取り、組織づくり、資金繰り、今後の方針。 考えることは本当に多いです。 そのような中で、決算と納税が終わると、個人的には少しだけ立ち止まる時間が生まれます。 今回、3回目の納税を終えて、独立してからの3年間を改めて振り返る機会になりました。 安心感、事業の楽しさ、組織としての責任。 そして、税金を払う立場になって改めて感じる、納税への率直な思い。 今回は、少し個人的な内容にはなりますが、今感じていることを書いてみたいと思います。 2023年7月に設立して、3回目の納税を迎えました 2023年7月に事業を開始し、今回で3回目の納税を迎えることができました。 まず率直に感じるのは、無事にここまでやってこられたことへの安心感です。 もちろん、3年という期間は、会社の歴史としてはまだまだ短いです。 長く事業を続けている経営者の方からすれば、ようやく入口に立ったくらいかもしれません。 それでも、独立して3年やってこられたという事実は、自分にとって大きな意味があります。 お客様にご依頼いただき、従業員が増え、日々仕事がある。 これは決して当たり前のことではありません。 毎年の決算と納税は、会社の数字を締める手続きであると同時に、事業を継続できたことを確認する節目でもあります。 今回の納税を終えて、改めてそのことを感じました。 まず感じたのは、独立して3年やってこられた安心感 独立した当初は、当然ながら先が見えない部分もありました。 本当にお客様に選んでいただけるのか。 自分が考えているサービスに価値を感じてもらえるのか。 組織として続けていけるのか。 表には出さなくても、経営者であれば誰しも不安を抱えながら進んでいるのではないかと思います。 私自身も、例外ではありません。 ただ、3年間事業を続けてこられたことで、少しだけ安心感があります。 もちろん、これで安泰という意味では全くありません。 むしろ、会社が少しずつ大きくなるほど、考えなければならないことも増えていきます。 それでも、独立してからの3年間を振り返ると、よくここまで来られたなという思いがあります。 支えてくださったお客様、日々一緒に働いてくれる従業員、関係者の方々には、本当に感謝しています。 事業は大変。でも、個人的には楽しさが勝っています 事業をすることは、決して楽なことばかりではありません。 売上をつくること。 利益を残すこと。 人を採用し、育てること。 お客様に満足していただくこと。 資金繰りを考えること。 組織としての方向性を決めること。 経営者として考えるべきことは、日々たくさんあります。 会社員時代とは違い、誰かが最終的な答えを用意してくれるわけではありません。 自分で考え、自分で決め、その結果を自分たちで受け止める必要があります。 その大変さはあります。 ただ、私個人としては、それ以上に楽しさが勝っています。 もちろん、これは人それぞれです。 会社員として働く良さもありますし、独立すれば誰でも幸せになるという話でもありません。 整った環境で専門性を磨く働き方も、とても価値があると思います。 ただ私自身は、自分で考えたことを形にし、お客様に価値として届けていくことに、大きな楽しさを感じています。 自分たちの意思で事業をつくっていけること。 組織を少しずつ育てていけること。 お客様から「相談してよかった」と言っていただけること。 そうした一つひとつが、事業を続ける原動力になっています。 各人が役割を認識することが大切 独立当初は、自分自身が前に出て動く場面が多くありました。 しかし、事業が少しずつ大きくなるにつれて、1人でできることには限界があると強く感じるようになりました。 組織として結果を出すためには、それぞれが自分の役割をきちんと認識し、その役割を実行することが大切です。 これは簡単なようで、実際にはとても難しいことです。 自分が何を求められているのか。 どこまで責任を持つべきなのか。 誰と連携すべきなのか。 組織の中で成果を出すには、こうしたことを一人ひとりが理解して動く必要があります。 そして、これは従業員だけの話ではありません。 代表者である私自身も、自分の役割を常に考え続ける必要があります。 現場で動くべき場面もあります。 一方で、組織の方向性を示すこと、判断基準をつくること、人が成長できる環境を整えることも、代表者の大切な役割です。 会社は、代表者だけで成長するものではありません。 各人が役割を認識し、それぞれの場所で力を発揮することで、組織としての成果につながります。 3回目の納税を終えた今、そのことを以前より強く感じています。 関わる人が増えた喜びと、責任の重さ この3年間で、お客様も従業員も増えました。 それに伴い、アポログループに関わってくださる方も増えました。 これは、本当にありがたいことです。 設立当初には想像できなかったようなご相談をいただくことも増えました。 税務だけでなく、財務、融資、不動産、相続、経営に関する相談もあります。 経営者の方、不動産オーナーの方、資産家の方、それぞれが大切な悩みや課題を抱えて相談に来てくださいます。 税務や財務の仕事は、単に数字を扱う仕事ではありません。 その数字の先には、経営者の判断があります。 従業員の生活があります。 ご家族の将来があります。 事業の継続や資産の承継があります。 そう考えると、関わる人が増える喜びと同時に、責任の重さも増していると感じます。 お客様が増えることは嬉しいことです。 従業員が増えることも嬉しいことです。 しかし、それは同時に、期待に応え続ける責任が増えるということでもあります。 その責任をきちんと受け止めながら、組織として成長していきたいと思っています。 もっと喜んでもらうために、何が提供できるのか アポロがサービスで大切にしている考え方については、「安さだけで税理士を選ぶと何が起きるか?」でも詳しくお伝えしています。 最近、特に考えることがあります。 それは、関わってくださる方々に、もっと喜んでもらうために何を提供できるのかということです。 お客様に対しては、単に申告書を作るだけではなく、経営判断に役立つ情報を提供したい。 税務だけでなく、資金繰りや融資、財務改善、不動産、相続、事業承継まで含めて、より広い視点でサポートしたい。 従業員に対しては、成長できる環境をつくりたい。 ただ忙しく働くだけではなく、専門性を高め、仕事にやりがいを感じられる組織にしたい。 そして、私自身に関わってくださる方々に対しても、何か良い影響を与えられる存在でありたいと思っています。 事業を続けていると、つい目の前の仕事に追われてしまいます。 もちろん、目の前の仕事を丁寧に行うことは大切です。 ただ、それだけではなく、今後どのような価値を提供していくのかを考え続けることも大切です。 お客様にとって、アポログループに相談する意味は何か。 従業員にとって、アポログループで働く意味は何か。 社会にとって、アポログループが存在する意味は何か。 少し大きな話に聞こえるかもしれませんが、事業を続ける以上、こうした問いから逃げずに考えていきたいと思っています。 納税は、やっぱり結構負担です(笑) 正直に言うと、納税額を見ると、やっぱり「結構取られるな」と思います(笑)。 これは、経営者であれば多くの方が感じることではないでしょうか。 税金は大切です。 社会を支えるために必要なものです。 道路、教育、医療、福祉、防災、行政サービスなど、税金によって支えられているものはたくさんあります。 そのことは理解しています。 ただ、実際に自分たちが事業で利益を出し、そこから納税する立場になると、負担感があるのも正直なところです。 利益が出たからといって、その全額が会社に残るわけではありません。 納税、借入返済、将来の投資、人件費、運転資金。 会社にお金を残していくには、さまざまなことを考えなければなりません。 税理士・財務コンサルの立場としても、経営者の方が「税金が重い」と感じる気持ちはとてもよくわかります。 そして、税金の使い道にも以前より関心が強くなります。 せっかく納めた税金です。 国や自治体には、社会のため、将来のために、きちんと使ってもらいたいという思いが強くなりました。 これは批判というより、納税者としての率直な感覚です。 税金を直接払う側になることで、社会との関わり方も少し変わるのだと思います。 納税は、お客様から応援された結果でもある 税金は、確かに負担です。 ただ一方で、納税できるということは、事業として利益を出せた証でもあります。 赤字であれば、基本的には法人税等の負担は大きくなりません。 利益が出たからこそ、納税が発生します。 そして、その利益は、決して自分たちだけで生み出したものではありません。 お客様に選んでいただき、仕事を任せていただき、サービスに価値を感じていただいた結果として生まれたものです。 そう考えると、納税は単なる支出ではなく、お客様から応援していただいた結果でもあるのだと思います。 もちろん、税金を多く払えば良い会社という単純な話ではありません。 会社には、将来の投資や人材育成、資金繰りの安定も必要です。 納税後に会社へお金が残らず、成長のための投資ができなくなってしまっては本末転倒です。 だからこそ、税務と財務の両方を見ながら、会社にお金を残すことが大切です。 節税だけを考えるのではなく、利益、納税、資金繰り、投資のバランスを考える。 これは、経営者にとって非常に重要な視点だと思います。 今回の納税を終えて、私自身も改めてそのことを実感しました。 次の3年に向けて 3回目の納税を終えて、少し安心した気持ちがあります。 独立して3年、なんとかここまでやってこられたという思いがあります。 ただ、これはゴールではありません。 むしろ、ここからが本当の意味で大切なのだと思っています。 お客様にもっと喜んでいただける会社にすること。 従業員が成長し、誇りを持って働ける組織にすること。 税務だけでなく、財務、融資、不動産、相続、事業承継まで含めて、より実務的に役立つサポートを提供すること。 そして、関わってくださる方々にとって、アポログループと関わってよかったと思っていただける存在になること。 そのために、次の1年も地に足をつけて取り組んでいきたいと思います。 事業を続けることは、下りのエスカレーターを上るようなものだと思います。 立ち止まれば、その場にいるつもりでも少しずつ下がっていく。 だからこそ、日々考え、動き、改善し続ける必要があります。 大変なこともあります。 悩むこともあります。 それでも、自分たちの仕事を通じて誰かに喜んでもらえることは、何にも代えがたいものです。 3回目の納税を終えて、改めてそう感じました。 ここまで事業を続けてこられたのは、私一人の力ではありません。 ご相談くださるお客様、日々一緒に働いてくれる従業員、支えてくださる関係者の皆様のおかげです。 改めて、心より感謝申し上げます。 これからも、お客様、従業員、そして関わってくださる方々に喜んでいただけるよう、アポログループとして一歩ずつ成長していきます。

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