0円でも売れない不動産とは?相続で「負動産」を子どもに残さないための対策
更新日:4 日前

「不動産を0円で譲るのであれば、さすがに誰かが引き取ってくれるだろう」
そう思う方も多いのではないでしょうか。
しかし実際には、無償でも引き取り手が見つからない不動産があります。
不動産を取得すると、土地や建物だけでなく、固定資産税や管理費、修繕費、将来の解体費などの負担も引き継ぐことになるからです。
こうした、資産としての価値よりも保有・処分するための負担が大きい不動産は、俗に「負動産」と呼ばれることがあります。
そして、この問題は現在の所有者だけの問題ではありません。
何も対策をしないまま相続が発生すれば、その不動産を管理し、将来どうするかを考えなければならないのは、配偶者や子どもなど次の世代です。
総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年の全国の空き家は900万戸、空き家率は13.8%となり、いずれも過去最高となりました。30年前の1993年と比べると、空き家数は約2倍に増えています。
相続対策というと「相続税をどう減らすか」に目が向きがちです。
しかし、本当に考えておきたいのは、
「何を、どのような状態で次の世代に残すのか」
ということです。
この記事では、不動産オーナーや地主の方に向けて、0円でも売れない不動産がなぜ生まれるのか、相続時にどのような問題が起こるのか、そして「負動産」を子どもに残さないために今からできることを解説します。
目次
1.0円でも売れない不動産とは?
相続手続や財産全体の整理から確認したい方は、「相続の基本と全体像」をご覧ください。
「0円でも売れない不動産」とは、価値が完全にゼロという意味ではありません。
正確には、
その不動産を取得するメリットよりも、取得後に負担する費用・手間・リスクの方が大きいため、無償でも引き取り手が見つからない不動産
と考えると分かりやすいでしょう。
代表的なものとして、次のような不動産があります。
長期間空き家になっている老朽住宅
建替え・再建築が難しい土地
市街化調整区域など利用に制約のある不動産
利用予定のない山林や原野
売買や転用に制約のある農地
古い擁壁や崖を抱える土地
境界や権利関係が整理されていない土地
高額な管理費等が継続して発生するリゾートマンション
例えば、地方にある築50年以上の実家。
土地だけなら300万円程度で売却できるとしても、
建物解体 250万円
家財等の残置物撤去 30万円
測量・境界確定 50万円
が必要なら、それだけで330万円です。
売却代金よりも処分費用の方が大きくなってしまいます。
買う側から見れば、
「0円で不動産がもらえる」
のではなく、
「取得した瞬間から将来の費用負担を引き受ける」
ことになります。
その結果、無償でも欲しい人が見つからないことがあるのです。

なお、「負動産」は法律上の用語ではありません。
また、現在は価値が低くても、隣地所有者が購入を希望したり、開発や用途変更によって利用価値が生じたりする可能性もあります。
「この条件なら負動産」と一律に決まるものではなく、個別の状況を確認することが重要です。
2.なぜ0円でも買い手がつかないのか?
不動産に買い手がつかない理由を考える際は、単に「売却価格が安いか高いか」だけを見てはいけません。
重要なのは、所有してから手放すまでにどれくらいの負担があるかです。
不動産を保有していれば、固定資産税がかかります。
しかし、負担は税金だけではありません。
空き家であれば、
草刈り
庭木の剪定
建物の清掃
雨漏り等の修繕
火災・倒壊への対応
害虫・害獣対策
遠方の場合の交通費
などが発生します。
今すぐ大きな支出がなくても、建物の老朽化が進めば、いずれ大規模修繕や解体が必要になるかもしれません。
売却しようとして初めて、境界確定、測量、造成、擁壁補修などの費用が必要だと判明する場合もあります。
つまり、
「今いくらで売れるか」だけでなく、「将来いくら支払う可能性があるか」
まで見る必要があります。
空き家については、管理状態にも注意が必要です。
適切な管理がされていない空き家が「管理不全空家」や「特定空家」に該当し、市区町村から勧告を受けた場合、その敷地について固定資産税等の住宅用地特例が適用されなくなることがあります。
「使わないけれど、特に困っていないからそのままにしておこう」
という判断が、10年後、20年後にも合理的とは限りません。
特に築年数の古い建物では、時間の経過によって売りやすくなるより、管理や処分の負担が増える可能性も考えておく必要があるのです。
3.相続税評価額があっても「価値のある資産」とは限らない
ここは、不動産の相続を考えるうえで特に重要なポイントです。
税務上の評価額と、実際に不動産を売却したときの価格は同じではありません。
相続税や贈与税を計算するとき、土地は原則として「路線価方式」または「倍率方式」により評価されます。
家屋については、原則として固定資産税評価額を基礎に評価します。
一方、実際の売却価格は、
立地
土地の形状
接道状況
建物の状態
権利関係
市場での需要
買主がどのように利用できるか
などによって決まります。
さらに、所有者が最終的に受け取れる金額を見るなら、売却価格から処分に必要な費用も考えなければなりません。
例えば、
項目 | 金額の例 |
相続税評価額 | 500万円 |
想定売却価格 | 300万円 |
建物解体費 | ▲220万円 |
測量・残置物撤去等 | ▲80万円 |
処分後の概算額 | 0万円 |
という不動産があったとします。
※上記は仕組みを説明するための単純な例であり、実際の評価額・売却価格・費用とは異なります。
税務上は500万円の評価額があるにもかかわらず、実際に売却して処分費用まで支払えば、ほとんどお金が残らないということもあり得ます。

この3つは分けて考える必要があります。
「固定資産税の課税明細書に評価額が載っているから、この土地にはそれだけの価値がある」
とは限りません。
反対に、相続税評価額より高い価格で売れる不動産も当然あります。
したがって、次の世代に残す不動産を考える際には、税務上の評価だけでなく、実際の市場価格と処分後の手取りまで確認することが重要です。
4.「子どもが相続放棄すればいい」は簡単ではない
売却が難しい不動産について、
「子どもがいらないのであれば、相続放棄すればいいのでは?」
と考える方もいるでしょう。
しかし、相続放棄は、不要な不動産だけを選んで手放す制度ではありません。
相続放棄をすると、原則として、その被相続人の権利や義務を一切承継しないことになります。裁判所も、相続放棄について「被相続人の権利や義務を一切受け継がない」選択として案内しています。
例えば、
預金 5,000万円
収益アパート 8,000万円
売却困難な山林
を相続することになった場合、
「預金とアパートは相続するが、山林だけ放棄する」
という選択は原則としてできません。
また、相続放棄には期限があります。
原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。
つまり相続が発生した後、相続人は限られた期間の中で、
「何が残されているのか」
「借金はいくらあるのか」
「この不動産は本当に価値があるのか」
を調べることになります。
親が不動産の状況を整理しないまま亡くなれば、その調査を子どもが行わなければなりません。
だからこそ、
「困ったら子どもが相続放棄すればいい」と考えるのではなく、所有者本人が元気なうちに整理しておく
ことが重要なのです。
5.「いらない土地は国に返せばいい」も万能ではない
「売れないのであれば、国に引き取ってもらえばいい」
と考える方もいるかもしれません。
2023年4月から、相続等によって取得した土地を一定の条件のもとで国に引き渡せる「相続土地国庫帰属制度」が始まっています。
制度開始以降、実際に利用も進んでいます。
法務省によると、2026年7月31日現在で申請件数は5,863件、そのうち3,008件の土地が国庫に帰属しています。
ただし、不要な土地であれば何でも国が引き取ってくれる制度ではありません。
例えば、
建物がある土地
抵当権など担保権が設定されている土地
他人が利用する権利が付いている土地
境界が明らかでない土地
などは、申請できない場合があります。
また、一定の崖や、管理・処分に過大な費用や労力を必要とする土地などは、審査の結果、承認されない場合があります。
さらに、承認を受けた場合は負担金の納付が必要です。
負担金は原則として20万円が基本ですが、森林や一定の市街地の宅地・農地などでは面積等に応じて金額が決まります。
相続土地国庫帰属制度は、有力な出口の一つではあります。
しかし、
「相続してから困ったら国に返せばいい」
と問題を先送りできる制度ではありません。
なお、2024年4月1日からは相続登記も義務化されています。
相続により不動産を取得したことを知った相続人は、原則としてその日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
利用予定がない不動産についても、「とりあえず名義を変えずに放置する」という対応は取りにくくなっています。
6.「負動産」を子どもに残さないために、生前に確認したい7項目
地主の方が複数の土地を次世代へ残す場合の分け方については、「地主の相続はなぜもめやすい?」で解説しています。
ここまで読んで、
「では、自分の不動産は大丈夫だろうか?」
と思われた方もいるでしょう。
いきなり売却する必要はありません。
まず行っていただきたいのは、所有している不動産をすべて書き出して、現在の状況を確認することです。
自宅や収益物件は把握していても、
親から相続した地方の実家
昔取得した土地
祖父母から承継した山林
親族と共有している土地
長期間使っていない農地
などについては、詳しい状況が分からないことがあります。
まずは固定資産税の課税明細書などを確認し、次の7項目をチェックしてみましょう。
① 誰が使う予定なのか
自分が使わなくなった後に、配偶者や子どもが使う予定があるかを確認します。
「家だから誰か住むだろう」
ではなく、実際に本人へ聞いてみることが重要です。
子どもが別の地域ですでに自宅を購入していれば、実家を引き継いでも利用する予定がないかもしれません。
② 家族は本当にその不動産を欲しいのか
所有者本人にとって思い入れのある不動産であっても、家族が同じ価値を感じているとは限りません。
特に、
遠方にある実家
山林
農地
収益性の低い賃貸物件
などは、一度家族の希望を確認しておきたいところです。
「自分が残したい資産」ではなく、**「次の世代が受け継ぎたい資産か」**という視点を持つことが大切です。
③ 今売ると、いくらになるのか
「昔○○万円で購入した」
「近隣の土地は高く売れた」
という情報だけで判断せず、現在の市場価格を確認します。
必要であれば、不動産会社に査定を依頼します。
重要なのは最高値を予想することではなく、
「現時点で売却可能なのか」
を確認することです。
査定の結果、
「通常の仲介では難しい」
「建物を解体しないと売却が難しい」
と分かるだけでも、生前対策を考えるきっかけになります。
④ 年間いくらの収入・支出があるのか
収益物件であれば家賃収入があります。
一方で、
固定資産税
管理費
修繕費
保険料
草刈り等の管理費
なども発生します。
単に「家賃が入っている」というだけでなく、年間の収入から支出を差し引き、実際にどの程度の収益を生んでいるのか確認します。
利用していない不動産であれば、収入がゼロのまま毎年支出だけが発生している可能性があります。
⑤ 将来処分するためにいくら必要なのか
建物があれば解体費。
家財が残っていれば残置物撤去費。
境界が不明なら測量費。
土地の状態によっては造成や擁壁工事が必要になることもあります。
「今までいくら払ったか」ではなく、
「この不動産を最終的に手放すには、あといくら必要なのか」
という視点で考えます。
⑥ 売却や利用を妨げる問題がないか
価格以前に、売却や利用そのものを難しくする要因がないか確認します。
例えば、
接道状況
再建築の可否
市街化調整区域
農地法上の制約
境界
越境
共有
擁壁
他人の権利
などです。
すべてを自分で調査する必要はありません。
まずは、
「分かっていること」と「分からないこと」を整理する
だけでも十分です。
⑦ 相続した場合の税務上の評価を確認する
相続税評価と市場価値が異なる理由については、「不動産で相続税はなぜ下がる?」も参考になります。
最後に、相続が発生した場合にどの程度の相続税評価額になるのかを確認します。
ただし、前述したとおり、相続税評価額だけを見て「価値のある不動産」と判断してはいけません。
税務上の評価額・市場価格・処分後の手取り
をセットで見ることが重要です。
不動産の棚卸し表
所有する不動産ごとに、例えば次のように整理してみると分かりやすくなります。
不動産 | 誰が使う? | 売却価格 | 年間収支 | 処分費 | 問題点 | 家族の希望 |
自宅 | 配偶者 | 要確認 | マイナス | 要確認 | 特になし | 残したい |
賃貸アパート | 長男 | 要査定 | +300万円 | ― | 築年数 | 引継ぎ検討 |
地方の実家 | 誰も使わない | 300万円 | ▲10万円 | 300万円 | 老朽化 | 不要 |
山林 | 誰も使わない | 不明 | ▲2万円 | 不明 | 境界不明 | 不要 |
最初から正確な数字を出す必要はありません。
むしろ重要なのは、表の中に「わからないもの」がどれだけあるかを確認することです。
7.確認した不動産を「残す・売る・調べる」に分類する
棚卸しが終わったら、それぞれの不動産を大きく3つに分けてみます。
①「残す」不動産
例えば、
安定した収益を生んでいる
家族が利用する予定がある
立地が良く換金性も高い
家族自身が引き継ぎたいと考えている
といった不動産です。
「残す」と決めたら、次は、
誰に承継するか
借入金をどうするか
相続税はいくらになるか
共有にするか単独所有にするか
といった具体的な承継方法を検討します。
②「売る」ことを検討する不動産
例えば、
家族の利用予定がない
所有していても収益を生まない
毎年管理費が発生する
建物の老朽化が進んでいる
家族も引き継ぎを希望していない
といった不動産です。
もちろん、すぐに売却すべきとは限りません。
売却した場合の税金や手取り額、今後の活用可能性なども考える必要があります。
ただし、
「何となく持っている」だけであれば、生前売却を一度検討する価値があります。
③「調べる」不動産
実は、最も優先したいのがこのカテゴリーです。
いくらで売れるか分からない
現地を長年見ていない
境界が分からない
再建築できるか分からない
共有者が誰なのか整理できていない
山林の場所が正確に分からない
こうした不動産です。
情報が不足している状態では、
「残すべきか」
「売るべきか」
を判断すること自体ができません。

相続対策の第一歩は、すべての不動産を売却することではありません。
「よく分からないまま所有している不動産をなくすこと」
です。
これだけでも、将来子どもが突然調査しなければならない負担を大きく減らすことができます。
8.まとめ
相続対策というと、
「相続税はいくらになるのか」
「どうすれば評価額を下げられるのか」
「生前贈与をした方がよいのか」
といった税金の話が中心になりがちです。
もちろん、相続税対策は重要です。
しかし、相続税が少なければ、それだけで良い相続になるわけではありません。
家族にとって本当に重要なのは、
どの資産を、どのような状態で引き継ぐか
です。
まずは、所有している不動産を一度すべて書き出してみてください。
そして、それぞれについて、
誰が使うのか
子どもは本当に欲しいのか
今ならいくらで売れるのか
年間いくらの収入と支出があるのか
手放すためにいくらかかるのか
売却や利用を妨げる問題はないか
相続した場合の税務上の評価はいくらか
を確認してみましょう。
その結果、
「この土地について一度調べておこう」
「この実家は自分の代で売却した方がいいかもしれない」
「この収益物件は長男に残す方向で考えよう」
と判断できれば、それだけでも相続対策は大きく前進しています。
相続税を減らすことだけが相続対策ではありません。
親にとっての「資産」が、子どもにとっても本当に「資産」なのか。
この視点から一度所有不動産を見直してみることをおすすめします。
アポロ税理士法人では、不動産オーナー・地主の方について、単に相続税額を計算するだけではなく、不動産の保有状況や収益性、将来の売却・承継なども踏まえてご相談をお受けしています。
「所有している不動産を一度整理してみたい」
「子どもに何を残すべきか分からない」
「相続税評価と実際の不動産価値を整理したい」
という方は、お気軽にご相談ください。
参考資料

監修者
志田 宏樹
公認会計士・税理士・宅地建物取引士
監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。
専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継
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