相続の基本と全体像|手続・相続税・遺産分割・生前対策をわかりやすく解説
- 8月11日
- 読了時間: 15分

相続は、何から考えればよいのでしょうか
相続について考えようとしても、税金、遺産分割、不動産、名義変更など、確認すべきことが多くあります。
「相続税がかかるのか知りたい」
「不動産を誰に引き継がせればよいのか分からない」
「家族でもめないように、今から準備しておきたい」
このような不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
相続では、相続税だけでなく、財産の分け方や納税資金、その後の不動産管理まで含めて考えることが大切です。
この記事では、相続で整理すべきことを順番に、できるだけわかりやすく解説します。
1.相続では、まず5つのことを整理しましょう
相続の問題は、大きく次の5つに分けて考えると整理しやすくなります。
1-1.誰が相続人になるのか
配偶者、子ども、親、兄弟姉妹など、家族構成によって相続人になる人は異なります。
まずは、誰が相続に関係するのかを確認することが出発点です。
1-2.どのような財産・債務があるのか
預貯金や不動産だけでなく、上場・非上場株式、貸付金なども相続財産になります。
生命保険金など、亡くなった方が直接所有していた財産ではなくても、相続税の計算に関係するものがあるため、あわせて確認します。一方で、遺産総額から差し引ける借入金や未払金などの債務、葬儀費用も確認します。
1-3.誰が何を引き継ぐのか
財産を把握した後は、誰がどの財産を取得するのかを考えます。
特に不動産は均等に分けにくいため、金額だけでなく、管理や収益性も含めて誰が相続するのか検討する必要があります。
1-4.相続税はいくらかかるのか
財産や債務を整理したうえで、相続税がかかるか、いくらくらいになるかを試算します。
ご自身で試算することが難しい場合は、税理士等の専門家に依頼してみましょう。
1-5.相続税をどうやって支払うのか
相続税は、原則として現金で支払います。
財産の多くが不動産の場合には、税額だけでなく、支払うための現預金があるかも確認しておくことが大切です。
2.相続が始まったら、いつまでに何をすればよい?
相続が始まった後は、葬儀や役所への届出を進めながら、財産や借入金を調べ、期限のある相続手続にも対応していく必要があります。
すべてを一度に終わらせる必要はありません。まずは期限の近いものから、順番に進めていきましょう。
2-1.相続開始直後|葬儀の手配と遺言書の確認を行う
亡くなった直後は、医師から死亡診断書を受け取り、葬儀社への連絡や葬儀・火葬の手配を行います。
あわせて、遺言書が残されていないかを確認します。
自宅で自筆証書遺言を見つけた場合は、勝手に開封せず、家庭裁判所での検認が必要かを確認しましょう。公正証書遺言や、法務局の遺言書保管制度を利用した遺言書は、原則として検認が不要です。
葬儀費用のうち一定のものは、相続税の計算上、相続財産から差し引ける場合があります。領収書や支払内容が分かる資料は保管しておきましょう。
2-2.7日以内|死亡届と火葬許可の手続を行う
死亡届は、原則として死亡の事実を知った日から7日以内に、市区町村へ提出します。
通常は葬儀社が提出を代行することも多いですが、誰が手続を行うのか確認しておきましょう。
死亡届の提出時には、火葬許可の申請も行います。
死亡診断書は、その後の保険金請求や各種手続で必要になることがあるため、提出前にコピーを取っておくと安心です。
2-3.14日以内を目安に|年金・健康保険などの手続を行う
亡くなった方の状況に応じて、次のような手続を行います。
世帯主変更届
国民健康保険や後期高齢者医療制度の資格喪失手続
介護保険証の返却
年金に関する手続
勤務先や健康保険組合への連絡
公共料金や各種契約の名義変更・解約
必要な手続や期限は、加入していた制度や自治体によって異なります。
未支給年金、葬祭費、埋葬料などを請求できる場合もあるため、市区町村、年金事務所、勤務先などへ確認しましょう。
2-4.3か月以内|相続人と財産を調べ、相続放棄などを検討する
相続放棄や限定承認の期限は、原則として、自分のために相続が始まったことを知った日から3か月以内です。
そのため、この期限までに、少なくとも次の内容を確認する必要があります。
誰が相続人になるのか
どのような預貯金や不動産があるのか
借入金や保証債務がないか
遺言書が残されていないか
相続するか、相続放棄するか
借入金などの債務が多い場合や、財産と債務のどちらが多いか分からない場合は、早めに専門家へ相談しましょう。
財産調査が3か月以内に終わらない場合は、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる方法もあります。
2-5.4か月以内|準確定申告を行う
亡くなった方に所得税の確定申告が必要だった場合は、相続人が代わりに準確定申告を行います。
準確定申告の期限は、原則として、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。
例えば、亡くなった方に次のような所得があった場合は、申告が必要になる可能性があります。
個人事業の所得
賃貸不動産の所得
不動産や株式の売却所得
一定額以上の給与や年金
準確定申告では、亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得を計算します。
2-6.事業や賃貸不動産を引き継ぐ場合|青色申告の申請を確認する
亡くなった方が個人事業や賃貸経営をしており、相続人がその事業を引き継ぐ場合は、青色申告の承認が自動的に引き継がれるわけではありません。
引き続き青色申告を利用したい相続人は、自分の名義で「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
亡くなった方が青色申告をしていた場合の期限は、死亡日によって次のように異なります。
1月1日から8月31日までに死亡した場合:死亡の日から4か月以内
9月1日から10月31日までに死亡した場合:その年の12月31日まで
11月1日から12月31日までに死亡した場合:翌年2月15日まで
亡くなった方が白色申告者であった場合などは、原則として、その年の3月15日までに申請します。ただし、その年の1月16日以後に新たに事業や不動産の貸付けを開始した場合は、開始日から2か月以内です。
賃貸不動産を引き継ぐ方は、準確定申告だけでなく、相続人自身の今後の申告方法もあわせて確認しましょう。
2-7.10か月以内|遺産分割・相続税申告・納税を行う
相続税の申告と納税の期限は、原則として、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
それまでに、次の作業を進める必要があります。
相続人を確定する
財産と債務を調査する
不動産や非上場株式を評価する
相続税額を試算する
誰が何を引き継ぐか話し合う
必要に応じて遺産分割協議書を作成する
相続税申告書を作成する
納税資金を準備する
遺産分割の話し合いが終わっていなくても、相続税の申告期限が自動的に延びるわけではありません。
不動産が多い場合や、相続人が複数いる場合は、早めに準備を始めることが大切です。
2-8.3年以内|不動産の相続登記を行う
土地や建物を相続した場合は、法務局で相続登記を行います。
原則として、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。
相続税の申告とは別の手続です。
遺産分割がまとまらず、期限内に通常の相続登記ができない場合は、相続人申告登記を利用できる可能性があります。放置せず、司法書士や法務局へ相談しましょう。

3.相続財産と債務を確認しましょう
相続税がかかるかどうかを確認するには、まず財産と債務の全体を把握する必要があります。
3-1.相続税の対象になる主な財産
相続財産には、主に次のようなものがあります。
預貯金
株式や投資信託
土地・建物
賃貸不動産
上場・非上場会社の株式
貴金属や自動車
他人や会社に対する貸付金
3-2.生命保険金なども相続税の対象になることがある
生命保険金や死亡退職金は、亡くなった方が直接所有していた財産ではありません。
ただし、生命保険金は、保険料を負担した人と受取人の関係によって、相続税、所得税、贈与税のいずれかの対象になることがあります。
亡くなった方が保険料を負担し、相続人が受け取る生命保険金は、原則として相続税の対象です。この場合、一定の非課税枠が設けられています。
死亡退職金についても、一定の要件を満たす場合は相続税の対象になります。
3-3.借入金など、財産から差し引けるものもある
亡くなった方の借入金、未払医療費、未払税金、葬儀費用などは、一定の要件を満たせば相続財産から差し引けます。
一方、亡くなった方が生前に購入したお墓の未払代金など、一定の非課税財産の取得・維持・管理に関する債務は、債務控除の対象にならないので注意が必要です。
3-4.名義預金など、見落としやすい財産に注意する
家族名義の預金であっても、実際には亡くなった方が資金を出し、管理していた場合には、相続財産と判断されることがあります。
名義だけでなく、誰が資金を出し、誰が管理していたかを確認することが重要です。
3-5.生前贈与を受けた財産も確認する
相続税の計算では、亡くなった時点で所有していた財産だけでなく、生前に贈与された財産が加算されることがあります。
対象となる可能性があるのは、相続時精算課税を利用した贈与や、相続開始前の一定期間内に行われた暦年贈与などです。
加算対象となる期間や金額は、贈与した時期と相続開始日によって異なります。過去の贈与契約書、贈与税申告書、預金の移動履歴なども確認しましょう。
4.相続税がかかるか確認しましょう
すべての相続で、相続税がかかるわけではありません。
まずは、財産から債務などを差し引いた金額が、相続税の基礎控除を超えるかを確認します。
4-1.相続税の基礎控除とは
相続税には、一定額までは税金がかからない「基礎控除」があります。
基礎控除は、法定相続人の人数によって変わります。
基礎控除額=3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
正味の遺産額が基礎控除以内であれば相続税はかかりません。
4-2.相続税はどのように計算するのか
相続税は、単純に各相続人が受け取った財産に税率を掛けて計算するわけではありません。
まず相続財産全体を基に相続税の総額を計算し、その後、実際の取得割合に応じて各相続人へ振り分けます。
4-3.税額がゼロでも申告が必要な場合がある
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使うことで、最終的な相続税がゼロになる場合があります。
ただし、これらの制度を使うためには、相続税申告が必要となるため注意しましょう。
5.財産をどのように分けるか考えましょう
相続税を減らすことと、家族が納得できる分け方は、必ずしも同じではありません。
税金だけでなく、財産を引き継いだ後の管理や家族関係まで考えて決めることが大切です。
5-1.法定相続分どおりに分ける必要はない
民法には法定相続分が定められていますが、相続人全員が合意すれば、異なる割合で分けることもできます。
5-2.遺言書がある場合の分け方
遺言書がある場合には、原則として遺言の内容に沿って財産を分けます。
ただし、遺言書の形式や内容によっては、そのまま実行できないこともあります。
5-3.遺留分にも注意する
一部の相続人には、最低限受け取ることができる遺留分があります。
特定の相続人に財産を集中させる場合には、他の相続人の遺留分も確認しておく必要があります。
5-4.現物分割・代償分割・換価分割を比較する
遺産分割には、主に次の方法があります。
財産をそのまま分ける現物分割
特定の相続人が財産を取得し、他の相続人へお金を支払う代償分割
財産を売却して代金を分ける換価分割
財産の内容や家族の希望に応じて、適した方法を選びましょう。
6.不動産を相続するときに確認したいこと
不動産は、預貯金のように簡単に分けることができません。
また、相続税評価額だけでなく、収益性、修繕費、借入返済、将来の売却可能性も確認する必要があります。
6-1.市場価格と相続税評価額は同じではない
不動産の相続税評価額は、原則として市場価格、つまり実際の売買価格ではなく、相続税上の評価方法に基づいて計算します。
そのため、物件の所在地や利用状況によっては、1億円で購入した不動産が、相続税の計算上では6千万円程度で評価されることもあり得るのです。
6-2.賃貸不動産は評価方法が異なる
第三者に貸している建物は「貸家」、その敷地は「貸家建付地」として、相続税評価額が下がることがあります。
ただし、相続開始時点の賃貸状況、空室の状態、契約内容によって取扱いが変わるため、注意が必要です。
6-3.土地の形状や利用状況によって評価が変わる
土地は、面積と路線価だけで評価が決まるわけではありません。
実際は形状、間口、奥行、道路との関係、周辺環境などによって評価が変わる場合がありますので注意が必要です。
6-4.不動産の共有名義には注意する
不動産を複数の相続人で共有すると、将来の売却、建替え、大規模修繕などで意見を合わせる必要があります。
平等に見えても、将来の管理が難しくなるケースがあるため、不動産の共有は慎重に判断しましょう。
6-5.収益性・修繕費・借入返済も確認する
相続対象の不動産に空室が多い、修繕費がかかる、借入返済が重いといった問題があれば、引き継ぐ人の負担になります。
相続税評価だけでなく、相続後の収支も確認することが大切です。
6-6.相続直前の不動産取得には注意する
相続税を減らす目的で不動産を購入しても、購入時期や取引内容によっては、通常の評価方法が認められない可能性があります。
節税効果だけで判断せず、不動産としての収益性や資金負担も含めて検討しましょう。
7.相続税をどう支払うか確認しましょう
相続税は、原則として申告期限までに現金で一括して支払います。
そのため、相続税額を試算するときは、税額だけでなく、支払える現預金があるかも確認する必要があります。
7-1.預貯金から支払う
最も基本的な方法です。
ただし、亡くなった方の預貯金を誰が相続するかによって、各相続人が納税できるかどうかが変わります。
7-2.生命保険を活用する
生命保険金は、受取人固有の財産として比較的早く受け取れるため、納税資金として活用しやすい特徴があります。
7-3.金融機関からの借入れを検討する
不動産をすぐに売却したくない場合には、金融機関から納税資金を借りる方法もあります。
まずは既存の取引金融機関に相談し、相続税の納税資金や代償分割金に対応した融資の取扱いがあるか確認しましょう。
7-4.延納や物納を検討する
一定の要件を満たす場合には、相続税を分割して支払う延納や、財産そのもので納める物納を利用できることがあります。
ただし、要件が厳しく、すべてのケースで利用できるわけではないので、税務署や顧問税理士等に相談してみるのが良いでしょう。
7-5.代償金の支払資金も確認する
不動産を取得した相続人が、他の相続人へ代償金を支払う場合には、その資金も必要です。
相続税だけでなく、遺産分割のために必要なお金も含めて準備しましょう。
8.相続が始まる前にできること
相続対策というと、税金を減らすことを思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、実際には、財産を整理し、家族の希望を確認し、相続後に困らない形を作っておくことが重要です。
8-1.財産目録を作成し、相続税額を試算する
まずは、財産と債務を一覧にします。
完璧な資料を作る必要はありません。預貯金、不動産、保険、株式、借入金などを大まかに整理するだけでも、課題が見えやすくなります。
8-2.遺言書を作成する
不動産が多い場合や、特定の人に引き継いでもらいたい財産がある場合には、遺言書が有効です。遺言書には、自筆証書遺言や公正証書遺言などがあります。公正証書遺言は、公証人が本人の意思を確認したうえで作成します。
遺言書の作成や相続登記については司法書士に、遺産分割や遺留分などの法的な問題については弁護士に、相続税への影響については税理士に相談しながら進めると安心です。
8-3.生前贈与や生命保険を検討する
生前贈与や生命保険は、相続税や納税資金の対策として利用されます。
ただし、将来の生活資金や税制上の取扱いも含めて検討する必要があります。
8-4.不動産の保有状況を整理する
利用していない土地、収益性の低い物件、修繕負担の大きい建物などがある場合には、相続前に整理することも選択肢です。相続税の圧縮のみにとらわれず引き継ぐ方のことも考慮しましょう。
8-5.家族信託などで認知症に備える
認知症などにより判断能力が低下すると、不動産の売却や大規模修繕が難しくなることがあります。
家族信託などを利用して、将来の財産管理に備える方法があります。
8-6.家族で相続の方針を話し合う
相続について家族で話すことは、簡単ではありません。
すべてを一度に決めるのではなく、「どの財産を残したいか」「誰に管理してほしいか」など、話しやすい内容から始めるとよいでしょう。
9.専門家に相談した方がよいのはどのような場合?
相続について、すべてを自分たちだけで決める必要はありません。
次のような場合には、相続税の計算だけでなく、遺産分割、納税資金、不動産の承継方法まで含めて、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
不動産を複数所有している
相続人が複数いる
財産の大部分が不動産である
納税に使える現預金が少ない
借入金や担保設定がある
非上場会社の株式を保有している
相続人同士の関係に不安がある
本人の認知症や判断能力の低下に備えたい
何を相談すればよいか分からない場合でも、まず財産の概要や家族構成を整理するところから相談できます。
10.まとめ
相続では、相続税の金額だけを確認すればよいわけではありません。
相続開始後の手続と期限を把握する
財産と債務を整理し、誰が何を引き継ぐかを考える
不動産の管理や収益性、納税資金まで含めて検討する
これらを別々に考えるのではなく、相続全体を見ながら一緒に整理することが大切です。
特に、不動産が多い場合や相続人が複数いる場合には、相続が発生してからでは選べる方法が限られることがあります。
最初から完璧な対策をする必要はありません。まずは、所有している財産と借入金を一覧にするところから始めてみましょう。



