相続直前に建てたアパートは小規模宅地等の特例を使える?3年ルールと建替えの違いを解説
更新日:3 日前

「相続税対策として、今のうちにアパートを建てておきましょう」
不動産オーナーや地主の方は、建築会社や金融機関などから、このような提案を受けることがあります。
たしかに、賃貸アパートの敷地は、一定の要件を満たすと「小規模宅地等の特例」を利用できる可能性があります。
この特例を使うと、対象となる土地について、最大200㎡まで相続税評価額を50%減額できます。
しかし、亡くなる直前にアパートを建てれば、必ず特例を使えるわけではありません。
特に注意したいのが、相続前3年以内に新たに賃貸を始めた土地を、原則として特例の対象から外す「3年ルール」です。
この記事では、相続直前に建てたアパートについて、小規模宅地等の特例を使えるケースと使えないケースを、税務知識のない方にも分かるように解説します。
目次
1.結論|相続直前の新築アパートは原則対象外。ただし例外もある
結論からお伝えすると、更地などに初めてアパートを建て、相続前3年以内に賃貸を始めた場合、その土地は原則として小規模宅地等の特例の対象になりません。
一方、次のような場合には、相続直前に建てたアパートでも特例を使える可能性があります。
・以前から一定規模の不動産賃貸業を3年を超えて続けていた
・以前から賃貸していたアパートを建て替えた
・既存アパートの一部が一時的に空室になっていた
大まかな考え方は、次のとおりです。
【更地に初めてアパートを建て、相続前3年以内に賃貸を開始した】
原則として特例の対象外です。
【新築アパートが建築中で、まだ賃貸を始めていない】
原則として特例の対象外です。
【建物は完成したが、入居者を募集しているだけ】
原則として特例の対象外です。
【一定規模の賃貸業を3年超続け、その事業の一環としてアパートを新築した】
3年ルールの例外となる可能性があります。
【長年賃貸していたアパートを建て替えている】
賃貸事業の継続性が認められれば、特例を使える可能性があります。
重要なのは、「亡くなる何年前に建物を建てたか」だけではありません。
その土地をいつから実際に貸付事業に使っていたのか、以前からどの程度の規模で賃貸業を行っていたのか、更地への新築なのか既存アパートの建替えなのかによって結論が変わります。
2.アパートの土地に使える小規模宅地等の特例とは
貸付事業用宅地等を含む制度全体については、「小規模宅地等の特例とは?」をご確認ください。
賃貸アパートや賃貸マンションの敷地は、一定の要件を満たすと「貸付事業用宅地等」に該当します。
貸付事業用宅地等について小規模宅地等の特例を適用すると、最大200㎡まで、相続税評価額を50%減額できます。
例えば、特例を適用する前の土地評価額が6,000万円で、その土地全体が特例の対象になる場合、評価額を3,000万円まで減額できる可能性があります。
ただし、土地の評価額が50%になるのであって、相続税の納税額がそのまま50%になるわけではありません。
実際に減少する相続税額は、相続財産の総額、相続人の人数、他の土地に適用する特例などによって変わります。
2-1.貸家建付地の評価とは別の制度
ここで注意したいのが、「貸家建付地の評価」と「小規模宅地等の特例」は別の制度だということです。
アパートの敷地については、一般的に次の順番で評価します。
1.入居者の権利による利用制限を反映し、貸家建付地として評価する
2.小規模宅地等の特例の要件を満たす場合は、対象部分をさらに50%減額する
貸家建付地とは、土地所有者が建てたアパートなどを他人に貸している場合における、その建物の敷地をいいます。
したがって、貸家建付地として評価できたからといって、小規模宅地等の特例も必ず使えるわけではありません。
反対に、小規模宅地等の特例を使えなくても、実際に建物が賃貸されていれば、貸家建付地として評価できる可能性はあります。
本記事では、後者の「小規模宅地等の特例」に絞って解説します。
3.相続前3年以内に賃貸を始めた土地は原則として対象外
2027年からの貸付用不動産の相続税評価見直しとは別の制度です。改正内容については、「貸付用不動産の相続税評価が2027年から見直しへ」で整理しています。
貸付事業用宅地等に該当するためには、原則として、相続開始の直前にその土地が貸付事業のために使われている必要があります。
さらに、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された土地は、「3年以内貸付宅地等」として、原則として特例の対象から除外されます。
これは、相続が近づいてから急いで土地を賃貸したり、賃貸物件を建てたりして、小規模宅地等の特例だけを利用する対策を制限するためのルールです。
3-1.「建てた日」ではなく「貸付事業に使い始めた時期」が重要
3年ルールを判断するときは、アパートの建築請負契約を締結した日や、工事を始めた日だけを見るわけではありません。
重要なのは、その土地がいつから現実に貸付事業の用に供されていたかです。
アパート建築から相続までは、一般的に次のように進みます。
建築契約
↓
工事着工
↓
建物完成
↓
入居者募集
↓
貸付事業に使用開始
↓
相続発生
建築契約や工事着工が相続の3年以上前であっても、実際に貸付事業に使い始めたのが相続前3年以内であれば、3年ルールに該当する可能性があります。
そのため、「アパートを建てたのは何年前か」だけでは、特例を使えるかどうかを正確に判断できません。

3-2.建築中や入居者募集中では原則として足りない
新たに貸付事業の用に供するアパートを建築している途中で相続が発生した場合、その土地は原則として、まだ貸付事業の用に供されていたとはいえません。
建物が完成していても、新しい入居者を募集しているだけなど、貸付事業を始めるための準備行為しか行われていない場合も同様です。
国税庁の通達でも、新たな貸付用建物を建築中である場合や、新たに建築した建物について賃借人の募集などの準備行為をしているにすぎない場合、その土地は貸付事業の用に供されていた宅地等には該当しないとされています。
つまり、次のような状態だけでは不十分です。
・建築請負契約を締結した
・アパートの建築工事が始まった
・建物が完成した
・管理会社と管理委託契約を結んだ
・不動産ポータルサイトに物件を掲載した
・入居者を募集している
実際に貸付事業を始めた時期については、賃貸借契約、建物や鍵の引渡し、賃料の発生状況などを踏まえて判断する必要があります。
4.3年以内でも特例を使える可能性がある例外
相続前3年以内に新たに賃貸を始めた場合でも、例外的に特例を使えることがあります。
被相続人が相続開始の日まで3年を超えて「特定貸付事業」を続けており、新しいアパートもその特定貸付事業の用に供されていた場合です。
この場合、新しいアパートの土地は「3年以内貸付宅地等」に該当せず、他の要件を満たせば特例の対象になる可能性があります。
4-1.特定貸付事業とは
特定貸付事業とは、分かりやすくいうと、社会通念上「事業」といえる規模で行われている不動産賃貸業です。
アパートやマンションなどの建物を貸している場合、所得税の取扱いでは、次のいずれかに該当すると、原則として事業として行われているものと取り扱われます。
・アパートや貸室がおおむね10室以上
・独立した戸建て住宅がおおむね5棟以上
一般に「5棟10室基準」と呼ばれる目安です。
ただし、10室や5棟という数字だけですべてのケースが自動的に決まるわけではありません。
最終的には、物件の数、賃料収入、管理状況、貸付けの継続性などを踏まえ、社会通念上、事業といえる規模かどうかを判断します。
4-2.5棟10室未満でも、以前から貸していた土地は対象になる可能性がある
ここは混同しやすいポイントです。
小規模宅地等の特例を使うために、すべての不動産賃貸業が5棟10室以上でなければならないわけではありません。
事業的規模に満たない小規模な貸付けでも、相当の対価を得て継続的に行われていれば、貸付事業に含まれる可能性があります。
また、相続開始前3年を超えて引き続き貸付事業に使われていた土地は、特定貸付事業に当たらない小規模な賃貸であっても、他の要件を満たせば貸付事業用宅地等に該当します。
ただし、相続前3年以内に新たに追加したアパートの土地について、3年ルールの例外を受けるためには、以前から特定貸付事業を3年を超えて続けていたことが必要です。
例えば、6室のアパートを5年間賃貸していた人が、相続の1年前に新たに6室のアパートを建てたとします。
新しいアパートを含めれば合計12室ですが、以前から行っていた6室の貸付けが特定貸付事業に該当しなければ、新しいアパートの土地について3年ルールの例外を利用できない可能性があります。
一方、以前から12室のアパートを10年間経営していた人が、その事業の一環として相続の1年前に別のアパートを追加した場合には、新しいアパートの土地についても例外の対象になる可能性があります。
5.更地への新築と既存アパートの建替えは取扱いが異なる
「相続直前に建てたアパート」といっても、次の2つは分けて考える必要があります。
・これまで貸していなかった土地に、初めてアパートを建てた
・長年賃貸していたアパートを取り壊し、新しいアパートに建て替えた
同じ「新築アパート」でも、税務上の考え方は異なります。

5-1.更地への新築は新たな貸付事業として判断する
更地、自宅の敷地、資材置場など、これまで貸付事業に使っていなかった土地にアパートを建てた場合は、その土地を新たに貸付事業の用に供したことになります。
したがって、実際に貸付事業に使い始めてから相続まで3年を超えていなければ、原則として3年ルールの対象です。
建築を決めた時期や着工時期が相続の3年以上前であっても、貸付事業への使用開始が相続前3年以内であれば注意が必要です。
5-2.既存アパートの建替えは、賃貸事業の継続と認められることがある
以前から継続的に賃貸していたアパートを取り壊し、新しいアパートに建て替えた場合は、更地への新築と同じ取扱いになるとは限りません。
国税庁の通達では、継続的に賃貸していた建物を建て替え、建替え後速やかに入居者を募集して実際に賃貸した場合などは、その土地を新たに貸付事業の用に供した時期を、建替え前の賃貸開始時期として取り扱うことが示されています。
つまり、建替えによって一時的に賃貸できない期間があっても、直ちに賃貸事業が途切れたとは判断されません。
ただし、次のような事実を確認する必要があります。
・建替え前のアパートが継続的に賃貸されていた
・建替え後、速やかに入居者を募集した
・建替え後の建物を自宅など別の用途に使っていない
・建替え後、実際に賃貸した
5-3.建替え工事中に相続が発生した場合
既存アパートの建替え工事中に相続が発生した場合でも、一定の条件を満たせば、貸付事業用の土地として取り扱われる可能性があります。
例えば、建替え前から賃貸事業を行っており、相続開始時の工事や募集準備の状況から、完成後速やかに賃貸事業を再開することが確実と認められるケースです。
国税庁の通達では、事業用建物の建替え中に相続が発生した場合でも、事業再開の準備状況などから、建物を速やかに事業の用に供することが確実であると認められるときは、事業用宅地等として取り扱う考え方が示されています。
ただし、単に「将来は賃貸する予定だった」というだけでは十分とはいえません。
建替え前の賃貸実績、建築請負契約、工事の進捗状況、完成後の募集計画などから、賃貸事業の継続性を説明できることが重要です。
また、建替えに合わせて敷地を拡張した場合、建替え前のアパート敷地に含まれていなかった部分は、新たに貸付事業に使い始めた土地として、別に3年ルールを判定する必要があります。
6.ケース別|相続直前に建てたアパートの特例判定
ここまでの内容を、具体的なケースに当てはめてみましょう。

6-1.初めてアパートを建て、相続の1年前から賃貸していたケース
父は、これまで更地だった土地にアパートを建て、相続の1年前から賃貸を始めました。
父は、それまで不動産賃貸業を行っていませんでした。
この場合、その土地を貸付事業の用に供してから3年を超えていないため、原則として小規模宅地等の特例は使えません。
実際に入居者がいて賃料を受け取っていたとしても、3年ルールは別に判定される点に注意が必要です。
6-2.以前から6室のアパートを所有し、新しいアパートを追加したケース
父は6室のアパートを5年間経営しており、相続の1年前に新たに6室のアパートを建てました。
新しいアパートを含めれば合計12室になります。
しかし、以前から行っていた6室の貸付けが特定貸付事業に該当しなければ、新しいアパートについて3年ルールの例外を利用できない可能性があります。
既存アパートの土地と、新しく建てたアパートの土地は、それぞれ分けて判定する必要があります。
6-3.以前から12室のアパートを10年間経営していたケース
父は12室のアパートを10年間経営しており、その事業の一環として、相続の1年前に別のアパートを建てました。
以前から特定貸付事業を3年を超えて継続していたと認められ、新しいアパートもその事業の用に供されていれば、新しいアパートの土地についても3年ルールの例外を利用できる可能性があります。
ただし、相続時に新しいアパートが現実に貸付事業に使われていたことなど、他の要件も確認しなければなりません。
6-4.アパートは完成していたが、入居者募集中だったケース
父はアパートを完成させ、管理会社を通じて入居者を募集していましたが、入居者が決まる前に亡くなりました。
新たに建築したアパートについては、入居者の募集などの準備行為をしているだけでは、原則として貸付事業の用に供されていたとは認められません。
したがって、原則として小規模宅地等の特例は使えません。
6-5.長年賃貸していたアパートの建替え中だったケース
父は20年間賃貸していたアパートを取り壊し、新しいアパートへの建替え工事を行っている途中で亡くなりました。
建替え前から賃貸事業を継続しており、工事や募集準備の状況から、完成後速やかに賃貸を再開することが確実であったと認められれば、特例を使える可能性があります。
更地に初めてアパートを建てるケースとは分けて判断します。
6-6.既存アパートの一部が一時的に空室だったケース
長年賃貸しているアパートの一室から、相続直前に入居者が退去したとします。
退去後すぐに不動産会社を通じて新しい入居者を募集し、いつでも入居できる状態で管理していた場合は、一時的な空室として、貸付事業が継続していると認められることがあります。
国税庁も、相続直前に空室となった部屋について、速やかに入居者を募集し、いつでも入居できる状態で管理していれば、貸付事業の用に供されているものとして取り扱う考え方を示しています。
一方、新築後に一度も賃貸されていない部屋について、単に入居者を募集しているケースとは取扱いが異なります。
「空室でも募集していれば大丈夫」と一律に判断しないことが大切です。
7.相続後に満たすべき要件と残しておきたい資料
相続開始時に貸付事業用宅地等に該当していても、それだけで小規模宅地等の特例を使えるわけではありません。
相続後の要件や申告手続も確認する必要があります。
7-1.相続人が満たすべき要件
被相続人が行っていた貸付事業用の土地について特例を利用する場合、原則として、その土地を取得した相続人が次の要件を満たさなければなりません。
・相続税の申告期限までに貸付事業を引き継ぐ
・相続税の申告期限まで貸付事業を続ける
・相続税の申告期限まで土地を保有する
相続後すぐに賃貸事業をやめたり、土地を売却したりすると、特例を利用できなくなる可能性があります。
また、特例を利用するためには、相続税申告書に小規模宅地等に係る計算明細書など、一定の書類を添付する必要があります。
原則として、相続税の申告期限までに対象となる土地が分割され、どの相続人が取得するのか決まっていることも必要です。
7-2.以前からの賃貸業の規模を確認する資料
3年ルールの例外を検討する場合は、以前から特定貸付事業を行っていたことを確認できる資料が重要です。
例えば、次のような資料が考えられます。
・過去の所得税確定申告書
・青色申告決算書または収支内訳書
・所有物件の一覧
・入居者や賃料の一覧
・管理会社からの月次報告書
・家賃の入金記録
7-3.新築アパートの貸付開始時期を確認する資料
いつから実際に貸付事業を始めたのかを確認するため、次の資料を整理します。
・建築請負契約書
・建物の引渡書
・賃貸借契約書
・管理委託契約書
・入居者への鍵の引渡記録
・賃料の請求書
・家賃の入金記録
・入居者募集を開始した時期が分かる資料
賃貸借契約書の日付だけで判断するのではなく、実際の引渡しや賃料発生の状況も含めて確認することが大切です。
7-4.建替えの継続性を確認する資料
既存アパートの建替えについては、建替え前後の賃貸事業が継続していることを説明できる資料を残します。
・建替え前の賃貸借契約書
・建替え前の家賃入金記録
・入居者の退去や立退きに関する資料
・解体工事の契約書
・建築請負契約書
・工事工程表
・完成後の入居者募集計画
・管理会社との打合せ記録
これらの資料がすべて申告書への添付を義務付けられているわけではありません。
ただし、相続後に税務署から「いつから貸していたのか」「本当に賃貸事業が継続していたのか」と確認された場合に、事実関係を説明するための重要な資料になります。
8.まとめ
相続直前に建てたアパートについて、小規模宅地等の特例を使えるかどうかは、建物の完成日だけでは決まりません。
確認すべきポイントは、主に次の4つです。
1.その土地を実際に貸付事業に使い始めたのはいつか
2.貸付開始から相続まで3年を超えているか
3.以前から特定貸付事業を3年を超えて続けていたか
4.更地への新築なのか、既存アパートの建替えなのか
更地に初めてアパートを建てる場合は、建物が完成していても、入居者を募集しているだけでは特例を使えない可能性があります。
実際に賃貸を開始していた場合でも、相続前3年以内に新たに貸付事業に使い始めた土地は、原則として特例の対象外です。
一方、以前から一定規模の不動産賃貸業を3年を超えて行っていた場合や、既存アパートの建替えである場合には、相続直前の建築でも特例を使えることがあります。
アパート建築には、数千万円から数億円の資金が必要になることもあります。
「アパートを建てれば土地評価が50%下がる」と考えて計画を進めるのではなく、建築契約を結ぶ前に、次の点を具体的に確認することが大切です。
・特例を使える時期はいつからか
・3年ルールの例外に該当するか
・建替えとして事業の継続性を説明できるか
・特例を使えない場合、相続税はいくらになるか
・建築費や借入金を含めても、対策として合理的か
アパート建築を行った後に相続が発生してから、特例を使えないことが判明しても、建築前の状態には戻せません。
相続税対策としてアパート建築を検討している場合は、建築会社との契約前に、相続税と不動産の両方に詳しい税理士へ相談することをおすすめします。
出典

監修者
志田 宏樹
公認会計士・税理士・宅地建物取引士
監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。
専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継
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