修繕費と資本的支出の違いとは?不動産オーナーが迷わない判断基準と事例解説
- infoapollo
- 9月7日
- 読了時間: 7分
更新日:9月14日
はじめに
不動産投資において「修繕費」と「資本的支出」の区分は、節税効果を大きく左右します。
修繕費はその年の必要経費(損金)として計上可能
資本的支出は建物・建物附属設備などに資産計上し、耐用年数に応じて減価償却
この区分を誤ると、税務調査で否認→過年度修正→追徴課税という事態になりかねません。区分は名目や金額ではなく実質で判定するのが原則です。

基本的な考え方(まずここを押さえる)
修繕費
壊れた箇所や老朽化した部分を元に戻すための工事費用。
(例:雨漏り修理、同等品への交換、原状回復工事)
資本的支出
建物の価値や使用可能期間(寿命)を実質的に伸ばす改良工事。
(例:間取り変更、耐震補強、省エネ(高効率)設備の新設・更新、グレードアップ改装)
ポイントは、「修繕」「改修」といった名目や金額の大きさではなく“実質”で判定することです。数百万円・数千万円の支出でも、価値・寿命を押し上げない単なる原状回復なら修繕費に該当し得ます。一方で少額でも性能向上・物理的付加・用途変更なら資本的支出となります(実質判定)。
国税庁が示す「修繕費と資本的支出の区分基準」
もっとも、すべてを個別に“実質”判定していては実務が煩雑で意思決定も遅れがちです。そこで国税庁は法人税基本通達において、修繕費と資本的支出の区分基準を示しています。以下、実務向けにフローチャート化した流れを示します。

判断基準1:20万円未満か
一つの修理・改良の金額が20万円未満なら、価値・耐久性を増す部分を含んでいても修繕費として処理することができます。
実務メモ:修繕費と資本的支出の「20万円」は税込?税抜?
会社が税込経理の場合は税込20万円で判定し、税抜経理の場合は税抜20万円で判定します。例えば税込218,900円を支出した場合、税込経理では資産計上(20万円以上)となりますが、税抜経理では税抜199,000円(消費税率10%の場合)で判断するので修繕費(20万円未満)とすることができます。そのほかの金額基準についての考え方も同様です。
判断基準2:周期がおおむね3年以内か
修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることがこれまでの実績、その他の事情からみて明らかな場合は、その支出額が20万円以上でも、価値や耐久性を増す部分を含んでいても修繕費として処理することができます。
詳細が分からないものについては、工事を担当する業者に問い合わせれば良いでしょう。また、実績として行われていなくても、3年以内の周期で行われることが一般的である場合には、周期の短い費用として構いません。
判断基準3:あきらかに価値を高めるもの又は耐久性を増すものか
物理的付加(避難階段の新設 等)
用途変更のための大改装(ブロックキッチンをシステムキッチンに変更 等)
通常を超える高性能品への入替(防音・断熱などの機能向上を目的としたクロスの張替え 等)
これらは、資本的支出として判断します。
判断基準4:維持管理・原状回復のための支出か
通常の維持管理(機能維持)や、毀損の原状回復(元の状態に戻す)は修繕費。ただし結果的に性能や耐久性が明確に上がるなら資本的支出となります。
判断基準5:60万円未満かまたは前期取得価額の10%以下か
その支出が「修繕費か資本的支出か明らかでないもの」は60万円未満であれば修繕費として経費計上できます。60万円以上でも、前期末取得価格の10%以下であれば、対象費用は修繕費として費用計上できます。そうでないものは資本的支出として判断します。
なお、前期末取得価格とは、前事業年度終了時の、その固定資産の取得価額のことです。購入額から、前年度までに行った資本的支出額を加算し、減損(注:減価償却額ではありません)している部分があればそれを減額します。
実務でよくある判断に迷うケース
外壁・屋根・共用部
【判断の目安】
施工後に性能(遮熱・防水・耐久)や交換価値(時価)が上がるかで判断します。単なる原状回復なら修繕費、機能・価値の上積みがあれば資本的支出です。
【修繕費になりやすい例】
・同等材でのクラック補修・再塗装(チョーキング対策)
・既存防水層の同等更新などの工事
【資本的支出になりやすい例】
・遮熱・断熱・超高耐候など明確な性能向上塗料への切り替え工事
・下地補強を伴う耐久性強化
・庇(ひさし)・手摺(てすり)・オートドア等の物理的付加工事
空室対策リノベ・退去時の原状回復工事
【判断の目安】
原状回復中心ならば修繕費です。用途・機能の実質改善は資本的支出となります。
【修繕費になりやすい例】
・クロス・床の張替え、壊れた建具の同等交換、原状回復契約に基づく補修等
・賃貸借契約の原状回復条項に沿う部分
【資本的支出になりやすい例】
・水回りのレイアウト変更や居室数の変更、収納・間仕切り新設など機能追加
・1Kを1LDKに変更する等の間取り変更工事(用途変更)
・和室を洋室に変える変更工事
設備の入替
【判断の目安】
同等グレードへの交換=修繕費(同等性は型番・仕様書で裏づけ)
高効率・高性能化=資本的支出(通常の取り換えの金額を超える部分)
【修繕費になりやすい例】
・既存と同等のパッケージエアコンへ取り換え工事
・蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り換えた費用
・老朽化した便器を従来と同様のものと交換する工事
【資本的支出になりやすい例】
・ブロックキッチンからシステムキッチンへの取り換え工事
・既存の浴室設備から高性能ユニットバスへの取り換え工事
・追い焚き機能がなかったガス給湯器から追い焚き機能付きオートバスへの変更工事
税務調査で争点になりやすいポイント
「修繕か資本的支出か」が混在・不明瞭な工事は狙われやすい。
一式請求や内訳不足のままだと、どこまでが原状回復(修繕)で、どこからが改良(資本)かを説明できない=否認リスクが跳ね上がります。実際に、誰に・何の目的で・どの部分の支出かが書類上明らかでない費用は、必要経費不算入と判断された事例があります。
「領収書だけ」は弱い——証拠主義の時代。
領収書の束=十分な説明ではありません。目的・相手・内容が帳簿や証憑で具体的に追えるかが問われ、裏付けに欠ける費用は必要経費に当たらないとされた裁決が複数あります。領収書だけではなく、見積書・仕様書・施工前後写真等で「原状回復(修繕)」か「改良(資本)」なのかを説明可能にしておくことが安心につながります。
不動産オーナーが今すぐできる対策5選
事前相談:着工前に「修繕 or 改良」を税理士と検討。
契約・見積書の区分:修繕部分/資本的支出部分を品目・数量・単価・仕様で明示。
証拠の整備:施工前後写真、劣化診断、同等交換の根拠(品番・カタログ)を保存。
少額・周期の活用:20万円・3年周期・60万円/10%の“判然としない部分”のルールを正しく適用。
まとめ工事は分解:請求書や明細書で内訳明示を依頼。
まとめ
修繕費=原状回復、資本的支出=価値・寿命UP(実質判断)
20万円、3年周期、60万円/10%ルールを活用すれば、経費化できる範囲が広がる
書類の整備と税理士への事前相談が不必要な追徴を防ぐ最善策
不動産オーナーにとって「修繕費と資本的支出の区分」は、節税の生命線です。工事のたびに「どちらになるのか?」を意識して処理しておくことで、調査時の安心感が大きく変わります。
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