top of page

不動産投資の減価償却とは?仕組み・計算方法・節税効果を解説

  • infoapollo
  • 9月6日
  • 読了時間: 8分

更新日:9月14日


1.減価償却は不動産投資の最大の武器

 不動産投資における節税の中心的な仕組みが「減価償却」です。現金の支出を伴わずに帳簿上は費用(損金)として計上できるため、所得税や住民税の負担を大きく軽減できます。ただし、耐用年数の設定や計算方法を誤ると、税務調査で否認されるリスクもあります。

 本記事では、減価償却の仕組みから計算方法、具体例、注意点まで「基礎編」として解説します。


2.減価償却とは?

 減価償却とは、建物や設備などの固定資産(=減価償却資産)を購入した際に、その全額を一度に経費にせず、一定の年数わたって少しずつ費用化していく仕組みのことです。

 一方、土地、借地権・地上権などは時の経過で価値が減らないとされ、減価償却の対象外(非償却資産)です。

土地と建物の減価償却の可否


3.計算方法のキホン:不動産は原則「定額法」

減価償却には定額法・定率法などがありますが、不動産では次のとおりです。

  • 建物:平成10年4月1日以後に取得した建物は定額法のみ。

  • 建物附属設備・構築物:平成28年4月1日以後取得分から定額法のみ(それ以前は定率法も選択可)。


【定額法の基本式】


減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率(≒ 1/耐用年数)



減価償却のイメージ図



4.取得価額の決め方(重要ポイント)

 不動産は土地と建物等を一括して購入するのが一般的です。よって、総額を土地・建物・建物附属設備に合理的に区分する必要があります。


  • 売買契約書等に内訳が明記されかつ不合理でなければ、そのまま採用可

  • 売買契約書等に内訳がない、または著しく不合理の疑いがあるときは、固定資産税評価額や鑑定評価額に基づいて按分


取得価額に関する実際の裁判例

  • 国税不服審判所(平成12年12月28日裁決)

     契約書に土地・建物の区分がない場合、固定資産税評価額等で合理的に按分する必要あり。さらに、建物は本体と附属設備に区分して取得価額を算定すべきと判断。

  • 大阪地裁(令和2年3月12日判決)

     借地権付き建物の取得価額を「契約書記載額」ではなく、借地権と建物の固定資産税評価額の比率で按分するのが合理的と判断。

  • 東京地裁(令和4年6月7日判決)

     固定資産税評価額と鑑定評価額に大きな乖離がある場合、鑑定評価に基づく按分が合理的と判断。

  • 国税不服審判所(令和4年9月9日裁決

     契約書の土地・建物の内訳が著しく不合理な場合は、固定資産税評価額比で按分するのが妥当と判断。

 

 上記のとおり、不合理な土地・建物比率は、税務調査において高確率で否認される傾向があります。特に、契約書上の按分割合と固定資産税評価額や鑑定評価額の比率が大きく乖離している場合、繰り返し否認されています。

 もっとも、実績があり信頼できる不動産会社からの購入であれば、市場慣行に沿った合理的な区分が行われていることが多く、大きな問題に発展する可能性は高くありません。

 とはいえ、「契約書に記載されているから大丈夫」ではなく、購入者自身が固定資産税評価額や周辺相場と整合性を確認する姿勢が重要です。将来的に税務調査が入った際に、合理的な説明ができる資料(固定資産税評価証明書、鑑定書、説明を受けた際の記録等)を準備しておくことが、安心につながります。



5.償却年数の基本

 償却年数の算定は国税庁が定める「法定耐用年数」に基づきます。代表的なものは次のとおりです。


【建物の法定耐用年数】

建物の法定耐用年数

実務上の注意点

 日本の税制では、鉄骨造は骨格材の厚さによって3区分されています。

 不動産登記簿や確認申請書などに「軽量鉄骨造」と書かれていても、建築実務上は6㎜未満を軽量鉄骨と扱う場合が多く、正確な厚さ確認が必要です。

 新築であれば確認は容易ですが、築古でオーナーチェンジを繰り返している物件では、必要な資料が残っていないことも多く、確認が難しいのが実情です。ご自身の判断にご不安がある場合には、税理士などの専門家へ相談がおすすめです。


【設備の耐用年数】

設備の法定耐用年数

実務上の注意点

 設備は建物本体よりも耐用年数が短いため、減価償却費を早期に計上でき、結果として節税効果が大きくなる傾向があります。一方、中古物件では建物と設備を区分するための根拠資料(当初の工事明細など)が入手困難なことが多く、その結果、取得価額を全額建物として償却計算するケースが多いと思われます。また、この場合、耐用年数が長くなる分だけ納税者不利となるため、税務調査で問題視されることはほとんどありません。

 もっとも、先述した国税不服審判所(平成12年12月28日裁決)では、税務署が「売買契約書等から建物本体と附属設備の価額が明確に区分できない以上、全額を建物として償却すべき」と主張したのに対し、審判所は「建物の取得価額は合理的な方法で本体と附属設備に区分すべき」と判断しました。したがって、原則としては建物と設備を区分して処理する必要があるといえます。


 


6.中古資産の耐用年数(簡便法)

 新築・新品の償却年数は前述した法定耐用年数を使用しますが、中古の建物や設備を取得した場合は、「取得後の使用可能期間を見積もる」か「簡便法」により償却年数を算定することができます。

 なお、実務においては、合理的に説明可能な使用可能期間を算出することが煩雑である(仮に算出しても税務調査で論点になる可能性がある)ため、簡便法を用いることがほとんどです。


簡便法の計算式

  1. 法定耐用年数の全部を経過した資産

    償却年数 = 法定耐用年数×20%


  2. 法定耐用年数の一部を経過した資産

    償却年数 = (法定耐用年数−経過年数)+(経過年数×20%)


  ※算出結果に1年未満の端数があるときは切り捨て(ただし2年未満の場合は2年)




7.具体的な計算例

ケース1

前提:

  • 取得日:令和7年1月1日

  • 決算日:令和7年12月31日

  • 取得価格:7,000万円(土地4,000万円、建物3,000万円)

  • 対象物件の構造、築年月日:以下の不動産登記(抜粋)情報を参照

計算:

【中古資産の耐用年数】

  1. 法定耐用年数:構造が木造のため22年(264ヶ月)

    ⇒「構造」欄で建物の構造を確認。

  2. 経過年数:令和1年5月~令和7年1月⇒5年8ヶ月(68ヶ月)

    ⇒「原因及びその日付(登記の日付)」欄で築年月日を確認。

  3. 簡便法による耐用年数(償却率):

    1.  計算式に代入

      (264ヶ月 – 68ヶ月)+(68ヶ月 × 20%)

      = 196ヶ月 + 13.6ヶ月

      = 209.6ヶ月=17.466…年

    2. 端数処理

      小数点以下を切り捨て → 17年=償却率0.059


【令和7年12月期の減価償却費】

 3,000万(減価償却資産の取得価額) × 0.059(定額法の償却率)×12/12(月数按分)

 =177万円(次年度以降も同額)


 よって、このケースの場合、建物の償却年数は17年(償却率0.059)、令和7年12月期の減価償却額は177万円となります。


ケース2

前提:

 取得価額を土地4,000万円、建物2,400万円、建物附属設備(電気設備等)600万円に分けた場合


計算:

【中古設備の耐用年数】

  1. 法定耐用年数:15年(180ヶ月)

  2. 経過年数:令和1年5月~令和7年1月⇒5年8ヶ月(68ヶ月)

  3. 簡便法による耐用年数(償却率)

    1. 計算式に代入

      (180ヶ月 – 68ヶ月)+(68ヶ月 × 20%)

      = 112ヶ月 + 13.6ヶ月

      = 125.6ヶ月=10.466…年

    2. 端数処理

      小数点以下を切り捨て→10年=償却率0.100


【令和7年12月期の減価償却費】

  1. 建物の減価償却費

    2,400万 × 0.059 × 12/12

    =141万円


  2. 設備の減価償却費

    600万 × 0.100 × 12/12

    =60万円


  3. 建物+設備の減価償却費

=241万円


 よって、取得価額を建物と設備に分けると減価償却額合計は241万円となります。

 ケース1に比べて64万円ほど減価償却費を早く計上することができ、税率を30%とすると、19万円(=64万円×30%)ほど節税効果が大きくなります。



8.失敗事例:中古資産の耐用年数を使わないまま償却

 上記のように、中古資産の耐用年数を用いることで、減価償却をより早く計上でき、節税効果を高めることができます。しかし、この制度を知らずに法定耐用年数で償却しているケースも見受けられます。

 注意すべき点は、中古資産の耐用年数の算定はその資産を事業の用に供した年度に限って選択可能であることです。もしその年度に算定を行わなければ、翌年度以降に遡って適用することはできません。

 したがって、中古資産を購入した際には、耐用年数の扱いを必ず確認することが重要です。



9.まとめ:減価償却を武器にするために

  • 減価償却は不動産投資最大の節税メリット

  • 建物だけでなく設備も対象となり、短期での費用計上が可能

  • 土地・建物・設備の区分や耐用年数を恣意的に操作すると否認リスク大


 減価償却は仕組みを理解して正しく活用すれば、大きな節税効果をもたらします。

 しかし、契約書の記載や固定資産税評価額の扱い方、耐用年数の選択を誤ると、税務調査で否認されるリスクもあります。特に中古物件の購入や、土地・建物の按分処理は専門的な判断が必要です。

 不動産投資を長期的に安定させるためには、購入段階から税理士などの専門家と連携して適切な処理や管理を行うことが大切です。


 当ファームではアポロ税理士法人が税務を、ファルコン株式会社が投資意思決定をサポートしています。セカンドオピニオンでのご利用も歓迎です。既に顧問税理士がいらっしゃる場合でも問題ありません。不動産にかかる疑問などございましたらまずはお気軽にお問い合わせください。



APOLLO accounting Firm

​アポロ税理士法人
​ファルコン株式会社
​保証業務アルテミス

​東京都多摩市関戸5-17-16-102

©2023 Apollo Acounting Firm

bottom of page