【事業承継シリーズ 第7回】自社株は贈与・相続・売買のどれで渡す?
更新日:6 日前
「会社の株式は子どもに贈与すべきか、相続まで待つべきか。それとも売買した方がよいのか」。親族内で事業承継を考え始めると、早い段階で出てくる疑問です。
自社株式を引き継ぐ方法によって、かかる税金、資金の動き、先代の生活資金、後継者の議決権、家族への財産配分が変わります。税金が最も少ない方法が、その会社に最も適した方法とは限りません。
この記事では、贈与・相続・売買の違いと、比較する際のポイントを公認会計士・税理士の視点から解説します。
▍ この記事の要点|1分でわかる株式の3つの引継ぎ方法

贈与は生前に株式を移す方法。 税負担だけでなく、後継者の経営権移行と家族への影響を確認します。
相続は死亡時に財産が引き継がれる。 相続税・遺留分・遺産分割・納税資金をあらかじめ整理します。
売買では後継者の資金と先代の手取りが重要。 売買価格・税務上の時価・銀行融資等を比較します。
▍ 目次
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1. 結論|贈与・相続・売買は税務も資金も異なる
非上場会社の株式を後継者に渡す主な方法には、贈与、相続、売買があります。どれも株式の所有者が変わる点では同じですが、取引のタイミングと税金の仕組みが異なります。
生前贈与なら経営者が元気なうちに後継者へ株式を移せる一方、贈与税が問題になります。相続では亡くなった時点で承継されることになりますが、遺産分割や相続税・納税資金の準備が必要です。
売買では、後継者が株式購入資金を支払うため、株式価値が大きい場合には資金調達が課題です。先代は売却代金を受け取れますが、譲渡所得等の税務を確認する必要があります。
株式移転の方式を先に決めず、経営権の移行時期・資金・相続全体の計画と合わせて比較することをおすすめします。
2. まず3つの方法の違いを比較する

比較項目 | 贈与 | 相続 | 売買 |
|---|---|---|---|
移転時期 | 生前の合意・実行時 | 相続開始後 | 売買契約・決済等による |
主な税務 | 贈与税、制度選択 | 相続税、遺産分割等 | 譲渡所得等、価格の妥当性 |
後継者の資金 | 贈与税等の納税資金 | 相続税等の納税資金 | 株式購入資金と返済 |
先代の資金 | 原則として対価を受け取らない | 生存中の受取なし | 売却代金を受け取る |
家族への影響 | 他の相続人・過去贈与 | 遺留分・遺産分割 | 売却代金と相続財産 |
この表は一般的な整理です。特殊な取引や税制の選択がある場合には異なります。また、相続税・贈与税の評価額と、売買で合理的な価格が一致するとは限りません。
複数の方法を組み合わせることもあります。例えば、一部の株式を生前に移し、残りを相続で引き継ぐ案などです。ただし、税金・権利関係・資金負担が複雑になるため、実行前の試算が重要です。
3. 株式を贈与する場合のポイント
生前贈与は、現経営者が存命のうちに後継者へ株式を引き継ぐ方法です。後継者へ早めに議決権を移し、経営を担う立場に近づけられる場合があります。
一方、株式評価額が高い場合、通常の暦年課税では贈与税の負担が大きくなることがあります。暦年課税の基礎控除は受贈者単位で年間110万円ですが、価額の大きな自社株式を移転する際、基礎控除だけで対応できるとは限りません。
相続時精算課税や法人版事業承継税制を検討できる場合もあります。ただし、適用要件、将来の相続時の課税関係、継続手続等があり、制度を選ぶ前に比較が必要です。
また、生前贈与は相続時の財産配分にも影響し得ます。株式の贈与だけを先に行い、後継者以外の子どもへの財産配分を考えていなければ、後に問題が生じることがあります。
4. 相続で引き継ぐ場合のポイント
相続で株式を引き継ぐ方法では、先代が生存している間は株式を保有し続けることができます。承継先を決める際には、遺言や遺産分割、他の相続人の権利関係などを考える必要があります。
会社株式は現金と違って分割や換金が簡単とは限りません。経営権を後継者に集約したい場合でも、他の相続人への財産配分や遺留分の問題を整理しておくことが重要です。
相続税の申告・納税期限は原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合、特例の適用等に影響する可能性があります。
相続が発生してから自社株式の評価や借入保証を調べ始めると、必要な手続の期限に追われることがあります。後継者が決まっているなら、相続前に資産・株主構成・税額の概算を確認することが有効です。
5. 株式を売買する場合のポイント
売買の場合、後継者が先代から株式を購入し、代金を支払います。先代は引退後の生活資金を確保できる可能性がありますが、後継者は株式の取得資金を必要とします。
例えば、自社株式の売買価格が5,000万円で、後継者の自己資金が1,000万円であれば、残り4,000万円をどう調達するかが課題となります。借入で賄う場合、毎年の返済と利息を支払う原資を確保できるかを確認します。
親族間で相場より著しく低い価格で株式を売買した場合、贈与税等の問題が生じることがあります。親子間だから価格を自由に決められるわけではありません。 取引目的と税務上の時価、株式評価の根拠を整理する必要があります。
また、先代の株式譲渡所得の計算では取得費や譲渡費用などが関係します。会社が直接資金を負担する案などは、会社法や法人税等の問題が別途生じるため、個別に検討すべきです。
6. 具体例|自社株を引き継ぐ3案を考える
架空の食品加工会社F社で、父親が株式の100%を保有し、長男が後継者候補だとします。父親は引退後の生活資金が必要で、他に長女がいます。会社には借入金もあります。
贈与案では、長男が株式を取得する時期を早められますが、贈与税・税制適用の可否・長女への財産配分が問題です。
相続案では、父親が株式を保有し続けることになります。突然の相続に備えて、遺言・株式評価・相続税の納税資金を整理します。
売買案では、父親が株式代金を受け取れますが、長男の資金調達と返済負担を確認しなければなりません。
父親の生活費、会社の資金繰り、株式の税務評価、長女への配分を比較した結果、いずれか一つの方法、あるいは段階的な移転が適切になる可能性があります。結論は税額だけでは決まりません。
7. 株式移転方法を決める5つのSTEP

STEP 01 │ 後継者の意思と承継時期を確認する
誰がいつから経営権を持つのかを決め、株式移転と代表交代の時間軸を分けて整理します。
STEP 02 │ 株式の所有状況と評価額を把握する
株主名簿、別表二、議決権、過去の株式移動を確認します。相続税・贈与税評価と売買価額の考え方を混同しないようにします。
STEP 03 │ 贈与・相続・売買の税務と資金を比較する
各案の税負担、先代の手取、後継者の納税・購入資金、会社の資金繰りを一覧化します。
STEP 04 │ 家族・金融機関・専門家と必要事項を確認する
他の相続人の財産配分、後継者の資金調達、個人保証の取扱い等を確認し、必要な専門家と協議します。
STEP 05 │ 契約・申告・承継後の管理を進める
実行前に株価・法令・財務状況の変化を再確認し、契約書・必要な届出・税務申告、議決権管理等を整えます。
8. どの専門家にいつ相談する?
税理士には、株式評価、贈与税・相続税・譲渡所得の比較、事業承継税制の適用可能性や申告手続について相談します。公認会計士・財務専門家には、承継後の会社資金、後継者の取得資金、先代の引退資金を分析してもらうことが考えられます。
株式の売買契約や議決権・株主間の権利関係は、必要に応じて弁護士等と確認します。借入金・保証・株式取得資金が関係する場合は金融機関へ早めに相談しましょう。
株式を移転する前に税務試算と資金計画を整えることが重要です。移転後に「想定と税金が違った」「購入資金が足りない」となっても対応が難しいことがあります。
◇ よくある質問|株式移転で迷う場面
Q.贈与税の基礎控除110万円を使えば、毎年少しずつ株式を渡してもよいですか?
少額ずつの贈与を検討すること自体はできます。ただし、贈与の成立や株式の評価、相続時の加算、将来の支配権、株主名簿の管理などを確認する必要があります。また、贈与を受ける人の年間の贈与額は他からの贈与も含めて判断するため、単純に株式を分割すれば税負担が最小になるとは限りません。
Q.父親から安く株式を買えば、贈与税を避けられますか?
親族間の売買で著しく低い対価を設定した場合、税務上は時価との差額に贈与税等が生じる可能性があります。取引の価格は、税務上の時価や取引目的を踏まえて慎重に検討すべきです。契約書があるだけで税務上の問題がなくなるわけではありません。
Q.株式を相続するなら、後継者は何も準備しなくてよいですか?
相続が発生してから初めて株主構成や評価を調べると、申告・納税期限や家族との協議に追われる可能性があります。遺言、株主名簿、評価額、相続税の試算、納税資金、個人保証などを事前に整理することが重要です。
Q.事業承継税制を使えば売買より有利ですか?
一律には言えません。事業承継税制は一定の要件下で贈与税・相続税を猶予する制度であり、継続手続や将来のリスクがあります。売買には後継者の購入資金が必要ですが、先代の手元に売却代金が残ります。経営者本人・後継者・会社の資金を比較して判断しましょう。
◇ 実行前に必ず確認しておくこと
株式を移転した時期と税務上の評価時点、売買代金の支払事実、贈与契約の成立、社内の株主名簿等を整理します。家族間の口頭の約束だけで移転が完了したと考えるのは危険です。将来の申告で根拠資料を示せるよう、取引日、当事者、株数、価格・評価の根拠、資金移動、決議等の記録を残しましょう。法的手続が必要な場合は弁護士等と連携します。
◇ 比較表には税金だけでなく「支払時期」を入れる
贈与、相続、売買を比較するとき、税額を横一列に並べるだけでは不十分です。誰がいつ現金を支払うのか、その原資は何かまで整理します。贈与では贈与税の申告・納付が必要となる場合があり、相続では相続税や家族への代償金等が問題になる場合があります。売買では売買代金の支払いと後継者の借入返済が発生します。
また、先代経営者が引退後の生活資金を必要としている場合、無償で株式を贈与する案では生活資金を別に確保しなければなりません。売買で代金を受け取る場合でも、税金・譲渡費用を差し引いた手取りを考える必要があります。
後継者以外の相続人がいる場合には、株式以外の財産配分も比較表に入れましょう。先代・後継者・会社・他の相続人の4つの立場で見たときに無理がないかを確認することが大切です。
9. まとめ|3案を税金・資金・経営・家族で比較する
贈与、相続、売買はそれぞれメリットと注意点があります。後継者の経営権、先代の生活資金、家族への財産配分を一緒に考え、方法を選びましょう。
☐ 株主構成と株価を把握した
☐ 贈与・相続・売買それぞれの税務を試算した
☐ 後継者の取得資金と納税資金を確認した
☐ 先代の引退後の資金を考えた
☐ 後継者以外の相続人への財産配分も検討した
▍ アポロ税理士法人の考え方
アポロ税理士法人では、制度ありきではなく、経営権・株式・資金・家族の問題を整理して承継方法を比較することを重視しています。税務・会計は当法人が担い、財務・不動産分野では必要に応じてファルコン株式会社等と連携し、契約や権利関係は法務専門家と検討します。

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
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