【事業承継シリーズ 第14回】事業承継計画の作り方|準備・資金計画・実行後の確認
更新日:3 日前
「会社を子どもに任せたいと思っているが、何から決めればよいのか分からない」「株式の移転や税金の話は聞いたが、実行する順番が見えない」。事業承継を検討し始めると、このような疑問が出てきます。
事業承継計画は、株式の移転予定を書くだけの資料ではありません。後継者への経営の引継ぎ、会社・先代・後継者の資金負担、相続、借入金・個人保証、取引先への説明などを、一つの時間軸に落とし込むためのものです。
この記事では、事業承継計画に何を書くのか、どう作り、誰と確認し、どのように実行するのかを、実務的な例を使って解説します。
▍ この記事の要点|1分でわかる事業承継計画

まず誰が、何を、いつ引き継ぐかを整理する。 経営、株式・事業用資産、財務・保証は必ずしも同時に承継しません。
会社・先代・後継者の3者のお金を確認する。 税金が少ない方法でも、会社の資金繰りや株式取得資金に無理があれば実行は困難です。
計画は一度作って終わりではない。 代表交代の前後に金融機関や家族、専門家との調整を進め、前提条件を更新します。
▍ 目次
読みたい章を選ぶと、その章へ移動します。
1. 結論|事業承継計画は「実行する順番」を決める資料
事業承継計画とは、会社と経営者の現状を踏まえ、事業を次の世代へ引き継ぐために必要な行動と時期を整理した計画です。
事業承継というと、「後継者を決める」「代表取締役を交代する」「株式を贈与する」といった個別の手続が注目されがちです。しかし、ある手続だけが先行すると、別の問題が残る場合があります。
例えば、社長が長男に株式を贈与できたとしても、後継者自身に会社の資金繰りを管理する経験が不足しているかもしれません。旧社長の個人保証が残る場合や、会社が使う土地が旧社長個人の所有である場合もあります。
逆に、後継者の経営経験が十分であっても、自社株式を取得する資金や家族との財産配分について整理できていなければ、所有の承継が進まない可能性があります。
こうした問題を一つの表にまとめ、「いつまでに、誰が、何を決めるか」を明確にするのが事業承継計画の役割です。
中小企業基盤整備機構のJ-Net21でも、事業承継計画は法定の定型書式ではなく、課題をまとめる計画書と、実行までのロードマップとなる計画表を作る考え方が紹介されています。
最初から細かい日付まで決める必要はありません。 まずは仮の期限で全体像をつくり、必要な情報が揃うたびに見直す方法でも十分に意味があります。
2. 計画に入れたい6つの項目
事業承継計画の形式は会社に合わせてよいものですが、少なくとも次の6項目を押さえておくと、検討の抜け漏れを減らせます。
項目 | 計画に書くこと | 主な確認相手 |
|---|---|---|
01 経営の承継 | 後継者、代表交代時期、権限移譲、従業員への説明 | 現経営者・後継者・幹部 |
02 株式・事業用資産 | 株主構成、株価の試算、移転方法、不動産等の所有関係 | 税理士・必要に応じ弁護士等 |
03 財務・資金繰り | 借入残高、資金計画、株式取得・納税資金、退職金の原資 | 公認会計士・税理士・金融機関 |
04 先代の生活・相続 | 引退後の生活資金、相続財産、後継者以外の親族との調整 | 家族・税理士・弁護士等 |
05 対外関係・契約 | 主要取引先、経営者保証、担保、許認可、重要契約 | 金融機関・法務等の専門家 |
06 実行・承継後管理 | 担当者、期限、確認資料、実行状況、引継ぎ後の経営 | 経営者・後継者・各担当者 |
重要なのは、項目を並べるだけでなく、決められない理由や、前提となる別の行動まで書くことです。
「株式を贈与する」と書く前に「株価を確認する」「承継方法の税負担を比較する」「後継者以外の相続人への財産配分を確認する」といった準備が必要になることがあります。
不動産を社長個人が持っている場合には、株式と不動産の承継を別の行として管理します。事業用不動産の名義変更が常に必要とは限らず、当面は賃貸借関係を維持する選択肢もあります。
3. 事業承継計画の作り方|5つのSTEP

STEP 01 │ 経営者と後継者の希望を整理する
最初に確認したいのは、現経営者の希望する引退時期と、後継者候補の意思です。
「3年後には経営の中心を長男に移したい」という希望があるとしても、長男が経営を引き受けたいと思っているとは限りません。後継者候補が複数いる場合には、誰が経営を担い、誰が株式を保有するのかという論点も出てきます。
この段階では税務スキームを先に決めるよりも、経営者・後継者双方が目指す将来像を確認することが大切です。家族経営の場合には、後継者以外の家族にどの段階で説明するかも考えます。
STEP 02 │ 会社と個人の現状を「見える化」する
会社側では、直近の決算書、試算表、借入金、資金繰り、株主構成、主要取引先、許認可などを整理します。
個人側では、先代経営者の保有株式、事業用不動産、個人保証、借入、相続財産の概況、引退後の生活費などを確認します。
特に資産管理会社や不動産賃貸業では、法人の所有資産と経営者個人の所有資産が入り混じって見えることがあります。法的な所有者、会社による使用関係、担保や借入金を区別しておくことが重要です。
現状把握では、不明点を明示することも成果です。 「借入の保証人が不明」「株式の移動履歴が確認できない」「重要契約の名義変更の要否を未確認」といった項目は、そのまま調査タスクにします。
STEP 03 │ 承継方法を比較する
親族内承継であれば、株式を贈与・相続・売買のどの方法で移すかを検討します。役員・従業員承継なら取得資金と経営者保証の扱い、第三者承継ならM&Aの相手先や契約条件も重要です。
選択肢を比較する際には、税務上の有利・不利だけでなく、資金の支払時期、議決権、家族間の公平性、先代の生活、会社の財務体質などを評価します。
例えば、株式を段階的に移す場合には、後継者の議決権がどの時点でどの程度になるかを確認します。株式を売買する場合には、後継者がいつまでに取得資金を準備するかを考える必要があります。
STEP 04 │ 行動・担当者・期限を決める
検討した内容を、年単位や月単位のスケジュールに落とし込みます。
ここでは「経営権」「株式・資産」「金融機関」「家族・相続」「税務・法務」の行を分けると分かりやすくなります。担当者を決め、未完了のまま放置されることを避けます。
税務上の特例を利用する場合は、該当する制度の申請・届出期限を別途管理します。事業承継計画を作成しただけで税務上の特例を適用できるわけではありません。
なお、一般的な事業承継計画と、法人版事業承継税制の特例措置に関する「特例承継計画」は同じものではありません。利用を検討する制度ごとに必要書類・要件・期限を確認する必要があります。
STEP 05 │ 実行状況を点検し、計画を更新する
代表交代、株式移転、役員変更登記などの実行時には、予定した条件と現状が一致しているかを再確認します。
計画作成後に業績が変動することもあれば、後継者の意思や家族の状況が変わることもあります。株価の再評価や、金融機関との条件変更の相談が必要になる場合もあります。
計画書は一度完成すれば終わりという資料ではありません。年1回程度を目安に定期的に見直し、大きな変化があればその都度更新することが実務的です。承継後には、後継者の経営状況や資金繰りも確認していきます。
4. 3年後に息子へ承継する会社の計画例
ここでは、架空の卸売業A社を例に、計画の作り方を具体的に見てみましょう。
A社の社長は67歳。40歳の長男が社内で営業責任者を務めています。会社の株式は社長が100%保有し、借入金には社長の個人保証が付いています。社長は3年後に代表を退きたいと考えています。
ただし、自社株の評価額は把握できておらず、長男に株式取得資金があるかも不明です。社長の配偶者と長女への財産配分も整理されていません。
【架空のA社・3年間の計画例】
時期 | 主な取組 | 確認したい成果物 |
|---|---|---|
1年目 | 後継者の意思確認、株式・財務・個人資産の把握、初期の金融機関相談 | 株主・借入・資産一覧、課題表 |
2年目 | 承継方法の比較、株価試算、後継者育成、家族・金融機関との協議 | 税額・資金負担の比較、役割分担表 |
3年目 | 株式等の移転、代表交代、必要な登記・税務手続、社内外への説明 | 手続完了確認、引継ぎ資料 |
承継後 | 収支・資金繰り、個人保証の状況、事業計画の進捗を点検 | 定期レビュー、改善計画 |
この例はあくまで考え方を示すものであり、すべての会社が3年で承継できるわけではありません。後継者の育成が必要であればもっと長い時間を見込むこともあります。
大切なのは、税務上の手続だけを先に決めず、実行順序に無理がないかを確認することです。
5. 資金計画は「会社・先代・後継者」に分ける
事業承継計画で見落とされやすいのが、お金の問題です。同じ取引でも、誰にとっての入金・支出かによって意味が異なります。
当事者 | 代表的な入出金 | 注意点 |
|---|---|---|
会社 | 役員退職金、借入返済、設備投資、運転資金 | 一時的な支出で資金が不足しないか |
先代経営者 | 退職金、株式売却代金、引退後の生活費 | 税負担と受取時期、家族財産の配分 |
後継者 | 株式取得資金、贈与・相続に係る納税資金等 | 自己資金と借入の返済能力 |
例えば、先代が役員退職金を受け取ると、本人にとっては生活資金になりますが、会社にとっては資金が流出します。税務上の取扱いだけでなく、支給後の現預金や借入返済に支障がないかを確認しなければなりません。
また、後継者による株式購入を予定するなら、売買代金が妥当かという問題とは別に、どの資金で支払うかを考える必要があります。金融機関からの借入を予定する場合は、事前協議と返済計画が重要です。
資金計画は、想定した承継方法が実行可能かどうかを確かめるための資料でもあります。現金残高だけでなく、将来の資金繰りを見通しましょう。
6. 個人保証・不動産・相続は計画の別項目にする
6-1. 経営者保証は代表交代だけで終わらない
経営者が交代しても、旧経営者の個人保証が自動的に解除されるものではありません。金融機関と必要な協議を行い、保証契約の扱いを確認する必要があります。
中小企業庁の経営者保証に関する資料では、法人と経営者の資産・経理の分離、財務基盤、適切な情報開示等が、保証見直しを検討するうえで重要な観点として示されています。
「代表交代の直前に銀行へ連絡する」という予定では遅い場合があります。会社の財務状況や関係資料の整備を、計画に早めに組み込んでおきましょう。
6-2. 事業用不動産は株式と別に整理する
先代社長個人が会社の店舗や工場の土地を所有している場合、株式を移しても不動産の所有権はそのままです。
不動産を誰が所有し、会社がどのような契約で使用しているのか、借入・担保がどうなっているかを確認します。そのうえで、生前移転・相続・賃貸継続などの選択肢を比較します。
不動産の名義を動かすこと自体が目的にならないように注意しましょう。税金、資金負担、事業の継続性を同時に考える必要があります。
6-3. 後継者以外の家族も忘れない
後継者に自社株式を集約すると、他の相続人との間で財産配分に差が生じる場合があります。
株式のほかにどのような財産があり、誰に何を残すかを考え、遺言や遺留分などの法的論点があれば弁護士等にも相談します。
経営者本人にとって良い承継計画でも、家族の理解が得られなければ実行が難しくなることがあります。誰に、いつ、どのように説明するかも計画の一部です。
7. 誰が計画を作る?専門家・金融機関の役割
事業承継計画は、外部の専門家が一方的に作ればよいものではありません。経営者と後継者の意思を軸に、必要な専門家が検討を支える形が望まれます。
税理士は、自社株式の評価、贈与・相続・売買の税負担、税務上の届出・申告、家族財産の整理などを検討します。
公認会計士や財務の専門家は、会社の財務分析、将来の資金繰り、株式取得資金、必要に応じた企業価値の検討などを支援します。
金融機関には、借入、個人保証、追加資金の調達可能性などを早めに相談します。弁護士は株主間の権利関係や契約、相続人間の法的問題、司法書士は登記の問題などを担当します。
専門家をそれぞれ別々に動かすだけでは、同じ前提を共有できず、税務と財務の方針が食い違う可能性があります。共通の計画表に課題と担当者をまとめることに意味があります。
なお、事業承継・引継ぎ支援センターは全国各地の公的相談窓口として、承継の初期相談や計画策定の支援も行っています。
8. 事業承継計画でよくある失敗とFAQ
Q1. 計画書は所定のひな形で作らないといけませんか?
一般的な事業承継計画には、法律で決められた単一の定型書式はありません。中小企業基盤整備機構などが公表している計画表・計画書の参考様式を使い、自社の実情に合わせて整理できます。
ただし、事業承継税制や補助金の申請で指定された計画・様式が必要になる場合は、それぞれの制度に従う必要があります。
Q2. 後継者がまだ決まっていなくても作れますか?
はい。後継者が未定であれば、その理由と選択肢、検討期限を記載します。親族内承継、従業員承継、M&Aなどを比較することができます。
後継者候補のいない会社では、第三者承継の準備を計画に含めることも考えられます。
Q3. 最初から株式の評価額を確定させる必要はありますか?
必ずしも最初の段階で確定させる必要はありません。まず概算で複数の承継方法を比較し、具体的な移転時期や条件を決める段階で、必要な評価を行う方法があります。
ただし、実行時の業績や法令の変化により評価額や税負担が変わることはあります。
Q4. 計画通りに進まなければ失敗でしょうか?
いいえ。人・会社・金融環境の状況が変われば計画を見直すのは自然です。重要なのは、変更の理由を共有し、未解決の問題を残さず調整することです。
9. まとめ|会社を引き継いだ後まで見通す
事業承継計画は、株式をいつ渡すかだけを決める資料ではありません。会社の経営、資産、財務、借入金・個人保証、家族の財産配分を一つの時間軸に整理するものです。
まずは、次の事項から確認してみましょう。
☐ 後継者候補と本人の意思、先代の引退希望時期を確認した
☐ 株主構成、主要資産、借入金と保証の状況を把握した
☐ 会社・先代・後継者の資金負担を区分して試算した
☐ 必要な専門家・金融機関と、相談するタイミングを決めた
☐ 行動の担当者と期限、計画を見直す時期を決めた
事業承継の目的は、書類や手続を終えることではなく、新しい経営者が事業を継続・発展させられる状態をつくることです。
▍ アポロ税理士法人の考え方
アポロ税理士法人では、事業承継を税務だけの問題として考えません。税金を抑えられる方法であっても、会社の資金繰りが悪化したり、後継者に過度な負担が生じたりするのであれば、承継の目的を達成できないことがあります。
公認会計士・税理士の視点から、税務・会計と財務上の課題を整理し、必要に応じてファルコン株式会社や弁護士・司法書士・金融機関などと連携しながら、会社と家族の将来を見据えた承継を考えます。

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
▍ シリーズを最初から読む
前の記事:第13回|後継者がいない会社のM&A
最初から読む:第1回|事業承継とは?何から始める?
専門家を調べる:第2回|専門家・金融機関の役割と相談時期
この最終回を読んで「自社の場合には何から始めるべきか」を整理したい方は、シリーズ第1回の全体像や第2回の相談先の解説も参考にしてください。
▍ 関連記事|あわせて読みたい記事
事業承継と関係が深い税務・財務・相続のテーマを、アポロの既存記事でも解説しています。
▍ 主な参考資料・出典
確認日:2026年10月25日。制度・期限や適用要件は変更される場合があるため、具体的な実行時には最新の公表資料をご確認ください。


