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銀行は決算書のどこを見る?融資審査は数字だけでは決まらない

10月9日
読了時間: 13分

更新日:10月28日

「銀行は決算書のどこを見て融資を判断しているのでしょうか?」


経営者からよく受ける質問の一つです。


一般的には、自己資本比率、利益、借入金、債務償還年数、現預金などが重要だと説明されます。もちろん、これらは重要です。


ただし、実際の銀行取引はそれほど単純ではありません。


どの数字を重視するかは金融機関によって異なりますし、同じ数字でも、業種、企業規模、創業年数、事業内容によって意味が変わります。


さらに現在は、不動産担保や経営者保証だけではなく、事業の実態や将来性に着目した「事業性融資」がより重視されています。2026年5月25日には「事業性融資の推進等に関する法律」が施行され、企業価値担保権も導入されました。金融庁も、事業者と金融機関の信頼関係と継続的なコミュニケーションを重要な要素として整理しています。


私は監査法人勤務後、事業会社で財務責任者として多くの金融機関との資金調達や折衝を経験してきました。


この記事ではその経験も踏まえ、銀行が企業を見る際の考え方を、単なる「財務指標一覧」ではなく、数字・事業・経営者・関係性という視点から整理します。


目次

1.結論|銀行は「決算書の数字」だけを見ているわけではない


銀行が融資を検討するとき、決算書は当然重要です。


しかし、本当に確認したいのは、

この会社は今後も事業を続け、借入金を返済できるのか

という点です。


銀行が企業を見る視点は、大きく4つに分けると理解しやすいと思います。


視点

確認されること

数字

現在の財務状態はどうか

事業

将来も利益・キャッシュフローを生み出せるか

経営者

自社の状況を理解し、説明・改善できるか

関係性

長期的に付き合いたい会社・経営者か


銀行が企業を見る際の4つの視点である数字・事業・経営者・関係性を示した図

決算書は非常に重要です。

決算書は企業を理解するための入口であって、融資判断のすべてではない

というのが実務に近いと考えています。


2.どの数字を見るかは、銀行・業種・会社の成長段階によって違う


「自己資本比率は何%あれば融資を受けられますか?」


このような質問がありますが、一律の正解はありません。

  • 融資方針

  • 内部格付の考え方

  • リスクの取り方

  • 得意とする業種

  • 過去の取引実績

などが金融機関によって異なるからです。


さらに、業種によって重視するポイントも違います。


製造業であれば、設備投資、棚卸資産、売掛金、生産能力などが重要になります。


サービス業であれば、人件費率や継続契約、顧客構成などを見ることもあるでしょう。


不動産業であれば、販売用不動産、借入金、在庫回転期間、物件の収益力、今後の販売予定などが重要になります。


また、創業3年の会社と創業30年の会社を、同じ自己資本比率だけで評価することにも無理があります。

数字が良いか悪いかだけではなく、なぜその数字になっているのか

まで理解することが重要です。


3.不動産会社を「自己資本比率」だけでは評価できない


不動産会社は、この違いが分かりやすい業種です。


一般的には、自己資本比率が高いほど財務安全性が高いと評価されます。


しかし、例えば不動産売買会社の場合には注意が必要です。



A社

B社

自己資本比率

40%

20%

販売用不動産

ほぼなし

20億円

借入金

少ない

15億円


数字だけを見ると、A社の方が財務的に安全に見えます。


しかし、A社には翌期以降に販売できる物件がほとんどないかもしれません。


不動産売買会社にとって販売用不動産は、借入金を増やす原因である一方、将来の売上をつくるための商品でもあります。


一方、B社は借入金が多く自己資本比率は低くても、すでに利益を確保できる優良な販売予定物件を十分に仕入れている可能性があります。


もちろん、在庫を多く持てばよいという意味でもありません。

なぜ自己資本比率がその水準になっているのか

が重要です。財務指標は結果です。その背景にある事業活動まで見なければ、企業の実態は分かりません。


4.販売用不動産は「簿価どおり」に銀行評価されるとは限らない


不動産会社で特に注意したいのが、長期間売れていない販売用不動産です。


貸借対照表に販売用不動産が1億円計上されているからといって、銀行も必ず1億円の価値があると考えるとは限りません。


これまで金融機関との折衝をしてきた中では、販売用不動産の保有期間に応じて評価額を引き下げる金融機関もありました。


例えば、実務で接した金融機関の一例では、

  • 保有期間が1年を超えると簿価の70%程度

  • 2年を超えると50%~ゼロ評価

  • 個別事情によっては、さらに厳しく評価

といった考え方が採られるケースもありました。


これはあくまで特定の金融機関における一例であり、すべての銀行に共通する基準ではありません。金融機関によって判断方法は異なります。


ただし、本質は同じです。銀行としては、いつ仕入れたのか、なぜ売れていないのか、現在いくらで売却できるのか、売却して利益を確保できるのか、いつ売却する予定なのかまで確認したくなります。


これは不動産だけではありません。長期間回収されていない売掛金や、動いていない棚卸資産なども同様です。

会計上の簿価と、金融機関が考える実質的な価値は一致しないことがある

5.利益だけでは会社は守れない|現金と「借り方」も重要


同じ1億円の資産でも、会社にとっての意味は異なります。収益を生まない土地、毎月賃料を生む収益用不動産、将来売却する販売用不動産では、会社のキャッシュフローへの貢献が違います。


同じように、損益計算書で利益が出ているからといって、資金繰りまで安全とは限りません。


この点を考えるうえで象徴的なのが、2008年に民事再生法の適用を申請したアーバンコーポレイションです。


同社は2008年3月期に、連結売上高約2,437億円、経常利益約617億円と過去最高の業績を計上しました。


一方で、不動産開発資金を中心に借入金も増加し、連結有利子負債は約4,078億円に達していました。


その後、不動産市況の悪化、信用力の低下などから市場・金融機関からの資金調達が難しくなり、資金繰りが急速に悪化。約5か月後の2008年8月には民事再生法の適用を申請しています。

利益が出ていることと、会社が資金繰り上安全であることは同じではない

だからこそ経営では、利益や自己資本比率だけではなく、現預金、資金調達余力、借入期間、返済期限の集中、金融機関への依存度など、資金繰りの耐久力も確認する必要があります。

「いくら借りるか」だけでなく、「どう借りるか」も財務戦略

手元資金についても唯一の正解はありません。無借金経営を重視する経営者もいれば、一定の借入を維持して手元流動性を厚く持つ経営者もいます。


重要なのは、なぜ自社はこの水準の現預金と借入金を持っているのかを合理的に説明できることです。


6.KPIは「一般的に良い数字」ではなく、自社の経営に必要な数字を設定する


銀行に評価されるためにKPIを設定する、という順番ではありません。


同様に、一般的に「良い」とされる財務指標を、そのまま自社の最重要KPIにする必要もありません。


例えば、財務分析では自己資本比率が重視されます。しかし、事業によっては自己資本比率以上に、手元現預金をどの水準まで確保するかを重視する経営者がいても不思議ではありません。


まず、どのような会社にしたいのか。3年後、5年後、10年後にどこを目指すのか、という経営目標があります。


そこから逆算して、

  • 売上

  • 営業利益

  • 自己資本比率

  • 在庫回転期間

  • 現預金水準

  • 資金調達余力

  • ストック型収益

  • 人件費率

などから、自社に必要なKPIを設定します。


例えば、不動産会社のように売買によるスポット収益と、賃料・管理料などの継続収益を持つ会社なら、安定的な収益で固定費をどこまでカバーできているかを見る方法もあります。

世間一般の優良企業の数字に自社を合わせるのではなく、自社の事業リスクを理解し、そのリスクに耐えながら経営目標を達成するために何を管理するかを決める

KPIは銀行に評価されるための数字ではありません。経営目標を達成し、会社を継続させるための手段です。


7.銀行には「数字」よりも「なぜその数字なのか」を説明する


例えば、「当社は自己資本比率30%を目標にしています」と銀行に説明したとします。


重要なのは、なぜ30%なのかです。

  • 競合他社の水準を参考にしたのか

  • 過去の自社の財務状況から決めたのか

  • 金融機関との議論から設定したのか

  • 自社独自のリスク管理基準なのか

  • 自己資本比率より手元流動性を重視しているのか

さらに、現在はどの水準なのか、なぜ目標との差があるのか、いつまでに達成するのか、そのために何をするのかまで説明できれば、経営者が自社の数字を理解し、経営に使っていることが伝わります。

「当社はこのリスクを重視しているため、この指標を管理しています」

と合理的に説明できることの方が重要だと考えています。


8.融資を受けるために経営計画を作るのではない


「銀行から融資を受けたいので事業計画を作る」となりがちですが、本来は逆です。


まず会社として、何のために事業を行うのか、短期的に何を達成したいのか、長期的にどこを目指すのか、そのために何をするのかを決めます。


その結果、この物件を仕入れるために資金が必要、この設備投資によって生産能力を上げたい、この新規事業に投資したい、という資金需要が生まれます。

だからこの資金が必要です。こうやって返済していきます。協力してください。

と銀行に説明する。これが本来の順番です。


資金調達は経営目的ではありません。会社の目的を実現するための手段です。


9.「貸せる会社」の次に「応援したい会社」になる


ここまでは主に数字や事業の話です。しかし、中小企業の銀行取引では、もう一つ重要なものがあります。それが信頼関係です。


もちろん、経営者と銀行員が仲良くなれば融資が通る、という話ではありません。融資には審査があり、返済能力や事業性が前提です。


そのうえで、これまで多くの金融機関と取引してきた経験から、平時からの関係構築は非常に重要だと感じています。

  • 融資が必要なときだけではなく、定期的に業況を説明する

  • 良い情報だけでなく、悪い情報も早めに共有する

  • 担当者だけでなく、支店長や本部、機会があれば経営層とも対話する

  • 銀行にも合理的なメリットのある取引を考える

  • 長くお世話になった方との縁を大切にする

銀行も営利企業です。自社にもメリットがあり、銀行にも収益機会があるWin-Winの取引関係を作ることが理想です。


また、地域金融機関との取引であれば、地域イベントへの協力、スポーツや文化活動への支援、地域清掃、地域での雇用創出などを通じて、地域でどのような会社なのかを知ってもらうことにも意味があります。


これらが直接融資審査の点数になるという意味ではありません。しかし、地域で長く事業を続け、地域にも価値を提供している会社であることは、長期的な関係構築と無関係ではないと思います。


なお、接待や贈答等については、当然ながら法令、双方の社内規程、コンプライアンスの範囲内で行う必要があります。

長期間にわたって、人対人の信頼を積み上げること

10.結局は「当たり前のことをきちんと続ける」


銀行融資というと、特別なテクニックを探したくなるかもしれません。しかし、実際に重要なのはもっと基本的なことだと思います。


売上と利益をつくる。必要な資金を確保する。目標を決める。KPIを設定する。毎月実績を確認する。問題があれば改善する。銀行へ継続的に説明する。悪い情報ほど早めに伝える。


そして、そのさらに前にある、

約束を守る。時間を守る。挨拶をする。連絡を返す。相手への感謝を忘れない。

という基本も大切です。


私は実際に金融機関の方から、「訪問すると、社員の皆さんがきちんと挨拶してくれますね」と会社の雰囲気を評価していただいた経験があります。


もちろん、社員が挨拶できれば融資が出るという話ではありません。ただ、銀行員が会社を訪問すれば、来客にどう対応しているか、社員同士がどう接しているか、経営者の方針が現場まで浸透しているかといったことも自然に伝わります。


そして、この「当たり前」を10年、20年と続けることは簡単ではありません。


中小企業庁の分析では、創業後10年までに約3割の企業が退出し、20年後までには約半数が退出しています。つまり、概ね10年後に約7割、20年後には約半数が残る計算です。

特別なテクニックよりも、当たり前のことを10年、20年と継続できる会社をつくる。

これが重要なのだと考えています。


11.銀行面談の前に確認したい10項目


この記事を読んだ後は、まず自社について次の10項目を確認してみてください。

  1. 直近3期の売上・営業利益・経常利益の増減理由を説明できるか

  2. 現在の自己資本比率がこの水準になっている理由を説明できるか

  3. 大きく増減した勘定科目について理由を説明できるか

  4. 長期滞留している売掛金・棚卸資産・販売用不動産はないか

  5. 現在の手元現預金をこの水準にしている理由を説明できるか

  6. 今後1年間の資金繰りを把握しているか

  7. 借入金の返済期限が特定の時期や金融機関に偏っていないか

  8. 自社が重視するKPIと、そのKPIを設定した理由を説明できるか

  9. 3年後・5年後に会社をどうしたいのか説明できるか

  10. 今回なぜ資金が必要で、その資金を何に使い、何によって返済するのか説明できるか

この10項目にすべて答えられるのであれば、銀行との面談でもかなり具体的な対話ができるはずです。


逆に、

「数字は経理に任せているので分からない」

「自己資本比率は高い方が良いと聞いたので上げたい」

「とりあえず借りられるだけ借りたい」

という状態であれば、一度、自社の経営目標と財務戦略を整理した方がよいかもしれません。


12.まとめ|銀行に評価されるためではなく、良い会社をつくる


銀行が決算書のどこを見るのかを知ることは重要です。

銀行に評価される数字をつくること自体を、経営目的にしてはいけません。

まず会社として目標を定める。その目標を達成するためのKPIを設定する。毎月実績を確認する。問題があれば改善する。必要な手元資金や資金調達余力を考える。その結果として、収益力や財務内容が改善する。


そして、今どこにいるのか、なぜこの数字なのか、これから何をするのか、なぜ資金が必要なのか、どのように返済するのかを金融機関へ説明する。


さらに、平時から約束を守り、情報を共有し、人との縁を大切にする。

「貸せる会社」であることに加えて、「長く応援したい会社」になること

が、中小企業と銀行の長期的な関係では重要だと考えています。

良い会社をつくった結果として、銀行にも評価される。

その順番が本来の姿ではないでしょうか。


アポロ税理士法人の考え方


アポロ税理士法人では、融資を受けるためだけに決算書を整えるのではなく、経営に使える数字をつくり、その数字を経営者自身が理解し、金融機関へ説明できる状態にすることが重要だと考えています。


税務申告、月次決算、事業計画、資金繰り、金融機関対応は、それぞれ独立したものではありません。


経営目標から逆算して数字を管理する。自社に必要なKPIを設定する。資金繰りを確認する。必要な資金を適切な方法で調達する。そして、その数字をもとに金融機関と対話する。


こうした積み重ねが、長期的な資金調達力につながります。



志田宏樹

監修者

志田 宏樹

公認会計士・税理士・宅地建物取引士


監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。


専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継

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