top of page

資金繰りの重要性とその対策

10月23日
読了時間: 10分

更新日:3 日前

資金繰りについて悩む経営者

「利益は出ているのに、なぜか預金が増えない」

「半年先の資金繰りまで把握できていない」

このような経営者に確認していただきたいのが、将来の現預金残高です。

売掛金の回収遅れ、在庫の増加、設備投資、借入返済などが重なれば、黒字の会社でも資金不足に陥ります。

重要なのは、次の3点です。


  1. 将来の現預金残高を予測する

  2. 自社に必要な最低現預金を決める

  3. 不足が見込まれたら、早めに対策を実行する


この記事では、具体的な数値事例を使って、資金繰り表の作り方から最低現預金の算定、資金不足への対応まで解説します。




1.黒字でも資金ショートするのはなぜか


損益計算書の利益と、実際の現金の動きは一致しません。

例えば1,000万円の商品を販売しても、代金の回収が3か月後なら、売上が計上されても預金は増えません。

一方で、仕入代金や給与、借入返済などは決められた時期に支払う必要があります。

特に注意したいのは、次の5つです。


| 原因 | 現金への影響 |

|--------------------------|-------------------------------|

| 売掛金の増加 | 売上は計上済みでも入金されていない |

| 在庫の増加 | 仕入資金が在庫として滞留する |

| 設備投資 | 多額の支出が先行する |

| 借入元本返済 | 費用ではないが現金は減る |

| 納税 | 利益計上と支払時期が異なる |


特に、売上の増加に伴って売掛金や在庫が増える会社では、成長するほど運転資金が必要になることがあります。


実際に、黒字転換後に経営が行き詰まった会社もある


太陽光発電設備などを扱っていた株式会社スマートテックは、2021年・2022年9月期に赤字を計上した後、2023年3月期に黒字転換しました。

しかし、資金調達が限界に達し、取引先債務などの返済が困難となったことから、2024年2月に民事再生法の適用を申請しています。

経営悪化には過年度の赤字など複数の要因があり、単純な売掛金回収遅延による倒産ではありませんが、直近で利益が出ていても、必要な資金を確保できなければ経営は行き詰まることを示す事例のひとつです。



2.資金繰り表は「将来の現預金」を予測する資料


資金繰り表は、今後の入金と支払いを整理し、現預金残高を予測するための資料です。

基本的には、次の項目を記載します。


| 区分 | 主な内容 |

|--------------------------|-------------------------------|

| 前月繰越 | 月初の現預金残高 |

| 経常収入 | 売掛金の回収など |

| 経常支出 | 仕入、給与、経費など |

| 経常外収支 | 設備投資など |

| 財務収支 | 新規借入、借入元本返済など |

| 翌月繰越 | 月末の予想現預金残高 |


計算式はシンプルです。

月末予想現預金残高 = 月初現預金残高 + 入金額 - 支払額

重要なのは、損益計算書の数字をそのまま使わず、実際の入出金予定額を記載することです。

例えば、売上高ではなく売掛金の回収予定額を使い、納税や借入元本返済も漏れなく反映します。資金繰り表は実際の資金移動を表すため、税抜経理の会社でも消費税等を含む入出金額で管理します。

日本政策金融公庫も、資金繰り表の様式と記入例を公開しているので参考にすると良いでしょう。



3.【数値事例】毎月200万円の黒字でも、3か月後に資金が不足する


架空の会社を例に考えます。

この会社は毎月、売上2,000万円、費用1,800万円、税引前利益200万円を計上しています。

費用には減価償却費100万円が含まれているため、通常の現金支払額は毎月1,700万円と仮定します。

当初の現預金は1,000万円です。


3か月の資金繰り予測(単位:万円)


| 項目 | 1か月目 | 2か月目 | 3か月目 |

|--------------------------|---------|---------|---------|

| 月初現預金 | 1,000 | 1,300 | 400 |

| 売上代金の入金 | 2,100 | 1,500 | 1,400 |

| 通常の支払 | ▲1,700 | ▲1,700 | ▲1,700 |

| 在庫の積み増し | 0 | 0 | ▲100 |

| 設備投資 | 0 | 0 | ▲500 |

| 借入元本返済 | ▲100 | ▲100 | ▲100 |

| 前期分の法人税納付 | 0 | 0 | ▲300 |

| 月末予想残高 | 1,300 | 400 | ▲300 |


※説明用の仮定です。消費税等の影響や買掛金の増減、新規設備の当期間中の減価償却等を省略しています。通常の支払額は費用計上と現金支出の対応を簡略化したもので、在庫の積み増し100万円は別途支払うものとします。法人税300万円は前期分です。

毎月税引前利益200万円でも、月末現預金が1,300万円、400万円、支払不足300万円へと変化する3か月の予測

3か月間の税引前利益は合計600万円ですが、現預金は1,300万円減少します。

その主な要因は、売掛金の増加1,000万円、設備投資500万円、借入元本返済300万円などです。減価償却費300万円を非資金費用として加算し、これらの資金増減を反映すると、現預金の純減1,300万円と整合します。

利益が出ていても、3か月後には300万円の支払原資が不足するということです。

では、この会社は300万円を調達すれば安心なのでしょうか。

私は、そうは考えません。

ここで重要になるのが、最低現預金の考え方です。



4.最低現預金はいくら必要か?実務的な算定方法


中小機構のJ-Net21では、手元流動性について、月商の1〜2か月分、できれば3か月分という目安を紹介しています。

ただし、同じ月商でも、売掛金の回収期間や毎月の支払額、借入返済負担は会社によって異なります。

そのため、私は月商倍率を参考にしつつ、実際の支払いと個別リスクから算定することをおすすめします。


① 通常の支払いに必要な資金を確認する


先ほどの会社では、

  • 毎月の通常支払:1,700万円

  • 借入元本返済:100万円

合計1,800万円です。

まず、通常支払1か月分の1,800万円を資金の備えとして仮置きします。


② 追加リスクへの備えを考える


例えば、

  • 主要取引先の入金遅延への備え:500万円

  • 突発的な支出への備え:300万円

を追加します。


③ 最低現預金目標を算定する


1,800万円 + 500万円 + 300万円 = 2,600万円

この会社では、2,600万円を管理上の最低現預金目標とする考え方です。

これは公的機関が定める統一公式ではなく、実務的な簡易算定例です。

実際には、入金遅延や突発支出の金額を過去実績・取引先別の回収状況等から検討します。また、既に資金繰り予測に織り込んだリスクを二重に加算しないようにします。

さらに精度を高めるには、入金が遅れる場合などの厳しいシナリオを資金繰り表に反映し、必要な備えを検証します。


資金不足額と、資金対策額は違う


先ほどの会社では、3か月目の予想残高は▲300万円でした。

最低現預金目標を2,600万円とすると、

必要な資金対策額 = 2,600万円 −(▲300万円)= 2,900万円

となります。

  • 予定された支払いを賄うための不足額:300万円

  • 最低現預金目標まで回復するための対策額:2,900万円


しかも、この会社は当初の現預金が1,000万円しかありません。既に管理目標の2,600万円を下回っているため、3か月後を待たずに資金対策を検討する必要があります。

なお、2,900万円の全額を借りるべきという意味ではありません。売掛金回収の改善、投資時期の調整、資金調達などを組み合わせて検討する金額です。

通常支払1,800万円と個別リスク800万円から最低現預金2,600万円を算定し、予測残高との差で資金対策額2,900万円を示す図


5.月末残高だけでなく「月中の資金不足」も確認する


資金繰り表を作る際、もう一つ見落としてはいけないのが入出金のタイミングです。

例えば、月末30日に2,000万円の入金予定があっても、25日の支払い時点で500万円不足するのであれば、月末残高がプラスでも支払不能になる可能性があります。

そのため、状況に応じて管理期間を変えます。


| 管理方法 | 主な目的 |

|------------------------|-----------------------------------|

| 月次・6〜12か月先 | 投資、納税、借入返済の見通し |

| 週次・直近13週間 | 入金と支払のタイミングを確認 |

| 日次 | 決済日や資金逼迫時の支払いを管理|


これらは実務上の管理例であり、すべての会社に同じ頻度が必要なわけではありません。

大切なのは、資金が足りなくなる日を、対応できるだけの時間が残っている段階で把握することです。



6.資金不足が分かったら、何から対応すべきか


資金不足が予測されたら、私は次の順で整理することが重要だと考えています。


STEP 1|不足する日と金額を特定する


まず、いつ・いくら不足するかを確認します。

直近の支払いに影響するなら、月次から週次・日次へ切り替えます。


STEP 2|不足の原因を確認する


原因によって対策は異なります。


| 原因 | 主な対応 |

|--------------------------|-----------------------------------|

| 売掛金の回収遅れ | 入金状況の確認、回収条件の協議 |

| 在庫の増加 | 追加仕入れや滞留在庫の見直し |

| 設備投資 | 実施時期や支払条件の再検討 |

| 借入返済の集中 | 金融機関との返済条件・調達の協議|

| 恒常的な資金流出 | 事業収益・費用構造の改善 |


重要なのは、一時的な資金不足と、収益性・財務構造そのものの問題を区別することです。

後者の場合、新規借入だけでは根本的な解決になりません。


STEP 3|改善策と資金調達を並行して検討する


社内で対応できる項目を見直す一方、不足時期が近い場合には金融機関への相談も早めに進めます。

ここで避けたいのは、会社側で対処できるかもしれないと考えて、融資相談を後回しにすることです。

金融機関の審査には時間がかかるため、必要な時期に資金が調達できるとは限りません。

なお、給与や買掛金等の支払いを一方的に延期することはできません。条件変更が必要な場合は、契約・法令を踏まえ、期限前に関係者と協議します。


STEP 4|対策の実行状況を管理する


資金対策は、検討しただけでは意味がありません。

入金の前倒しが合意されたか、融資は審査中なのか正式承認済みなのか、いつ現金が入るのかまで確認します。

対策を決めたことと、現金を確保できたことは別です。



7.資金繰り表は「予測と実績の差」を確認して改善する


資金繰り表は、一度作れば終わりではありません。

例えば、2,000万円の入金を予測していたのに、実際には1,500万円だった場合、500万円の差が生じた理由を確認します。

売上が予定より少なかったのか、入金が翌月へずれたのか、取引先の支払いが遅れているのか。

原因によって次の対応が変わるためです。

実務では、入金・支払の予定に加え、金額、予定日、予測の根拠、確度、担当者を把握できる形にしておくと管理しやすくなります。

また、資金繰り表は経理担当者だけで完成するものではありません。

売掛金の回収見込みは営業部門、仕入や投資予定は各担当部門が把握していることもあります。

その情報を集約し、予測と実績の差を次回の計画に反映することが、資金繰りの精度向上につながります。



8.財務責任者として重視してきた「Cash is King」


私はこれまで、企業の財務責任者として金融機関との資金調達交渉などを担当してきました。

その経験から重視しているのが、Cash is Kingという考え方です。

利益は重要ですが、会社が支払いに使うのは実際の現預金です。

そのため、資金調達の条件を考える際にも、金利の低さだけでなく、必要な借入額を確保できるか、返済期間を短くしすぎていないか、手元流動性を維持できるかを重視してきました。

これは、単に借入を増やした方がよいという意味ではありません。

重要なのは、将来の資金需要に対応できる現預金を確保し、無理のない返済構造をつくることです。

資金繰り表も、経理担当者が数字をまとめるだけの資料ではありません。

経営者が投資を進めるか、資金を調達するか、支出を見直すかを判断するための資料です。

必要なときに資金がないことで、事業機会を逃すこともあります。

だからこそ、資金が不足してから対応するのではなく、平時から将来の資金繰りと調達余力を把握することが重要だと考えています。



まとめ|資金繰り表は「先手を打つ」ためにある


黒字でも、売掛金の増加、設備投資、借入返済などが重なれば、資金不足になることがあります。

それを防ぐために、まずは次の3点を確認してください。


  1. 3か月先までの現預金残高を予測する

  2. 自社に必要な最低現預金目標を決める

  3. 目標を下回る時期と金額を把握し、早めに対策を進める


資金繰り表は、複雑なものから始める必要はありません。

大切なのは、資金不足を事前に予測し、経営上の選択肢を残しておくことです。



資金繰り・財務管理を見直したい経営者の方へ


アポロアカウンティングファームでは、決算書・試算表・借入状況・資金繰り・事業計画などを確認しながら、財務管理体制の整備や資金調達方針の検討を支援しています。

「利益は出ているのに現預金が増えない」「最低限確保すべき現預金を整理したい」「将来の資金不足に備えたい」といった場合もご相談ください。

税務上の検討が必要となる場合には、アポロ税理士法人とも連携して対応します。





主な参考情報


この記事に関連するご相談

APOLLO GROUP

​アポロ税理士法人

​ファルコン株式会社

​保証業務アルテミス

​東京都多摩市関戸5-17-16-102

© Apollo Group

bottom of page