【事業承継シリーズ 第12回】社長個人が持つ土地・建物はどう引き継ぐ?
更新日:6 日前
「会社は息子に継がせる。でも、工場の土地は私の名義だ」「会社の店舗を社長個人から借りている」。中小企業の事業承継では、こうした所有関係が大きな論点になります。
会社の株式を後継者に引き継いでも、社長個人名義の不動産の所有権が当然に移るわけではありません。ところが、その土地や建物を使えなくなれば、事業を続けること自体が難しくなる可能性があります。
大切なのは、名義を急いで変えることではなく、会社がその不動産を将来も使い続けられるか、税金・相続・資金の面で無理がないかを確認することです。この記事では、会社と社長個人の不動産の関係を整理し、承継時の主な選択肢と注意点を解説します。
▍ この記事の要点|1分でわかる不動産と事業承継

株式の承継と不動産の承継は別の問題。 会社の所有権と社長個人の土地・建物は、それぞれの名義を確認します。
名義を移す以外の選択肢もある。 個人保有を続ける、後継者に承継する、会社へ移すなどを税務・資金・経営面で比較します。
事業を続けられることが第一。 相続、賃貸借契約、担保、借入金、納税資金を一緒に整理します。
▍ 目次
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1. 結論|社長交代だけでは事業用不動産は引き継がれない
中小企業では、法人の資産と代表者個人の資産が実務上密接につながっていることがあります。会社の工場・倉庫・店舗が社長個人の所有地に建っている、社長が自分の建物を会社に賃貸している、社長名義の土地を会社借入の担保に提供している、といったケースです。
この場合、後継者を代表取締役に選任しても、不動産の登記名義は変わりません。株式を贈与しても同様です。反対に、土地を後継者に移しても、会社の議決権が後継者に移るとは限りません。
「経営を引き継ぐ」「株式を引き継ぐ」「不動産を引き継ぐ」は別々の手続です。まずは所有者と利用者を整理するところから始めましょう。
名義を移さない方法が合理的な場合もあります。社長個人と会社の賃貸借を維持するのであれば、将来の相続人や新経営者がその契約関係を理解し、継続できることが重要です。一方、不動産を移転する場合は譲渡所得税・贈与税・相続税、登録免許税、不動産取得税、消費税などの影響が生じ得ます。
2. 最初に確認したい「誰の不動産か」

一口に「会社の土地」といっても、所有関係には複数のパターンがあります。登記事項証明書、固定資産税課税明細、決算書、賃貸借契約書、借入契約・担保設定の資料を照合します。
所有・利用の形 | 承継時の主な論点 |
|---|---|
法人所有の土地・建物を法人が使用 | 株式価値、不動産評価、借入・担保 |
社長個人の土地を法人が使用 | 使用契約、地代、相続・贈与、担保 |
社長個人の建物を法人が使用 | 家賃、契約、所有者変更、修繕負担 |
親族名義の土地・建物を法人が使用 | 名義人の意思、他相続人、継続使用 |
会社が土地建物を所有している場合、その資産は株式価値に影響します。特に不動産保有割合が高い会社では、相続税評価上の「土地保有特定会社」等の判定が問題となることがあります。
社長個人が所有する場合は、会社とは別の財産として相続・贈与の検討が必要です。所有者が親族や第三者であるケースも含め、会社の事業継続に必要な土地・建物を一覧にしましょう。
3. 個人名義の不動産をどうする?3つの基本案
3-1. 先代が所有したまま会社に貸す
先代が引退した後も不動産を保有し、会社へ賃貸する方法です。直ちに登記名義を移転する必要がない一方、先代の死亡後は相続人が所有者となり、賃貸借関係を維持できるかが問題になります。
地代・家賃、修繕負担、固定資産税、契約期間、使用目的、更新・解約条件を明確にしておくと、後継者や他の相続人との認識違いを防ぎやすくなります。
3-2. 後継者個人に不動産を引き継ぐ
贈与・相続・売買などによって後継者個人に不動産を移転する案です。会社の経営と事業用不動産の所有者を同じ後継者に集約できる場合があります。
ただし、税負担や取得資金のほか、他の相続人との公平性を考える必要があります。土地だけを後継者に集中させることで、相続全体の財産配分が偏る可能性があるためです。
3-3. 法人に不動産を移す
先代所有の不動産を会社が買い取る、現物出資等の組織的な方法を検討するという選択肢もあります。
会社が利用する不動産を法人所有にすることで、長期的な事業継続を図れる場合があります。一方、会社の購入資金、税金・登記費用、担保権、金融機関の同意などを検討しなければなりません。適正な取引価格や会社・個人双方の税務にも注意が必要です。
最初に移転先を決めるのではなく、保有を続けた場合も含めて比較することが重要です。
4. 税務上はどこに注意する?
不動産の承継には複数の税目が関係します。代表的には、個人が売却したときの譲渡所得税、無償移転する場合の贈与税・相続税、不動産取得税や登録免許税などがあります。
事業用建物を売却する場合、売り手が課税事業者かどうか等によって消費税の課税関係も検討します。土地の譲渡は原則として消費税の非課税取引ですが、事業用建物の譲渡は課税対象となり得ます。 売買代金を土地と建物で適切に区分することも重要です。
また、個人の土地を法人が利用する場合、権利金・地代・借地権の取扱いが問題になることがあります。契約の形、従前の使用状況、対価、過去の届出等によって評価・税務上の取扱いが変わるため、単に「家族の会社だから無償でよい」と判断しないようにします。
相続時には小規模宅地等の特例を利用できる可能性がありますが、利用区分と取得者・保有継続等の要件によって適否は異なります。特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等、貸付事業用宅地等は同じ制度内でも要件・限度面積・減額割合が異なり、名称だけで判断することはできません。
税目・制度 | 確認すること |
|---|---|
譲渡所得税 | 売り手、取得費、譲渡費用、所有期間、譲渡価額 |
贈与税・相続税 | 取得者、評価額、他の財産、適用制度 |
消費税 | 土地・建物の区分、売り手の納税義務、用途 |
登録免許税・不動産取得税 | 移転原因、対象不動産、軽減措置 |
小規模宅地等の特例 | 利用区分、相続人の属性、継続要件など |
5. 借入金・抵当権・保証も一緒に確認する
不動産の登記を調べると、会社借入の担保として抵当権等が設定されていることがあります。先代の所有土地が担保に入っている場合、社長が引退しても担保設定が当然に消えるわけではありません。
所有者を変更する前には、契約上の制約や金融機関への説明・協議が必要かどうかを確認します。担保や保証の取扱いは、金融機関の判断や契約の条件に左右されます。
また、会社が不動産を買い取る案では、その代金を会社がどこから調達するかが重要です。仮に土地の購入代金が3,000万円であっても、借入で調達する場合には返済負担が増えます。財務基盤とキャッシュフローを確認しないまま移転すると、承継後の経営を圧迫する可能性があります。
事業承継の検討では、不動産の価格、税金、借入金、担保、会社の返済余力を一体で確認しましょう。
6. 具体例|工場の土地だけが父親名義だった場合
架空の金属加工業A社を想定します。社長は70歳、後継者候補は40代の長男です。会社が工場建物を所有していますが、敷地の土地は父親個人の名義。会社は土地を使用しており、土地には会社借入の担保が設定されています。社長には長女もいます。
長男に会社株式を贈与すれば経営権は引き継げるかもしれません。しかし、工場の敷地は依然として父親の財産です。父親が亡くなった際に、土地を誰が相続するかによっては会社の使用関係を調整する必要があります。
土地を長男が相続する案では、長女への財産配分や相続税・納税資金を整理します。土地を会社が購入する案では、会社が代金を支払えるか、既存担保をどうするか、父親の譲渡所得税等がいくらかを検討します。
父親が土地を保有し続ける案では、後継者が管理する会社との賃貸借契約や将来の相続への備えを確認します。どの方法がよいかは、土地の価額だけでなく、会社の借入・資金繰り、家族の財産構成、経営者の希望によって変わります。
この例から分かるのは、会社を継ぐ人と土地を相続する人を別々に考えてしまうと、会社の事業継続に問題が生じることがあるという点です。
7. どう進める?不動産を含む事業承継の5つのSTEP

STEP 01 │ 所有者と利用者を一覧化する
土地・建物ごとに、登記名義、利用者、契約の相手方、賃料、担保の有無を整理します。会社の固定資産台帳だけでは個人名義の不動産を見落とすため、社長の個人資産も確認します。
STEP 02 │ 事業継続に必要な物件を区別する
工場・店舗・倉庫など、事業に不可欠な不動産を優先します。代替が難しい物件は、所有者が変わっても継続使用できるようにすることが重要です。
STEP 03 │ 保有・贈与・相続・売却を比較する
名義を維持する案と移転する案を並べ、税負担、移転費用、納税資金、会社資金、家族の財産配分を比較します。複数の物件がある場合、すべてを同じ方法で処理する必要はありません。
STEP 04 │ 金融機関・専門家と事前に協議する
担保のある物件や借入金が関係する場合は金融機関、契約・登記は弁護士や司法書士、税務・財務は税理士・公認会計士、評価が難しい土地は不動産鑑定士等と確認します。
STEP 05 │ 契約・税務・登記と相続対策を整える
方針が決まったら必要な契約・届出・申告・登記を実行します。相続を待つ場合も、遺言や財産配分、納税資金、会社の使用契約を整理しておきましょう。
8. 誰に、いつ相談すればよい?
税理士には、会社株式・個人所有不動産の評価、贈与・相続・売買の税負担や納税資金の検討を相談できます。公認会計士等には、会社の資金繰りと不動産取得資金、借入の返済余力の分析を依頼できます。
担保権の取扱いや借入の条件変更は、所有者を変える前に金融機関へ相談しましょう。移転契約・登記、権利関係や相続人間の争いは弁護士・司法書士等の専門家との連携が必要です。
相談のタイミングは、「売買契約を結んだ後」や「贈与登記が終わった後」ではなく、名義や承継方法を決める前が望ましいでしょう。移転後に税負担や担保の問題が判明しても、元に戻すことが簡単とは限りません。
不動産の所有と税務の問題に加えて、承継後に必要となる管理・運営や事業用資産の利用継続まで考えることが重要です。
◇ よくある質問|個人名義の土地・建物
Q.父親名義の土地を会社が使い続けるだけなら、税金や契約は考えなくてよいですか?
会社と個人との土地利用関係、地代や権利金の取扱い、相続後の所有者との関係等を確認する必要があります。取引の経緯や法人・個人の関係によって税務上の問題が生じる場合があるため、無償使用や低額の地代を当然に安全と判断しないことが重要です。
Q.不動産を法人へ売れば相続対策も完了しますか?
必ずしも完了しません。売買代金は先代個人に入るため、現金として残る場合はその後の相続財産になります。会社には購入代金や借入返済の負担が発生し得ます。税負担や登記費用も考え、会社と先代個人の財産構成がどう変わるかを確認しましょう。
Q.不動産が会社名義なら相続の心配はありませんか?
不動産そのものは会社の資産ですが、先代がその会社の株式を保有しているなら、会社の資産価値が株式評価に影響します。株式の承継方法と相続税評価等は引き続き検討する必要があります。会社の不動産と社長個人の不動産を混同しないことが大切です。
Q.小規模宅地等の特例は、会社が使う土地なら必ず適用できますか?
いいえ。利用区分、会社と所有者の関係、相続する人の状況、事業・所有の継続など個別の要件があります。特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等、貸付事業用宅地等では条件が異なります。相続前に利用状況と契約を確認することが重要です。
◇ 承継対象の不動産一覧に加えたい項目
土地と建物それぞれについて、所有者、利用者、所在地、用途、取得時期、固定資産税評価額、相続税評価の参考情報、地代・家賃、修繕履歴、借入・抵当権、管理者、将来の承継希望先を整理すると、問題が見えやすくなります。特に不動産を複数持つ会社では、事業に必須の物件と投資用物件、先代の生活費に関係する物件を分けて確認することが重要です。
◇ 不動産の名義変更を先に進めない方がよい理由
不動産の承継を検討するとき、登記名義を後継者や会社に変えれば安心だと考えるかもしれません。しかし、移転には税金・登記費用・取得資金がかかる場合があり、物件が借入金の担保となっている場合は金融機関の確認が必要です。
例えば、会社が先代個人から土地を買い取る場合、先代には売却代金が入る一方、会社は購入資金を支払います。先代の財産は土地から現金へ変わるため、相続対策が自動的に完了するわけではありません。会社の借入負担や資金繰りへの影響も生じます。
反対に、個人保有を維持する場合でも、賃貸借関係や地代、将来の相続、他の相続人の権利を整理する必要があります。名義を変える案と変えない案を同じ表で比較し、会社が必要な不動産を長く使える状態を優先しましょう。
9. まとめ|不動産は「誰が所有するか」と「事業が使えるか」を分けて考える
事業用不動産の承継は、株式や代表権の承継とは別です。名義を移すことを先に決めず、事業の継続性と税務・財務・家族関係を一体で検討しましょう。
☐ 会社が使う土地・建物の所有者を把握している
☐ 賃貸借契約・地代・家賃・修繕負担を整理している
☐ 担保権、会社借入、個人保証を確認している
☐ 譲渡・贈与・相続・保有継続を比較している
☐ 後継者以外の家族への財産配分と納税資金も考えている
▍ アポロ税理士法人の考え方
アポロでは、不動産が関係する事業承継ほど、税務評価だけでなく所有関係・金融機関・資金繰り・相続まで確認すべきだと考えています。税務・会計の検討はアポロ税理士法人が担い、財務・不動産分野の支援はファルコン株式会社等との連携を検討します。登記・法的紛争などは必要な資格を持つ専門家が対応します。

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
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