【事業承継シリーズ 第11回】銀行借入・個人保証は事業承継でどうなる?
更新日:6 日前
「息子が社長になれば、銀行の借入もそのまま引き継げるだろうか」「自分の個人保証は退任時に外れるのか」。事業承継に向けて、こうした不安を抱える経営者は少なくありません。
会社の借入金と、社長が個人として負担している保証は、区別して考える必要があります。代表者の交代だけで会社の借入金が消えるわけではなく、先代の経営者保証も自動的に解除されるわけではありません。
本記事では、金融機関が確認すること、保証解除に向けた準備、後継者の資金計画、相談のタイミングを税務・財務の視点から解説します。
▍ この記事の要点|1分でわかる銀行借入・個人保証

会社の借入と社長の保証は別。 代表交代や株式移転だけで、既存の借入や保証契約が自動的に消えるわけではありません。
保証解除は事前準備が重要。 会社と経営者の資産・経理の分離、返済力、金融機関への情報開示を確認します。
銀行への相談は交代直前では遅い場合がある。 借入一覧・担保一覧・資金繰り計画を揃え、早めに協議します。
▍ 目次
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1. 結論|代表者の交代と個人保証の解除は別々の課題
中小企業が金融機関から借入をする際、社長個人が連帯保証を求められることがあります。会社の債務者は法人ですが、個人保証は社長個人が契約に基づいて負担する債務です。
事業承継で代表取締役が先代から後継者に変わっても、保証契約が当然に消滅するとは限りません。保証解除や保証人の変更は、金融機関との協議・契約上の手続によります。
会社の借入金は引き続き会社が返済していくため、後継者は会社の返済能力を管理しなければなりません。先代は個人保証が残るか、担保提供を続けるかを確認する必要があります。
「代表交代」「株式の移転」「保証解除」は同じ日に完了するとは限らないことを前提に、時間軸を分けて計画しましょう。
2. まず整理したい借入金と保証・担保の違い

金融機関への相談を始める前に、会社と先代個人が負う義務を一覧にします。借入金残高だけでは、保証や担保の全体像は分かりません。
確認する項目 | 誰の負担か | 必要な資料 |
|---|---|---|
会社の借入元本・利息 | 法人 | 借入残高明細、返済予定表 |
先代の連帯保証 | 個人(契約上の保証人) | 保証契約、借入契約 |
社長個人所有不動産の担保 | 所有者個人 | 登記事項証明書、担保資料 |
後継者の新規資金調達 | 後継者または法人 | 資金計画、収入・返済原資 |
借入契約には、代表者変更時の報告や同意、財務情報の提出等が定められていることがあります。まず契約書と金融機関の取扱いを確認しましょう。
個人保証だけでなく、先代個人の不動産が会社借入の担保となっているケースにも注意が必要です。個人保証が解除されたとしても、不動産の担保権が当然に消えるとは限りません。
3. 経営者保証に関するガイドラインの基本
中小企業庁の説明によれば、「経営者保証に関するガイドライン」は中小企業・経営者・金融機関が自主的に尊重するルールであり、法的拘束力はありません。保証を解除できるかどうかの最終判断は金融機関が行います。
ガイドラインでは、保証なしでの融資や保証の見直しに向け、主に次の観点が重視されます。
法人と経営者の明確な分離: 会社の資金と個人の資金を混同しない、資産の所有関係を整理するなど。
法人自身の財務基盤: 会社の収益・資産で借入返済を行える状態に近づけること。
金融機関への適時適切な情報開示: 決算書や資金繰り、経営状況を正確に共有すること。
これらを満たせば必ず保証が外れるわけではありませんが、早めに改善することで協議しやすくなる可能性があります。
例えば、会社が社長個人の生活費を立て替え続けている、個人的な支出が会社に混在する、会社と個人との貸付金・借入金が不明確、という状態では、金融機関が慎重になる可能性があります。
保証解除だけを目的とした一時的な対応ではなく、日頃から会社の経理・財務管理を整備することが重要です。
4. 銀行が見るのは「誰が社長か」だけではない
金融機関は、会社が引き続き借入金を返済できるかを確認します。後継者の経験や意思に加えて、営業キャッシュフロー、利益の安定性、資産・負債、返済の見通し、主要取引先の状況などが重要です。
例えば、過去数年は黒字でも、代表交代の直後に多額の役員退職金を支給し、後継者が株式取得資金の借入を負担する場合、資金繰りへの影響は無視できません。
決算書上の利益と実際の返済資金は一致しません。減価償却費や運転資金、設備投資、税金の支払いを考慮し、資金繰り表で将来の現預金を予測することが必要です。
金融機関との面談では、後継者が数字を理解し、自ら経営方針や返済計画を説明できることも重要でしょう。経営権移譲の準備段階で、後継者も銀行対応に参加することが考えられます。
5. 保証解除と後継者の資金調達を一緒に考える
会社の借入返済と、後継者が自社株式を購入するための資金は分けて検討します。
例えば、自社株式の売買代金が3,000万円で、後継者が個人として借入を行うなら、会社の借入金とは別に返済原資の検討が必要です。後継者の給与・配当・その他の収入だけで返済できるか、借入期間や金利の上昇に耐えられるかを確認します。
会社から後継者へ資金を貸せばよいと安易に判断するのも危険です。法人と個人の取引、貸付条件、税務・会社法上の取扱い、会社の財務健全性などを検討する必要があります。
先代にとっては、株式売却代金や役員退職金が引退後の生活資金になります。一方、会社にとっては退職金支出による現預金減少、後継者にとっては株式購入代金と返済が生じます。
会社・先代・後継者の3つの財布を混同しないことが、事業承継の資金計画の基本です。
6. 具体例|代表交代は決まったが保証の話が進まない
架空の運送業B社を考えます。父親が創業社長、長男が後継者です。銀行からの借入金は合計8,000万円。複数の金融機関と取引しており、先代社長は連帯保証人になっています。会社の事務所用地は父親個人の名義で、一部借入の担保です。
長男の社長就任時期は決まっていますが、会社は保証解除について何も準備していません。直前に銀行へ申し出ても、金融機関は決算、返済計画、担保状況、会社と個人の取引などを確認するため、すぐには結論が出ない場合があります。
このケースでは、まず借入金・保証・担保の一覧を作成し、会社と父親個人の関係を整理します。過去数期の決算書と将来の資金繰り表を用意し、先代の保証解除を希望する時期や後継者の関与を金融機関に説明します。
一つの銀行だけを見ず、複数の借入契約を横断して検討することが重要です。借換えや新規融資の条件、担保の継続など、金融機関ごとに対応が異なる可能性があります。
7. 金融機関と話すまでの5つのSTEP

STEP 01 │ 借入・保証・担保の棚卸し
金融機関別に残高、返済日、金利、連帯保証人、担保提供者を整理します。契約書と返済予定表を合わせて確認します。
STEP 02 │ 法人・個人の分離を点検する
会社資金の個人使用、役員貸付金・借入金、社長所有の事業用資産などの関係を確認し、改善すべき事項を整理します。
STEP 03 │ 決算と資金繰りを説明できるようにする
過去3期程度の決算書、月次試算表、資金繰り表、設備投資予定、代表交代後の経営方針を用意します。
STEP 04 │ 後継者同席で金融機関と協議する
代表交代・株式移転・先代保証の見直し希望時期を説明します。金融機関の判断材料や必要書類を確認します。
STEP 05 │ 契約変更と事後管理を確認する
解除・変更が認められる場合は契約上の手続を確認します。認められない場合は改善課題と再協議の時期を整理し、継続的に確認します。
8. 誰に相談する?いつ動く?
会社の借入条件や保証の見直しは、取引金融機関が最終的に判断する事項です。金融機関が必要とする情報を整理する前段階では、税理士や公認会計士、財務の専門家が決算・資金繰り・法人と個人の取引関係を整理することが役立ちます。
担保不動産の移転や保証契約の法的な問題では、弁護士・司法書士等との連携が必要になることがあります。後継者が株式購入資金を借りる場合は、本人の資金計画と会社の収益見通しを分けて検討しましょう。
相談は代表交代の直前ではなく、検討を始めた段階から進めることをおすすめします。会社の状況によっては、財務や管理体制を改善するための時間が必要です。
保証解除の可能性を高めたいからといって、金融機関へ不正確な資料を示したり、借入状況を意図的に隠したりしてはいけません。正しい決算と情報開示を基礎に、選択肢を確認することが大切です。
◇ よくある質問|保証解除の実際
Q.新社長が連帯保証人になれば、旧社長の保証は自動で外れますか?
自動で外れるとは限りません。保証人の追加・変更・解除は、金融機関との契約や協議に左右されます。旧経営者と後継者の双方が保証を負う状態を避けるための検討も重要ですが、個別の借入契約で何が必要かを確認する必要があります。
Q.赤字の会社では保証解除を相談しても意味がありませんか?
赤字であれば必ず不可能というわけではありません。ただし、金融機関は返済能力や財務基盤を重視します。単年度の損益だけでなく、資金繰り、改善計画、資産・負債、今後の事業見通し等を整理して説明することが重要です。保証解除の判断は金融機関によります。
Q.税理士が銀行に説明すれば解除してもらえますか?
税理士や公認会計士等は、決算書・資金繰り計画等を整理し、経営者が説明するための準備を支援できます。ただし、専門家が関与したこと自体で解除が約束されるものではありません。金融機関の審査や契約上の判断は金融機関が行います。
Q.父親の土地が会社借入の担保なら、株式承継と一緒に移すべきですか?
所有者変更や担保の取扱いは、資金計画や契約条件により変わります。株式移転が先でも、土地の所有権が変わるわけではありません。不動産の相続や賃貸借、担保解除に必要な条件を、金融機関および税務・法務の専門家と確認することが重要です。
◇ 金融機関との面談に準備したい資料
金融機関別の借入・返済・担保一覧、直近の決算書と月次試算表、資金繰り表、事業計画、後継者の略歴・経営方針、先代・会社間の貸付金や不動産契約の状況などを整理します。全部が最初から揃わなくても、現状と今後の改善方針を共有することが第一歩です。返済負担や経営者保証の問題を、後継者本人の意思を無視して進めないようにしましょう。
◇ 「銀行にどう説明するか」も準備の一部
金融機関への説明では、現在の借入金残高や保証の解除希望だけでなく、承継後にどのように会社を運営していくかを伝えることが重要です。例えば、後継者の経験、収益を維持するための事業計画、借入返済の見通し、会社の管理体制を示すことが考えられます。
金融機関が重視する項目は取引先や融資内容によって異なり、同じ会社でも複数の銀行で判断が一致するとは限りません。そのため、まず自社の状況を正確に整理し、金融機関に必要な確認事項を聞き取ることが有効です。
保証解除が直ちに難しい場合でも、財務基盤の改善、法人・個人の分離、情報開示の充実を進め、再協議の時期を検討することができます。先代と後継者の双方が、保証・借入の状況と将来の条件を理解していることが重要です。
9. まとめ|銀行との協議も事業承継計画に組み込む
会社の借入と社長個人の保証は区別して整理します。代表交代だけでは保証が外れない可能性があるため、経営と所有の承継に加えて保証・担保の見直しを計画に入れましょう。
☐ 銀行別の借入残高・返済予定が分かる
☐ 先代と後継者の保証契約を把握している
☐ 個人名義の担保提供物件を確認している
☐ 会社と個人の資金関係を整理している
☐ 後継者が将来の返済計画を説明できる
▍ アポロ税理士法人の考え方
税務・会計の数字を整えるだけでなく、承継後の経営と金融機関との関係を見据えて資金の課題を整理することが重要です。税務・会計はアポロ税理士法人が担い、財務・資金調達に関する支援はファルコン株式会社等との連携を検討します。金融機関の審査・契約条件を保証するものではありません。

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
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※本記事は2026年10月時点の一般的な情報です。個別契約や判断は金融機関・専門家へご確認ください。


