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【事業承継シリーズ 第10回】役員退職金は事業承継にどう影響する?

10月28日
読了時間: 12分

更新日:6 日前

「事業承継のとき、先代社長に役員退職金を出した方がよいのか」「退職金を払えば、自社株の評価額が下がると聞いた」。事業承継を考える際、役員退職金は税金と資金の両方に影響する重要な論点です。


役員退職金は、先代経営者の引退後の生活資金になり得ます。一方、支払う会社から見ると多額の現預金流出を伴います。税務上の損金算入や株式評価への影響だけを見て金額を決めると、後継者が経営する会社の資金繰りを苦しくする可能性があります。


この記事では、退職金の基本、会社・先代・後継者に与える影響、検討手順と専門家への相談のタイミングを解説します。



▍ この記事の要点|1分でわかる役員退職金と事業承継


事業承継シリーズ第10回のsummary図解:役員退職金は事業承継にどう影響する?

  • 先代の生活資金と会社の支出は表裏一体。 退職金の金額は、会社・先代・後継者それぞれのお金に影響します。

  • 損金算入と株価低下は自動的ではない。 適正額、退職の実態、税務上の取扱い、評価時点を確認します。

  • 金額を決める前に資金繰りを試算する。 支払後の運転資金・銀行借入・設備投資を考慮しましょう。


▍ 目次


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1. 結論|役員退職金は「節税策」だけで判断しない


ⓘ 役員退職金の2分の1課税には例外がある

特定役員退職手当等(役員等勤続年数が5年以下で、その役員等勤続年数に対応する退職金)は退職所得の2分の1課税が原則として適用されません。役員等勤続年数と退任の実態、法人側の過大役員退職給与等の損金算入を別々に検討してください。

国税庁:退職金と退職所得



事業承継の局面では、先代経営者が退任する際に役員退職金の支給を検討する場合があります。長年経営に携わってきた先代にとっては、引退後の生活を支える資金の一部となるでしょう。


一方で、会社からはまとまったお金が出ていきます。退職金を支給した結果、会社の預金が大きく減り、借入金返済や新しい設備投資に支障が生じることは避けたいところです。


また、税務上の損金算入には要件があり、不相当に高額な部分などは損金に算入できません。退職の事実や支給決議、金額算定の考え方等も重要です。


退職金の検討は「いくら税金が減るか」より前に「退任後に誰の手元にいくら残るか」を考えることから始めます。





2. 役員退職金と通常の役員報酬は何が違う?


役員報酬は在任中の職務に対する対価ですが、役員退職金は退職に伴って支給される給与です。名前だけ「退職金」としても、実際には退職の事実が認められない場合や、実態に応じて税務判断が必要となる場合があります。


法人税の取扱いでは、退職金のうち不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません。具体的な適正額を判断するには、役員の勤続期間、退職事情、会社の収益状況、同業他社の支給状況などを総合的に検討します。


退職金規程や株主総会等の決議、算定根拠、支払事実の記録を整えておくことも重要です。実態と書面が一致していない場合には税務上の問題を招くことがあります。


特に、代表取締役を退いた後に会長等として残る場合、権限や職務の実態によっては実質的な退職と認められるかが問題となり得ます。「肩書を変えれば必ず退職金を損金算入できる」というものではありません。





3. 会社・先代・後継者の3つの財布で整理する


事業承継シリーズ第10回のdiagram図解:役員退職金は事業承継にどう影響する?

役員退職金を検討する場合、会社、先代経営者、後継者の資金を別々に整理すると、意思決定しやすくなります。


誰の資金か

退職金支給による主な影響

会社

現預金の減少、損金算入の検討、借入・投資余力

先代経営者

受取額、退職所得課税、生活資金の確保

後継者

承継後の資金繰り、経営の自由度、株式取得資金


例えば、会社に5,000万円の現預金があっても、1年以内に多額の設備投資や法人税の納付、借入の返済が予定されていれば、全額を自由に使えるわけではありません。


退職金は会社にとっては支出です。支出後に現預金がどの程度残り、どの月に資金が不足しそうかを資金繰り表で見ておく必要があります。


先代にとっては、退職金の税引後手取を確認したうえで、引退後の生活、医療・介護、家族への財産配分などを考えます。後継者にとっては会社経営が安定することが重要です。三者の利害が異なることを前提に、金額と支払時期を検討しましょう。





4. 退職所得の課税と所得税の計算で注意すること


個人が受け取る退職金は、一定の要件のもと退職所得として課税されます。退職所得控除があり、一般的には控除後の金額を2分の1とする計算が使われます。


ただし、役員等勤続年数が5年以下の者が、その役員等勤続期間に対応する退職金を受ける「特定役員退職手当等」については、原則として2分の1とする計算が適用されません。


また、過去に他の退職金を受け取っている場合などは退職所得控除の重複調整が問題となることがあります。勤続年数や勤務実態、退職所得の受給に関する申告書の提出状況等を確認します。


「給与でもらうより退職金でもらえば必ず有利」といった説明は正確ではありません。受取時点の税金だけでなく、退職後の職務・給与・社会保険等も含め、個別に判断する必要があります。





5. 退職金で自社株評価は下がる?


役員退職金を支給すると、会社の利益や純資産に影響するため、非上場株式の税務評価に影響する場合があります。ただし、その程度や方向は会社規模、評価方式、株主区分、支給・評価の時期などにより変わります。


相続税・贈与税のための自社株評価では、会社規模や株主区分に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式等を用います。不動産や有価証券を多く保有する会社などでは特定の評価方法が問題になることもあります。


また、法人税上の損金算入時期や退職給与の実態が問題となる可能性があります。退職金の支払いだけを目的とした形式的な処理や、評価額だけを下げることを目的とする不自然な取引は避けるべきです。


重要なのは、株価がどう変わるかと、会社の現金がどの程度減るかを同時に比較することです。株価が下がる可能性があっても、支給後に事業資金が不足するなら合理的な選択とは限りません。





6. 具体例|退職金3,000万円を支給する会社


架空の卸売業C社では、社長が事業を長男へ引き継ぐ予定です。会社の現預金は4,000万円、1年以内に必要となる運転資金・納税・借入返済は概算で2,500万円です。社長は退職金3,000万円の支給を希望しています。


単純に現預金から退職金3,000万円を支払うと、残りは1,000万円です。1年以内に必要と見込まれる2,500万円と比べると、追加的な資金調達や支払時期の見直しが必要になる可能性があります。


この場合、退職金支給を一切やめるという結論だけではありません。適正額の確認、支払時期や資金調達の検討、先代の必要生活資金の精査、借入金の返済計画の見直しなどを検討します。


ただし、分割支給等を検討する場合にも、税務上の支給時期や損金算入の取扱いがあるため、単純に「後で払えばよい」と決めないことが大切です。


この例が示すのは、退職金を計算する際に、税務上の有利さだけでなく、実際の現預金残高と支払予定を確認する必要があるということです。





7. 退職金を検討する5つのSTEP


事業承継シリーズ第10回のtimeline図解:役員退職金は事業承継にどう影響する?



STEP 01 │ 先代の引退後の必要資金を見積もる


生活費、年金、預貯金、個人所有不動産からの収入、その他の退職後収入を整理します。必要額が分からないまま退職金を先に決めないようにします。




STEP 02 │ 退任の時期・役割・実態を確認する


代表交代の予定と、先代が退任後に担う職務、権限、役員報酬等を整理します。実質的な退職に該当するかは税務上の重要論点です。




STEP 03 │ 金額の妥当性と税務を検討する


規程、過去支給実績、同規模同業他社の状況、会社収益、受取側の退職所得課税を確認します。税務上の適正額は個別判断です。




STEP 04 │ 会社の資金繰りと株価への影響を試算する


退職金支給前後の現預金、借入返済、設備投資、納税額、株式評価を比較します。資金調達の必要性も確認しましょう。




STEP 05 │ 決議・記録・支給後の確認を行う


必要な社内決議、支給根拠、税務処理を整えます。承継後の資金繰りと経営への影響も継続して確認します。





8. 誰に相談すればよい?


税理士には、役員退職金の損金算入、税務上の適正性、退職所得課税、株式評価への影響を相談します。公認会計士・財務専門家には、退職金を支給した後のキャッシュフローや借入返済余力の分析が期待できます。


金融機関からの資金調達や財務制限条項が関係する場合は、金融機関との協議が必要になることもあります。また、退職金規程や株主総会等の手続に法的な問題があれば、弁護士等と連携します。


相談するタイミングは、退職金額や退任時期を正式に決める前です。先に金額だけ決まっていると、会社が資金を捻出できない、税務処理が想定と異なるといった問題が生じることがあります。


会社と先代の両方の立場から、無理のない金額・時期・資金計画を考えましょう。


◇ よくある質問|退職金の金額と時期


Q.功績倍率を使えば役員退職金は必ず損金算入できますか?


功績倍率を参考に算定する方法はありますが、倍率だけで税務上の適正性が決まるものではありません。実際の勤続期間、退職事情、役員の職務、会社の状況、同業他社の支給状況等を総合的に確認する必要があります。支給決議や規程の有無も含めて個別判断となります。


Q.退職金を支払うために銀行から借入をしてもよいですか?


資金調達を検討すること自体はできますが、金融機関の判断が必要です。会社には借入金の返済負担が生じるため、今後の営業キャッシュフローや既存の借入返済、設備投資を含めた見通しを作成する必要があります。借りられるから支払ってよいというわけではありません。


Q.退職金を分割で支給すれば資金繰り問題は解決しますか?


分割支給が検討できる場合もありますが、税務上の支給時期・損金算入の取扱い、支払条件、会社の資金繰り、先代が受け取る時期などを確認する必要があります。分割すれば税務上も当然に同じ効果が得られるとは限りません。


Q.代表取締役を退き、会長になる場合も退職金を出せますか?


肩書だけで判断されるものではありません。実際にどの程度の権限や職務を持ち、報酬がどう変わるか等によって、実質的な退職があったかを確認する必要があります。形式だけの退任として扱われることがないよう、専門家と事前に検討することが重要です。


◇ 退職金シミュレーションで比較したい3つのケース


支給しない案、一定額を支給する案、金額や時期を調整する案を作り、先代の税引後手取、会社の現預金、会社の法人税、自社株式評価、後継者の経営余力を比較します。実際の支出時点の資金繰りと、税効果が生じる時期が必ずしも一致しない点に注意が必要です。数値を見える化してから決議・支給を進めることをおすすめします。


◇ 退職金の支給前後で見るべき経営数字


役員退職金の金額が決まった後も、支出月の資金残高、翌期の運転資金、税金支払予定、借入元金の返済、設備投資を確認する必要があります。決算書上の利益と現預金の増減は一致しないため、短期の資金繰り表を使って確認することが重要です。


例えば、支給額が税務上の適正範囲であったとしても、支給直後に会社が取引先への支払いや給与を滞らせるようでは、事業承継の目的に反します。先代が長年築いてきた会社の信用や人材を守るためにも、支出後の財務健全性を重視しましょう。


また、株式評価への影響は、会社規模や評価方式によって異なるため、退職金の税務と株式の税務を別々に算定したうえで整合する計画にします。節税のための退職金ではなく、引退と経営継続を支える退職金として考えることが大切です。





9. まとめ|退職金は金額よりも全体の資金設計が重要


事業承継で役員退職金を検討する際は、先代経営者の生活資金と会社の資金繰りを分けて考え、税務上の取扱いや株価への影響も確認しましょう。


☐ 先代の引退後に必要な資金を見積もった


☐ 退任の実態・時期・決議を確認した


☐ 税務上の適正額や退職所得の課税を検討した


☐ 支給後の会社の資金繰りを試算した


☐ 後継者の経営と借入返済への影響を確認した





▍ アポロ税理士法人の考え方


退職金を「節税のための支出」としてだけ見るのではなく、会社・先代・後継者の3つの資金を整理したうえで判断することが大切です。税務・会計はアポロ税理士法人が担い、資金繰りや財務面はファルコン株式会社等との連携を検討します。



監修者 月方智彦(公認会計士・税理士)

監修者

月方 智彦

公認会計士・税理士


公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。


専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継

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※本文は2026年10月時点の一般的な制度説明です。個別事案は最新の法令・事実関係をご確認ください。



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