【事業承継シリーズ 第9回】後継者以外の子には何を残す?相続と遺留分
更新日:6 日前
「長男に会社を継いでほしい。でも、長女にも公平に財産を残したい」。親族内で事業承継を考える際、こうした悩みはとても自然なものです。
会社の経営を安定させるために後継者へ株式を集中させたい一方で、他の子どもにも相続に関する権利や期待があります。会社の価値が大きく、現金や不動産など他の財産が少ないと、バランスを取ることが難しくなります。
重要なのは、「後継者には株式、他の子どもには何を残すか」を税額だけでなく家族・資金・法的な問題として考えることです。この記事では、会社の所有と家族の財産配分を整理する方法を解説します。
▍ この記事の要点|1分でわかる後継者以外の子への相続

株式集中と家族の納得を両立させる。 会社の議決権を後継者に引き継ぐ必要性と、他の相続人への財産配分を分けて考えます。
遺留分や相続財産全体の確認が必要。 株式評価だけでなく、不動産・預金・負債・過去贈与も整理します。
現金での調整には資金準備が欠かせない。 生命保険や代償金等を考える場合は、実際の支払原資を確認します。
▍ 目次
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1. 結論|株式を後継者に集中させるなら家族全体の財産配分も考える
会社の株式は単なる財産ではなく、議決権を通じて会社の経営に関わる権利でもあります。兄弟姉妹で株式を分けると、将来の意思決定に支障が生じる可能性があります。
一方、子どもが複数いる場合に、後継者だけが高額な株式を取得することになれば、他の相続人との公平性が問題になる場合があります。
後継者に会社株式を集中させることが合理的なケースでも、当然に他の子どもがその内容に納得するとは限りません。預貯金や不動産、生命保険など、先代経営者が保有する財産全体の状況を踏まえる必要があります。
会社の経営権の安定と、家族の財産承継は両方を見て判断する課題です。事業承継と相続対策を別々の人が別々に進めると、整合しない計画になることがあります。
2. なぜ株式が分散すると困ることがある?

例えば、先代社長が会社の全株式を所有しており、相続で長男と長女が半分ずつ取得する場合を想定します。長男が代表取締役になっても、長女も議決権を持つ株主となります。
株主総会の決議事項によって必要な賛成割合は異なり、重要な組織運営上の決議では意思決定に影響することがあります。兄弟仲がよくても、将来それぞれの相続が発生したときには株主の人数が増える可能性があります。
すべての会社で株式を必ず一人に集中させるべきだというわけではありません。会社の規模、経営体制、株主の意思、種類株式の設計等によって適切な構成は異なります。
ただし、後継者が長期的に経営を担う会社では、現在と将来の株主構成を整理し、経営の安定に必要な支配関係を確認することが重要です。
3. 相続人の権利と遺留分を理解する
相続では、遺言書があっても一部の相続人には遺留分が認められる場合があります。具体的な権利の有無や金額は相続人の構成等によって異なります。
例えば「会社株式はすべて長男に相続させる」と遺言書で定めることが考えられます。しかし、他の相続人の権利を無視してよいという意味ではありません。
民法上の遺留分侵害額請求が問題となった場合、金銭による対応が必要になる可能性があります。後継者が株式を取得しても、それによって直ちに現金を得られるわけではないため、資金手当てが課題になります。
また、過去の贈与や遺贈などが関係する場合、相続財産だけを見て単純に計算できないことがあります。遺留分の具体的な法的判断や紛争対応は弁護士との連携が必要です。
事業承継では、遺留分の算定に関する民法の特例が利用できる場合もありますが、所定の要件、関係者の合意や手続が必要です。一般的に自動適用される制度ではないため、利用する場合には事前の確認が重要です。
4. 株式以外に何を残せるかを整理する
後継者以外の子への財産配分を考えるには、先代経営者の資産全体を整理する必要があります。
財産の種類 | 配分を検討するときの確認事項 |
|---|---|
自社株式 | 評価額、議決権、承継先、売却の難しさ |
預貯金 | 分配・納税に使える現金がどれだけあるか |
自宅・賃貸不動産 | 利用状況、担保、管理、評価・共有の問題 |
生命保険 | 受取人、保険金額、税務と資金の使途 |
借入・保証 | 相続人や後継者の負担、担保の確認 |
自社株式の相続税評価額が高くても、相続人が自由に市場で換金できるわけではありません。一方、不動産も実際には売却に時間がかかったり、賃貸経営を続けるための修繕費がかかったりする場合があります。
評価額の合計だけで公平性を判断せず、使いやすさ、収益・管理の負担、将来の支出まで含めて整理することが大切です。
5. 具体例|後継者の長男と長女で分ける財産
架空の印刷会社D社で、父親が全株式を所有しているとします。父には長男と長女がいて、長男が後継者となる予定です。自社株式の相続税評価額の概算が8,000万円、預貯金が2,000万円、他の不動産は自宅のみという状況を考えます。
株式の大部分を長男に引き継げば、会社経営は安定する可能性があります。しかし、長女が取得できる現金等は株式と比べて少なくなり、家族間の理解が得られるか確認する必要があります。
この場合、まず自社株式の正式な評価や不動産の評価、借入・負債、過去贈与などを確認します。そのうえで、長男の株式取得方法、父親の引退資金、長女への財産配分、納税資金・代償金の準備を一体として考えます。
生命保険や生前贈与が選択肢となる場合もありますが、契約や受取人、税制、他財産への影響を踏まえる必要があります。生命保険だけで遺留分が確実に解決すると考えるのは適切ではありません。
この例では、数字はあくまで仮定です。実際には法定相続人の構成、配偶者の有無、評価時点や遺言の内容等によって結論が変わります。
6. 生前贈与と遺言はどのように位置付ける?
生前贈与は、経営者が元気なうちに株式等を後継者へ移す方法です。承継を早める効果がある一方、贈与税や将来の相続税、遺留分などの問題を考える必要があります。
暦年課税による生前贈与は、2024年から相続開始前贈与の加算対象期間が段階的に延長される制度になっています。2026年に相続が開始した場合には加算対象期間は原則として相続開始前3年以内であり、2027年以降は経過措置を経て将来的に7年となります。いつでも一律7年という説明は正確ではありません。
相続時精算課税や法人版事業承継税制などを検討する場合は、適用要件や届出、将来の税額の計算も比較しなければなりません。
遺言書は、承継先と財産配分を明確にする手段の一つですが、相続人の権利関係や法的な有効性については専門家の確認が重要です。公正証書遺言等の形式を選択する場合も、目的と家族関係を考えて検討しましょう。
7. 家族と会社の問題を整理する5つのSTEP

STEP 01 │ 後継者と家族の意思を確認する
先代が希望する承継先だけでなく、後継者本人の意思、他の家族が重視していることを整理します。いきなり「公平な金額」を提示する前に、将来の希望を共有することが重要です。
STEP 02 │ 株主構成と全財産を一覧化する
自社株式、個人の不動産、預貯金、保険、債務、過去の贈与などを整理し、財産の価額と換金可能性を分けて確認します。
STEP 03 │ 複数の配分案を比較する
株式は後継者に集約する案、株式以外の財産で調整する案、段階的な贈与を利用する案などを比較します。税務と法的なリスクは別々に確認します。
STEP 04 │ 遺留分・納税・代償金の資金を考える
必要になり得る金銭の額と支払原資を見積もります。会社の資金を個人の問題に自由に使えると考えないことも重要です。
STEP 05 │ 遺言・契約・税務手続と定期的な見直し
必要に応じて弁護士・司法書士等と手続を検討します。家族構成や会社の株価、財産状況は変化するため、計画を更新しましょう。
8. 誰に、いつ相談すればよい?
税理士は、自社株式・個人資産の評価、贈与税・相続税のシミュレーション、資産配分の税務面の整理を担います。公認会計士・財務専門家は、後継者の株式取得資金や会社の資金繰りへの影響などを分析できます。
遺留分、遺言の法的有効性、相続人間の交渉や紛争は弁護士に相談する必要があります。不動産の登記や相続手続には司法書士等の専門家が関係します。
相談するのは相続発生後だけではありません。株式を生前贈与する前、遺言を作成する前、家族間で具体的な金額を約束する前に、財産全体を把握しておくことが重要です。
特に親族が複数いる場合は、後継者との間で話が進んでいても、他の相続人への説明や相談の方法を慎重に考えましょう。
◇ よくある質問|家族への説明で迷ったら
Q.長男に株式をすべて渡すと、長女には必ず同額の財産を渡さなければいけませんか?
法的な権利や財産配分は、相続人の構成、遺言、遺留分、これまでの贈与等によって変わります。必ず株式と同額の現金を用意するという単純な問題ではありません。ただし、他の相続人の理解を得るためには、財産の価値だけでなく事業を引き継ぐ負担や将来の収益・リスクも丁寧に説明することが望ましいでしょう。
Q.遺言で「会社は長男」と書けば争いは防げますか?
遺言は承継の方向を明確にする重要な手段ですが、他の相続人の権利が消えるわけではありません。遺留分が問題となる場合や、遺言の有効性・解釈が争われる場合もあります。法律上の紛争が予想されるときは弁護士に相談しましょう。
Q.生命保険金を長女に残せば解決しますか?
保険金が現金の準備に役立つ場合はありますが、保険契約者・被保険者・受取人の関係によって税務が異なり、遺留分をめぐる評価や家族間の公平性の問題も個別に判断する必要があります。保険の加入だけで紛争が必ず防げるわけではありません。
Q.相続時に会社が後継者から株式を買い取ればよいですか?
会社による自己株式取得は会社法上の分配可能額や手続、税務上のみなし配当等の問題が生じる場合があります。後継者に現金が必要だからといって、会社の資金を自由に使えるわけではありません。会社の資金繰り、法務・税務を確認して検討する必要があります。
◇ 財産配分を考えるときの数字の並べ方
「相続税評価額」「実際に売却できそうな価額」「毎年発生する収益・費用」「換金までに必要な時間」を分けて整理する方法が有効です。例えば賃貸不動産は評価額が大きくても、借入金や修繕予定があるかもしれません。自社株式も評価額が高くても現金に換えにくい場合があります。数字を並べるときには、家族それぞれの将来の負担と管理の手間まで考えることが重要です。
◇ 家族への説明は「数字を合わせる」だけではない
兄弟姉妹への財産配分を決める際、株式の評価額と不動産・預金の評価額を機械的に同額へ揃えるだけでは、納得につながらない場合があります。株式を持つ人は会社の経営リスクを負い、現金を受け取る人は自由に使える資産を得るなど、性質が異なるためです。
事業用不動産を承継する人には、修繕・借入返済・管理の負担が続く場合があります。生命保険を使う場合も、保険契約の税務や受取人の事情を確認する必要があります。評価額の差だけでなく、将来の管理・費用・換金性を説明できると、家族で議論するための共通の材料になります。
家族が意見を述べる場を設けることは重要ですが、紛争が既に起きている場合には、感情的な話合いだけで解決しようとせず、弁護士等の専門家に相談してください。
9. まとめ|会社の継続と家族の財産配分を分けて整理する
事業承継と相続は密接につながっています。後継者への株式集中が必要な場合でも、他の家族への財産配分や遺留分・納税資金を無視することはできません。
☐ 株式を誰に、どの程度引き継ぐかを検討した
☐ 後継者以外の相続人と財産構成を把握した
☐ 預貯金・不動産・保険を含めて配分案を考えた
☐ 遺留分と金銭の支払原資を確認した
☐ 生前贈与と遺言の税務・法務を確認した
▍ アポロ税理士法人の考え方
株式評価や相続税の試算だけでなく、後継者が会社を安定して経営できることと、家族が将来どのような財産を保有するかを一緒に考える必要があります。税務・会計はアポロ税理士法人が担い、財務・不動産分野はファルコン株式会社等と連携し、法律上の権利関係や紛争は弁護士等に相談する体制を重視しています。

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
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※本文は2026年10月時点の一般的な情報です。個別の権利関係や税額は専門家へご確認ください。


