【相続の実践ガイド 第17回】会社オーナーの相続|自社株・経営権・後継者以外の家族をどう整理する?
更新日:6 日前
親が経営する会社の株式を相続する場合、株式を取得することと会社を経営することは同じではありません。誰が株式の議決権を持ち、誰が代表者として経営し、他の相続人へどの財産を残すのかを一緒に考える必要があります。
本記事では、公認会計士・税理士の視点から、自社株評価と資金計画を軸に、事業を止めないための承継準備を整理します。親族内承継のほか、後継者がいない場合の選択肢にも触れます。

▍ この記事の要点|1分でわかる
1.自社株・経営権
2.後継者以外の家族
3.会社借入・保証
▍ 目次
02 制度・仕組みの基本 ›
04 見落としがちな注意点 ›
07 資料・チェックリスト ›
09 よくある質問とまとめ ›
1. 結論|最初に知っておきたいこと
ⓘ 法人版事業承継税制の計画と承継は別期限 法人版事業承継税制の特例措置では、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、対象となる贈与・相続等の期限は2027年12月31日です。納税猶予と無条件の免税は異なり、認定・申告・継続手続などの要件を確認する必要があります。 |
会社の株式は相続税の対象となる財産です。非上場会社では取引所の株価がなく、会社の規模、事業内容、株主区分などに応じて税務上の価額を算定します。税務評価が分かっても、実際のM&A価格や後継者の取得資金が同じになるわけではありません。
また、議決権を持つ株主と日々経営する代表取締役は別です。代表者を交代しても先代名義の株式が残れば、所有の承継は終わっていません。株式・役員・金融機関の手続を別々に確認します。
2. 制度・仕組みの基本
後継者に株式を集中させる案には、議決権を安定させやすい利点があります。ただし、子どもが複数いるときは、会社を継がない相続人への預貯金や不動産の配分、遺留分などにも目を向ける必要があります。
法人版事業承継税制を検討する場合、一定の要件を満たせば非上場株式に係る贈与税・相続税の納税猶予があり得ますが、無条件の免税ではありません。特例承継計画の提出期限など適用時点のルールを確認し、適用後の継続手続と将来のリスクも比較します。
3. 選択肢と影響を比較する
会社の株式を引き継ぐ方法には、相続、贈与、売買などがあります。どれか一つが常に最善というわけではなく、税金の種類、資金の移動、経営権の移転時期が異なります。事業会社と不動産管理会社でも、検討すべき資金繰りは違います。
特に、株式売買では後継者の取得資金、贈与では贈与税、相続では他の相続人との分割や納税資金が論点になります。方法を決める前に、会社・先代・後継者の3者の現金の動きを確認しましょう。
対象 | 税務・法務の確認 | 資金・経営の確認 |
|---|---|---|
自社株式 | 評価、株主・議決権 | 後継者の取得資金 |
先代の個人保証 | 契約上の保証関係 | 金融機関との協議 |
会社利用の個人所有地 | 相続・譲渡の取扱い | 賃料・担保・運営継続 |
4. 見落としがちな注意点
会社の資産が多ければ自社株評価も高くなる場合があります。一方、株式そのものはすぐ現金化できるとは限らず、後継者の納税負担が問題になることがあります。含み益のある不動産や株主の分散がある場合は、評価と議決権の両面で調査が必要です。
先代が会社の借入金を個人保証している場合、社長交代と同時に保証が当然消えるわけではありません。会社の返済能力や個人資産と法人経理の分離などを整理し、早めに金融機関と協議しましょう。
5. 具体例|自社株を長男に渡し、長女にも財産を残したい
父が株式を100%保有する会社で長男が取締役、長女は社外に勤めているケースを考えます。会社には銀行借入があり、父個人名義の土地を事業用に利用しています。父は長男に会社を任せたい一方、長女との公平感にも配慮したいと考えています。
株式評価・預貯金・土地の価額を調べ、株式は長男、他の財産は長女など複数の分割案を試算します。長男の納税資金と会社の資金繰り、土地利用の契約関係、父の退任後の保証までを並べて判断します。相続税が小さい案だけで結論を出さないことが重要です。
6. 実務の進め方|5つのステップ

STEP 01 │ 株主と後継者の意思を確認
株主名簿、法人税申告書別表二、役員構成、後継者の意思を確認する。
STEP 02 │ 財務・株価を把握
決算書、借入一覧、事業用不動産、自社株評価を整理する。
STEP 03 │ 相続と承継方法を比較
株式の贈与・相続・売買、退職金や他の相続人への分配を試算する。
STEP 04 │ 金融機関と法務を調整
保証、担保、株主・登記などを必要な専門家と確認する。
STEP 05 │ 段階的に実行・見直し
経営権と株式の移転時期を決め、会社の業績変化に応じて更新する。
7. 資料・チェックリスト
最初から完璧に資料を揃える必要はありません。分かる範囲で現状を記録し、不足している事項を確認しながら次の行動を決めましょう。
□ 株主名簿・別表二を確認した
□ 自社株評価の目的と方法を区別した
□ 後継者以外の相続人の分配も考えた
□ 借入金・担保・個人保証を把握した
□ 会社・先代・後継者それぞれの現金を試算した
8. 専門家・金融機関に相談する時期
税理士は自社株評価、贈与税・相続税、制度適用を検討します。公認会計士は会社の財務状況や資金負担、企業価値の見方を整理する役割があります。株式の帰属や遺留分、契約に法的な問題があれば弁護士等に相談します。
金融機関には、経営者保証や借入条件の相談を、交代直前ではなく準備段階から始めたいところです。会社の決算書だけでなく、事業計画と後継者の財務見通しを共有できると、協議を進めやすくなります。
税務上の判断と法律上の判断、金融機関との契約上の手続は別々です。担当する専門家の役割を共有して進めることで、見落としや手戻りを減らしやすくなります。
9. よくある質問とまとめ
Q. 株式を相続すれば社長になれますか?
A.株式の所有と代表取締役への就任は別です。会社の機関決定や登記などを確認する必要があります。
Q. 株式の評価額が高いとM&A価格も高くなりますか?
A.税務上の財産評価と第三者間の売買価格は目的が異なります。同じ金額になるとは限りません。
まとめ: 自社株の承継は税金だけでなく、議決権、家族への財産配分、会社の返済能力を一体で考える必要があります。
▍ 場面別に考える|実務のケーススタディ
実際の相続では、制度の概要だけでなく、家族の状況や財産の種類によって判断が変わります。以下のような場面では、当初の方針だけで進めず、必要な資料と実行時期を確認することが重要です。
CASE 01 │ 後継者に自社株式を集中させる場合
長男が会社を継ぐことが決まっていても、父親が保有する株式をどの時期にどう移すかは別の問題です。株式の相続税評価、議決権の集中、ほかの相続人の遺留分、長男の納税資金を確認する必要があります。長女に預金や不動産を残すことで調整できる場合もありますが、財産の流動性が不足していれば実行できません。税負担だけでなく安定した経営権を維持できるかを考えましょう。
CASE 02 │ 先代の個人保証が残っている場合
会社の代表者を後継者へ交代しても、金融機関との個人保証契約が当然に消えるわけではありません。先代が引退後も保証を続けることになれば、家族の資産承継や生活資金に影響する可能性があります。会社の決算書、返済計画、担保、保証の内容を整理し、金融機関へ早めに相談しましょう。経営者保証の見直しと株式移転は同じ手続ではないため、担当者と実行時期を分けて管理します。
CASE 03 │ 社長個人が会社用地を所有している場合
父が会社の株式100%と工場用地を個人で所有している場合、株式を長男に相続させるだけでは土地の所有関係は変わりません。土地を誰が相続するかによって、会社が将来どの契約で土地を利用できるかが問題になります。賃料、借地権、担保、相続税評価、家族への財産配分を確認し、会社の経営と個人資産の承継を一つの計画で整理することが重要です。
こうしたケースでは、税金の計算だけで結論を決めるのではなく、財産の帰属・権利関係・納税資金・相続後の管理・専門家の役割を同じ資料の中で整理すると、判断を誤りにくくなります。選択肢ごとの利点と制約を表にし、誰がいつ何を確認するかまで具体化しましょう。
▍ さらに詳しく|実務判断の6つのポイント
01 │ 株主名簿と実態のずれを先に解消する
株主名簿では創業者が持っていることになっていても、過去の増資、相続、株式譲渡で実際の権利関係が複雑になっていることがあります。法人税申告書の別表二と名簿、過去の契約書、株主総会議事録を突き合わせ、不明な持株がないか確認しましょう。株式の評価額だけを計算し、誰が議決権を持つかを後回しにすると、後継者が経営判断を行う段階で問題になる可能性があります。
02 │ 相続税評価と資金調達の評価を混同しない
非上場株式の相続税評価は税務上のルールで行います。一方、後継者が株式を買い取る場合や第三者へ譲渡する場合は、売買条件や資金調達の検討が必要です。税務上の評価が高いからといって同額を金融機関から借りられるとは限りません。先代経営者の引退後の生活資金、後継者の取得資金、会社の運転資金を分けて試算すると、無理のある承継計画を避けやすくなります。
03 │ 後継者以外の家族との合意形成
長男が社長になるとしても、長女や次男が何も関係ないわけではありません。自社株の大部分を長男に集中させるなら、ほかの相続人の遺留分や財産の配分を確認したいところです。不動産や預貯金を使って調整する案もありますが、実際の財産の流動性が不足していれば実行できません。家族への説明は税額計算の結果だけを示すのではなく、会社を続けるために経営権を集中させる理由も共有するとよいでしょう。
04 │ 経営者保証を残したまま引退しないために
会社の借入金に先代が連帯保証しているとき、代表者の交代だけで保証が解除されるわけではありません。金融機関がどのような財務情報を重視しているのか、法人と経営者個人の資産が混在していないか、借入の返済原資があるかを事前に点検します。個人保証を巡る協議には時間がかかることがあるため、株式の移転や役員交代と同じ日に片づけようとせず、早期から金融機関と相談するのが現実的です。
05 │ 自社株と社長個人の不動産を別管理にする
会社が利用する土地・建物を先代個人が所有している場合、自社株の相続だけではその不動産は移りません。株式の取得者と土地の取得者が違えば、会社が将来どのような契約で土地を使うかが問題になります。賃料、借地権の有無、担保、売却制限、修繕負担などを整理し、相続が起きた後も事業を継続できるよう準備します。会社資産と個人資産の一覧を混ぜないことが大切です。
06 │ 税制を使う場合は事後管理まで比較する
法人版事業承継税制の特例については、計画提出の期限や贈与・相続の実行期限、適用後の継続届出などを確認します。納税猶予が認められても、一定の事由で納税が必要になる場合があります。特例を使わない通常の贈与・相続・売買と比較し、将来会社を売却する可能性や後継者の経営方針も含めて判断しましょう。『税金が猶予されるから必ず利用する』という結論は慎重に考えたいところです。
▍ アポロ税理士法人の考え方
相続税の有利・不利だけで判断せず、分割・納税資金・不動産や事業の承継後まで考えることを大切にしています。税務・会計・財務に関する論点を整理し、法律・登記・金融機関との調整が必要な部分は各分野の専門家と連携します。

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
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