【相続の実践ガイド 第16回】賃貸不動産を相続したら?家賃・借入金・管理会社・確定申告の引継ぎ
更新日:6 日前
賃貸アパートや駐車場を相続すると、相続税の計算だけでなく、翌月の家賃入金から日常の管理まで引き継ぐ必要があります。管理会社への連絡、入居者からの預り金、借入金返済、修繕計画、所得税申告など、止められない実務があります。
相続税申告が終われば賃貸経営も引継ぎ完了というわけではありません。所有と運営と税務を分けて、相続後の混乱を防ぐ方法を解説します。

▍ この記事の要点|1分でわかる
1.遺産分割前の家賃
2.借入・修繕・敷金
3.税務・契約・登記
▍ 目次
02 制度・仕組みの基本 ›
04 見落としがちな注意点 ›
07 資料・チェックリスト ›
09 よくある質問とまとめ ›
1. 結論|最初に知っておきたいこと
まず、亡くなった方名義の賃貸物件について、土地・建物の所有関係、管理委託契約、賃貸借契約、敷金・保証金、借入金残高、家賃の入金先を一覧にします。管理会社と金融機関へ早めに連絡する必要があるケースもあります。
遺産分割が終わるまでは、賃料の帰属について民法上・所得税上の整理が必要です。相続開始前の未収家賃と、開始後に生じた収入を同じものとして扱わないよう、期間を分けて記録します。
2. 制度・仕組みの基本
亡くなった方の生前の所得税について準確定申告が必要となる場合には、原則として相続開始を知った日の翌日から4か月以内の期限を確認します。その後、物件を引き継いだ方の不動産所得の記帳や確定申告も必要になることがあります。
賃貸事業を新たに承継する際の青色申告承認申請などは、取得時期や被相続人の申告状況により期限の判定が異なる場合があります。通常の新規開業と同じだと決めつけず、早い段階で税務署や税理士と整理します。
3. 選択肢と影響を比較する
賃貸経営で確認したいのは、帳簿上の金額だけでなく、実際の入出金です。家賃収入が一定でも、返済や原状回復、大規模修繕のタイミングによって手元資金は変動します。
また、複数の物件を兄弟で分ける場合は、評価額だけでなく、収益力、築年数、ローン残高、管理の手間を比較しましょう。家賃が高い物件が必ず有利とは限りません。
確認項目 | 相続直後に行うこと | 引継ぎ後の継続管理 |
|---|---|---|
家賃・管理会社 | 入金先、契約、精算を確認 | 月次収支と滞納管理 |
借入・敷金 | 残債、保証、預り金を確認 | 返済・退去精算 |
税務 | 準確定申告・届出の確認 | 記帳・確定申告 |
4. 見落としがちな注意点
敷金や保証金は、入居者に返還する可能性のある預り金です。相続時の財産や債務の調査、実際の資金精算で見落とさないようにしましょう。物件ごとの契約書を確認するとともに、管理会社に預り金残高の資料を依頼します。
賃貸住宅の家賃は消費税が非課税となるケースが多い一方、駐車場や事業用物件の賃料、建物の売却などは別途検討が必要です。消費税が完全に無関係だと考えず、契約用途と取引内容を整理します。
5. 具体例|親が保有していたアパートを兄弟が相続する
父がアパート2棟を所有し、管理会社に管理を委託していた事例を考えます。父の死亡時点で家賃が自動振込され、各物件にアパートローンが残っています。子ども2人はどちらも経営経験がありません。
最初に物件別の家賃、預り敷金、ローン、修繕履歴を管理会社と金融機関から取得します。そのうえで、共同所有にする案と物件ごとに分ける案を比較します。取得財産の価額だけでなく、将来の修繕負担や売却可能性を加味することが重要です。
6. 実務の進め方|5つのステップ

STEP 01 │ 入出金を止めずに整理
家賃振込、返済口座、管理会社の連絡先を確認する。
STEP 02 │ 契約と債務を把握
借入契約、保証、敷金、賃貸借・管理委託契約を集める。
STEP 03 │ 財産評価と分割案を比較
物件別に評価額・収益力・借入残高・修繕を並べる。
STEP 04 │ 税務・登記の期限を確認
準確定申告、所得税届出、相続税申告、登記を別々に管理する。
STEP 05 │ 月次管理の担当を決める
家賃管理、修繕判断、会計入力を誰が行うか決める。
7. 資料・チェックリスト
最初から完璧に資料を揃える必要はありません。分かる範囲で現状を記録し、不足している事項を確認しながら次の行動を決めましょう。
□ 物件別の賃貸借契約書を集めた
□ 敷金・保証金と未収家賃を確認した
□ 借入・担保・返済口座を整理した
□ 所得税・消費税の手続を確認した
□ 管理会社との連絡担当を決めた
8. 専門家・金融機関に相談する時期
税理士には、相続税評価と同時に、賃貸事業に係る準確定申告、引継ぎ後の不動産所得、消費税の論点を相談します。不動産管理会社からは家賃と敷金の精算資料、修繕・空室の実績を取得します。
借入があるときは金融機関への連絡を早めに行い、保証や返済条件の確認を進めます。名義変更や相続登記は司法書士と調整し、税務・契約・登記の手続きを混同しないことが大切です。
税務上の判断と法律上の判断、金融機関との契約上の手続は別々です。担当する専門家の役割を共有して進めることで、見落としや手戻りを減らしやすくなります。
9. よくある質問とまとめ
Q. 遺産分割が終わるまでの家賃は誰のものですか?
A.賃料の帰属は相続開始後の権利関係などに応じて判断します。分割前後の入金と期間を整理し、税務も個別に確認します。
Q. 管理会社へ連絡するのは相続税申告後でよいですか?
A.入金や契約、修繕などの実務が続くため、相続開始後の早い段階で連絡して管理体制を確認する方がよいでしょう。
まとめ: 賃貸不動産の承継では「相続税申告」と「賃貸経営の継続」を別々に管理し、毎月の資金と契約を途切れさせないことが重要です。
▍ 場面別に考える|実務のケーススタディ
実際の相続では、制度の概要だけでなく、家族の状況や財産の種類によって判断が変わります。以下のような場面では、当初の方針だけで進めず、必要な資料と実行時期を確認することが重要です。
CASE 01 │ 相続開始後の家賃が入金され続ける場合
賃貸アパートでは、所有者が亡くなった後も入居者からの家賃入金や管理会社による送金が続きます。相続開始前後の収入の帰属や、遺産分割前の賃料の取扱いについては、期間と権利関係を分けて確認する必要があります。管理会社の送金明細や対象月、入金口座、未収家賃を整理し、準確定申告と引き継ぐ側の所得税申告を混同しないようにしましょう。
CASE 02 │ アパートローンと敷金が残っている場合
賃貸物件を引き継ぐときは、建物と土地だけでなく、ローンの返済、担保、個人保証、入居者からの敷金なども確認する必要があります。敷金は将来の退去時に返還する可能性がある預り金であり、自由に使える現預金とは限りません。物件ごとに借入残高、返済予定、保証関係、敷金台帳を整理し、金融機関と管理会社へ早めに確認することが大切です。
CASE 03 │ 老朽化した賃貸物件を兄弟で分ける場合
相続人がアパートをそれぞれ取得する場合、相続税評価額だけで公平かどうかを判断しない方がよいでしょう。築年数、空室率、大規模修繕の予定、借入金の残高によって手元資金は大きく異なります。管理会社の収支報告や修繕履歴を基に、今後の収入と支出を比較します。管理する意思や能力を持つ人が誰かも確認し、相続税と賃貸経営の両方から分割案を考えることが重要です。
こうしたケースでは、税金の計算だけで結論を決めるのではなく、財産の帰属・権利関係・納税資金・相続後の管理・専門家の役割を同じ資料の中で整理すると、判断を誤りにくくなります。選択肢ごとの利点と制約を表にし、誰がいつ何を確認するかまで具体化しましょう。
▍ さらに詳しく|実務判断の6つのポイント
01 │ 相続開始日を境に収入を分けて記録する
賃料が毎月同じ日に入金される場合でも、相続開始前に生じた収入とその後の収入は、税務上の帰属を分けて検討する必要があります。管理会社の送金明細は入金日だけでなく賃料の対象月も確認しましょう。固定資産税や管理費、修繕費なども負担時期が分かる資料を集めると、準確定申告と相続人側の申告を整理しやすくなります。
02 │ 敷金や保証金は賃貸借契約と照合する
預金口座にある残高がすべて自由に使える資金とは限りません。賃貸物件には将来退去時に返還する可能性のある敷金・保証金があり、契約内容によって取扱いが異なります。物件ごとに入居者一覧、契約書、預り金台帳を取得し、入退去時の精算ルールを確認します。相続人へ現金を分配する前に、返還に備える資金が残るかも見ておきましょう。
03 │ 借入金は名義変更だけの問題ではない
アパートローンは相続後の返済も続きます。賃料収入があることと返済能力が十分であることは同じではありません。金融機関との契約、担保、保証、返済予定表を確認し、借入金の負担について金融機関と協議します。金利が変動する契約では将来の支払額が増える可能性もありますので、現行金利だけでなく一定の余裕を見た資金繰りを検討します。
04 │ 修繕履歴と将来の支出を引き継ぐ
賃貸物件の承継では、毎月の収支表だけでなく、屋上防水、外壁、設備交換などの修繕履歴が重要です。築年数が似た物件でも直近の大規模修繕の有無で将来の支出は変わります。管理会社や施工会社から見積・工事履歴を取り寄せ、必要な資金を予測します。現状の家賃収入だけで相続人にとって有利な物件かを判断しないことが大切です。
05 │ 所得税・消費税の届出を別々に確認する
亡くなった方の準確定申告が必要な場合はその期限を確認し、相続人側では不動産所得の計算や青色申告承認申請の要否・期限などを検討します。住宅家賃と駐車場・事業用賃料では消費税の取扱いが異なる可能性があり、相続前後の課税事業者判定も個別に確認が必要です。事務手続きを一つの『相続の届出』にまとめて考えないようにします。
06 │ 物件ごとの担当者を決める
相続人が複数いる場合には、誰が管理会社からの連絡を受け、修繕判断をし、確定申告の資料を集めるのかを明確にします。所有者が未確定でも入居者対応や設備故障は待ってくれません。緊急修繕の連絡先、支払口座、契約書保管場所、家賃明細の共有先を一覧にするだけでも、引継ぎ直後の混乱を大きく減らせます。
▍ アポロ税理士法人の考え方
相続税の有利・不利だけで判断せず、分割・納税資金・不動産や事業の承継後まで考えることを大切にしています。税務・会計・財務に関する論点を整理し、法律・登記・金融機関との調整が必要な部分は各分野の専門家と連携します。

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
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