【相続の実践ガイド 第15回】地主・不動産オーナーの相続|土地の分け方と家族間トラブルを防ぐ準備
地主の相続では、財産の大部分が土地というケースがあります。自宅、貸地、アパート、駐車場など用途が異なる土地を、家族でどう分けるかは難しい課題です。評価額が同じでも、管理の手間や収益、換金のしやすさは大きく異なります。
本記事では、土地を守りたい気持ちと次世代の現実的な負担を両立させるために、土地ごとの調査・分割案・納税資金を整理します。

▍ この記事の要点|1分でわかる
1.土地の用途と権利
2.分割と共有の注意
3.維持費と納税資金
▍ 目次
02 制度・仕組みの基本 ›
04 見落としがちな注意点 ›
07 資料・チェックリスト ›
09 よくある質問とまとめ ›
1. 結論|最初に知っておきたいこと
最初に、土地一筆ごとに所在地、面積、地目、固定資産税、利用状況、借地権や賃貸借契約、境界、担保の有無を整理します。複数の土地をまとめて「先祖代々の土地」と考えると、収益性や将来の維持費の違いが見えにくくなります。
貸地やアパート敷地は、所有権のほか借主・借地人の権利が関係します。建物が他人名義の土地や共有地などは、単純な面積や固定資産税評価額だけで判断しないことが重要です。
2. 制度・仕組みの基本
土地の相続税評価は、路線価や倍率、形状、権利関係などに基づいて検討します。大きな土地であっても売却しやすいとは限らず、相続税評価額と実際の売却可能価格は別のものです。
不動産の共有は、取得割合の公平感を得やすい一方、将来の売却・建替え・修繕判断で関係者が増えます。次の相続によって共有者がさらに増えることもあるため、共有する場合には意思決定の方法を考えておきたいところです。
3. 選択肢と影響を比較する
現物で土地を分ける、特定の人に土地を集中させて他の人に現金を渡す、土地を売却して代金を分ける、といった選択肢があります。どの方法にも税務・法務・資金の論点があります。
「土地を売らないこと」を最優先にすると、納税資金や管理費を確保できなくなる場合もあります。すべてを残すことが本当に家族の希望なのか、不採算の土地は整理するのか、話し合っておく価値があります。
土地の種類 | 確認すること | 分割・管理の論点 |
|---|---|---|
自宅敷地 | 居住者・利用状況 | 住み続ける人と遺留分 |
貸地・借地関係 | 契約、地代、更新 | 流動性と権利関係 |
賃貸物件・駐車場 | 家賃、修繕、借入 | 承継後の収支と納税資金 |
4. 見落としがちな注意点
長男が土地の管理を担い、他の相続人は現金を希望している場合、土地を長男に集中させても代償金を支払う資金がないという問題が生じます。財産評価と納税資金、代償金の手当てを同じ資料で検討する必要があります。
生前のアパート建築や借入による相続税対策にも注意が必要です。税務上の評価が下がる可能性だけでなく、賃貸需要、金利上昇、修繕、将来の相続人の負担を確認しましょう。
5. 具体例|自宅・貸地・アパートを持つ地主の相続
父が自宅と貸地、賃貸アパートを所有し、子ども3人がいるとします。長男は近くで管理に協力していますが、次男・長女は遠方に居住。全員が土地を持つ案を考えたものの、管理の担当が決まりません。
この場合、土地ごとの評価額、賃料、借入、維持費、売却可能性を一覧にし、長男が収益物件を管理する案と、一部の土地を整理して現金を配分する案を比較します。希望を聞かずに均等共有とするのではなく、実際に管理できる体制を考えます。
6. 実務の進め方|5つのステップ

STEP 01 │ 土地ごとの台帳を作る
登記・図面・契約・固定資産税資料を整理する。
STEP 02 │ 家族の希望を聞く
利用継続・管理意思・現金需要を確認する。
STEP 03 │ 評価と収支を比較
土地評価だけでなく賃料・維持費・借入残を示す。
STEP 04 │ 分割方式を検討
現物・代償・換価・共有のメリットと負担を比較する。
STEP 05 │ 実行と引継ぎ体制を決める
必要な遺言・契約・登記、管理担当を整理する。
7. 資料・チェックリスト
最初から完璧に資料を揃える必要はありません。分かる範囲で現状を記録し、不足している事項を確認しながら次の行動を決めましょう。
□ 土地ごとの所在地・地積・権利関係を確認
□ 賃貸借契約、借入、担保を一覧化
□ 各相続人の保有・管理の希望を確認
□ 相続人ごとの納税資金を試算
□ 不採算資産の整理も選択肢に入れた
8. 専門家・金融機関に相談する時期
税理士は土地評価と相続税の試算、特例の適用条件を確認します。不動産の専門家には賃料、修繕、売却可能性などの資料を求めます。境界や測量が課題となる場合には土地家屋調査士等の関与も考えられます。
遺産分割や遺留分などの法律上の判断は弁護士、相続登記は司法書士と連携します。金融機関には借入金がある段階から相談し、担保・保証や将来の返済可能性を確認しておきましょう。
税務上の判断と法律上の判断、金融機関との契約上の手続は別々です。担当する専門家の役割を共有して進めることで、見落としや手戻りを減らしやすくなります。
9. よくある質問とまとめ
Q. 土地を全員で共有すれば公平ですか?
A.持分は均等でも管理負担や将来の意思決定に難しさが残る場合があります。共有後の運営まで考えることが大切です。
Q. 売却すると相続税が高くなりますか?
A.相続税評価と売却時の譲渡所得課税は異なります。売却時期や費用、税負担を分けて試算します。
まとめ: 地主の相続では、土地ごとの価値だけでなく、誰が管理できるか、納税できるか、将来の次の相続まで考えた分割が重要です。
▍ 場面別に考える|実務のケーススタディ
実際の相続では、制度の概要だけでなく、家族の状況や財産の種類によって判断が変わります。以下のような場面では、当初の方針だけで進めず、必要な資料と実行時期を確認することが重要です。
CASE 01 │ 先祖代々の土地をすべて残したい場合
親が土地を守ってきたという事情から、子どもたちもすべての土地を残したいと考えることがあります。しかし、土地ごとに賃料、維持費、固定資産税、借入、売却可能性が異なるため、長期保有が常に合理的とは限りません。収益のある土地と不採算の土地を区分し、どの土地を残すか、どの土地を整理するか家族の希望を確認しましょう。相続税だけでなく将来の修繕や次の相続まで含めて考えます。
CASE 02 │ 貸地に古い借地契約がある場合
昔から賃借人に貸している土地では、地代が長年据え置かれている、契約書が見つからない、建物の所有名義が分かりにくいなどの事情があります。土地の相続税評価だけでなく、借地権や契約上の権利関係、将来の利用・売却の制約を確認します。更地の時価だけを見て分割案を決めると、取得した相続人が想定外の制約を受ける可能性があります。法律と不動産実務の専門家に相談しましょう。
CASE 03 │ 兄弟全員で土地を共有する場合
土地を均等に共有すれば分け方を決めやすい一方、修繕、賃貸条件の変更、売却、建替えなどで共有者の意思決定が必要となることがあります。次世代の相続によって共有者が増えると、さらに調整が難しくなる可能性があります。共有を選ぶなら管理責任者、費用負担、将来の売却方針を明確にし、代償分割や換価分割の可能性も比較したうえで判断することが重要です。
こうしたケースでは、税金の計算だけで結論を決めるのではなく、財産の帰属・権利関係・納税資金・相続後の管理・専門家の役割を同じ資料の中で整理すると、判断を誤りにくくなります。選択肢ごとの利点と制約を表にし、誰がいつ何を確認するかまで具体化しましょう。
▍ さらに詳しく|実務判断の6つのポイント
01 │ 土地台帳には税額以外の情報も入れる
土地の地番や地積、名義、固定資産税評価額を並べた台帳は出発点になりますが、それだけでは実務判断に不足します。現況写真、賃貸借契約、年間収支、固定資産税、借入金、将来の修繕、売却可能性も一緒に整理しましょう。見た目には価値のある土地でも、建物の老朽化や借地関係によって自由な利用や売却が難しいケースがあります。
02 │ 地代と借地権の関係を確認する
借地権の設定されている土地では、土地の所有権があっても自由に利用を変更できるとは限りません。昔の契約書が見つからない場合や地代が長期間改定されていない場合もあります。まず権利関係と実際の受取金額、更新の履歴を整理し、不動産の専門家や弁護士に確認することが必要です。単純に更地価格を相続人間の分配の基準にしないことも重要です。
03 │ 共有名義にする前に出口を考える
子ども全員を共有者にすれば一見公平ですが、将来売却したい人と保有したい人が対立したとき、簡単に解決できないことがあります。共有にする場合は、管理費・修繕・固定資産税の負担や売却の意思決定、次の相続に備えた方針をあらかじめ話し合っておきましょう。共有を避けるための代償分割では、現金の準備が可能かという別の問題が生じます。
04 │ 自宅と賃貸土地の評価を一律に考えない
自宅敷地、貸家建付地、貸地、駐車場などでは、相続税評価に関係する利用状況や権利関係が異なります。小規模宅地等の特例も、自宅と賃貸物件で面積・減額割合・取得者の要件が違います。評価額を下げる目的だけで用途を変更するのではなく、今の利用実態、相続後の継続予定、適用時点の要件を確認することが必要です。
05 │ 家族の公平を『金額』だけにしない
長男が土地の管理を担い、ほかの子どもが現金を受け取りたい場合、評価額をそろえるだけでは負担の公平が実現しないことがあります。賃料収入、修繕費、借入金、売却できるまでの時間なども考慮しましょう。誰が管理を引き継ぐか、管理会社を使うか、将来売却する意思があるかを家族で共有し、無理なく維持できる分割案を優先したいところです。
06 │ 納税のためにどの土地を売るかを先に考える
相続税の納付時に初めて売却候補を探すと、売り急ぎで不利な条件になる可能性があります。生前から売却しても困らない土地、家族が守りたい土地、収益のある土地を区分し、候補の価格や費用を確認しておく方法があります。売却には譲渡所得税や仲介費用等が関係するため、売却代金の全額を納税に使えると考えないようにしましょう。
▍ アポロ税理士法人の考え方
相続税の有利・不利だけで判断せず、分割・納税資金・不動産や事業の承継後まで考えることを大切にしています。税務・会計・財務に関する論点を整理し、法律・登記・金融機関との調整が必要な部分は各分野の専門家と連携します。

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
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