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【事業承継シリーズ 第4回】個人事業の事業承継|法人との違い・手続・税金・不動産賃貸

10月28日
読了時間: 16分

更新日:4 日前

「父が個人で営む事業を子どもに引き継ぎたい。会社の事業承継と同じ手続きでよいのだろうか」――個人事業の承継では、こうした疑問がよく生じます。


法人の事業承継では自社株式の移転が重要なテーマですが、個人事業には会社の株式がありません。事業用の設備・土地・建物などの所有権、顧客や仕入先との契約、借入金、屋号、許認可、従業員との関係などを、必要に応じて一つずつ整理します。


特に注意したいのは、一般の個人事業と、不動産賃貸業の承継では税務上の検討が異なることです。個人版事業承継税制は、一定の事業用資産に係る贈与税・相続税の納税を猶予する制度ですが、不動産貸付業等は対象外とされています。


この記事では、個人事業の承継の全体像、必要な手続き、税金、金融機関との協議、賃貸不動産を引き継ぐ場合の留意点を、公認会計士・税理士の視点から整理します。



▍ この記事の要点|1分で分かる個人事業の承継


個人事業の承継で確認する3つ。個別資産、契約・許認可・借入、不動産貸付業の税制対象外。

  • 法人とは違い、株式の移転はありません。 事業用の資産、契約、債務、許認可などを個別に確認します。

  • 「廃業届と開業届を出せば終わり」ではありません。 顧客・取引先、金融機関、税務、従業員への対応が必要です。

  • 不動産賃貸業等は個人版事業承継税制の対象外。 同じ「個人事業」でも、業種・所得区分・資産の内容によって検討すべき制度が変わります。


最初に行うのは、事業用資産と契約・借入金を一覧にして、「何が誰の名義か」を明らかにすることです。


▍ 目次


読みたい章を選ぶと、該当箇所へ移動します。




1. 結論|個人事業は「事業と資産をどう移すか」を考える


ⓘ 個人版事業承継税制では不動産貸付業等が対象外

個人版事業承継税制は、一定の青色申告に係る事業用資産の承継を対象とし、不動産貸付業等は除外されます。不動産所得が事業的規模であっても自動的に対象にはなりません。個人事業承継計画の提出期限は2028年9月30日、対象の贈与・相続等は2028年12月31日までです。

国税庁:個人版事業承継税制



個人事業の承継では、先代事業者が個人名義で事業を営んでいることが基本です。店舗や機械、在庫、車両などを先代が所有していたり、仕入先や顧客との契約が先代本人名義だったりします。


法人の場合は、会社という法律上の主体が原則としてそのまま残り、経営者や株式の所有者が変わることがあります。しかし個人事業では、後継者が自らの名義で事業を営むため、資産や契約をどう引き継ぐかが重要になります。


例えば父親が飲食店を営み、子どもが店を引き継ぐケースでは、「屋号をそのまま使う」ことだけでは十分ではありません。店舗の賃貸借契約、厨房機器、在庫、従業員、食品営業に関する許可、資金調達、会計・税務手続などを整理する必要があります。


「事業を続ける」ことと「権利義務がそのまま移る」ことは別の問題です。開業届や廃業届だけで、あらゆる契約や資産が自動的に後継者へ移るわけではありません。


この点は、中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、個人事業の承継において契約関係と所有関係の引継ぎが不可欠であると整理されています。





2. 法人の事業承継と何が違う?


まず、法人と個人事業の承継で異なる点を比較しましょう。


検討項目

法人の承継

個人事業の承継

経営する主体

会社は原則として存続し、経営者が交代

後継者が自分の名義で事業を営む

所有権の中心

自社株式・事業用資産

店舗・設備・在庫・土地建物等の個別資産

税務の中心

株式の贈与・相続・売買等

個別資産の贈与・相続・譲渡等

契約・許認可

代表者変更か事業譲渡かなどで異なる

名義変更・新規許可・契約の引継ぎ等の確認が重要

金融機関

会社の借入と経営者保証

先代個人の借入・担保、後継者の資金調達

税務届出

法人の変更届等、必要な税務手続

先代の廃業、後継者の開業、青色申告等の検討


法人でも、社長個人が所有する事業用不動産があれば別途検討が必要です。一方、個人事業であっても、事業用資産を必ずすべて後継者に移すとは限りません。資産の所有と利用を分け、賃貸借等によって使用を続ける方法も考えられます。


具体的な方法を決める前に、誰の名義でどのような資産・契約が存在するかを確認しましょう。





3. 個人事業の承継で引き継ぐもの


個人事業の承継で引き継ぐ4領域。資産、契約、人と信用、資金と手続。

3-1. 店舗・設備・在庫などの事業用資産


飲食店なら厨房機器や什器、製造業なら機械設備、建設業なら車両や工具などが対象になります。誰が所有しているか、帳簿価額と現在の価値はどうか、担保は付いていないかを把握します。


売買で移すのか、贈与するのか、相続で引き継ぐのかによって税務上の扱いが異なります。土地・建物を移す場合には、登録免許税や不動産取得税なども問題になることがあります。


棚卸資産や売掛金、未払金も確認が必要です。売掛金が誰に帰属するのか、過去の取引に係る返金や修理・瑕疵等の対応を誰が負うのかを、事業の実態に即して整理します。


3-2. 顧客・仕入先・賃貸借などの契約


個人事業では、取引先との契約や店舗の賃貸借契約が先代本人名義になっていることがあります。事業を引き継ぐことを相手方に説明し、契約の承継に同意が必要か、新規契約を結び直すかなどを確認します。


長年の信用や取引条件が、先代本人への信頼で成立している場合もあります。後継者が取引先を訪問し、事業内容や引継ぎ体制を説明するなど、実務的な準備も重要です。


3-3. 従業員・ノウハウ・許認可


従業員との雇用関係も、承継方法によっては手続や本人の同意が問題になることがあります。給与計算、社会保険、就業規則等の確認も必要です。


また、店舗営業や建設業、運送業など許認可のある事業では、先代の許可が当然に後継者へ引き継がれるとは限りません。業種ごとに法律・承継制度・届出先が異なるため、引継ぎ方法を決める前に行政庁や専門家に確認します。


屋号や電話番号、ドメイン、商標、顧客データなども、事業継続に必要であれば確認します。承継前から利用規約や個人情報の取扱いに配慮することが必要です。


3-4. 借入金・担保と金融機関の関係


個人事業の借入金は、先代個人が債務者であることがあります。後継者が事業を引き継ぐからといって、銀行が自動的に債務者の変更を認めるわけではありません。


贈与・売買などの生前承継では、債務引受や借換え、担保の変更などを検討することがあります。相続による承継では、借入債務の相続関係を法律面から確認する必要があります。どちらも金融機関との早期協議が重要です。





4. 承継方法は贈与・売買・相続のどれがよい?


4-1. 生前贈与で引き継ぐ


先代が存命中に事業用資産を後継者へ贈与する方法です。後継者が必要な資産を取得できる一方、資産の種類や価値によって贈与税などの負担が問題になります。


一定の要件を満たす個人版事業承継税制や、その他の相続・贈与に関する制度が利用できる場合もありますが、対象事業や対象資産、手続を確認せずに贈与を実行するのは避けたいところです。


4-2. 売買で引き継ぐ


後継者が事業用資産を買い取る方法です。取得対価とその資金調達、先代に生じる税務、取引に関係する消費税などを検討する必要があります。資産によって課税関係が異なるため、代金を一括して決めるのではなく内訳を確認します。


安価な売買にすればよいとは限りません。個人間や親族間の取引では、税務上、時価との関係を慎重に検討すべき場面があります。


4-3. 相続で引き継ぐ


先代の死亡によって事業用資産を後継者が取得する方法です。相続人が複数いる場合、誰が何を取得するか、遺言や遺産分割、納税資金などが課題になります。


相続発生後の事業継続を想定するなら、顧客への対応、店舗・設備の使用、従業員の給与支払などが滞らないよう、生前に連絡先や必要書類を整理しておくことも重要です。


税額だけでなく、事業が継続できるか、後継者に資金があるか、他の相続人との調整が必要かを比較して決めることが大切です。





5. 個人版事業承継税制の対象と注意点


個人版事業承継税制は、一定の個人事業者が保有する特定事業用資産を後継者が贈与・相続等で取得した場合に、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税が猶予され、所定の事由により免除される制度です。


ここでの重要なポイントは、「個人事業を営んでいる」だけで自動的に使える制度ではないことです。


5-1. 対象となる資産と事業は限定される


制度の対象は、青色申告に係る一定の事業の用に供され、所定の貸借対照表に計上されていた土地・建物・減価償却資産などの特定事業用資産です。資産の種類や面積などに要件があります。


加えて、先代・後継者の要件、事業の継続要件、都道府県知事の認定、申告・担保提供など、手続上の条件もあります。税務上の通常の申告とは別に、事前の計画作成や認定申請が必要となります。


5-2. 2026年10月時点での期限


中小企業庁の公表資料によれば、個人事業承継計画の提出期限は2028年(令和10年)9月30日、制度対象となる贈与・相続等の期限は2028年12月31日とされています。提出先での取扱い、実際の受付日、認定申請や申告期限は個別に確認してください。


納税が「猶予」される制度であり、申告後も継続的に要件を満たす必要があります。制度選択に当たっては、特例を使わない場合との比較や長期の管理負担も検討します。


5-3. 不動産貸付業等は対象外


不動産賃貸業、駐車場業等は個人版事業承継税制の対象外です。所得税における不動産貸付けの「事業的規模」の判定と、個人版事業承継税制の対象事業の判定は別の問題です。


たとえば、アパートを相当数保有し、青色申告で不動産所得を申告しているからといって、この制度が適用できるわけではありません。


一方で、第三者の物件を管理するサービス業など、事業の実態が不動産の貸付け自体ではない場合は、事業内容や資産の状況によって別途判断が必要です。単に「不動産の事業だから使えない」「不動産管理会社だから使える」と一律に決めるべきではありません。


不動産を多く保有する家族では、相続税評価、遺産分割、賃貸物件の管理体制、借入金、納税資金などを中心に、承継方法を検討します。





6. 不動産賃貸業を引き継ぐ場合に考えること


不動産賃貸の承継で分けて考える所有権、管理、借入・納税資金。

不動産貸付業等が個人版事業承継税制の対象外であっても、賃貸物件の相続・贈与・売買などについて、別の税務上の論点があります。


6-1. 物件の所有と管理を分けて考える


賃貸住宅や駐車場を親が所有している場合、所有権を移すことと、日々の管理を子どもが引き継ぐことは別の問題です。


管理会社との連絡、修繕の意思決定、家賃管理、金融機関との対応などを、所有権の移転より前に段階的に引き継ぐ方法も考えられます。


ただし、管理権限の移譲が所有権を移したことになるわけではありません。管理委託契約や委任の範囲を確認し、重要な契約行為を誰が行えるかを明確にしておく必要があります。


6-2. 賃貸借契約・敷金・管理委託を確認する


所有者が変わる場合、賃借人との契約関係、敷金・預り金、管理会社との契約、家賃の受取口座などを整理します。所有権移転による賃貸人の地位の移転には民法上のルールがありますが、個別契約や担保・管理関係も含めて確認することが必要です。


共有名義の不動産や、複数の相続人が関係する不動産では、誰が修繕や売却を決定するのかも課題になります。将来の運営に無理のない形を検討しましょう。


6-3. 借入金、担保、納税資金の確認


収益不動産には長期借入金が付いていることがあります。物件の名義変更と借入契約の扱いは同じではありません。返済原資となる家賃収入、修繕費、固定資産税なども踏まえ、承継後の資金繰りを確認します。


相続税を納めるために一部の不動産を売却する場合には、税負担だけでなく、残る物件の収支や借入金の返済にも影響します。


6-4. 「法人化して渡す」ことも自動的な解決策ではない


不動産を法人へ移してから株式を引き継ぐ方法が検討されることもあります。しかし、不動産を個人から法人へ移す段階で、譲渡所得課税、消費税、不動産取得税、登録免許税、借入・担保の見直しなどが問題になる場合があります。


法人化すれば必ず節税になるわけではありません。移転時の税・費用、保有中の収支、相続・売却時の税務を通算して比較することが重要です。





7. 個人事業の承継は何から始める?5つのステップ




STEP 01 │ 事業と資産の棚卸し


事業内容、屋号、顧客・取引先、従業員、許認可、事業用資産、債権・債務、契約名義を一覧にします。賃貸不動産がある場合は物件ごとの所有者、管理会社、借入・担保、入金先も整理します。




STEP 02 │ 後継者と承継方法を決める


後継者の意思と能力、先代の引退時期を確認し、贈与・売買・相続のどの方法を用いるか検討します。自宅や事業用不動産が関係する場合、家族・相続人への財産配分も併せて考えます。




STEP 03 │ 税務・資金・法務の比較


取得する資産の評価、税負担、支払資金、事業運転資金、借入金、必要な許認可を確認します。税理士・公認会計士、金融機関、弁護士・司法書士、許認可の専門家などに必要に応じて相談します。




STEP 04 │ 契約・届出・名義変更の計画


いつ、どの資産や契約を移すかを整理します。先代の廃業、後継者の開業、青色申告承認申請、消費税関係、給与・源泉所得税等の届出が必要かどうかを個別に確認します。事業承継税制を利用する場合は認定・申告の期限も工程に入れます。




STEP 05 │ 実行と承継後の資金繰り管理


後継者が必要な契約・設備・顧客・業務を引き継いだ後も、収益性、運転資金、借入返済、取引先との関係を確認します。先代が引退した後にも事業を継続できる状態を目指します。





8. 具体例|父親の店と賃貸アパートを引き継ぐ場合


ここでは架空の事例を紹介します。


父親は個人事業として飲食店を営む一方、個人で賃貸アパートも所有しています。長男は飲食店を引き継ぐ予定ですが、長女もいるため将来の相続財産の配分が気になります。店舗には厨房設備があり、賃貸契約は父親名義。アパートには借入金が残っています。


8-1. 飲食店の承継で整理すること


後継者である長男は、飲食店の設備・在庫・取引先との契約・店舗賃貸借・営業許可等を確認します。必要に応じて税務・行政手続を進め、開業後の資金繰りを考えます。


個人版事業承継税制の適用が検討できるかどうかは、青色申告の状況や対象資産、期限・認定要件などを確認します。


8-2. 賃貸アパートは別の視点が必要


賃貸アパートについては、個人版事業承継税制を適用する前提で考えることはできません。誰が物件を相続・贈与等で取得するか、管理をどう引き継ぐか、借入・担保・納税資金をどうするかを検討します。


長男に飲食店の事業用資産を引き継がせるとしても、アパートを誰に取得させるかは別の問題です。長女との財産配分や将来の管理負担も考える必要があります。


このようなケースでは、「飲食店の事業承継」と「賃貸不動産の資産承継」を分けて検討し、家族全体として整合する方法を考えることが重要です。





9. よくある質問とまとめ


Q1. 個人事業は、廃業届・開業届を出せば引継ぎが完了しますか?


いいえ。税務手続とは別に、資産の所有権、顧客との契約、借入金、許認可、従業員などの整理が必要です。必要な手続は事業の内容と承継方法によって異なります。


Q2. 親の屋号をそのまま使えますか?


屋号の使用だけで事業用資産や契約が移るわけではありません。商標や第三者の権利、契約上の制限、営業許可などを確認し、必要な手続きを行います。


Q3. 不動産所得を青色申告で申告していれば個人版事業承継税制を使えますか?


不動産貸付業等は制度の対象外です。いわゆる「5棟10室」など所得税上の事業的規模の判定と、個人版事業承継税制の対象事業かどうかは別に考えます。


Q4. 子どもが賃貸物件の管理を引き継ぎ、所有権は親に残す方法はありますか?


管理実務を段階的に引き継ぐこと自体は考えられます。ただし、管理権限、賃貸借契約、税務上の所得の帰属、口座の管理などを混同しないよう注意が必要です。実際の契約や所有状況に応じて検討します。


◇ まず確認したい5項目


☐ 引き継ぐのは事業そのものか、賃貸不動産等の資産か。


☐ 資産・契約・許認可・借入金は誰の名義か。


☐ 贈与・売買・相続のうち、どの方法を比較するか。


☐ 個人版事業承継税制の対象事業・対象資産に該当するか。


☐ 先代と後継者、家族の資金・財産配分を確認したか。


個人事業の承継では、書類だけでなく、資産と契約、資金繰り、家族関係を一体で考えることが大切です。特に不動産が関わる場合、所有と運営を分けて整理することで、見落としを減らせます。





▍ アポロ税理士法人の考え方


個人事業の事業承継では、税務手続を整えるだけでなく、事業を継続するための資金や契約、不動産の所有関係などを考える必要があります。


アポロ税理士法人では、公認会計士・税理士の視点から所得税・相続税・贈与税・消費税の課題を整理し、必要に応じて財務・不動産分野の専門家や金融機関と連携して、無理のない承継方法を検討します。賃貸不動産が多い場合は、税金だけでなく管理・分割・納税資金も含めて考えます。




監修者 月方智彦(公認会計士・税理士)

監修者

月方 智彦

公認会計士・税理士


公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。


専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継

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▍ 主な根拠・参考情報


確認日:2026年10月24日。改正や経過措置があるため、個別の承継を実行するときは必ず最新情報を確認してください。





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