【相続の実践ガイド 第12回】生前贈与は相続税対策になる?暦年課税と相続時精算課税を比較
更新日:6 日前
生前贈与は相続対策の代表的な方法ですが、『毎年110万円なら必ず相続税と無関係になる』という理解は正確ではありません。贈与した時期や受贈者の立場、暦年課税・相続時精算課税の違いによって、相続税との関係が変わるためです。
本記事では2026年時点の制度を前提に、暦年課税と相続時精算課税の基本、加算対象期間、届出や記録のポイントを整理します。

▍ この記事の要点|1分でわかる
1.暦年課税
2.相続時精算課税
3.相続税との関係
▍ 目次
02 制度・仕組みの基本 ›
04 見落としがちな注意点 ›
07 資料・チェックリスト ›
09 よくある質問とまとめ ›
1. 結論|最初に知っておきたいこと
ⓘ 生前贈与加算の期間と100万円控除を区別 暦年贈与の加算期間は2026年末までの相続開始では原則3年、2027~2030年では2024年1月1日以降、2031年以降では原則7年です。また2027年1月2日以降の相続開始では、死亡前3年を超える部分について贈与価額の合計から総額100万円を控除する扱いがあります。相続時精算課税の年110万円基礎控除とは別の制度です。 |
暦年課税では、贈与を受けた人ごとに年間110万円の基礎控除があります。しかし、相続により財産を取得する人が被相続人から受けた一定期間内の贈与は、贈与税がかかっていなくても相続税の計算に加算される場合があります。
2024年1月1日以後の暦年贈与について、相続前加算の期間は制度改正により段階的に7年へ延長されます。ただし、2026年中に亡くなった場合の加算対象は原則として相続開始前3年以内であり、2027年以後の開始時期によって対象期間が変わります。
2. 制度・仕組みの基本
相続時精算課税は、一定の年齢・続柄等の条件で選択できる制度です。2024年以後の贈与には年110万円の基礎控除が設けられており、基礎控除を超える部分について特別控除枠などの計算があります。
この制度は一度選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税に戻せない点が重要です。贈与税だけを比較するのではなく、相続税の計算への取り込み方、受贈者の納税資金、将来の価額変動を含めて検討しましょう。
3. 選択肢と影響を比較する
たとえば収益不動産を贈与すれば、贈与後の家賃収入が受贈者に帰属する可能性がありますが、贈与税だけでなく不動産取得税、登録免許税、ローンや契約の扱いを確認する必要があります。土地・建物の贈与は現金と違って手続費用も生じます。
また、同じ110万円の贈与でも、暦年課税の110万円と相続時精算課税の年110万円は制度上の意味が異なります。名称が似ていることを理由に同じ取扱いと考えないようにしましょう。
項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
年110万円 | 暦年課税の基礎控除 | 2024年以後の年基礎控除 |
相続税への加算 | 対象期間内の贈与に注意 | 基礎控除超の財産等を精算 |
制度選択 | 原則として暦年ごと | 所定の選択届出・原則戻れない |
4. 見落としがちな注意点
贈与契約書を作成していても、財産の管理や実際の引渡しの状況が不明確だと、名義預金などが問題になることがあります。通帳、振込履歴、贈与契約書、贈与税申告書などを一体で保管しましょう。
相続開始年の贈与や制度選択に関する届出は、通常の年次贈与と期限の取扱いが異なることがあります。相続発生後に届出要否を再確認すべきケースもあるため、対象年分・贈与日・死亡日を一覧にすることが大切です。
5. 具体例|親が子に毎年現金を贈与している
父が子ども2人に毎年100万円ずつ贈与している例を考えます。子どもは通帳の管理を自分で行い、贈与の事実を記録しています。父の死亡時期によって、過去の贈与が相続税に加算される範囲が変わり得ます。
この場合、単純に年間110万円以下だから非課税で完結と説明するのではなく、贈与先が相続で財産を取得するか、暦年課税の加算対象期間、相続時精算課税の選択の有無を確認し、申告実務に反映する必要があります。
6. 実務の進め方|5つのステップ

STEP 01 │ 贈与の目的を決める
生活支援、資産移転、相続税対策のどれが中心か整理する。
STEP 02 │ 贈与者・受贈者を整理
関係・年齢・相続による取得見込みを確認する。
STEP 03 │ 二つの制度を比較
相続税・贈与税・取得費用と将来の影響を試算する。
STEP 04 │ 契約と移転を実行
贈与契約書、振込、登記等の実行資料を残す。
STEP 05 │ 贈与履歴を継続管理
年・相手・金額・申告・制度選択を記録する。
7. 資料・チェックリスト
最初から完璧に資料を揃える必要はありません。分かる範囲で現状を記録し、不足している事項を確認しながら次の行動を決めましょう。
□ 贈与日と金額を年別に記録
□ 受贈者による実際の管理状況を確認
□ 暦年課税の加算対象期間を確認
□ 相続時精算課税の選択状況を確認
□ 届出・申告の要否と期限を確認
8. 専門家・金融機関に相談する時期
税理士には贈与税と相続税を通算した影響、相続時精算課税を選択した場合の将来の取扱いを相談します。不動産の贈与には登記や取得に関する税金、借入の取扱いが関係するため、司法書士・金融機関等との協議も必要です。
『今年は110万円だから大丈夫』という単年の判断だけでなく、相続が起きたときに税務処理を再現できる記録を残しましょう。
税務上の判断と法律上の判断、金融機関との契約上の手続は別々です。担当する専門家の役割を共有して進めることで、見落としや手戻りを減らしやすくなります。
9. よくある質問とまとめ
Q. 110万円の贈与は必ず相続税に加算されませんか?
A.いいえ。一定の加算対象期間内に相続等で財産を取得した人が受けた贈与は、贈与税が課税されなくても加算対象となる場合があります。
Q. 相続時精算課税を選んだ後に暦年課税へ戻れますか?
A.同じ特定贈与者からの贈与については、原則として暦年課税に戻ることができません。選択前の比較が重要です。
まとめ: 贈与は『毎年いくらか』だけでなく、『誰にいつ渡したか』『将来の相続税へどう反映されるか』を整理して判断します。
▍ 場面別に考える|実務のケーススタディ
実際の相続では、制度の概要だけでなく、家族の状況や財産の種類によって判断が変わります。以下のような場面では、当初の方針だけで進めず、必要な資料と実行時期を確認することが重要です。
CASE 01 │ 暦年贈与を毎年行っていた場合
親が子どもへ毎年100万円ずつ贈与していた場合、贈与税が課税されていないことと、その財産が相続税計算に一切関係しないことは別です。相続により財産を取得する人が、被相続人から受けた一定期間内の贈与は加算対象となる場合があります。贈与日、金額、受贈者、通帳管理、贈与契約書、申告の有無を記録し、死亡日と改正の経過措置を確認したうえで相続税へ反映します。
CASE 02 │ 相続時精算課税を選択する場合
相続時精算課税は一定の要件で利用でき、2024年以後の贈与には年110万円の基礎控除が導入されています。ただし、暦年課税の110万円と同じ仕組みではなく、選択後に同じ贈与者からの贈与について原則として暦年課税へ戻れません。贈与税の有無だけでなく、将来の相続税への取り込み、受贈者の納税資金、財産価額の変動、届出期限を確認してから選びましょう。
CASE 03 │ 収益不動産を子へ贈与する場合
賃貸アパートを子どもへ贈与すると、贈与後の家賃収入が子どもに帰属する可能性がありますが、贈与税だけでなく不動産取得税、登録免許税、借入金、担保、賃貸借契約、所得税の申告にも影響します。贈与者の老後資金が不足しないか、受贈者に管理能力があるかを確認しましょう。不動産を早く移せば必ず節税になるという考えではなく、税金・費用・管理の負担を合わせて比較することが重要です。
こうしたケースでは、税金の計算だけで結論を決めるのではなく、財産の帰属・権利関係・納税資金・相続後の管理・専門家の役割を同じ資料の中で整理すると、判断を誤りにくくなります。選択肢ごとの利点と制約を表にし、誰がいつ何を確認するかまで具体化しましょう。
▍ さらに詳しく|実務判断の6つのポイント
01 │ 2026年の相続では贈与加算の期間に注意
暦年贈与の加算対象期間は制度改正で段階的に延長されますが、すべての相続に直ちに7年が適用されるわけではありません。2026年12月31日以前の相続開始では、原則として相続開始前3年以内の贈与が対象期間です。2027年から2030年にかけては2024年1月1日から死亡日まで、2031年以降は原則7年間という整理になります。対象日を確認して計算する必要があります。
02 │ 110万円は二つの制度で意味が違う
暦年課税の年間110万円の基礎控除と、相続時精算課税の2024年以後の年間110万円の基礎控除は、名称が同じでも相続税への影響が異なります。相続時精算課税では、選択した贈与者ごとに贈与財産と基礎控除等を管理し、相続時に精算する仕組みがあります。単純に『年110万円までならどちらでも同じ』と考えず、制度選択後に変更できない点も含めて比較しましょう。
03 │ 贈与されたお金を誰が管理しているか
毎年贈与契約書を作っていても、受贈者が財産を把握していない、通帳や印鑑を贈与者が一貫して管理しているなどの事情があれば、財産の帰属について確認が必要です。家族名義預金の問題は契約書の有無だけで決まるものではありません。贈与者の口座からの送金記録、受贈者による財産管理、贈与税申告書などを継続して残しておくことが役立ちます。
04 │ 不動産贈与は税金と費用が複数発生する
現金に比べ、不動産の贈与には登録免許税や不動産取得税などの費用が関係する場合があります。借入金や担保が付いている場合は金融機関との契約も確認が必要です。収益物件を移すと家賃収入の帰属や確定申告も変わります。相続税評価額を下げることだけで贈与を決めず、取得費用、所得税、保有管理の手間、受贈者の納税資金も試算したいところです。
05 │ 相続開始年の贈与も確認する
贈与者が亡くなった年に贈与があった場合、贈与税と相続税の関係や制度選択の届出期限について通常の年次手続と異なる論点が生じることがあります。贈与日、贈与者の死亡日、受贈者が相続や遺贈により財産を取得するかなどを記録し、提出が必要な届出書と期限を個別に確認しましょう。相続が起きた後だからといって贈与関係の資料を捨てないことが大切です。
06 │ 税負担だけでなく家族の資金計画を比較する
生前贈与により財産を受け取る側の生活資金を支援できる場合がありますが、贈与者の老後資金が不足しては本末転倒です。医療費や介護費、住まいの維持費を考慮し、手元資金に余裕がある範囲で実行します。株式や不動産を早期に引き継ぐ場合は、管理能力や後継者の意思も確認し、税額だけで判断しないことが重要です。
▍ アポロ税理士法人の考え方
相続税の有利・不利だけで判断せず、分割・納税資金・不動産や事業の承継後まで考えることを大切にしています。税務・会計・財務に関する論点を整理し、法律・登記・金融機関との調整が必要な部分は各分野の専門家と連携します。

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
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