【相続の実践ガイド 第6回】相続税はどう計算する?法定相続分で税額を求める仕組みを具体例で解説
更新日:6 日前
相続税の計算で間違えやすいのは、各人が実際に取得した財産にそのまま累進税率を掛けるわけではない、という点です。相続税は原則として、課税遺産総額をいったん法定相続分で取得したものと仮定して相続税の総額を求め、その後に各人の実際の取得割合に応じて配分します。
本記事では、数字の具体例を使い、財産の集計から各人の納税額までの流れを説明します。

▍ この記事の要点|1分で理解する
相続税はどう計算する?法定相続分で税額を求める仕組みを具体例で解説
▍ 目次
02 制度や財産の仕組み ›
04 間違えやすいポイント ›
09 よくある質問・まとめ ›
1. 結論|相続税はどう計算する?法定相続分で税額を求める仕組みを具体例で解説
ⓘ 相続税は法定相続分で総額を計算します 各人の課税価格を集計し基礎控除を引いた後、法定相続分で仮に分けて相続税の総額を求め、実際の取得割合に応じて配分します。各人が実際に取得した財産に直接累進税率を掛ける計算ではありません。本文の配偶者と子2人、正味遺産1億円の単純化した例は相続税総額630万円です。 |
まず相続財産の課税価格を求めます。相続や遺贈で取得した財産、みなし相続財産、一定の贈与財産等を集計し、債務や葬式費用などの控除を検討します。そのうえで、基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を求めます。
基礎控除額は原則として3,000万円+600万円×法定相続人の数です。法定相続人が配偶者と子ども2人の場合、基礎控除は4,800万円になります。
2. 制度や財産の仕組み
次に課税遺産総額を法定相続分で取得したものと仮定し、各人の法定相続分に応じる取得金額に速算表の税率と控除額を適用します。計算された税額を合計したものが相続税の総額です。
この税額の総額を、実際の相続人等の課税価格の割合に応じて各人へ配分します。その後、配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除、2割加算など該当する制度を検討し、最終税額を求めます。
3. 具体的な比較と判断方法
【単純化した例】相続財産の正味額が1億円、法定相続人は配偶者と子2人とします。基礎控除4,800万円を差し引いた課税遺産総額は5,200万円です。これを法定相続分で配分すると、配偶者2,600万円、子ども各1,300万円になります。
速算表に当てはめると、配偶者340万円、子ども各145万円で、相続税総額は630万円です。実際に配偶者が5,000万円、子どもが各2,500万円を取得する場合には、概算として税額を315万円、157.5万円、157.5万円と配分し、その後に配偶者の税額軽減などを検討します。単純化した例であり、実際にはみなし財産や贈与、各種控除などによって変動します。
計算段階 | 配偶者 | 子ども各人 |
|---|---|---|
法定相続分で仮計算 | 2,600万円 | 1,300万円 |
速算表による仮税額 | 340万円 | 145万円 |
実際の取得割合で配分 | 315万円 | 157.5万円 |
4. 間違えやすいポイント
法定相続分の仮計算による相続税総額は、実際の分割案を変えるだけで必ず変わるわけではありません。ただし、配偶者の税額軽減などは実際の取得内容に応じて計算されるため、各人の最終納税額は分割案によって変わり得ます。
養子の人数、贈与財産の加算、死亡保険金、非上場株式の評価、小規模宅地等の特例などが絡むと計算は複雑です。税額表から一つの税率だけを取り出して財産総額に掛ける方法では正しい税額になりません。
5. 事例|配偶者と子2人、正味遺産1億円
相続税の課税対象となる正味遺産が1億円で、法定相続人は配偶者と子ども2人とします。まず基礎控除4,800万円を差し引き、課税遺産総額5,200万円を出します。次に法定相続分で仮に分けて相続税総額630万円を算出します。
実際に配偶者が半分、子どもが4分の1ずつ取得するなら、税額をその比率で配分します。配偶者の税額軽減の要件を満たせば配偶者分が軽減されます。なお、この例は理解を助ける概算で、実際の税額の計算にはその他の調整を確認する必要があります。
6. 実際の進め方|5つのステップ

STEP 01 │ 課税価格を集計する
財産、死亡保険金、一定の贈与等と債務控除を整理する。
STEP 02 │ 基礎控除を差し引く
法定相続人の数に基づき課税遺産総額を出す。
STEP 03 │ 法定相続分で仮計算
速算表で相続税の総額を求める。
STEP 04 │ 実際の取得割合で配分
各人の課税価格の割合に基づき税額を配分する。
STEP 05 │ 税額控除・加算を確認
配偶者軽減、2割加算などを個別に判定する。
7. 確認資料とチェックリスト
以下の確認事項は、財産一覧や資料依頼リストに転記して、提出済み・未確認・相談中の状態を管理すると使いやすくなります。
□ 財産・債務と加算対象贈与を確認
□ 法定相続人の数を正しく判定
□ 法定相続分で相続税総額を算出
□ 実際の取得割合で各人に税額配分
□ 軽減・加算・控除の適用要件を確認
8. 相談する専門家とタイミング
税理士は財産評価と相続税総額の計算、特例の適用要件を整理します。相続人が複数いる場合は分割方法ごとの税負担と納税資金を比較することも重要です。
争いのある遺産分割や遺留分の法的判断は弁護士等と連携します。税金の計算方法の説明と、どの財産を誰が取得すべきかという意思決定は分けて考えましょう。
税務・法律・登記・金融機関への対応は、それぞれの専門分野で確認が必要です。相談先に同じ資料と方針を共有し、情報の行き違いを減らしましょう。
9. よくある質問・まとめ
Q. 各人が取得した財産に直接税率を掛けますか?
A.いいえ。まず法定相続分で相続税の総額を仮計算し、実際の取得割合で配分する仕組みが基本です。
Q. 配偶者が取得すると相続税の総額も必ず下がりますか?
A.相続税総額の算出と、配偶者の税額軽減の適用は別の段階です。最終納税額に影響する場合があります。
まとめ: 法定相続分で算出する『相続税の総額』と、実際の取得に応じる『各人の税額』を分けて理解することが重要です。
▍ 場面別に考える|実務のケーススタディ
実際の相続では、制度の概要だけでなく、家族の状況や財産の種類によって判断が変わります。以下のような場面では、当初の方針だけで進めず、必要な資料と実行時期を確認することが重要です。
CASE 01 │ 配偶者が財産を多く取得する場合
正味遺産が1億円で配偶者と子ども2人が法定相続人の場合、基礎控除4,800万円を差し引いた5,200万円を法定相続分で仮計算し、相続税総額を求めます。実際に配偶者が大部分を取得しても、相続税総額の求め方そのものが直接的な取得額別の累進課税に変わるわけではありません。その後、実際の取得割合で配分し、配偶者の税額軽減などを適用するため、配偶者の最終税額が大きく変わる場合があります。
CASE 02 │ 実家と賃貸アパートの評価が変わる場合
自宅や賃貸用地について小規模宅地等の特例が適用されるかで、課税価格が大きく異なることがあります。例えば、誰が土地を取得するかによって要件を満たすかが変わる場合、遺産分割前に複数の税額シミュレーションを行うことが重要です。税額の総額計算の前提となる財産評価が変わるため、いったん算出した相続税総額を固定して分割案だけ変えることが適切ではないケースもあります。
CASE 03 │ 死亡保険金と生前贈与がある場合
相続税の計算では、死亡日時点の預金や不動産だけでなく、みなし相続財産となる死亡保険金や、一定の贈与財産などを集計する場合があります。死亡保険金の非課税限度額や贈与加算の扱いは、契約関係や相続人の状況によって異なります。これらを含めた課税価格を確定してから基礎控除と相続税総額を求め、税額軽減や加算を各人に適用する順序を意識しましょう。
こうしたケースでは、税金の計算だけで結論を決めるのではなく、財産の帰属・権利関係・納税資金・相続後の管理・専門家の役割を同じ資料の中で整理すると、判断を誤りにくくなります。選択肢ごとの利点と制約を表にし、誰がいつ何を確認するかまで具体化しましょう。
▍ さらに詳しく|実務判断の6つのポイント
01 │ 相続税の総額を先に計算する理由
相続税は、財産を取得した人にそれぞれ直接累進税率を掛けて終わる計算方法ではありません。課税遺産総額を法定相続分で取得したと仮定して相続税の総額を算定し、その税額を実際の取得割合に応じて各人へ配分します。この仕組みを理解すると、財産を誰に渡すかによって課税遺産総額や特例がどう変わるかを整理しやすくなります。
02 │ 基礎控除と相続税総額の計算は別段階
正味の遺産額から基礎控除を差し引いた課税遺産総額について、法定相続分で仮計算します。例えば配偶者と子ども2人で正味遺産1億円なら、基礎控除4,800万円を差し引き、課税遺産総額5,200万円になります。この金額を配偶者2分の1、子ども各4分の1の法定相続分で配分して、それぞれ速算表に当てはめることが基本です。
03 │ 配偶者の税額軽減は総額計算の後で検討する
相続税総額を求めた後、実際の取得割合に応じて税額を配分し、配偶者の税額軽減などを検討します。配偶者が取得した財産が多いと、その配偶者に配分される税額も大きくなりますが、所定の要件を満たせば軽減を受けられます。相続税総額の算出と配偶者軽減の適用は別の段階だと理解しておくことが重要です。
04 │ 不動産評価や小規模宅地の特例が税額に影響する
土地の評価額や小規模宅地等の特例の適用結果によって、課税遺産総額そのものが変わる場合があります。そのため、評価の前提や誰が土地を取得するかが最終税額に大きく影響することがあります。土地の価額や特例の適用要件が未確定の段階では、税額を一つの数値に決めつけず、複数のケースを試算する方法が役立ちます。
05 │ 税額がゼロでも申告が必要な制度がある
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使った結果、納税額がゼロになる場合でも、相続税申告を行うことが適用要件となるケースがあります。税額の計算上ゼロだから必ず申告不要と判断することはできません。申告期限までにどの資料を集め、誰がどの財産を取得するかを決めるかなど、税額と手続を同時に管理しましょう。
06 │ 各人の税額と資金負担を合わせて見る
税額を各人に配分したら、実際に納税するための預貯金や保険金があるかを確認します。たとえば土地を多く取得する相続人は税額が大きくても現金が少なく、納税資金を準備できない場合があります。税額の最適化と納税資金の確保は別の検討です。家族の生活と不動産の継続管理を守れる分割案か、税務の試算と併せて確認することが大切です。
▍ アポロ税理士法人の考え方
税金だけで決めず、財産を引き継ぐ家族の希望、納税資金、不動産・事業の管理を横断して検討することを大切にしています。税務・会計を起点に、法律、登記、金融機関など各分野の専門家とも連携して課題を整理します。

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
▍ シリーズ記事|前後の記事へ
前の記事:第5回|相続財産の調べ方
次の記事:第7回|遺産分割の決め方
全記事の目次:第1回|相続の全体像
▍ 関連する既存ブログ
▍ 参考資料・出典
※2026年10月時点の一般的な制度解説です。実行時には最新の改正と個別要件を確認してください。


