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売買契約書に土地・建物の内訳がない場合はどう按分する?

  • 8月4日
  • 読了時間: 25分
土地、建物比率のアイキャッチ

中古マンションや一棟アパートなどを購入した際、売買契約書に「売買代金総額」しか記載されておらず、土地と建物の金額が分かれていないことがあります。

しかし、不動産を購入した後の税務処理では、売買代金を土地と建物に分けなければなりません。

土地は減価償却できない一方、建物は減価償却の対象となるためです。また、土地と建物では、消費税の取扱いも異なります。

それでは、売買契約書に土地・建物の内訳がない場合、どのように按分すればよいのでしょうか。

実務上、よく用いられるのは、土地と建物の固定資産税評価額の比率によって按分する方法です。

ただし、税法上、固定資産税評価額による按分だけが正しいと定められているわけではありません。物件の状態や取引内容によっては、不動産鑑定評価など、別の方法の方が合理的と判断されることもあります。

1.土地と建物を按分するのはなぜ?


1-1.土地は減価償却できない

建物は、時間の経過や使用によって価値が減少する資産として、耐用年数にわたり減価償却します。

減価償却とは、建物の取得価額を一度に経費にするのではなく、一定の期間に分けて経費にしていく手続です。

一方、土地は、税務上、時間の経過によって価値が減少する資産とは扱われないため、減価償却できません。

したがって、同じ1億円の不動産を購入した場合でも、土地と建物の内訳によって、毎年計上できる減価償却費が変わります。


1-2.土地と建物では消費税の取扱いが異なる

土地の譲渡は、消費税等の非課税取引です。

一方、売主が課税事業者であり、事業として建物を譲渡する場合には、建物部分に原則として消費税等が課税されます。

そのため、土地と建物を一括して売買した場合には、消費税等の計算上、売買代金総額のうち建物部分を合理的に区分する必要があります。国税庁も、建物代金が区分されていない場合には、土地と建物を時価や固定資産税評価額などに基づいて合理的に区分する必要があると説明しています。

なお、売主が免税事業者である場合や、個人が自己居住用住宅を私的に売却する場合などは、取扱いが異なります。


1-3.将来の売却損益と適用税率にも影響する

土地と建物の内訳は、保有中の減価償却費だけでなく、将来売却するときの譲渡所得にも影響します。

合理的な按分の結果として建物の取得価額が高く算定されると、一般的には保有期間中の減価償却費が増えます。一方、建物を売却するときの取得費は、当初の建物取得価額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算するため、減価償却費が増えた分だけ、将来の譲渡所得も増える可能性があります。

ただし、個人が収益用不動産を保有する場合、保有中の不動産所得と売却時の譲渡所得では、課税方法が異なります。

保有中の不動産所得は、給与所得などと合算する総合課税の対象となり、所得水準に応じて5%から45%の所得税率が適用されます。一方、土地・建物の売却益は申告分離課税となり、長期譲渡所得に該当する場合の税率は、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%です。

そのため、高所得者が長期保有を前提として収益用不動産を購入する場合には、高い限界税率で減価償却費を必要経費に算入し、売却時には比較的低い分離課税の税率で課税されることで、税率差による節税効果が生じる可能性があります。

つまり、建物割合を高くする効果は、単なる課税の先送りにとどまるとは限りません。

もっとも、実際の効果は、保有者の所得水準、保有期間、売却価格、不動産所得の黒字・赤字、損益通算の可否などによって異なります。また、税務上認められる建物割合は、当事者が自由に設定できるものではなく、物件の客観的価値に照らして合理的である必要があります。


2.売買契約書に内訳がない場合の基本的な考え方


2-1.税法上、唯一の按分方法が決められているわけではない

所得税法や法人税法では、購入した建物の取得価額は、その建物の「購入の代価」などを基礎として計算します。

しかし、土地と建物を一括購入した場合に、必ず固定資産税評価額で按分しなければならないという具体的な規定はありません。

国税庁は、土地と建物を一括譲渡した場合の合理的な区分方法として、次のような方法を例示しています。

  • 土地と建物のそれぞれの時価の比率による按分

  • 相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分

  • 土地・建物の取得費や造成費、販売費などの原価を基にした按分

つまり、固定資産税評価額による方法は有力な選択肢ではありますが、唯一の法定方法ではありません。


2-2.重要なのは「合理的に区分されているか」

税務上重要なのは、どの方法を使ったかという形式だけではありません。

その物件について、その方法を採用することに合理性があるかが重要です。

例えば、次の点を確認します。

  • 土地と建物を同じ時点の価値で比較しているか

  • 土地だけ古い評価額、建物だけ現在の価格を使っていないか

  • 建物の築年数や状態が反映されているか

  • 大規模な改修工事が反映されているか

  • 土地価格の急激な上昇が反映されているか

  • 建物に不自然に高い金額を配分していないか

  • 算定方法を裏付ける客観的な資料があるか

按分方法は、計算結果だけではなく、その計算に至った理由まで説明できることが重要です。


2-3.契約書に内訳があっても不合理なら否定されることがある

売買契約書に土地と建物の金額が記載されている場合には、通常はその金額が取得価額の基礎になります。

ただし、契約書に書いてあれば、どのような内訳でも必ず認められるわけではありません。

例えば、築年数が相当に経過し、設備も破損している建物に売買代金の大部分を配分している場合、その区分が客観的な価値と比較して著しく不合理と判断される可能性があります。

後述する令和4年9月9日裁決でも、契約書上の内訳が存在していたものの、建物へ過剰に価格が配分されているとして、固定資産税評価額比による按分が採用されています。


3.按分する前に確認すべき資料


3-1.契約書・請求書・領収書を確認する

土地と建物を按分する前に、まず次の資料を確認します。

  • 売買契約書

  • 重要事項説明書

  • 売買代金の請求書

  • 売買代金の領収書

  • 決済明細書

  • 固定資産税・都市計画税の精算書

  • 売主や仲介会社から交付された価格明細書

売買契約書に土地・建物の内訳がなくても、領収書や請求書に建物代金や消費税額が記載されていることがあります。

また、契約書の本文ではなく、特約事項や別紙の物件明細や価格表に内訳が記載されている場合もあります。


3-2.建物の消費税額から逆算できないか確認する

土地・建物の金額が分かれていなくても、建物に係る消費税額が記載されていれば、建物の税抜価格を逆算することが可能です。

例えば、売買時の消費税率が10%で、契約書に建物に係る消費税額として500万円と記載されている場合、建物の税抜価格は次のように計算できます。

建物の税抜価格=建物に係る消費税額500万円÷10%=5,000万円

ただし、次の点には注意が必要です。

  • 記載された税額が本当に建物部分だけの消費税であるか

  • 売買時点の正しい税率を使用しているか

  • 税額から逆算した建物価格が著しく不自然ではないか

消費税額が記載されていても、その計算根拠自体が不合理であれば、税務上そのまま認められるとは限りません。


3-3.売主・仲介会社に価格内訳を確認する

書類から内訳が確認できない場合には、売主や仲介会社へ、土地・建物別の価格資料がないか確認します。

例えば、次のように問い合わせます。

本件の売買代金について、土地・建物別の価格内訳または建物に係る消費税額を確認できる資料はありますでしょうか。

ただし、一般的な中古不動産の売買では、契約書とは別に土地・建物の内訳資料が作成されていないことも少なくありません。

そのため、売主や仲介会社へ確認しても内訳が分からない場合には、固定資産税評価額比など、買主が取得できる客観的な資料を基に按分方法を検討することになります。


3-4.売主の内部資料は通常入手が難しい

裁判例では、売主の帳簿や販売価額が確認できる場合には、それを参考にするという考え方が示されることがあります。

しかし、通常の第三者間売買において、買主が次のような資料を入手することは容易ではありません。

  • 売主の帳簿価額

  • 売主の土地仕入価格

  • 売主の建物取得原価

  • 売主の原価計算書

  • 売主の利益計算資料

これらは売主の内部情報に当たるため、一般的には開示されないと考えた方が現実的です。

また、売主の帳簿価額や過去の仕入価格が判明したとしても、それが現在の売買時点における土地・建物の価値を示すとは限りません。

したがって、実務上は売主の内部資料を深追いしすぎず、契約書、消費税額、販売価格明細、査定書など、取引時に作成された資料を確認することが現実的です。


4.実務上は固定資産税評価額比による按分が第一候補


4-1.固定資産税評価額按分の計算方法

固定資産税評価額による按分は、土地と建物の固定資産税評価額の比率を計算し、その比率で売買代金を配分する方法です。

例えば、固定資産税評価額が次の金額だったとします。

  • 土地の固定資産税評価額:6,000万円

  • 建物の固定資産税評価額:2,000万円

  • 評価額合計:8,000万円

この場合の比率は次のとおりです。

土地割合=6,000万円÷8,000万円=75%

建物割合=2,000万円÷8,000万円=25%

消費税が発生しない取引や、税抜売買代金が明確な取引であれば、原則としてこの比率を基礎として土地・建物へ按分します。

ただし、売買代金総額が消費税込みである場合には、土地には消費税がかからず、建物にだけ消費税が加算されます。

そのため、税込総額に単純に25%を乗じるだけでは、正しい税抜建物価格にならないことがあります。具体的な計算方法は後ほど(9章にて)説明します。


4-2.同一年度の固定資産税評価制度による数値を比較できる

固定資産税評価額は、市場価格そのものではありません。

それでも実務上利用される理由の一つは、土地と建物について、同一年度の公的な評価額を入手できることです。

土地は現在の路線価、建物は建築当時の工事費というように、評価時点や算定方法が大きく異なる数字を組み合わせるより、比較可能性が高いと考えられます。

裁決例でも、固定資産税評価額は、土地・建物の価額比を推認する手掛かりとして一般的な合理性を有すると整理されています。


4-3.資料取得と計算が簡単で費用対効果が高い

固定資産税評価額按分が実務で広く使われる大きな理由は、計算の精緻さだけではありません。

次のような実務上のメリットがあります。

  • 固定資産評価証明書や課税明細書から確認できる

  • 土地と建物の両方の評価額が記載されている

  • 計算方法が比較的簡単

  • 不動産鑑定評価のような追加費用がかからない

  • 申告期限までに処理しやすい

  • 税務調査で計算根拠を示しやすい

すべての不動産取引で不動産鑑定評価を取得すれば、税務処理に多くの費用と時間がかかります。

仮に鑑定評価によって建物割合が変わったとしても、税額への影響が小さければ、鑑定費用の方が高くなることもあります。

そのため、一般的な中古不動産で特別な事情がなければ、固定資産税評価額比は、計算の簡便性、追加コスト、税務上の説明可能性のバランスが取れた方法です。


4-4.固定資産税評価額と課税標準額を混同しない

固定資産税の課税明細書には、次のような異なる金額が記載されています。

  • 価格・評価額

  • 課税標準額

  • 税相当額

土地・建物の按分で使用するのは、原則として「価格」または「評価額」です。

課税標準額ではありません。

土地の課税標準額には、住宅用地の特例や負担調整措置などが反映され、固定資産税評価額より大幅に低くなっていることがあります。

その課税標準額を使って按分すると、土地割合が不自然に低くなり、その分だけ建物割合が高くなる可能性があるので注意が必要です。

平成30年11月15日の東京高裁判決でも、固定資産税の課税標準額を用いた按分方法の合理性が否定されています。


5.固定資産税評価額比をそのまま採用する前に検証したいケース

固定資産税評価額比は実務上の第一候補ですが、どのような物件でも機械的に使用してよいわけではありません。

少なくとも、次のような事情がある場合には、固定資産税評価額が販売時点の実態を反映しているか確認した方がよいでしょう。


5-1.固定資産税評価額に反映されていない価値増加を伴う改修が行われている

建物の機能、収益力、耐久性などを向上させ、建物の時価を増加させる改修工事が行われている場合、その価値増加が固定資産税評価額に反映されていない可能性があります。

ただし、工事費が多額であることや、大規模修繕という名称が付いていることだけで、建物価値が同額増加したと判断できるわけではありません。工事の内容と、販売時点の建物価値に与えた影響を確認する必要があります。


5-2.建物が著しく老朽化している

固定資産税評価額上は一定の建物価値が残っていても、実際には次のような状態となっていることがあります。

  • 雨漏りが発生している

  • 給排水設備が使用できない

  • 構造部分に重大な劣化がある

  • 長期間空室となっている

  • 使用するために多額の修繕費が必要

このような場合、固定資産税評価額比による建物割合が、実際の交換価値より高くなる可能性があります。


5-3.取得後すぐに解体する予定がある

購入時点ですでに建物の取壊しが予定されており、売主・買主の双方が実質的に土地の取得を目的としている場合には、通常の収益物件とは状況が異なります。

建物にどの程度の客観的価値があるのか、購入目的や解体時期を含めて検討する必要があります。

なお、購入当初から建物を取り壊して土地を利用する目的であり、取得後おおむね1年以内に取壊しを行う場合には、土地・建物の按分とは別に、建物の購入代金や取壊費用を土地の取得価額へ算入する税務上の取扱いがあります。

そのため、解体予定物件については、単に建物割合をいくらにするかだけでなく、建物取得価額の最終的な税務処理まで併せて検討する必要があります。


5-4.土地価格が急上昇している

都心部や再開発地域などでは、固定資産税評価額の基準時点から売買時点までの間に、土地価格が大きく上昇していることがあります。

令和4年6月7日東京地裁判決でも、地域の地価上昇が固定資産税評価額へ適切に反映されていないことが、固定資産税評価額比の合理性を否定する事情の一つとして検討されています。


5-5.特殊用途・特殊構造、借地権などの事情がある

次のような物件は、一般的な土地・建物の按分方法だけでは実態を表しにくい場合があります。

  • ホテル、病院、工場などの特殊用途建物

  • 特殊な設備を備えた建物

  • 借地権付き建物

  • 定期借地権が設定された物件

  • 競売により取得した物件

  • 権利関係が複雑な物件

このような物件では、不動産鑑定評価や原価資料などの追加検討が必要になることがあります。


5-6.評価基準日後に物件価値が大きく変化している

固定資産税評価額を確認する際には、その評価額が、いつの状態を反映したものかも確認します。

評価額の基準日後に、次のような変化が生じていれば、現在の価値との間に乖離が生じる可能性があります。

  • 大規模な増改築

  • 用途変更

  • 災害による損傷

  • 建物の一部解体

  • 周辺地域の再開発

  • 賃貸物件としての稼働状況の大幅な改善

これらの事情があるからといって、直ちに固定資産税評価額比を使用できないわけではありません。

重要なのは、計算結果に明らかな違和感がないかを確認することです。


6.リノベーション・入居付け後の販売では建物比率が高くなることがある


6-1.改修による価値増加は建物側に反映されやすい

中古の収益用不動産では、不動産会社が物件を取得した後、リノベーションや設備更新を行い、物件価値を高めてから個人投資家へ販売することがあります。

例えば、次のような工事です。

  • 外壁・屋根の大規模修繕

  • 共用部の改修

  • 各住戸の全面的な内装工事

  • 給排水管の更新

  • 空調・電気設備の更新

  • エレベーターの更新

  • オートロックや防犯設備の設置

  • 耐震補強工事

  • 用途変更に伴う改修工事

これらは、土地ではなく建物の機能や状態を改善する工事です。

そのため、改修前の状態を基礎とする固定資産税評価額より、販売時点の建物価値が高くなっている合理的な理由になり得ます。

令和5年6月21日裁決でも、建物の価値を増加させる改修工事が固定資産税評価額に反映されていなかった物件について、改修後の状態を踏まえた不動産鑑定評価の積算価格比による按分が認められています。


6-2.入居付けによる収益性の向上は、建物割合を高める事情になり得る

収益用不動産の価値は、建物の築年数や設備の状態だけでなく、入居率、賃料水準、賃貸借契約の内容など、その物件が生み出す収益にも影響されます。

不動産鑑定評価基準でも、不動産の価格と賃料には、元本と果実のような相関関係があると説明されています。したがって、空室の解消や賃料収入の安定化は、販売時点における収益用不動産の価値を検討するうえで、無視できない要素です。

例えば、同じ土地・建物であっても、次の2つの物件では、投資家から見た収益性が異なります。

  • 稼働率50%、年間賃料収入600万円の物件

  • 稼働率95%、年間賃料収入1,000万円の物件

入居付けは、賃貸可能な建物が存在するからこそ行うことができます。更地の状態では、入居者を募集し、建物の賃貸借契約を締結して、居住用または事業用の賃料収入を得ることはできません。

特に、不動産会社が空室の多い中古収益物件を取得し、建物の改修や設備更新と併せて入居付けを行い、安定した賃料収入を生み出す状態にしてから販売する場合、仕入時の固定資産税評価額が、販売時点の物件価値を十分に反映していない可能性があります。

そのため、当法人では、入居付けによる稼働率や収益性の改善も、固定資産税評価額比より建物割合が高くなる合理的な事情の一つになり得ると考えています。

とりわけ、次のような事情がそろっている場合には、その説明がしやすくなります。

  • 取得時には空室が多かった

  • 建物の改修や設備更新を実施している

  • 改修後に入居付けを行っている

  • 稼働率や賃料収入が明確に改善している

  • 取得時から販売時までの土地価格に大きな変動がない

  • 固定資産税評価額に改修後の状態が反映されていない

  • 土地・建物別の価格算定について客観的な資料がある

一方、入居率や賃料水準は、建物の状態だけで決まるものではありません。

周辺環境、人口動態、地域の賃貸需要など、土地の立地条件にも影響されます。したがって、入居付けによって増加した価値の全額を、当然に建物へ配分できるわけではありません。

また、仲介会社へ支払った広告料、入居者募集費用、フリーレントなどを、そのまま建物価格へ加算するという意味でもありません。

検討すべきなのは、入居付けに要した費用そのものではなく、

入居付けや改修によって販売時点の物件価値がどのように変化し、その価値を土地と建物にどのように合理的に配分するか

という点です。

令和5年6月21日裁決では、建物の価値を増加させる改修工事が固定資産税評価額に反映されていなかった物件について、改修後の状態を反映した不動産鑑定評価の積算価格比による按分が認められました。もっとも、この裁決が直接判断したのは改修工事による価値増加であり、入居付けによる価値の配分ではありません。

少なくとも、今回確認した公表裁判例・裁決例には、入居付けによって増加した価値の全部または一定割合を、直接建物へ配分できると判断したものは見当たりませんでした。

そのため、入居付けだけを根拠として建物割合を機械的に引き上げるのではなく、次の資料を基に販売時点の土地・建物価額を検討する必要があります。

  • 取得時と販売時のレントロール

  • 稼働率と賃料収入の推移

  • 改修工事や設備更新の内容

  • 改修前後の写真

  • 固定資産税評価額比との比較

  • 取得時から販売時までの土地価格の動向

  • 土地・建物別の価格算定メモ

  • 必要に応じた不動産鑑定評価

これらの資料から、土地価格には大きな変化がなく、販売価格の上昇が主として建物の改修や賃貸稼働の安定化によって生じたと合理的に説明できる場合には、契約上の建物割合が固定資産税評価額比より高くなることにも、一定の合理性が認められると考えられます。


7.裁判例・裁決例からわかる判断基準


7-1.合理的な契約書上の区分が認められた事例

平成20年5月8日裁決では、売買契約書に土地・建物の内訳が明記されていました。

買主は、契約書に記載された建物価格ではなく、固定資産税評価額比によって建物取得価額を計算すべきだと主張しました。

しかし、国税不服審判所は、次の事情を踏まえて契約書記載額を認めました。

  • 当事者間に特殊な利害関係がなかった

  • 租税回避や脱税目的が認められなかった

  • 売主が仲介業者へ価格査定を依頼していた

  • 査定報告書を参考に土地・建物価格を決めていた

  • 契約書上の建物価格に特段不合理な点がなかった

つまり、契約書上の区分が真正な合意に基づき、客観的にも不合理でなければ、その金額が尊重され得ることを示しています。


7-2.契約書上の内訳が不合理として否定された事例

令和4年9月9日裁決では、3つの賃貸用物件について、契約書または譲渡対価証明書に土地・建物の内訳が記載されていました。

しかし、各建物価格は固定資産税評価額を大きく上回る一方、土地価格は固定資産税評価額と同程度か、それを下回っていました。

また、そのように建物へ多くの価格を配分すべき特別な事情も確認されませんでした。

そのため、契約書上の建物価格は客観的価値と比較して著しく不合理と判断され、固定資産税評価額比による按分が採用されました。

この裁決から分かるのは、

契約書に土地・建物の内訳が書かれていることだけでは足りない

ということです。

建物比率を高くするのであれば、その理由を裏付ける資料が必要です。


7-3.固定資産税評価額比より鑑定評価額比が合理的とされた事例

令和4年6月7日東京地裁判決では、土地・建物を一括譲渡した場合の消費税の計算において、固定資産税評価額比と裁判所が採用した鑑定評価額比のどちらを使用すべきかが争われました。

両者の割合は、次のように大きく異なっていました。

固定資産税評価額比

  • 土地:55.51%

  • 建物:44.49%

鑑定評価額比

  • 土地:77.30%

  • 建物:22.70%

裁判所は、物件の個別事情を反映した適正な鑑定が行われ、固定資産税評価額比との間に実質的な差異が生じている場合には、鑑定評価額比による按分の方が合理的になると判断しました。

この判決は、固定資産税評価額比が、どのような場合でも必ず認められる基準ではないことを示しています。


7-4.改修工事を反映した鑑定評価が認められた事例

令和5年6月21日裁決では、土地・建物を一括取得した複数の物件について、固定資産税評価額比と不動産鑑定評価の積算価格比のどちらを使用すべきかが争われました。

国税不服審判所は、固定資産税評価額比について、一般的には合理的な算定方法であると認めています。

一方、一部の建物では、建物価値を増加させる改修工事が行われていたにもかかわらず、その価値増加が固定資産税評価額に反映されていませんでした。

そのため、改修工事が行われた物件については、改修後の状態を反映した鑑定評価の積算価格比を採用し、特別な事情がないほかの物件については固定資産税評価額比を採用しました。

つまり、複数の物件について土地・建物の按分を行う場合でも、すべての物件に一律の方法を適用するのではなく、物件ごとの改修状況や評価額への反映状況を踏まえて、合理的な方法を検討する必要があります。


4つの事例から分かること

これらの裁判例・裁決例は、次のように整理できます。

  1. 合理的な根拠がある契約書上の区分は尊重される

  2. 契約書に記載されていても、著しく不合理なら否定される

  3. 固定資産税評価額比は一般的には合理的な方法である

  4. 物件の個別事情を反映した適正な鑑定があれば、鑑定評価が優先されることがある

  5. 改修工事などが評価額に反映されていない場合は、別の方法を検討する余地がある


8.実務上の判断手順


8-1.契約書・消費税額を確認する

まず、売買契約書、重要事項説明書、請求書、領収書を確認します。

土地・建物の金額が直接記載されていなくても、建物に係る消費税額が記載されていれば、建物価格を逆算できる可能性があります。


8-2.売主・仲介会社へ内訳を確認する

書類に土地・建物の内訳が記載されていなければ、売主または仲介会社へ、土地・建物別の価格区分や建物に係る消費税等を確認できる資料がないか照会します。

もっとも、一般的な中古不動産売買では、契約書とは別の内訳資料が作成されていないことも少なくありません。また、売主の帳簿や原価資料まで開示されることは通常期待できません。

そのため、確認できる資料がなければ、取得年度に近い固定資産税評価額など、買主が入手できる客観的な資料を基に按分方法を検討します。


8-3.資料がなければ固定資産税評価額比を計算する

価格内訳を確認できる資料がなければ、取得年度に近い固定資産税評価額を確認し、土地・建物の比率を計算します。

このとき使用するのは、課税標準額ではなく、価格または評価額です。


8-4.評価額と実態に乖離がないか確認する

固定資産税評価額比を計算したら、そのまま申告に使用する前に、次の点を確認します。

  • 大規模改修が行われていないか

  • 建物が著しく老朽化していないか

  • 取得後すぐに解体する予定がないか

  • 土地価格が急上昇していないか

  • 特殊用途・特殊構造の建物ではないか

  • 借地権などの特殊な権利関係がないか

  • 計算結果が周辺相場と比べて明らかに不自然ではないか

特別な事情がなく、計算結果にも大きな違和感がなければ、固定資産税評価額比を採用することが実務上合理的です。


8-5.税額影響が大きければ別の方法を比較する

固定資産税評価額比と実態に乖離がありそうな場合でも、直ちに不動産鑑定評価を取得する必要があるとは限りません。

まず、按分方法を変えた場合に、税額がどの程度変わるかを試算します。

例えば、次の金額を比較します。

  • 年間減価償却費の差額

  • 法人税・所得税への影響

  • 消費税への影響

  • 将来売却時の譲渡損益への影響

  • 不動産鑑定評価にかかる費用

税額への影響が小さい場合には、固定資産税評価額比を使用する方が、費用対効果に優れることがあります。

一方、高額物件で按分割合が税額に大きく影響する場合には、不動産鑑定評価や価格査定を検討する価値があるでしょう。


8-6.採用した方法と理由を文書化する

採用した按分方法は、計算表だけでなく、判断理由も残しておくことをおすすめします。

例えば、「土地・建物按分検討書」として、次の内容を1枚程度に整理します。

  • 物件の所在地、構造、築年数

  • 売買代金

  • 契約書に内訳がないこと

  • 確認した資料

  • 固定資産税評価額

  • 土地・建物の評価額比

  • 特殊事情の有無

  • ほかの按分方法との比較

  • 採用した方法

  • その方法を採用した理由

税務調査では、申告時から何年も経過した後に説明を求められることがあります。そのため、購入時点で判断過程を残しておくことが安全です。


判断フロー

実務上は、次の順番で判断すると分かりやすくなります。

土地・建物の按分方法の判断フロー

9.具体例で按分計算を確認する


9-1.固定資産税評価額比による基本計算

次の中古一棟マンションを購入したケースを考えます。

  • 税込売買代金:1億円

  • 売主:課税事業者

  • 建物に係る消費税等の税率:10%

  • 土地の固定資産税評価額:5,000万円

  • 建物の固定資産税評価額:3,000万円

  • 契約書に土地・建物の内訳なし

  • 特殊な改修や権利関係なし


この場合、固定資産税評価額の比率は次のとおりです。

土地割合=5,000万円÷8,000万円=62.5%
建物割合=3,000万円÷8,000万円=37.5%

ただし、売買代金1億円は消費税込みです。

土地には消費税がかからず、建物にだけ10%の消費税が加算されるため、単純に1億円の37.5%を建物価格とする計算ではありません。


9-2.税込売買代金を按分する場合の計算例

土地・建物の売買代金総額が消費税込みで、土地・建物別の金額や建物に係る消費税額が明らかでない場合には、消費税を考慮して土地・建物の金額を計算する必要があります。

令和4年6月7日東京地裁判決では、税込代金総額を、土地の鑑定評価額と、建物の鑑定評価額に消費税相当額を加算した金額との比率で按分する方法が採用されました。

この判決の計算構造を固定資産税評価額に当てはめると、次のように計算できます。

按分係数=税込売買代金÷{土地評価額+建物評価額×1.10}

今回のケースでは、

按分係数=1億円÷{5,000万円+3,000万円×1.10}=1億円÷8,300万円

税抜土地価格=5,000万円×1億円÷8,300万円=60,240,964円

税抜建物価格=3,000万円×1億円÷8,300万円=36,144,578円

建物に係る消費税等=36,144,578円×10%=3,614,458円


計算結果は次のとおりです。

  • 土地価格:60,240,964円

  • 建物税抜価格:36,144,578円

  • 建物消費税:3,614,458円

  • 合計:100,000,000円


ただし、令和4年6月7日東京地裁判決が実際に採用したのは、固定資産税評価額比ではなく、裁判所鑑定による評価額比です。

また、その他の裁決例には、税込売買代金を固定資産税評価額比で直接按分した後、建物部分から消費税を控除する方法もみられます。そのため、固定資産税評価額を使用する場合の税込総額の計算方法が、裁判例・裁決例上、完全に統一されているわけではありません。


10.まとめ

売買契約書に土地・建物の内訳がない場合には、まず契約書、請求書、領収書などを確認し、建物に係る消費税等や価格内訳が分からないかを確認します。売主や仲介会社へ照会しても内訳を確認できない場合には、固定資産税評価額比が実務上の有力な選択肢となります。

ただし、固定資産税評価額比は、法律上の唯一の按分方法ではありません。改修工事、著しい老朽化、解体予定、土地価格の上昇などにより、固定資産税評価額と売買時点の実態が乖離している場合には、不動産鑑定評価など別の方法も検討する必要があります。

特に、中古収益物件についてリノベーションや入居付けを行った後に販売する場合には、改修内容や収益性の変化が固定資産税評価額に反映されていない可能性があります。客観的な資料に基づいて算定した結果、契約上の建物割合が固定資産税評価額比より高くなることにも、一定の合理性が認められる場合があります。

実務上、重要なのは次の3点です。

  1. まず、取引時の資料から土地・建物の内訳を確認する

  2. 固定資産税評価額比を第一候補としつつ、物件固有の事情を確認する

  3. 採用した按分方法と判断理由を資料として残す

土地・建物の按分割合は、保有中の減価償却費や消費税だけでなく、将来の売却時の税負担にも影響します。特に高額な収益用不動産では、按分割合の違いによる税額への影響が大きくなることがあります。

売買契約書に内訳がない場合や、契約書に記載された土地・建物価格の妥当性を判断できない場合には、申告前に按分方法を検討しておくことが重要です。


【主な出典】

Apollo Accounting Firm

​アポロ税理士法人
​ファルコン株式会社
​保証業務アルテミス

​東京都多摩市関戸5-17-16-102

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