不動産で相続税はなぜ下がる?賃貸不動産の評価減・借入金・小規模宅地を事例で解説
更新日:10月4日

「相続税対策として不動産を買うとよい」
このような話を聞いたことがある方は多いと思います。
実際、不動産は現金と比べて相続税評価額を抑えやすく、特に賃貸用不動産では、貸家建付地・貸家の評価減、小規模宅地等の特例、借入金の債務控除が組み合わさることで、相続税の課税対象額が大きく下がるケースがあります。
ただし、ここで最初に理解しておきたいことがあります。
「借金をすれば相続税が下がる」のではありません。
相続税対策として不動産が機能する最大の理由は、市場で売買される価格と、相続税を計算するときの評価額に差が生じることです。
たとえば、1億円の現金は相続税でも基本的に1億円として扱われます。一方、市場価格1億円の賃貸用不動産が、相続税上は5,000万円や6,000万円程度で評価されることがあります。
つまり、
現金1億円 → 相続税評価1億円
だったものが、
不動産1億円 → 相続税評価5,000万円~6,000万円
となれば、経済的には同じ1億円の資産を持っていても、相続税の計算基礎は小さくなります。
本記事では、不動産で相続税評価額が下がる仕組みを、不動産オーナー向けにできるだけシンプルに解説します。
※本記事は2026年8月26日時点の制度を前提としています。2027年1月1日以後の相続等については、短期に取得・新築した一定の貸付用不動産の評価方法について大きな見直しが示されています。後半で詳しく解説します。
目次
1.不動産で相続税が下がる本当の理由
不動産による相続税対策を理解するうえで、ポイントは大きく3つです。
「時価と相続税評価額の差」
「賃貸していることによる評価減」
「借入金の債務控除」
この3つを分けて考えると仕組みがよく分かります。
1-1.現金は1億円なら1億円。不動産はそうとは限らない
土地や建物は、通常の売買価格をそのまま相続税申告書に記載するわけではありません。
土地は原則として「路線価方式」または「倍率方式」で評価します。建物は原則として固定資産税評価額を基準に評価します。
そのため、市場価格と相続税評価額との間に差が生じます。
国税庁も、家屋については固定資産税評価額に1.0を乗じて評価し、賃貸されている土地・家屋については権利関係に応じて評価額を調整する仕組みを示しています。
たとえば、市場価格1億円の不動産について相続税評価額が8,000万円だったとします。
現金1億円を持っていれば評価額は1億円ですが、不動産に変われば評価額は8,000万円です。
この時点で、相続税の計算上は2,000万円の差が生まれます。
さらに、その不動産を第三者に賃貸していれば、土地・建物ともに追加の評価減を受けられることがあります。
これが、収益不動産が相続対策と相性がよい大きな理由です。

1-2.「借金をすれば相続税が下がる」は正確ではない
相続税を計算するとき、亡くなった方が負担していた借入金などの確実な債務は、原則として遺産総額から差し引くことができます。これを債務控除といいます。
ただし、借入れをしただけでは相続税は下がりません。
たとえば、1億円を借りて、その1億円を預金として持っているだけなら、
預金+1億円 − 借入金▲1億円=0円
です。
資産と負債が同額増えるだけなので、純資産は変わりません。
相続対策として効果が生じるのは、借りたお金を使って、市場価格よりも相続税評価額が低くなる不動産を取得したときです。
たとえば1億円を借りて1億円の不動産を取得し、その不動産の相続税評価額が6,000万円になれば、
不動産6,000万円 − 借入金1億円=▲4,000万円
という評価差が生じます。
したがって、相続税対策の本質は「借金」ではありません。
現金等を相続税評価の低い不動産へ組み替え、その評価差と債務控除を組み合わせることです。
2.賃貸用不動産の土地はどう評価される?
2-1.賃貸アパートの土地は「貸家建付地」として評価する
自分の土地にアパートや賃貸マンションを建て、第三者に貸している場合、その土地は原則として貸家建付地として評価します。
貸家建付地とは、簡単にいうと「人に貸している建物の敷地」です。
評価額は次の式で計算します。
貸家建付地の評価額= 自用地価額×{1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合}
国税庁も同じ算式を示しています。
たとえば、自用地としての評価額が4,000万円、借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%だったとします。
4,000万円 ×{1-60%×30%×100%}= 3,280万円
自分だけで使用している土地なら4,000万円だったものが、賃貸用建物の敷地になることで3,280万円まで下がります。
評価減は720万円、率にすると18%です。
なぜ評価額が下がるのでしょうか。
賃貸中の建物には入居者がいます。そのため、所有者であっても自由に取り壊したり、すぐに別用途へ変更したりできるわけではありません。
相続税評価では、このような所有者による利用の制約を評価額に反映しているのです。
2-2.さらに小規模宅地等の特例で50%減額できる場合がある
賃貸用不動産の土地について、一定の要件を満たす場合には「小規模宅地等の特例」のうち貸付事業用宅地等として、最大200㎡まで評価額を50%減額できます。
先ほどの土地をそのまま使ってみましょう。
貸家建付地としての評価額は3,280万円でした。
敷地全体100㎡について貸付事業用宅地等の特例を適用できるとすると、
3,280万円 × 50% = 1,640万円
となります。
もともとの自用地評価4,000万円から考えると、相続税評価額は1,640万円まで下がっています。
4,000万円 → 1,640万円
ですから、土地だけでもかなり大きな差です。
ただし、小規模宅地等の特例は「賃貸物件なら自動的に使える制度」ではありません。
相続人がその貸付事業を申告期限まで引き継いでいること、その土地を申告期限まで保有していることなどの要件があります。また、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は原則として対象外です。
一方、相続開始の日まで3年を超えて引き続き一定の「特定貸付事業」を行っていた場合には、この3年以内貸付宅地等から除外される取扱いがあります。
したがって、相続が近くなってから賃貸物件を購入する場合には、この3年ルールを必ず確認する必要があります。
また、自宅の土地など他の小規模宅地等の特例と併用する場合には、限度面積の調整が必要になることがあります。
小規模宅地等の特例には、自宅や事業用地など他の区分もあり、誰が相続するかなどによって要件が異なります。制度全体は、「小規模宅地等の特例とは?」で整理しています。
2-3.空室があるときは「戸数」ではなく「床面積」で考える
アパートやマンションでは、相続発生時にたまたま1室空いていることもあります。
このとき重要なのが賃貸割合です。
賃貸割合は「10室中9室だから90%」という単純な戸数割合ではありません。
原則として、貸家の各独立部分について、実際に賃貸されている部分の床面積 ÷ 全独立部分の床面積で計算します。
ただし、相続時点で空室になっていても、課税時期前まで継続して賃貸され、退去後すぐに募集を開始し、空室中に他の用途へ使用せず、空室期間が課税時期の前後で例えば1か月程度の一時的なものであり、その後も継続的に賃貸されているようなケースでは、賃貸中として取り扱える場合があります。
ただし「1か月」は絶対的な期限ではありません。
重要なのは、本当に一時的な空室だったと説明できるかです。
募集依頼日、賃貸ポータルへの掲載履歴、内覧記録、申込書、新しい賃貸借契約書、賃料の入金記録などは残しておくべきです。
3.賃貸用不動産の建物はどう評価される?
建物については、原則として固定資産税評価額を基準にします。
第三者へ賃貸している建物は「貸家」として、次の式で評価します。
貸家の評価額= 固定資産税評価額 ×{1-借家権割合×賃貸割合}
たとえば固定資産税評価額3,000万円、借家権割合30%、賃貸割合100%なら、
3,000万円 ×{1-30%×100%}= 2,100万円
となります。
つまり、自用なら3,000万円だった建物の評価額が、貸家になることで2,100万円まで下がります。
ここで注意したいのは、固定資産税評価額と市場価格には一定の比例関係があるわけではないということです。
市場では、築年数、立地、賃料、稼働率、修繕状況、投資家が要求する利回りなどによって売買価格が決まります。
一方、相続税評価では固定資産税評価額を基礎にします。
この「市場の評価方法」と「税務上の評価方法」の違いが、不動産の評価差を生み出す要因になります。

4.1億円の賃貸不動産を購入すると、相続税評価はどう変わる?
ここまでの仕組みを、具体的な数字で確認してみます。
購入前は現金1億円、借入金ゼロとします。
市場価格1億円の賃貸用不動産を購入し、土地の市場価格は5,000万円、建物の市場価格も5,000万円とします。
土地の自用地としての相続税評価額は4,000万円、建物の固定資産税評価額は3,000万円。
借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%とします。
購入資金は8,000万円を金融機関から借り入れ、2,000万円を自己資金で支払います。
敷地は100㎡で、相続発生時には貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例を適用するための要件を満たしているものとします。
なお、以下は2026年時点の現行評価ルールを前提とした単純化した試算です。
購入前
現金 1億円
借入金 0円
相続税評価ベースの純資産 =1億円
購入後
自己資金2,000万円を使っているため、現金は8,000万円残ります。
土地はまず貸家建付地として評価します。
4,000万円 ×{1-60%×30%×100%}=3,280万円
小規模宅地等の特例を適用できる場合は、
3,280万円 × 50%=1,640万円
となります。
建物は、
3,000万円×{1-30%×100%} =2,100万円
です。
これをまとめると次のようになります。
項目 | 購入前 | 購入後・小規模宅地なし | 購入後・小規模宅地あり |
現金 | 1億円 | 8,000万円 | 8,000万円 |
土地 | ― | 3,280万円 | 1,640万円 |
建物 | ― | 2,100万円 | 2,100万円 |
借入金 | ― | ▲8,000万円 | ▲8,000万円 |
相続税評価ベースの純資産 | 1億円 | 5,380万円 | 3,740万円 |
購入前との差額 | ― | ▲4,620万円 | ▲6,260万円 |

小規模宅地等の特例まで適用できれば、
1億円 → 3,740万円
となり、相続税評価ベースの純資産は6,260万円減っています。
一方、経済的な純資産を市場価格ベースで考えると、上表の通り1億円です。
(購入諸費用や市場価格の変動を無視すれば、経済的な純資産は1億円のままなのです。)
ここが、不動産による相続対策を理解するうえで最も重要なポイントです。
資産そのものが6,260万円消えたわけではありません。
市場価値では1億円の純資産を保ちながら、相続税を計算するときの評価額が3,740万円になっているのです。
この「市場価値と相続税評価額の差」が、不動産による相続対策の本質です。
5.相続直前に不動産を買えばよい、という話ではない
ここまで読むと、
「それなら相続が近くなったら、大きな借入れをして不動産を購入すればよいのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、この考え方には大きな注意点があります。
5-1.最高裁まで争われた「財産評価基本通達6項」
財産評価基本通達6項、いわゆる総則6項は、通常の通達評価によることが「著しく不適当」と認められる場合に、通常とは異なる方法で財産を評価するための例外的なルールです。
この総則6項を巡って有名なのが、最高裁第三小法廷令和4年4月19日判決です。
この事案では、被相続人が金融機関などから多額の借入れを行い、不動産を購入していました。
不動産の購入と借入れがなければ相続税の課税価格は6億円を超えていた一方、通達評価を適用すると課税価格は約2,826万円となり、基礎控除によって相続税額は0円となっていました。
最高裁は、被相続人らが近い将来の相続における税負担の軽減を知り、かつ期待して、あえて不動産購入・借入れを企画して実行したという事実などを踏まえ、通常の通達評価を行うことは他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせるとして、鑑定評価額による課税を認めました。
ただし、この判決については誤解しないことも重要です。
最高裁は、通達評価額と鑑定評価額との間に大きな乖離があることだけでは足りないと明確に述べています。
つまり、「市場価格と相続税評価額に差がある=総則6項で否認される」という話ではありません。
問題になるのは、その評価差だけでなく、不動産購入・借入れの経緯や租税負担への影響などを含めた事実関係です。
5-2.さらに重要:2027年から短期取得の貸付用不動産は評価ルール見直しへ
改正内容と「5年以内取得」の具体的な判定については、「貸付用不動産の相続税評価が2027年から見直しへ」で最新情報を整理しています。
2026年現在、不動産オーナーが特に確認しておくべきなのが、令和8年度税制改正です。
財務省の令和8年度税制改正大綱では、2027年1月1日以後に相続等で取得する財産について、貸付用不動産の評価方法を見直す方針が示されています。
具体的には、被相続人等が課税時期前5年以内に有償で取得または新築した一定の貸付用不動産について、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価することとされています。
また、課税上の弊害がない限り、取得価額を基礎として地価変動等を考慮した金額の80%相当額で評価できる仕組みも示されています。
これは非常に大きな変更です。
これまでのように、
「相続直前に市場価格1億円の収益不動産を購入し、路線価・固定資産税評価額ベースで大きな評価差を作る」
という短期的な相続対策は、2027年以後かなり制約される方向です。
したがって、これから不動産を使った相続対策を考える場合には、単に「いくら評価が下がるか」だけではなく、取得時期と想定される相続時期までセットで確認する必要があります。
なお、2026年8月時点では、財務省から改正内容は示されていますが、この見直しに関する国税庁の最終的な評価通達の詳細は本記事作成時点で確認できていません。実際の適用にあたっては最新の通達を確認する必要があります。

6.相続税対策で不動産を買う前に、何を確認すればよい?
相続税対策を考えるとき、いきなり物件を探すのは順番が逆です。
まず現在の資産状況を数値化し、そのうえで候補物件を購入した場合に何が変わるのかを比較します。
現在の相続税を概算する。 現金、株式、既存不動産、生命保険、借入金などを整理し、「今相続が発生したらいくらか」を把握します。
購入候補物件の市場価格と相続税評価額を両方計算する。 売買価格だけで判断せず、土地の路線価等、建物の固定資産税評価額、借地権割合、賃貸割合まで確認します。
貸家建付地・貸家・小規模宅地等の特例を反映する。 特に小規模宅地等の特例は、3年ルールや事業継続・保有継続の要件を事前に確認します。
借入れ後の相続税評価額を計算する。 「いくら借りるか」ではなく、「購入後の資産評価額-借入残高がどうなるか」で判断します。
相続税とは別に、不動産投資として成立するか検証する。 賃料、空室、管理費、修繕、固定資産税、金利、元本返済を入れ、返済後キャッシュフローまで確認します。金利上昇や空室増加を入れたストレステストも行います。
取得時期・保有期間・出口まで決める。 2027年以後の貸付用不動産評価の見直しも踏まえ、誰が相続し、その後保有するのか売却するのかまで考えます。
ここまで計算すると、その物件が本当に相続対策として有効なのかがかなり明確になります。
不動産だけでなく、遺産分割や納税資金まで含めた相続全体の考え方は、「相続の基本と全体像」をご確認ください。
7.相続税を下げるためだけの不動産購入はおすすめしない
不動産によって相続税評価額が下がること自体は、制度上認められている評価方法の結果です。
したがって、「相続税評価額が下がるから不動産はダメ」ということではありません。
一方で、相続税が下がるという理由だけで、収益性の低い物件や将来売却しにくい物件を購入するのも本末転倒です。
相続税が1,000万円下がっても、保有期間中に2,000万円の損失が出れば資産形成としては失敗です。
判断の順番は明確です。
まず、不動産投資として成立すること。
そのうえで、
相続税評価の圧縮効果があること。
この順番で判断すべきです。
具体的には、賃料収入から運営費を差し引いた収益力、金融機関への返済後キャッシュフロー、将来の大規模修繕、金利上昇への耐性、売却時の価格、相続後に誰が管理するのかまで確認します。
税務だけを見るのではなく、税務・財務・融資・不動産価値を一体で判断することが重要です。
不動産を複数所有する地主の方は、税額だけでなく「誰にどの土地を残すか」まで含めた設計が重要です。「地主の相続はなぜもめやすい?」で整理しています。
8.まとめ
不動産が相続対策として機能する理由は、単に借入金を増やせるからではありません。
土地は路線価方式等、建物は固定資産税評価額を基準として評価されるため、市場価格との間に評価差が生じます。
さらに賃貸用不動産であれば、土地は貸家建付地、建物は貸家として評価が下がり、一定の要件を満たす土地には小規模宅地等の特例を適用できる場合があります。
そこに借入金の債務控除が加わることで、相続税の課税対象となる純資産が大きく下がるケースがあります。
一方、2027年1月1日以後の相続等については、短期間に取得・新築した一定の貸付用不動産について評価方法の見直しが示されています。
これからの相続対策では、
「不動産を買えば相続税が下がるか」
ではなく、
「この物件を、この価格・借入条件・保有期間で取得した場合、投資として成立し、そのうえで相続税評価はどこまで変わるのか」
まで具体的に計算することが重要です。
参考資料

監修者
志田 宏樹
公認会計士・税理士・宅地建物取引士
監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。
専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継



