【不動産投資を見極める5つの視点|第5回】不動産投資を見送るべきケースとは?購入しない判断も大切
「せっかく良い物件が見つかったのだから、今買わないともったいない」。購入検討中には、そんな気持ちになりがちです。
ただ、不動産投資では買わないという判断も、重要な投資判断です。今回は取得費7,300万円、借入6,000万円、2.45%・30年元利均等というモデルを使い、見送るべき状況を具体的に考えます。
この記事のポイント|1分で分かる
05 今回のモデル 取得費7,300万円・借入6,000万円、金利2.45% |
CF 税引前の手残り 年間約163万円(収支が続くと仮定) |
会計 帳簿上の損失 約480万円。税務上の損益通算と別 |
目次
05 見送った理由を記録する
06 相談先を使い分ける
1.結論|手残りがある物件でも、購入の判断は別
今回の例では年間収入約548万円、現金経費約102万円、年間元利返済約283万円で、税引前の手残りは約163万円です。
この数字だけを見ると一定の余裕があります。しかし、一時的な空室や修繕が重なった場合、予備資金が必要です。購入前に「どの条件なら見送るか」を決めておくと、判断しやすくなります。
2.購入を見送る判断を検討したい7つのケース
01|家計の予備資金を使い切る
取得費と借入の単純差額は約1,300万円です。これに諸費用や予備資金が加わります。頭金を払った後に生活費や大規模修繕に備える資金が不足する場合は、購入条件を見直す必要があります。
02|家賃収入の持続性に根拠がない
賃料約536万円と更新料等約12万円という収入が継続するか、賃貸借契約、募集実績、近隣相場で確認します。更新料のように年によって変動する収入を、毎年同じ額と決めつけないことも重要です。
03|建物の更新費用が不明
現在の修繕費が年間約23万円でも、大規模修繕までその金額に収まるとは限りません。外壁や屋上防水、給排水設備などの状況と必要な資金を確認しましょう。
04|厳しい収支に耐えられない
賃貸収入が2割減ると税引前手残りは約54万円。それに追加修繕200万円が重なると、年間約146万円の持ち出しです。この状況でも保有を続けられるかが判断材料になります。
05|融資が通ることを買う理由にしている
借入6,000万円の30年返済は年間約283万円です。金融機関が融資可能と判断しても、家賃・修繕・売却リスクが解消するわけではありません。
06|売却時の価格と残債を説明できない
買った時より高く売る前提でしか利益が出ない場合には注意が必要です。売却価格が低い場合でも、借入残高・売却費用・税金を差し引いてどの程度の資金が残るかを試算します。
07|節税額だけで購入を決めている
減価償却費約762万円と長期前払費用償却約19万円などを仮定すると帳簿損失約480万円のモデルになります。しかし税務上の所得や損益通算できる金額は別に確認が必要です。「赤字だから必ず大きな税金が戻る」とは言えません。
3.買わないのか、条件を変えるのか
確認 賃料査定・修繕履歴 必要資料を集め、見積りで不明点を減らす |
交渉 購入価格・借入条件 投資条件を変更すれば成立するかを試算 |
見送り 家計の安全余裕が足りない 契約を急がず、次の案件へ判断を生かす |
資料不足なら調査を依頼し、価格が高いなら交渉を検討し、返済が重いなら自己資金や借入条件を再検討します。
ただし、必要な情報を確認しても資金余力が足りず、厳しいケースに耐えられないのであれば、購入しない判断も合理的です。
4.同じ物件でも、条件が変われば結論は変わる
通常 +約163万円/年 賃料等約547万円、運営費約102万円、返済約283万円 |
賃料等が1割減 +約109万円/年 経費・返済は同額と仮定 |
賃料等が2割減 +約54万円/年 入居状況等の悪化を想定 |
追加修繕200万円 ▲約37万円/年 通常収支に臨時支出を追加 |
2割減+追加修繕200万円 ▲約146万円/年 複数のリスクが重なる例 |
通常のモデルでは約163万円が残ります。賃貸収入が1割下がっても約109万円ですが、そこへ200万円の追加修繕があると約91万円の持ち出しになります。
また、家賃が2割下がった年に同額の追加修繕が必要なら、手残りは約146万円のマイナスです。
「この程度の金額なら負担できる」という本人の事情は人によって異なります。物件だけでなく、給与・預金・家族の支出予定と合わせて判断しましょう。
5.見送った理由を記録する
購入しないなら、理由を一言残しておくと次に役立ちます。「家賃想定が強い」「設備更新の見積りがない」「自己資金を使い切る」「出口が読めない」など、判断の根拠を整理します。
同じ条件の物件に出会った際、どこから確認すればよいか明確になります。
6.相談先を使い分ける
管理会社には家賃・空室、不動産会社には取引相場、建築・設備の専門家には修繕、金融機関には借入条件を相談します。
税理士・公認会計士は、税務上の所得と現金収支を区別して、保有と売却を含めた判断材料を整理することができます。ひとつの専門家だけで完結しない点も重要です。
7.まとめ|買う前に「見送る条件」を決めておく
不動産投資は、目の前の物件を買うこと自体が目的ではありません。納得できる価格とリスクの範囲で、長期的な資産形成を考えることが目的です。
買う理由だけでなく、買わない理由を説明できる。 そのことが、結果的に無理のない投資判断につながります。
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監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
シリーズ記事|全5回の目次
このシリーズでは、取得費7,300万円・借入6,000万円の共通モデルを使い、投資判断を5つの視点から解説します。
第5回|不動産投資を見送るべきケースとは?購入しない判断も大切
※この数値例は収入・経費・減価償却費等を一定の条件で置いた参考モデルです。借入の元利返済と初年度利息は年2.45%・30年元利均等で別途試算しています。取得諸費用、将来の修繕、土地・建物の内訳、申告上の適用要件や実際の税金等により、結果は変わります。


