【不動産投資を見極める5つの視点|第3回】「不動産投資で節税できる」は本当?高所得者が注意したい落とし穴
「不動産投資をすれば、減価償却で給与の税金を減らせます」。所得税の仕組みとして正しい場面はあります。しかし、税金が減ることと、投資として良いことは別問題です。
ここでは、取得費7,300万円、借入6,000万円、2.45%・30年元利均等のモデルで、税引前の現金手残り約163万円と、帳簿損失約480万円がどのように生じるのかを整理します。
この記事のポイント|1分で分かる
03 今回のモデル 取得費7,300万円・借入6,000万円、金利2.45% |
CF 税引前の手残り 年間約163万円(収支が続くと仮定) |
会計 帳簿上の損失 約480万円。税務上の損益通算と別 |
目次
1.結論|現金収支と所得計算は別のもの
家賃収入から出ていくお金を差し引いた現金収支と、不動産所得の計算に使う必要経費は同じではありません。
ローンの元本返済は通常、必要経費にならず、減価償却費はその年の支払いがなくても経費として計上されます。両者を混同すると、帳簿上の赤字だけを見て「税金が戻るから大丈夫」と判断してしまうことがあります。
2.このモデルの数字を整理する
取得費 7,300万円 借入6,000万円、単純差額の自己資金約1,300万円。諸費用等は別途確認 |
借入条件 年2.45%・30年・元利均等 月返済約23.6万円 |
賃料+更新料 約547万円/年 賃料約536万円、更新料等約12万円 |
その他収入 約1万円/年 総収入約548万円 |
運営の現金経費 約102万円/年 管理・修繕・租税公課・水道光熱・広告等 |
元利返済 約283万円/年 初年度利息約145万円+元本約137万円 |
税引前の手残り 約163万円/年 その他の設備更新・所得税・購入諸費用等は別 |
収入は賃料と更新料等の約547万円に、その他収入約1万円を加えて約548万円です。管理費・修繕費・租税公課・その他の年間現金経費を約102万円とします。
借入6,000万円、2.45%、30年元利均等返済の初年度は、年間返済約283万円のうち利息約145万円、元本約137万円です。
年間の収支例として減価償却費約762万円、長期前払費用の償却約19万円をモデルに入れます。取得費の土地・建物内訳や耐用年数等が不明なため、償却費の税務上の妥当性をここで確認したわけではありません。
3.手残りが約163万円なのに、帳簿では約480万円の赤字
年間収入 約548万円 賃料・更新料等約547万円+雑収入約1万円 |
運営の現金経費 約102万円 管理・修繕・租税公課等 |
利息 約145万円 6,000万円・2.45%・30年の初年度モデル |
減価償却費 約762万円 計算例として仮定した金額。実際には取得価額や耐用年数等を確認 |
長期前払費用償却 約19万円 過去の支出の費用化をモデル化 |
帳簿上の損失 約▲480万円 税務上の損益通算可能額とは別 |
現金の動きでは、収入548万円-現金経費102万円-返済283万円で、税引前の手残りは約163万円となります。
一方、損益では、収入548万円-現金経費102万円-利息145万円-減価償却費762万円-長期前払費用償却19万円で、帳簿上の損失は約480万円という計算です。
つまり、「現金が約163万円残ること」と「帳簿上約480万円の赤字になること」は両立します。ただし、修繕積立の確保や実際の税金、取得諸費用、長期前払費用を支払った時期などで、手元の現金は変わります。
4.利息の前提が変われば損失額も変わる
例えば支払利息を約161万円と仮定すれば、帳簿上の損失は約496万円です。しかし、6,000万円を2.45%・30年元利均等で借りた初年度の利息は約145万円です。
本記事では借入条件を優先し、約145万円で統一しています。 差額約16万円の原因は、借入実行日や経過期間、別の負債等を確認しないと分かりません。どちらか一方の記載が誤りだと断定するものではありません。
5.約480万円の赤字は、480万円の節税ではない
所得税は、税務上認められる所得や控除の金額を使って計算します。不動産所得の赤字があっても、土地等を取得するための借入利息に相当する部分など、他の所得との損益通算が制限される金額があります。
そのため、「帳簿の赤字480万円×給与の限界税率=必ず戻る税金」ではありません。 建物・土地の取得価額、借入金の使途、他の所得や所得控除、住民税への影響などを確認して初めて具体的な税額を計算できます。
6.償却が減った後と、売却時も検討する
減価償却費が大きい期間が終わると、同じ家賃でも不動産所得は増える可能性があります。元金返済は変わらず現金が出ていくので、税負担が増える一方、現金の余裕が減ることもあります。
また、建物の譲渡所得計算では、取得費から減価償却費相当額を差し引きます。個人の土地建物の売却では、譲渡年の1月1日における所有期間が5年を超えるかどうかで長期・短期の区分が異なります。
保有中の税額だけでなく、売却価格、借入残高、譲渡費用と譲渡税まで含めて比較する必要があります。
7.借入元本の減少は資産形成の一部
この借入条件では初年度に約137万円の元本が減ります。現金の手残りとは別に、借入残高が減ることも資産形成の一面です。
ただし、建物の価値が同じだけ維持されるわけではありません。利回りや節税額だけでなく、将来の資産価値も考慮すべきでしょう。
8.高所得者が購入前に比較したい3つの数字
01 所得税等への実際の影響 損益通算が可能な額と本人の課税関係を確認 |
02 保有中の税引後手残り 現金収支・修繕資金・元金返済を検討 |
03 売却後の最終手残り 取得費調整・譲渡費用・残債・譲渡税を考慮 |
不動産所得の損失と税務上の損益通算可能額、保有中の税引後キャッシュフロー、売却後の税引後手残り。これらは別々に試算して初めて投資の全体像が見えます。
9.まとめ|税金が減ることをゴールにしない
減価償却による税務メリットがある場合も、投資の採算は別に判断する必要があります。
帳簿上赤字でも現金が残る。その逆に、税金が戻っても資産価値が下がれば投資成果が悪化し得る。 この両面を理解することが大切です。
ご相談・関連サービス

監修者
月方 智彦
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士として税務・会計の実務に携わり、事業経営や不動産保有の当事者としての経験も持つ。企業経営者や不動産オーナーの税務・財務・相続を横断して考え、必要に応じて各分野の専門家と連携した支援を重視している。
専門分野:法人・不動産税務/相続・贈与/財務・資金繰り/事業承継
シリーズ記事|全5回の目次
このシリーズでは、取得費7,300万円・借入6,000万円の共通モデルを使い、投資判断を5つの視点から解説します。
第3回|「不動産投資で節税できる」は本当?高所得者が注意したい落とし穴
※この数値例は収入・経費・減価償却費等を一定の条件で置いた参考モデルです。借入の元利返済と初年度利息は年2.45%・30年元利均等で別途試算しています。取得諸費用、将来の修繕、土地・建物の内訳、申告上の適用要件や実際の税金等により、結果は変わります。


