不動産投資で「経費にできるもの/できないもの」完全ガイド
- infoapollo
- 9月8日
- 読了時間: 12分
更新日:9月14日
はじめに
不動産投資における「経費」は、収益(賃料)を得るために直接必要な支出かどうかで判断します。数字だけを整えても、私的要素の混入や根拠資料の欠落があれば税務調査で否認、追徴・加算税の対象となってしまいます。本稿では、まず経費にできるものと否認されやすいものの全体像をつかみ、節税効果が高い費用の見極め方や注意点、証拠・記録の残し方、さらに調査で狙われるポイントまで、実務の視点で整理します。
1.不動産投資の経費にできるもの
原則:①業務との直接性、②金額の相当性、③証拠(書類+実態)がそろえば強い。
減価償却費(建物・建物附属設備)
建物比率が高い不動産を購入することで減価償却費を相対的に多く計上することができます。また、建物本体と建物附属設備(電気・給排水・衛生・空調・EV 等)を区分することで早期に費用化が可能です(附属設備は建物に比べ耐用年数が短いため)。
さらに、中古資産の場合は「中古資産の耐用年数計算」に基づいて償却年数を算出し早期に費用化することができます。
修繕費(原状回復・機能維持)
雨漏り修理、原状回復、同等品交換など価値向上や寿命延長を伴わない工事は金額が大きくても即時費用(損金)に計上できます。高規格化・増築は資本的支出(資産計上→減価償却)となりますので、見積・仕様書・写真などで「修繕」根拠を明確にしておきましょう。
管理委託料・清掃・点検・保守
管理会社への委託料、法定点検、清掃費用は経費計上可能です。契約書・報告書・請求書・振込明細などで実態を残しておきましょう。
固定資産税・都市計画税等(賃貸用部分)
収益用不動産の固定資産税・都市計画税は経費計上可能です。自宅兼用している場合は合理的な按分(面積・使用実態)が必要となり、貸し出している部分のみ経費計上となります。
その他、登録免許税、不動産取得税、印紙税、利子税、法人事業税、自動車税・重量税(不動産投資に直接紐づく部分のみ)は経費計上可能です。
火災・地震保険料
期間対応(年払いなら月割り)で費用計上します。特約・地震保険料の有無を明細で把握しておきましょう。
借入金利息
物件取得・改修等に係るものの借入金利息は経費計上可能(※)です。元本返済は経費にならない点に注意しましょう。返済金額のうち、元金部分と金利部分の金額を知りたいときには、ローン会社の返済表で確認できます。
※土地借入金利息の損益通算制限(不動産所得の場合)
不動産所得が赤字になった場合、土地の取得に対応する借入金利息相当額は損益通算の対象外(いわゆる「土地等に係る負債の利子の損益通算の特例」)です。建物・設備に対応する利息は損益通算可能ですが、土地分の利息は赤字から控除し、給与・事業など他の所得との損益通算には使えません。具体的な計算例を次に示します。
前提:不動産の取得価額の内訳は土地1,200万円・建物800万円、借入金は1,000万円、年間利息120万円
土地の取得に要した借入金の額
=借入金額-建物の取得価額
=1,000万円-800万円=200万円
(注)まず、建物の取得の対価にあてられ、残額が土地の取得の対価にあてられたものとして計算します。
土地の取得に要した借入金の利子の額
=利息×土地の取得に要した借入金の割合
=120万円×(200万円÷1,000万円)=24万円
ケース①:不動産所得が▲100万円の場合
損益通算できる赤字=100万円-24万円=76万円
ケース②:不動産所得が▲10万円の場合
損益通算できる赤字=10万円-10万円(※)=ゼロ
※赤字額が限度(10万円<24万円 ⇒ 10万円)

なお、本ルールは所得税の損益通算制限に関する取扱いです。法人は「損益通算」という概念がなく、別途法人税計算となります。
旅費交通費
物件調査・内見・賃借人対応・金融機関交渉等で発生した電車代・タクシー代等は経費に計上できます。行程メモ(日時/目的/訪問先/成果)を残せば証拠としては万全でしょう。
広告宣伝費
ポータルサイトの掲載、写真撮影、ホームステージング、募集看板、賃貸仲介会社へ広告料など入居募集のための活動費は経費に計上できます。出稿履歴・掲載画面を保存しておくと安心です。
専門家報酬
税理士(確定申告/税務相談料)・弁護士(入居者との訴訟弁護費用等)・司法書士(登記手続き報酬)・測量士(測量費用)などは経費計上できます。業務内容と案件の結びつきを明確にしておきましょう。
水道光熱費・通信費(共用/賃貸用途)
収益用不動産の共用部や事務所などの管理拠点の費用は経費に計上できます。自宅兼用は業務使用割合(通話明細・回線用途)で按分しましょう。
消耗品費・備品
取得価額が10万円未満のものは経費計上できます。
また、青色申告の中小企業・個人事業主(従業員数等の制限もあり)は、少額減価償却資産の特例により1点30万円未満の資産を年間合計300万円まで即時費用化できます。ただ、会計処理が即時費用でも、事業の用に供する償却資産として1月1日現在の保有状況を自治体へ申告するのが原則です。多くの自治体で課税標準額の合計が150万円未満なら非課税ですが、申告自体は原則必要(自治体により取扱い差があるため要確認)です。そのため、ご自身で管理コストとベネフィットを比較した上で選択することをおススメします。
(補足)10万円以上20万円未満は「一括償却資産」として3年均等で処理する方法もあります(特例との選択・併用可否は要件確認が必要です)
IT・サブスク
業務で使用する電子契約、クラウド管理、PBX、会計・証憑管理、賃貸管理SaaS料は経費に計上できます。業務効率化の成果メモを残すと説得力が増すでしょう。
情報収集・勉強のための費用
不動産投資セミナー、専門誌、有料レポート、データベース利用料、コンサルティング代は経費に計上できます。テーマが賃貸業の収益・管理に直結していること、学習内容→実務反映(物件改善・稼働率向上等)のメモで関連性補強しておくとよいでしょう。
自動車関連費用
業務のために使用したガソリン、駐車場、保険、車検、メンテ、リースは経費に計上できます。運行記録(日時/目的/出発・到着地/走行距離)で業務使用割合を立証すれば完璧です。高級車・大型車はNGではないものの私的享受が疑われやすく、証拠の精度が必須になります。
交際費
不動産売買業者・賃貸仲介業者・工務店・金融機関・管理会社等と具体的案件の打合せ・調整が目的なら経費計上ができます。相手先・目的・議題・得られた成果を短文で残すこと、会議費/交際費の区分も内部ルール化しておくと安全でしょう。
2.経費にできない/否認されやすいもの
共通項:私的性格が強い、業務との直接性が薄い、支出の実在や部分認定ができない。
私的性格が強い交際費
1人での食事、家族との食事、娯楽色が強い飲食・ゴルフ等は基本的に損金不算入です。特に相手・目的不明瞭、領収書のみは否認リスクが高いです。
スーツ、バック、腕時計
一般衣料は損金不算入です。一方、制服・作業服(会社ロゴ入り・用途限定・私用困難なもの)であれば経費計上できる可能性はあります。
反則金や罰金
交通反則金、罰金・過料、延滞金の一部は損金不算入です。抑止目的のため損金不算入が原則です。
所得税や住民税など損金にできない税金
所得税・住民税・事業主の国民健康保険料・延滞税/加算税等は損金不算入です。なお、先述したとおり固定資産税(賃貸用)等は損金算入可能です。
自宅関連費の安易な家事按分
面積・使用頻度・写真・作業実績が無ければ否認リスクは高いです。
家族への給与・外注費(証拠書類が乏しいもの)
就労実態・指揮命令・対価性・契約・支払経路が不十分であれば損金不算入です。最低限、雇用契約/勤怠/業務日報などが必要です。
スポーツジム等の会費
健康増進は損金不算入です。業務上の必要性の客観立証(たとえば物件付帯施設の運営指導などの特殊事情)がない限り損金算入は難しいでしょう。
ただ、法人名義の契約で家族以外の従業員がおり、その全員が利用できる場合には福利厚生費として経費に計上できる可能性があります。
資格取得費用
不動産投資に関連する資格で例えば「宅地建物取引士」の資格がありますが、その取得費用は家事費と判断され損金計上は不可です(平27. 4.14 東裁(所)平26-95)。
3.節税に効果的な費用と、効果的でない費用
非現金費用(キャッシュアウトが伴わない費用)を最大化し、それ以外の費用は最小限に抑える。
非現金費用の代表例は「減価償却費」です。
不動産投資では土地は償却できず、建物・建物附属設備のみが減価償却の対象です。そのため、売買契約書で土地価格と建物価格を明示しておくことが重要です。減価償却を大きく取りたい場合には、
「中古 × 建物比率が高い物件(合理的な配分結果が前提)× 建物と設備の区分」
を意識して物件を選定することが重要となります。
しかし、減価償却で費用計上を進めると、帳簿価額(取得費)が小さくなるため、売却時の譲渡益(=売却価額-〔取得費(減価償却後)+譲渡費用〕)が大きくなりやすい点に注意が必要です。特に、不動産を個人所有している方の売却時の所得は「譲渡所得(分離課税)」となり、他の所得と損益通算できません(注:法人の場合このような論点はありません)。
短期譲渡(所有期間※が5年以下。)
目安税率:約39.63%(所得税30%×復興特別所得税1.021=30.63%+住民税9%)
長期譲渡(所有期間※が5年超。実務上は取得から6年目以降に売却)
目安税率:約20.315%(所得税15%×1.021=15.315%+住民税5%)
※短期、長期判定は売った年の1月1日現在の所有期間で判定。
土地は減価償却しませんが、建物・附属設備の償却により帳簿価格が下がるため、売却時物件全体の譲渡益は増えます。
注意点(年収水準との関係)
現在の税率が相対的に低い方(たとえば年収1,200万円未満)は、当期の税負担軽減インパクトが小さく、一方で将来の譲渡課税(とくに短期での売却になる場合)は重いため、「償却を最大化=常に有利」とは限りません。逆に、長期保有を前提に長期譲渡(約20.315%)が見込め、かつ当面の税率が高い方(たとえば年収2,000万円超)は、償却の前倒しメリット(資金繰り+節税のタイミング効果)が大きくなります。
意思決定のポイント
当期の節税効果=今の適用税率 × 減価償却額
将来の増税効果(売却時)=譲渡税率(上記) × 同額の減価償却相当分
時間価値(節税の前倒し効果)や保有期間中のキャッシュフロー改善も加味
→上記1~3を鑑みて総合的に判断してください。個人ではなく法人で購入した方が良いケースも考えられるので自身でシミュレーションが難しい場合は、信頼できる不動産会社や不動産に強い税理士へ相談しましょう。
一方、非現金以外の費用は原則最小限に抑えることがセオリーです。
ただし「安ければ良い」は禁物です。相場とかけ離れた“激安”は品質やリスク面で割高になることが往々にしてあります。たとえば、原状回復工事を極端な低価格で発注した結果、仕上がりが悪く空室長期化・賃料下落を招いたり、格安報酬の専門家に依頼して申告ミスや不適切な助言により追徴や機会損失が生じた事例もあります。
私的・娯楽色の強い交際費や、誰かが言っていた・誰かに言われたがご自身で説明が難しいスキーム/取引に伴う費用は最小限に抑えつつ、信頼できる管理会社・施工会社・専門家等への対価は、品質確保・リスク低減・収益改善につながる投資的な必要経費と位置づけて運用するのが賢明です。
4.証拠・記録の残し方
目標は「誰が見ても同じ結論に辿り着ける証憑」。これが整っていれば、税務調査でも説明時間が短く、是認されやすい運用になります。
基本セット:請求書/見積書/契約書/発注書/検収書/領収書/銀行振込控
(→金額・内容・支払日付・相手先が確認できるものを揃える)
証憑は原則7年間保管。繰越欠損や長期契約が絡む場合は最長10年程度の保管を推奨。
交際費メモ:相手(法人・氏名)・目的/議題・案件名・場所・金額・結果
運行記録(車両):日付・目的・訪問先・出発/到着・距離・同乗者・成果
現地対応メモ:日時・対応内容・課題・次アクション
修繕の写真:ビフォー/途中/アフター+箇所図、仕様書・見積の該当箇所をメモで紐付け
会計・証憑管理では証憑と仕訳/案件のひも付けを徹底
5.税務調査で“必ず”見られるチェックポイント
「①整合性(数字・証憑のつながり)」「②合理性(業務との因果)」「③再現性(毎期同じルールで運用)」の3軸で見られます。
下記は特に質問が集中しやすい論点です。
赤字申告の整合性:減価償却(土地と建物の比率)・土地部分の利息など。
委託料・外注費用:契約、業務範囲、成果物、相場観。
修繕費と資本的支出:見積内訳、仕様、写真、原状回復の論拠。
家事按分の根拠:面積図・レイアウト・使用頻度記録・写真。
交際費の実態:相手・目的・議題・成果、社内規程との整合。
車両の業務使用割合:運行記録×ガソリン×ETC の突合。
証憑の網羅性:請求→支払→記帳→証憑の鎖が切れていないか。
6.まとめ:経費は「業務との直接性」と「証拠」で守る
基本の3つの視点
業務とのつながりがはっきり説明できるか
金額の妥当性(相場・成果とのバランス)が取れているか
書類と実態の記録がそろっているか
運用のちいさなコツ
当期に計上する費用と、減価償却のように時間をかけて費用化するもののバランスを意識しましょう。
私的利用と混ざりやすい費用(車・交際費・自宅関連など)は、簡単なメモや社内ルールで「使い方」と「根拠」を残しておくと安心です。
請求 → 支払 → 記帳 → 写真・報告書と、書類の流れをひとつながりにしておくと、後からの説明がスムーズです。
ここからの3ステップ
この1年の支出を科目ごとに軽く棚卸ししてみる
判断に迷うものは、ひと言メモや写真を足す/処理方法を整える
今年は修繕計画・ITツールの活用・証憑の保管ルールを最初に決めておく
無理のない仕組みにしておくと、日々の管理もラクになり、いざというときの説明にも自信が持てます。
7.最後に
最後までお読みいただきありがとうございます。
投資の目的は、限られた資源(お金や時間)の中で手元キャッシュを最大化することにあります。ここまで読んで「正直、手間が多そうだな」と感じた方もいるはずです。だからこそ、無理に経費を広げて説明・証拠の負担を増やすよりも、減価償却などの非現金費用を適切に活用し、信頼できる業者や専門家の力を積極的に借りる方が、結果として大きな節税=キャッシュ最大化につながり、次の投資の原資を生みます。迷う支出に出会ったら、まずは投資の目的に立ち返ること。私的利用の余地があるなら、思い切って計上を見送るという判断も、長期的には賢明な選択です。
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