会社員が一棟アパートを購入した年の確定申告|青色申告・経費・減価償却の注意点
会社員が初めて一棟アパートを購入した場合、確定申告で注意したいのは家賃収入や経費の集計だけではありません。
購入した年は、翌年以降とは異なる税務上の判断が必要になる年です。
特に、青色申告の申請期限、購入諸費用の処理、土地と建物の価格区分、減価償却を始める時期は、最初に確認しておきたいポイントです。
本記事では、個人名義で国内の一棟アパートを初めて購入した会社員を対象に、2026年分の所得税申告を例として、購入初年度に確認すべき事項を解説します。
目次
1.アパートを購入した年は、何から確認すべきか
最初に確認したいのは、次の3点です。
いつから不動産の貸付けを始めたか
青色申告の申請期限に間に合うか
購入時の支出をどのように処理するか
購入初年度は、管理会社から受け取った年間収支報告書をそのまま申告書に転記するだけでは、正確な所得計算ができない場合があります。
売買決済時には、売買代金以外にも仲介手数料、登記費用、固定資産税等の精算金、融資関連費用などが発生するためです。
また、購入代金を支払った日と、減価償却を開始する日が必ずしも一致するわけではありません。
これらの判断は、購入初年度の所得税だけでなく、翌年以降の減価償却費や将来の売却時の税金にも影響します。
2.青色申告と開業届は、提出期限が違う
購入初年度に最も早く確認したいのが、青色申告承認申請書の提出期限です。
青色申告承認申請書
新たに不動産の貸付けを開始し、その年から青色申告を適用したい場合、原則として次の期限までに申請が必要です。
1月15日以前に開始:原則としてその年の3月15日まで
1月16日以後に開始:開始日から2か月以内
※提出期限が土日・祝日等に当たる場合は、原則として翌開庁日が期限です。
例えば、2026年10月1日に初めて不動産賃貸業を開始したとすると、青色申告承認申請書の提出期限は原則として2026年12月1日です。
なお、物件の引渡日がそのまま開業日になるとは限りません。賃貸借契約の引継ぎ、入居募集、物件の利用状況などを踏まえ、実際の貸付開始日を確認する必要があります。
開業届
2026年1月1日以後に新たに事業を開始した場合、個人事業の開業・廃業等届出書の提出期限は、原則として事業を開始した年分の所得税の確定申告期限までです。
事業的規模の不動産貸付けを2026年に開始したケースでは、原則として2027年3月15日が期限となります。
以前の「開業から1か月以内」という期限と混同しないよう注意してください。
開業届の期限に余裕があっても、青色申告承認申請書の期限を逃してよいわけではありません。
※既に別の不動産貸付けや事業を行っている場合などは、新規開業とは取扱いが異なることがあります。

3.一棟アパートなら青色申告特別控除65万円を受けられる?
一棟アパートを所有しているだけで、65万円の青色申告特別控除を受けられるわけではありません。
重要なのは、不動産貸付けが事業的規模に該当するかどうかです。
一般に、アパートなどの貸室については、独立した貸室がおおむね10室以上であれば、原則として事業的規模として取り扱われます。独立家屋の場合はおおむね5棟以上が目安です。
物件の例 | 2026年分の青色申告特別控除 |
一棟8室のアパート | 原則として最高10万円 |
一棟12室のアパート | 要件を満たせば最高55万円または65万円 |
※部屋数は形式的な目安であり、実際の貸付規模も踏まえて判断します。上表は不動産所得のみを前提とした一般的な例です。
2026年分について最高65万円の控除を受けるには、事業的規模であることに加え、複式簿記による記帳や貸借対照表等の作成、期限内申告、e-Taxによる電子申告または所定の優良な電子帳簿保存などの要件を満たす必要があります。
また、赤字の不動産所得から65万円をさらに差し引けるわけではありません。控除額は、原則として控除前の黒字の所得金額が限度です。
青色申告を希望する場合は、購入後すぐに物件規模・記帳方法・申請状況を確認しましょう。
4.購入時の諸費用は、すべて経費になるわけではない
初年度の申告で間違えやすいのが、売買決済時に支払った諸費用の処理です。
支出・取引 | 基本的な取扱い |
土地・建物の売買代金 | それぞれの取得価額 |
購入時の仲介手数料 | 原則として土地・建物の取得価額に算入 |
売主へ支払う固定資産税等の精算金 | 原則として取得価額に算入 |
登録免許税・不動産取得税 | 賃貸業務に係るものは原則として必要経費 |
借入金の元本返済 | 必要経費にならない |
賃貸業務に係る借入金利息 | 原則として必要経費 |
売主から引き継ぐ敷金 | 原則として預り敷金等の引継ぎとして整理 |
融資事務手数料・保証料・司法書士報酬・保険料などは、支出の内容や対象期間によって処理が異なるため、個別の確認が必要です。
また、不動産取得税などの必要経費への計上時期は、単純に購入年で決まるわけではありません。原則として、賦課決定などにより納付すべき金額が具体的に確定した年分で判断します。
特に注意したい固定資産税の精算金
例えば、売買決済の際、売主に固定資産税・都市計画税の精算金として20万円を支払ったとします。
精算書に「固定資産税」と書かれていても、買主がその年の固定資産税を納税したことと同じではありません。
この精算金は原則として売買代金の一部として扱われ、土地・建物の取得価額に配分することになります。
土地・建物の内訳が分からない場合の合理的な区分方法は、別記事「売買契約書に土地・建物の内訳がない場合はどう按分する?」で解説しています。
支払明細の名称だけで経費かどうかを判断しないことが重要です。
なお、経費全般の詳しい取扱いは、別記事「不動産投資の経費一覧」で解説しています。
5.減価償却費は購入月から12か月分を計上できる?
建物の減価償却は、購入代金を支払っただけでは開始できません。
原則として、建物を賃貸事業の用に供した時期を確認し、その年の使用月数に応じて計算します。
具体例:2026年10月から賃貸を開始した新築木造アパート
次の物件の場合で考えてみます。
項目 | 前提 |
購入価格 | 9,000万円 |
うち建物取得価額 | 3,500万円 |
建物の構造 | 新築木造 |
法定耐用年数 | 22年 |
定額法の償却率 | 0.046 |
賃貸事業への使用開始 | 2026年10月1日 |
※土地・建物の価格区分が合理的であり、建物附属設備等は別途区分していない簡略例です。建物取得価額には必要な取得関連費用を含めたものと仮定します。
この場合、2026年分の建物減価償却費は次のとおりです。
3,500万円 × 0.046 × 3か月 ÷ 12か月 = 40万2,500円
年間の減価償却費は161万円ですが、2026年分は3か月分の計算になります。

実務上は、建物の引渡日や最初の入居日だけで判断するのではなく、賃貸できる状態にあったか、入居募集を開始していたかなど、実際の利用状況を確認する必要があります。
中古物件では、構造・築年数・改修状況等によって耐用年数が異なります。
詳細は「不動産投資の減価償却とは?」をご覧ください。
6.会社員が特に注意したい、給与所得との損益通算
会社員が不動産を購入した場合、所得税の確定申告が必要かどうかは、家賃収入の額だけでは決まりません。
一般に、給与を1か所から受け、その給与が源泉徴収の対象となっている人であっても、給与・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超える場合には、原則として確定申告が必要です。
ここでいう20万円は、家賃収入ではなく、必要経費を差し引いた後の所得金額です。
また、20万円以下ならどんな場合も申告不要という意味ではありません。給与収入が2,000万円を超える場合、他の理由で確定申告をする場合、住民税の申告が必要な場合などには注意が必要です。
不動産所得が赤字になった場合
不動産所得が赤字になった場合には、一定の範囲で給与所得と損益通算でき、所得税の還付につながることがあります。
ただし、赤字の全額が必ず給与所得から差し引けるわけではありません。
特に、土地の取得に対応する借入金利息に相当する部分の赤字は、損益通算の対象になりません。
購入初年度は、購入諸費用や減価償却費により赤字となるケースもあるため、借入金の使途や土地・建物の取得価額を確認し、損益通算できる金額を計算する必要があります。
詳しくは「不動産所得が赤字でも節税できない?土地負債利子と損益通算の注意点」で解説しています。
7.購入初年度の申告で準備したい資料と進め方
購入した年の申告では、最低限、次の5種類を確認したいところです。
購入関係:売買契約書、重要事項説明書、決済精算書、諸費用の領収書
賃貸関係:賃貸借契約書、管理会社の収支報告書、家賃入金明細
借入関係:金銭消費貸借契約書、返済予定表、利息・融資諸費用の明細
建物関係:建物の構造・築年数・設備・賃貸開始時期が分かる資料
申告関係:給与の源泉徴収票、青色申告の申請状況、その他の所得・控除資料
必要資料の詳しい一覧は「不動産所得の確定申告で必要な資料一覧」にまとめています。
特に重要なのは、資料を集める順序です。
購入直後に確認すること
青色申告の申請期限、貸付開始日、建物の構造と土地・建物の価格内訳を確認します。
年末までに整理すること
売買決済時の諸費用、管理会社の収支、借入返済、敷金の引継ぎ、減価償却の内容を整理します。
なお、家賃収入は入金額だけで判断せず、賃貸借契約で定められた支払日などを踏まえて、収入に計上する時期も確認します。
確定申告時に確認すること
不動産所得を計算し、給与所得との損益通算、所得税の納付・還付、青色申告特別控除の適用可否を確認します。
2026年分の所得税の確定申告期限は、原則として2027年3月15日(月)です。
まとめ|購入初年度は、確定申告の前に確認すべきことがある
一棟アパートを購入した初年度は、家賃収入と領収書を集計するだけでは不十分です。
青色申告の申請期限、土地・建物の取得価額、購入諸費用の処理、減価償却の開始時期など、最初の年に行う判断が、その後の税務処理にも影響します。
まずは、購入後できるだけ早く青色申告の期限・購入諸費用・賃貸開始日の3点を確認しましょう。
一棟アパートを購入した方へ
アポロ税理士法人では、不動産を購入した初年度の確定申告について、購入資料・借入条件・賃貸状況を確認し、所得税申告に必要な税務処理を整理しています。
購入初年度の申告をご検討中の方は、物件の概要、購入時期、戸数、ご相談内容をお知らせください。ご依頼の範囲や報酬をご案内します。
主な参考情報

監修者
志田 宏樹
公認会計士・税理士・宅地建物取引士
監査法人で上場企業等の監査業務に従事した後、投資用不動産会社で財務責任者として勤務。金融機関対応、資金調達、会計実務、税務調査対応等を経験。現在はアポロ税理士法人の代表社員として、不動産オーナーや企業経営者に対し、税務・財務・融資・不動産に関する支援を行っている。
専門分野:不動産税務/不動産法人化/融資・資金調達/財務/相続・資産承継
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