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不動産所得が赤字でも節税できない?土地負債利子と損益通算の注意点

  • 7月14日
  • 読了時間: 12分
オフィスでのビジネス相談

「減価償却などによって不動産所得を赤字にすれば、給与所得と相殺でき節税できる」

このような説明を聞き、不動産投資を検討する方は少なくありません。

確かに、不動産所得に赤字が生じた場合は、一定の範囲で給与所得や事業所得などと損益通算できます。

損益通算とは、ある所得で生じた赤字を、ほかの所得の黒字から差し引く仕組みです。

しかし、不動産所得が赤字であっても、その全額を損益通算できるとは限りません。

特に注意したいのが、土地を取得するための借入金利子、いわゆる「土地負債利子」です。

土地比率の高い収益不動産では、減価償却費によって不動産所得が赤字になっていても、損益通算できる金額が大幅に減ることがあります。

場合によっては、給与所得などと損益通算できる金額がゼロになります。



1.不動産所得の赤字は全額を損益通算できるとは限らない

不動産所得は、原則として次のように計算します。


不動産所得 = 家賃収入などの総収入金額 - 必要経費


主な必要経費には、次のものがあります。

・管理費

・修繕費

・固定資産税

・損害保険料

・借入金利子

・減価償却費

・税理士報酬

これらを差し引いた結果、不動産所得が赤字になることがあります。

そして、不動産所得の赤字は、原則として給与所得や事業所得などとの損益通算が可能です。


ただし、不動産所得の赤字のうち、土地を取得するために要した負債の利子に相当する部分については他の所得から控除できないのです。

損益通算の対象外となる金額は、次のいずれか少ない金額です。

・不動産所得の赤字額

・土地負債利子の額

したがって、損益通算できる金額は、次のように計算します。


損益通算できる金額=不動産所得の赤字額-損益通算の対象外となる土地負債利子相当額

(注)「不動産所得の赤字<土地負債利子」の場合は損益通算対象額はゼロ


つまり、不動産所得全体では赤字であっても、その赤字の中に土地負債利子が含まれている場合は、損益通算できる金額を別途計算しなければなりません。



2.土地負債利子とは何か

1.土地取得に対応する借入金利子のこと

土地負債利子とは、不動産購入のために支払った借入金利子のうち、土地の取得に対応する部分をいいます。

土地と建物を借入金で一括取得した場合、借入金利子の全額が土地負債利子になるわけではありません。

まず、借入金のうち、土地取得に対応する金額を算定します。

そのうえで、土地対応借入金が借入金全体に占める割合に応じて、土地負債利子を計算します。


2.必要経費にはなるが、損益通算は制限される

土地負債利子は、不動産所得の計算上、必要経費にならないわけではありません。

不動産所得を計算する際は、建物取得に対応する借入金利子と同様に、必要経費へ算入します。

ただし、その結果として不動産所得が赤字になった場合、赤字のうち土地負債利子に相当する部分は、給与所得などとの損益通算から除外されます。

計算の流れは、次のとおりです。

  1. 土地負債利子を含めて不動産所得を計算する

  2. 不動産所得が赤字になっているかを確認する

  3. 赤字のうち土地負債利子に相当する部分を除外する

  4. 残った赤字を給与所得などと損益通算する

つまり、土地負債利子は、必要経費には含まれるものの、赤字が生じた場合の損益通算には制限があるということです。

「必要経費として認められるか」と「ほかの所得と損益通算できるか」は、別の問題です。

この違いを混同しないことが重要です。



3.土地負債利子の計算方法

土地負債利子は、次の2段階で計算します。


1.土地取得に対応する借入金の算定

土地と建物を借入金と自己資金で一括取得した場合、借入金はまず建物の取得対価に充てられ、残額が土地の取得対価に充てられたものとして計算します。


土地取得に対応する借入金 = 借入金総額 - 建物の取得価額

土地取得に対応する借入金

計算結果がゼロ以下となる場合は、土地取得に対応する借入金はないものとして計算します。

つまり、借入金総額が建物の取得価額以下であれば、土地負債利子は生じません。

なお、この計算は、借入金が土地と建物の取得に対応していることを前提としています。

購入諸費用への充当、借換え、追加借入れなどがある場合は、資金使途を含めた個別の確認が必要です。


2.土地負債利子の算定

次に、借入金全体に占める土地対応借入金の割合を、その年の借入金利子に乗じます。

基本的な計算式は、次のとおりです。


土地負債利子 = その年の借入金利子 ×(土地取得に対応する借入金÷借入金総額)

土地負債利子の計算方法

ここで使用する「その年の借入金利子」は、取得時の借入金額に当初金利を単純に掛けた金額ではありません。

原則として、金融機関の返済予定表などをもとに、その年に実際に発生し、不動産所得の必要経費へ算入される利子を確認します。



4.具体的な計算例|2物件を所有している場合

ここでは、A物件とB物件の2棟を所有しているケースで、土地負債利子と損益通算可能額を計算します。

なお、今回の計算例では、次の条件を前提とします。

・各借入金は、それぞれの物件の土地と建物の取得に使われている

・購入諸費用への借入金充当はない

・借換え、追加借入れ、繰上返済はない

・表示した年間借入金利子は、その年の必要経費に算入される金額である

物件購入時と年間収支の前提条件

項目

A物件

B物件

合計

土地の取得価額

7,000万円

7,000万円

1億4,000万円

建物の取得価額

3,000万円

6,000万円

9,000万円

購入価額合計

1億円

1億3,000万円

2億3,000万円

借入金

8,000万円

1億円

1億8,000万円

自己資金

2,000万円

3,000万円

5,000万円

年間借入金利子

160万円

200万円

360万円

家賃収入

1,000万円

1,300万円

2,300万円

管理費・固定資産税など

300万円

390万円

690万円

減価償却費

750万円

600万円

1,350万円

不動産所得

▲210万円

110万円

▲100万円

A物件では、210万円の赤字が生じています。

一方、B物件は110万円の黒字です。

複数の賃貸物件を所有している場合は、原則として各物件の収入と必要経費を合算し、その年分の不動産所得を計算します。

このケースでは、A物件の赤字とB物件の黒字を合算すると、不動産所得全体で100万円の赤字となります。

A物件の赤字210万円-B物件の黒字110万円=不動産所得全体の赤字100万円


1.A物件の土地負債利子を計算する

まず、A物件の土地取得に対応する借入金を計算します。

借入金8,000万円-建物取得価額3,000万円=土地取得に対応する借入金5,000万円


次に、年間借入金利子160万円のうち、土地取得に対応する部分を計算します。

160万円×5,000万円÷8,000万円=土地負債利子100万円

したがって、A物件の土地負債利子は100万円です。


2.B物件の土地負債利子を計算する

続いて、B物件の土地取得に対応する借入金を計算します。

借入金1億円-建物取得価額6,000万円=土地取得に対応する借入金4,000万円


年間借入金利子200万円のうち、土地取得に対応する部分は次のとおりです。

200万円×4,000万円÷1億円=土地負債利子80万円

したがって、B物件の土地負債利子は80万円です。


B物件単体では110万円の黒字ですが、B物件の借入金利子も、不動産所得全体を計算する際の必要経費に含まれています。

そのため、複数物件を所有しているケースでは、土地負債利子を各物件・各借入金ごとに計算したうえで、その合計額を確認することが重要です。


3.2物件の土地負債利子を合計する

各物件の土地負債利子を合計します。

物件

土地負債利子

A物件

100万円

B物件

80万円

合計

180万円

このケースにおける土地負債利子の合計額は180万円です。


4.不動産所得の赤字額と土地負債利子を比較する

不動産所得全体の赤字額は100万円です。

一方、2物件の土地負債利子の合計額は180万円です。

損益通算の対象外となる金額は、次のいずれか少ない金額となります。

・不動産所得全体の赤字額100万円

・土地負債利子の合計額180万円

このケースでは、不動産所得の赤字額100万円の方が少ないため、100万円全額が損益通算の対象外となります。

確認項目

金額

A物件の不動産所得

▲210万円

B物件の不動産所得

110万円

不動産所得全体の赤字

100万円

A物件の土地負債利子

100万円

B物件の土地負債利子

80万円

土地負債利子の合計

180万円

損益通算の対象外となる金額

100万円

給与所得等と損益通算できる金額

0円


5.このケースの結論

このケースでは、A物件単体で見ると210万円の赤字です。

しかし、B物件の黒字110万円と合算すると、不動産所得全体の赤字は100万円になります。

さらに、2物件の土地負債利子の合計額が180万円あるため、不動産所得の赤字100万円は全額が損益通算の対象外となります。

したがって、給与所得や事業所得などと損益通算できる金額は0円です。

損益通算可能額=不動産所得の赤字100万円-対象外額100万円=0円

複数の物件を所有している場合は、赤字となっている物件だけを見て判断してはいけません。

まず、すべての物件の収入と必要経費を合算し、その年分の不動産所得を計算します。

そのうえで、土地負債利子を物件ごと、借入金ごとに算定し、その合計額と不動産所得全体の赤字額を比較します。



5.建物比率を不自然に高くすることはできない

「建物価格を高くすれば、減価償却費が増え、土地負債利子も少なくなるのではないか」

このように考える方もいるかもしれません。

しかし、土地・建物比率を、税務上有利にするため合理的な根拠なく決めることはできません。

建物価格を高く設定することで、減価償却費が増えるだけでなく、土地取得に対応する借入金が小さくなり、土地負債利子も減少します。そのため、土地・建物比率は所得税や消費税の計算に大きな影響を与えます。

もっとも、税務上の効果を意識して建物価格を設定したからといって、直ちにその比率が否認されるわけではありません。重要なのは、その土地・建物比率について、客観的かつ合理的な根拠を説明できるかどうかです。

固定資産税評価額や鑑定評価額などと比べて建物価格が不自然に高く、算定資料も残されていない場合には、税務調査で土地・建物比率の根拠を求められる可能性があります。

その結果、建物の取得価額が見直され、減価償却費や消費税の仕入税額控除について修正が必要になることも考えられます。

特に注意したいのは、売買契約書に土地・建物の価格が記載されていないにもかかわらず、購入後に買主側だけで建物価格を不自然に高く設定するケースです。

土地・建物比率は、確定申告の段階で都合よく決めるのではなく、購入前に売主、不動産会社、税理士などと協議し、合理的な算定方法と根拠資料を整理しておくことが重要です。



6.収益不動産の購入前に確認したい5つのポイント

1.土地と建物の価格内訳

まず、売買契約書に土地と建物の金額が明記されているかを確認します。

土地・建物の価格区分は、減価償却費だけでなく、土地負債利子の計算にも影響します。

売買契約書に内訳が記載されていない場合は、固定資産税評価額による按分が実務上の一つの方法となります。

ただし、物件の状況や契約内容によっては、不動産鑑定評価など、別の合理的な算定方法を検討する必要があります。


2.年間の減価償却費

次に、建物本体と建物附属設備を整理し、構造、築年数、耐用年数、償却方法を踏まえて、年間の減価償却費を計算します。

中古物件では、一定の要件のもとで簡便法により算定した耐用年数を使用できるため、新築物件と比べて年間の減価償却費が大きくなることがあります。

ただし、減価償却費が大きいからといって、損益通算による節税効果も大きくなるとは限りません。

土地負債利子の影響を含めて確認する必要があります。


3.借入条件と返済計画

物件価格だけでなく、借入金額、金利、返済期間、元本返済額も確認します。

同じ購入価格の物件でも、借入割合や返済期間によって、年間の支払利息とキャッシュフローは大きく変わります。

特に確認したいのは、次の項目です。

・借入金額

・自己資金額

・適用金利

・返済期間

・返済方法

・年間の元本返済額

・年間の支払利息

借入金額が大きければ、土地取得に対応する借入金や土地負債利子も大きくなる可能性があります。

また、元本返済額が大きい場合、税務上は赤字でも、実際の手元資金が不足することがあります。


4.土地負債利子と損益通算可能額

借入条件を確認した後、借入金のうち土地取得に対応する金額を算定し、土地負債利子を計算します。

購入前のシミュレーションでは、少なくとも次の三つを分けて確認することが重要です。

・不動産所得(赤字額)

・土地負債利子

・最終的に損益通算できる金額

単に「不動産所得が赤字になる」と確認するだけでは、節税効果を過大に見積もる可能性があります。

不動産所得の赤字額より土地負債利子の方が大きければ、給与所得などと損益通算できる金額がゼロになることもあります。


5.税引前・税引後キャッシュフロー

最後に、税引前と税引後のキャッシュフローを確認します。

収益不動産の判断では、減価償却による節税効果だけでなく、借入金元本の返済額を含めて検討する必要があります。

借入金元本の返済は、不動産所得を計算する際の必要経費にはなりません。そのため、不動産所得が黒字であっても、元本返済の負担が重ければ、実際の手元資金が不足することがあります。

反対に、損益通算による節税効果が得られなくても、物件自体の収益性や借入条件が良く、元本返済後も安定して資金が残るのであれば、資産形成に寄与する物件と判断することができるでしょう。

収益不動産は、税務上の利益や節税額だけで判断するのではありません。

税金と借入金返済後に、実際にいくら手元へ残るのかまで確認することが重要です。



7.まとめ

不動産所得が赤字になっても、その全額を給与所得などと損益通算できるとは限りません。

土地を取得するために要した負債の利子に相当する部分は、一定の範囲で損益通算の対象外となります。


特に、土地比率の高い収益不動産では、次の点に注意が必要です。

・建物価格が小さく、減価償却費が少なくなりやすい

・土地対応借入金が大きくなりやすい

・土地負債利子が大きくなりやすい

・不動産所得が赤字でも、損益通算額が小さくなることがある

・土地負債利子が赤字額以上であれば、損益通算額はゼロになる


物件購入前には、表面利回りや減価償却費だけでなく、土地・建物比率、借入条件、土地負債利子、損益通算可能額まで試算することが大切です。

「不動産所得が赤字になるから節税できる」と判断するのではなく、最終的にいくら損益通算できるのかを確認したうえで、投資判断を行いましょう。


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