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不動産投資と税務の基本|節税スキームと注意点を徹底解説

  • infoapollo
  • 9月1日
  • 読了時間: 6分

更新日:9月14日

1.不動産と税務はなぜ切り離せないのか

 不動産投資は「資産形成」と「税務戦略」の両面を兼ね備えています。賃料収入によるキャッシュフローはもちろん、減価償却による所得税の圧縮、資産管理会社を活用した法人税の最適化、さらには相続税評価の引下げといった多角的な節税手段として長年利用されてきました。

 一方で、近年の税務調査や裁判例の動向を見ると、不動産を利用した節税スキームは調査や争点となりやすい分野の一つになってきています。

 国税庁は、申告データや第三者情報をAIでスコアリングし、「不自然なパターン」や「異常値」を抽出する仕組みを導入しています。実際、令和5事務年度(2023年度)の調査実績では、実地調査件数は約7万9,000件と前年度比94.9%に減少した一方で、申告漏れ所得金額は約7,989億円、追徴税額は約1,089億円にのぼり、いずれも過去最高水準となりました。

 こうした高額資産取引や不自然な税務処理が重点的に抽出される傾向が強まっている以上、今後は不動産を含む資産家層の投資案件について、調査や訴訟に発展するケースが増える可能性があると考えられます。

 つまり、これまで以上に不動産投資と税務の関係を理解し、どの分野でどのようなメリットとリスクがあるのかを押さえておくことが重要なのです。


2.不動産投資と税務の4つの軸

 不動産投資に関連する税務は、大きく分けて4つの軸があります。


  • 所得税

    減価償却や経費計上により帳簿上の利益(不動産所得)を圧縮し、給与所得などと損益通算できる。


  • 法人税

    個人ではなく資産管理会社で保有することで、税率差や経費計上の幅を利用し、手残りを最大化できる。


  • 相続税

    不動産は現金や株式よりも評価額が下がりやすく、貸家建付地や小規模宅地等の特例を利用すれば大幅な節税につながる。


  • 消費税

    不動産売却により課税事業者となってしまうタイミングを管理し、追加購入・売却の判断をすることで納税額を抑える。


 この4つの軸をどう設計するかが、「不動産×税務戦略」の本質です。


3.減価償却がもたらす大きな効果

 所得税と法人税が中心になりますが、特に不動産投資で大きなインパクトを持つのが 「減価償却」です。日本においては、建物部分を会計上「費用(損金)」として計上できるため、帳簿上の利益を大きく圧縮することが可能になります。ここで理解しておきたいのが、「帳簿上の赤字」「実際のキャッシュフロー」が異なるという不動産特有の仕組みです。


帳簿上の赤字とキャッシュフローの違い

 不動産投資でよくある誤解が「赤字=損をしている」という考え方です。実際には減価償却によって帳簿上は赤字でも、手元資金はプラス(キャッシュフロー黒字)というケースが多くあります。


例:築23年 木造アパート(価格1億円:建物5,000万円・土地5,000万円)

  • 家賃収入:1,000万円/年

  • 経費(修繕・管理費・利息等):300万円/年

  • 減価償却費:1,250万円/年(建物5,000万円 ÷ 償却年数4年)

  • 元本返済:400万円/年


【帳簿上の損益】

 1,000万円(家賃収入)-300万円(経費)-1,250万円(減価償却費)=▲550万円


【実際のキャッシュフロー】

 1,000万円(家賃収入)-300万円(経費)-400万円(元本返済)=+300万円


 つまり、帳簿上は赤字でも、手元に残る現金はしっかりプラスになるのです。


 さらに、個人の不動産投資であれば、この帳簿上の赤字(不動産所得の赤字)は給与所得など他の所得と損益通算ができます。

 たとえば、会社員が給与所得2,000万円を得ている場合、上記の不動産所得の赤字550万円と損益通算すれば課税所得は 1,450万円 に減少し(※土地に関する利息、税額控除等は考慮外)、税額は以下のようになります。


【 税額シミュレーション(令和6年分・速算表を使用)】

  • 損益通算なし:課税所得2,000万円 × 40% − 279.6万円 = 約520万円


  • 損益通算あり:課税所得1,450万円 × 33% − 153.6万円 = 約324万円

  

 差額:約196万円の節税効果

損益通算による節税効果

 

  こうしてみると、「キャッシュフロー黒字」に加えて「帳簿上の赤字(不動産所得赤字)による節税効果」が組み合わさることで、不動産投資の運用効果が極めて大きくなることが確認できます。


4.不動産に関連する税金で争われた事例

 このように不動産を活用した節税は魅力的ですが、実際には裁判で争いとなり、否認されたケースも少なくありません。代表的な事例や制度改正を整理すると以下のとおりです。


テーマ

事例内容

裁判所・裁決の判断(判決日)

土地建物比率

・契約書で建物価格を過大に設定。

・米国不動産を取得し、建物比率80%で減価償却を計上。

→ 減価償却費の過大計上

・「契約書区分は客観的価値と乖離」とされ、固定資産税評価額や鑑定評価額での按分を妥当と判断(令和2年3月12日 東京地裁判決)

・「建物比率80%は根拠がなく不合理」として否認。固定資産税評価額等で按分すべきと判断(令和2年6月4日 東京地裁判決)

不動産所得の経費

自宅の家賃・車両費・交際費・ゴルフ代を経費計上

業務関連性が立証できず否認。「家事関連費」「私的支出」と判断され必要経費に含まれないとされた(令和1年7月2日 東京地裁判決)

資本的支出と修繕費

改修工事を「修繕費」として一括経費計上

建物の増築・間取り変更、給湯器等の設備のグレードアップ工事等は「資本的支出」と判断され、一括経費計上は否認された(令和1年7月2日 東京地裁判決)

サブリース契約

同族会社(資産管理会社)との不動産サブリース契約を通じて、個人所得を圧縮し法人に利益を移転

実際の不動産経営に必要性がないにもかかわらず、法人に過大な利益を残していることが「経済合理性に欠け、租税回避目的が強い」とされ、行為計算否認規定により否認された(令和6年3月13日 東京地裁判決)

評価通達6

節税目的で取得した不動産の相続税評価が実勢価格の1/4に

「著しく不適当」とされ、鑑定評価額で評価。最高裁も課税庁の判断を是認(令和4年4月19日 最高裁判決)

タワマン節税

高層階の相続税評価額が低くなる仕組みを利用

法改正により規制。タワーマンション購入による相続税節税(時価と評価額の乖離差を用いた節税)効果が制限されることとなった(令和6年度税制改正)


 共通点は、「実態から乖離した節税」や「業務と無関係な経費計上」「合理性に欠ける契約」は裁判所も厳しい判断を下しているということです。


5.まとめ:実務で通用する節税とは?

  • 不動産は「節税の宝庫」であると同時に、税務リスクが相対的に高い分野

  • 帳簿赤字(損益通算を通じた節税)・キャッシュフロー黒字という仕組みを正しく活用すれば強力

  • 「机上の節税スキーム」ではなく、現状のルールに則った賢い戦略が不可欠


 投資スキームと税務リスクの双方を正しく理解し、ご自身の投資スタイルに合わせた最適な投資・税務戦略を組み立てることが成功の鍵になります。


 

 アポログループでは税理士法人によって税務のサポート、ファルコン株式会社では投資意思決定のコンサルティングを提供しています。

 セカンドオピニオンでのご利用もございます。顧問税理士の方がいても全く問題ありません。不動産にかかる疑問などございましたらまずはお気軽にお問い合わせください。



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