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相続直前の貸付用不動産評価が見直しへ|5年ルール後の不動産相続対策で見るべきポイント

  • 7月14日
  • 読了時間: 9分
税制改正の内容を確認している人たち

「相続税対策として、賃貸不動産を買いませんか?」


このような提案を受けたことがある方は、少なくないと思います。

これは、現金を不動産に組み替えることで、相続税評価額が下がるケースがあるからです。

特にアパート、賃貸マンション、貸店舗などの貸付用不動産は、入居者がいるため、所有者が自由に使える不動産よりも評価が下がることがあります。


ただし、令和8年度税制改正では、相続等の直前に取得した貸付用不動産の評価方法について、大きな見直しが行われます。

今後は、相続直前に不動産を取得して評価差を狙う対策は、これまでより慎重な判断が必要になります。

この記事では、不動産オーナーや資産家の方に向けて、今回の見直しで何が変わるのか、今後の相続対策で何を見るべきかを、解説します。



結論|相続直前の「評価差を取りにいく対策」はNG

結論から言うと、今回の見直しで影響が大きいのは、「相続直前に貸付用不動産を取得して、短期間で相続税評価額を下げるような対策」です。


相続対策では、現金や預金をそのまま持っているより、不動産に組み替えた方が、相続税評価額が大幅に下がるケースがあります。

しかし、今回の見直しにより、相続開始前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産については、通常の取引価額に相当する金額で評価されることになりました。

つまり、相続直前に相続税評価額と市場価格に乖離がある賃貸物件を取得し、すぐに評価差を取るというスキームは実質的に使えなくなったと考えられます。


ただし、賃貸不動産を使った相続対策が、すべて否定されたわけではありません。

長期的に賃貸経営を行い、収益性、資金繰り、承継まで考えて取得する不動産は、今後も重要な資産承継の選択肢です。

変わるのは、「節税額だけを見て不動産を買う」という発想です。



そもそも貸付用不動産はなぜ相続税対策になるのか?

貸付用不動産とは、他人に貸して賃料を得る不動産のことです。

アパート、賃貸マンション、賃貸戸建、貸店舗、貸事務所などが代表例です。


相続税では、財産は原則として時価で評価します。

ただし、不動産については財産評価基本通達に基づき、

土地は「路線価」、建物は「固定資産税評価額」を基礎に評価することが一般的です。

また、貸付用不動産の場合、入居者がいるため所有者はその不動産を自由に使えません。

そのため、土地については貸家建付地として評価減が行われ、建物についても貸家として評価減が行われます。

よって、不動産の場合は「時価(市場価格)> 相続税評価額」となりやすく、この仕組みによって、現金で持っているよりも、相続税評価額が下がることがあるのです。



今回の見直しで何が変わるのか?

今回の見直しでは、相続開始前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産について、評価方法が変わります。

これまでのように、路線価や固定資産税評価額を基礎とした評価ではなく、通常の取引価額に相当する金額を基準に評価することになります。

通常の取引価額とは、簡単に言えば、実際の売買価格に近い金額(※)をイメージすればよいでしょう。

※課税上の弊害がない場合には、取得価額を基に地価変動などを考慮して計算した価額の80%相当額。


たとえば、相続直前に1億円で貸付用不動産を取得した場合、従来の評価では6,000万円程度になるケースがあったとしても、改正後は従来よりも1億円に近い水準で評価される可能性があるということです。


なお、この取扱いは、令和9年1月1日以後に相続・贈与により取得する財産の評価から適用される予定です。



小口化された不動産はさらに注意が必要

今回の見直しでは、小口化された貸付用不動産にも注意が必要です。

小口化不動産とは、一棟の不動産を複数の投資家で持つような商品です。

少額から不動産投資ができ、賃料収入や売却益の分配を受けることができるため、富裕層の相続対策として利用されてきました。


小口化不動産は金融商品に近い性質を持ちながら、相続税評価では不動産として評価されることがあります。

この評価差を利用した相続対策が問題視され、今回の見直し対象になっています。

特に重要なのは、小口化された一定の貸付用不動産については、取得時期にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額で評価される点です。


そのため、「少額で買える」「相続税評価が下がる」という理由だけで判断するのはとても危険です。

小口化不動産を見るときは、税効果だけでなく、換金性、手数料、運営会社の信用力、相続後に売却できるかまで確認する必要があります。



通常の賃貸経営まで否定されたわけではない

今回の見直しで注意したいのは、貸付用不動産を使った相続対策が、すべて否定されたわけではないという点です。

問題視されているのは、相続直前に不動産を取得し、短期間で相続税評価額を下げるようなスキームです。


一方で、昔から賃貸経営を行っている不動産オーナーが、老朽化した物件を売却して新しい物件に買い替えるケースもあります。また、空室対策や修繕負担を考えて、より収益性の安定した物件へ組み替えることもあります。

これらは、単なる相続税対策というより、賃貸経営上の判断です。

実際に、賃貸住宅に関わる政策の場でも、租税回避への対応には理解を示しつつ、通常の賃貸経営まで過度に制限されることへの懸念が示されています。特に、相続開始前から事業的規模で賃貸事業を行っていた場合には、取得後5年以内であっても、従来の評価方法を認めるべきではないかという議論もあります。


ここは、今後の制度設計や通達の内容を確認する必要があります。



通達発遣後に確認すべき実務ポイント

今回の改正は、実務上はまだ確認すべき点が残っています。

特に、通達発遣後には次の点を確認する必要があります。


・どこまでが「貸付用不動産」に含まれるのか

・使用貸借や一部賃貸の場合は対象になるのか

・構築物や附属設備はどう扱うのか

・被相続人、贈与者以外の関係者も対象になるのか

・取得価額を基にした80%評価の具体的な計算方法

・マンション通達と重なる場合、どちらが優先されるのか

・貸家建付地や貸家の評価減を併用できるのか

・取得後から相続時までに利用状況が変わった場合の扱い

・通達発遣日はいつになるのか


こうした項目は、実際の相続税評価に直結するのできちんと確認しておきましょう。



令和8年中に急いで贈与・取得すべきか?

今回の見直しを受けて、令和8年中に急いで贈与や取得を検討する方もいるかもしれません。

ただし、駆け込みで動くことが必ず有利とは限りません。

不動産は金額が大きく、簡単にやり直せない資産です。

急いで取得した結果、収支が悪い物件をつかんでしまうこともあります。

また、贈与をすれば贈与税や不動産取得税、登録免許税などのコストも発生します。

相続時精算課税制度を使う場合でも、将来の相続税への影響を確認する必要があります。

大切なのは、「改正前に動くかどうか」ではありません。

動いた場合と動かなかった場合を比較することです。

相続税、贈与税、諸費用、将来の売却、家族の分割まで含めて、総合的に判断する必要があります。



不動産オーナーが今後見るべき5つのポイント

1. 5年以内に相続が起きるケースも想定する

人の相続時期は読めません。

「5年持てば大丈夫」と考えていても、実際には取得後すぐに相続が発生することもあります。

その場合、想定していた評価減が使えず、相続税が想定より増える可能性があります。

取得前には、5年以内に相続が発生した場合の相続税も試算しておくことが大切です。

また、税額だけでなく、納税資金が足りるかまで確認する必要があります。


2. 土地と建物を分けて考える

今回の見直しでは、土地と建物で取扱いが分かれる可能性があります。

土地は昔から所有している。

しかし、建物は相続開始前5年以内に新築した。

このようなケースでは、土地は従来評価、建物は新評価という整理になる可能性があります。

不動産を一体で見るだけでなく、土地と建物を分けて確認することが重要です。


3. 物件単体で賃貸経営として成り立つか

不動産は、買った瞬間に終わるものではありません。

むしろ、買ってからが始まりです。

空室、修繕、管理費、固定資産税、金利上昇など、賃貸経営には継続的なコストがかかります。

相続税評価が下がるからといって、キャッシュフローが良くなるわけではありません。

これからは、節税効果よりも先に、その物件が資産形成に寄与しているかを見るべきです。

表面利回りだけでは足りません。実質利回り、修繕予定、借入返済、空室リスクまで含めてキャッシュフローで判断することが重要です。


4. 納税資金を別に確保できているか

相続税は、原則として現金で納めます。

不動産を持っていても、すぐに現金化できるとは限りません。

また、早期売却を狙えば安く買いたたかれる可能性もあります。

そのため、不動産を取得する場合でも、納税資金を別に確保しておくことが重要です。

預金、生命保険、有価証券、借入余力などを組み合わせて、相続発生時に現金が不足しない設計にしておく必要があります。


5. 相続人が引き継げる資産か

不動産は、分けにくい財産です。

兄弟姉妹で共有すると、将来の売却、修繕、借入、管理方針で意見が分かれることが多々あります。

相続人が遠方に住んでいる場合や、不動産経営に関心がない場合も注意が必要です。

相続税が下がったとしても、相続後に管理できなければ、良い対策とは言えません。

誰が引き継ぐのか。

共有にするのか、単独取得にするのか。

代償金を払えるのか。

このような分割の視点まで含めて考えることが大切です。



まとめ:これからは「評価差を買う相続対策」から「承継できる賃貸経営」へ

令和8年度税制改正により、相続直前に取得した貸付用不動産の評価方法は大きく見直されます。

特に、相続開始前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産は、通常の取引価額に近い考え方で評価されることになります。

また、小口化された一定の貸付用不動産についても、取得時期にかかわらず、見直し対象になる方向です。

これからの相続対策では、単に「相続税評価額が下がるか」だけを見るのでは不十分です。

不動産は、うまく活用すれば強い資産になります。

しかし、節税効果を主目的として取得すると、相続後に家族へ負担を残す可能性が高いです。

これからの不動産相続対策は、「次世代が安心して引き継げる資産を設計すること」がより大切になるのです。


貸付用不動産の相続税評価は、取得時期、物件の種類、借入状況、保有目的、家族構成によって判断が変わります。

特に、相続前後の資金繰りや納税資金まで含めて確認しないと、思わぬ負担が残ることがあります。

「自分の物件は今回の見直しの影響を受けるのか」

「今後、不動産を取得しても問題ないのか」

「相続税だけでなく、借入や納税資金まで整理したい」

このようなお悩みがある方は、個別の相続税試算と不動産収支の確認をおすすめします。

税務・財務・不動産を一体で整理することで、ご家族にとって無理のない資産承継を考えることができます。

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